第 9 章 :移動事象を表す類義語の複合動詞
第 4 部
4 複合動詞とする ES 型心理動詞と移動事象との関係
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を取り入れた一項述語の意味構造になっている。(28ab)は共に(29)の意味構造を有 する。それぞれの意味構造を以下の通りに説明する。
(28a)は、(29)の括弧を含めた意味構造を有する。ここでのx項が「被動者」の
「彼」であり、y項は「(疑似的な)感情の対象」の「嘘」である。また、(28a)の文 を「*彼は嘘を思い込んだ」に言い換えられることができない、かつト格が表す「真実」
は複合動詞の項にならないため、y項が文中に現れても、意味格として認められない。
すなわち、括弧を含めた(29)の意味構造は、依然として一項述語である。(29)にお ける括弧を含めた意味構造の読みは、嘘の内容が彼の心的感情・感覚に影響し、彼が それを真実と思うような心的感情・感覚を持つようになる、ということである。
続いて、(28b)の意味構造を説明する。(28b)を見て分かるように、ヲ格が文中に 現れてこないことから、ここで「(疑似的な)感情の対象」を省略することが可能であ る。この場合、対応する(29)の意味構造において、上位概念の[y AFFECT x]を取り 除いた意味構造を有する。ここでのx項が「被動者」の「私」である。括弧部分を含 めない(29)の読みは、「私」は「彼がいい人」という心的感情・感覚を持つようにな る、ということである。
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ことに対して、怒りを感じている。ここでは前置詞のatが使われていることから、何 らかの位置概念が想起されることで、心的の感情移入が表されている。(31)は物理的 な移動を成さないが、心的の感情移入があり、かつ感情・思考は状態性がある点から、
(30)と並行的に捉えられると思われる12。実際、(30a)は「The weathervane pointed at north」とも言えることから、両者は類似した事象構造を有すると思われる。
以上、ES型心理動詞の意味構造において、心的な状態変化と感情移入の特徴が移動 事象における位置変化と静的な方向指向と並行的に捉えることができるということを 述べた。これを踏まえ、ES型心理動詞の意味構造から、松本(2009)による移動の意 味を含まない「~込む」は、以下のように指摘できる。「考え込む」と「思い込む」に おける「~込む」の役割は、松本(2009)によれば、次の(32)の説明に該当すると いう。
(32) V1の表す状態変化が進み、ほかの状態に変わることができないほどになる
(それが結果状態に入り込む)ことを表す。
松本(2009:183)では、このような「~込む」は物理的な移動の意味を含まないが、
何らかの方向性の意味が認められると指摘している。しかし、方向性のあり方に対す る説明は明確ではない。一方で、本章で述べたような二種類のES型心理動詞の意味構 造を見ると、松本(2009)でいう方向性も明らかになってくる。(21)と(29)におい て、ES型心理動詞が表す下位概念に [AT PSCH-STATE]があり、心的状態にあることを 表している。これは位置変化における着点への到達[AT<Place>]と並行的に捉えられるた め、何らかの方向性を含意していると捉えられる。また、(24)では、感情の対象が項 に現れる際に、ORIENTで表す心的方向性が、静的な方向性として認められるというこ とである。松本(2009)では「~込む」に何らかの方向性があると一括しているが、
本章の分析からは、「考え込む」と「思い込む」は意味構造上では方向性の内実が異な ることが示唆されている。
5 終わりに
本章では、従来 ES型心理動詞の語群に含められていない複合動詞をも対象に含め、
考察を行った。考察の結果は次の二点にまとめられる。
(ⅰ) 「思い込む」における対格名詞句で表される「感情の対象」はト格名詞
(句)や引用句などによって補われていることと、その対格名詞句は「経 験者」に対する心的の影響という「心的反響」があること、という二点 から、「思い込む」の対格が持つ意味役割を典型的な ES 型心理動詞と区 別すべきと指摘したうえ、「考え込む」と「思い込む」の二種類の ES 型 心理動詞があること提案した。
12 このような並行性は、本論の10章で述べた認知メタファーの働きによると思われる。
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(ⅱ) ES型心理動詞は、移動事象と並行的に捉えられる側面があり、松本(2009)
で指摘している移動の意味を含まない「~込む」は、何らかの方向性が 認められているが、そのような方向性は本稿では意味構造上の分析を通 し、異なる心的方向であることを明らかにした。
特に、本章で述べた結論の(ⅱ)は、ES型心理動詞が移動動詞と密接な関係にある という観点の重要性が確認できたと言える。
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