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ES 型心理動詞の意味構造(鋳型)

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 165-168)

第 9 章 :移動事象を表す類義語の複合動詞

第 4 部

3 ES 型心理動詞の意味構造(鋳型)

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このように、(15)~(18)のテストから分かるように、「考え込む」の心的変化は、

その結果を要請する必要がなくても成立する。一方、「思い込む」は、心的変化による 結果を要請する必要がある。このような観察は、実際(5)と(6)における「考え込 む」と「思い込む」の語義にも対応する。「解決策を考え込む」の場合、必ずしも解決 策となるものを心に決める必要がない。一方、「嘘を真実と思い込む」の場合、心に真 実であることを決める必要があるということである。

以上、「(直接的な)経験者」と「被動者」の違いを取り上げ、「考え込む」と「思い 込む」を例に、両者が共起する副詞との関係から検証を行った。検証による結果、及 び(5)と(6)における文構造の違いに基づき、日本語におけるES型心理動詞を二種 類に分ける必要があることを提案する。したがって、次節では両型の意味構造を述べ る。

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的な特徴とSTATE範疇を持つ折衷的な意味構造を提案している。ES型心理動詞におけ る意味構造の詳細、及び意味構造の規定は、山川(2004)を参照されたいが、ここで は山川氏による意味構造の簡略化されたものを次の(21)のように示す。

(21) [x EXPERIENCE[x BECOME [x [BE [AT PSCH-STATE9]]]]]

山川(2004)によれば、ES型心理動詞は基本的に(21)のように経験者のxという 一項述語を持つという。また、山川氏も指摘しているように、ES型心理動詞は一項述 語を持つだけではなく、二項述語を持つ場合もある。二項述語を持つ意味構造を考え るにあたって、丸田(1998:62-63)による指摘が重要になってくる。丸田(1998)

では、心的感情を表す形容詞には、一項述語と二項述語の両方が用いられる場合があ ると述べている。そのうちの一例を次の(22)にあげる10

(22) a. He is angry.

b. He is angry at trifles.

(22a)は心的感情を表す一項述語である、(22b)は感情の対象が項として現れる二 項述語である。(22)では一項と二項述語の変換が可能であることから、丸田(1998:

63)では、(22)の現象を理解するために次の(23)の語彙規則を提案している11

(23) [BE[x PSCH-STATE]]→[ORIENT[x TOWARD-y]]

(23)は心的感情(一項述語)から心的方向づけ(二項述語)に変換することを表 すものである。矢印の左側は(22a)と、左側は(22b)と対応する。これを踏まえ、

山川氏は丸田(1998)で提案している(23)の規則を援用し、ES型心理動詞が一項述 語から、二項述語になった際の意味構造を次の(24)に示している。

(24) [x EXPERIENCE[x BECOME[x’s-EMOTION ORIENT [[TOWARD y]]]]

山川(2004)によれば、(24)は(21)に(23)の語彙規則を取り入れた二項述語で あるES型心理動詞の意味構造である。ここでの x’s-EMOTIONは項xの感情・感覚で あるという。

本章では、山川(2004)による(21)と(24)の意味構造を基本的に受け入れ、「考 え込む」型心理動詞に適応されると考える。「私が考え込んだ」のように一項述語とす る際、(21)の意味構造を持つ。また、「彼は解決策を考え込んだ」の二項述語とする 場合、(24)の意味構造を持つ。ただし、山川氏と丸田氏による一項述語から、二項述 語に派生するという考え方を採用しない。これは、両者の間には派生関係があるとい う証拠が提示されていないからである。本章では、一項述語と二項述語は二つの異な る構文であると理解する。

以上、ES型心理動詞の意味構造を見てきた。しかし、2.1節で述べたように、「思い

9 PSCH-STATEは、PSYCHOLOGICAL STATEの略である。

10 (22b)の二項述語の日本語の語例は、山川(2004)によるものを次にあげる。

a. 太郎は後輩の変貌を悲しんだ。

b. 太郎は数年ぶりの大雪を喜んだ。

11 このような語彙規則と移動事象の関係は、次節で述べる。

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込む」型心理動詞は、「考え込む」型と異なる意味役割を持っている。そのため、対応 する意味構造を変える必要がある。これは次節で述べる。

3.2 ES型心理動詞の意味構造Ⅱ

この節では、もう一種類のES型心理動詞の意味構造を考える。すでに2.2節で説明 したように、「思い込む」型心理動詞における「被動者」は「感情の対象」から心的影 響を受ける。この観察を受け、「思い込む」型の意味構造を明らかにするためには、E0 型心理動詞の意味構造を参照する必要がある。なぜなら、(1b)におけるEO型心理動 詞の「経験者」であるthemは、「経験の対象」であるthunderから心的の影響を受け るという点において、両者が類似的な働きをしていると考えるからである。E0型心理 動詞の意味構造は、丸田(1998:61、64)のものを紹介する。これは、次の(25)の 例文をもとに(26)と(27)に示すことができる。

(25) a. He is frightened of thunder.

b. 彼の振る舞いが私を困らせた。

c. Sue’s remarks aroused us to action。

(26) [x AFFECT(=ACT ON)y]CAUSE [BE[y PSCH-STATE]]

(27) [x AFFECT y]CAUSE [ORIENT[y TOWARD-z]]

(25ab)は(26)の意味構造を、(25c)は(27)の意味構造を有する。(26)は二項 述語であり、(27)は方向づけを含む三項動詞である。意味構造におけるxは経験の対 象であり、y は経験者である。本章では、EO型心理動詞の意味構造における上位概念 である[x AFFECT y]のみに注目し、「思い込む」型の意味構造を考える。その理由は以 下の通りである。

(25b)のEO型心理動詞を見て取れるように、経験の対象である「彼の振る舞い」

から経験者の「私」に「困らせる」という心的な影響を与えている。このような働き は、2.1.2 節で述べた「彼は嘘を真実と思い込む」における感情の対象の「嘘」から 被動者の「彼」に対する心的な影響と類似しているように思われる。「彼の振る舞い」

に値する部分は、(26)と(27)の意味構造で [x AFFECT y]と対応する。このことか ら、「思い込む」の意味構造にも[x AFFECT y]を取り入れることが妥当であると考える。

また、[x AFFECT y]の部分は、で CAUSE 以前にあることから、意味構造の上位概念と して現れなければならない。以上のことに配慮し、「思い込む」型の意味構造を以下の

(28)の例文をもとに、(29)に示すことができる。

(28) a. 彼はその嘘を真実と思い込んだ。

b. 私は(彼がいい人と)思い込んだ。

(29) ([y AFFECT x])[x EXPERIENCE[x BECOME [x [BE [AT PSCH-STATE]]]]]

(28)は「思い込む」と共起する異なる二つの構文である。これは基本的に(6)と 同様のものである。(29)は、(21)の意味構造にEO型心理動詞の上位概念[x AFFECT y]

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を取り入れた一項述語の意味構造になっている。(28ab)は共に(29)の意味構造を有 する。それぞれの意味構造を以下の通りに説明する。

(28a)は、(29)の括弧を含めた意味構造を有する。ここでのx項が「被動者」の

「彼」であり、y項は「(疑似的な)感情の対象」の「嘘」である。また、(28a)の文 を「*彼は嘘を思い込んだ」に言い換えられることができない、かつト格が表す「真実」

は複合動詞の項にならないため、y項が文中に現れても、意味格として認められない。

すなわち、括弧を含めた(29)の意味構造は、依然として一項述語である。(29)にお ける括弧を含めた意味構造の読みは、嘘の内容が彼の心的感情・感覚に影響し、彼が それを真実と思うような心的感情・感覚を持つようになる、ということである。

続いて、(28b)の意味構造を説明する。(28b)を見て分かるように、ヲ格が文中に 現れてこないことから、ここで「(疑似的な)感情の対象」を省略することが可能であ る。この場合、対応する(29)の意味構造において、上位概念の[y AFFECT x]を取り 除いた意味構造を有する。ここでのx項が「被動者」の「私」である。括弧部分を含 めない(29)の読みは、「私」は「彼がいい人」という心的感情・感覚を持つようにな る、ということである。

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 165-168)