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自動詞形を有する複合動詞の語形成

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 115-118)

第 7 章 : 移動事象を表す複合動詞の自他対応の問題

3 事象構造から見る複合動詞の自他対応

3.2 自動詞形を有する複合動詞の語形成

この節では、自動詞形の複合動詞を考察する。自動詞形の複合動詞は、有方向移動 事象の事象構造を有する。まず、自他両形を有する自動詞形の複合動詞を見る。これ は、次の例文(8)をもとに考えていく。

(8) 白い粉雪が(空中に)舞い上がった。

V2「上がる」の語彙的意味

V-[xi MOVE<MANNER>[Path]BECOME[xi BE AT- UPWARD PLACE]]

V1「舞う」の語彙的意味

(8)は、移動物の粉雪が空中に漂って移動することを表しており、有方向移動事象 の事象構造を有する。ここでの「空中」を着点と捉えた場合、「粉雪が空中に*舞った

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/上がった」となるように、「舞う」と共起することができない7。すなわち、V2「上 がる」は、複合動詞の移動の経路を有するということである。経路がV2にあることか ら、主要部はV2であり、その事象的意味と語彙的意味が有方向移動事象の事象構造に 代入されると言える。

続いて、V1による補充の仕方を論じる。V1による補充の仕方には以下の特徴がある。

(8)が表す有方向移動事象において、V1「舞う」の様態は V2が意味する移動の全過 程で継続しなければならない。移動物の粉雪が舞ってから、下へ移動することが想定 されない。このことから、(8)のV1によるMANNERへの補充は、V2が意味するUPWARD に至るまで規定すると言える。また、「粉雪が空中を舞う」があるように、V1「舞う」

から、有方向移動事象の中間経路を規定することができる。さらに、V1 と V2 の移動 物は同一である必要がある。このことは、(8)で下付きのiによって表されている。

(8)と類似する用例には、ほかに「滑り落ちる」、「跳ね上がる」があげられる。こ れらの例に対しても(8)と同様の指摘が言える。たとえば、「荷物が斜面を滑り落ち た」は、荷物が滑りながら落ちることを表しており、そこでのV1 による様態補充は、

複合動詞が表わす結果事象まで継続する。また、「斜面を滑る」が言えるように、V1

「滑る」から移動の中間経路を規定することが可能である。以上、自他両形を有する 自動詞形の複合動詞を見てきた。

次に、(8)と対照的に、他動詞形が存在し、自動詞形が存在しない「*放り上がる」

のような複合動詞を考える。これは、次の例文(9)をもとに見ていく。

(9) *帽子が(空中に)放り上がった。

V2「上がる」の語彙的意味

V-[x MOVE<MANNER>[Path]BECOME[x BE AT- UPWARD PLACE]]

× V1「放る」の語彙的意味

(9)は、移動物の「帽子」が何らかの動作によって、空中に移動するという有方向 移動事象を表現しようとしている。この場合、V1の「放る」が他動詞であり、V2の「上 がる」が自動詞であることから、「主語一致の原則」に基づいて考えると、複合動詞と して形成不可能であると思われる。しかし、「花火が打ち上がった」があるように、「打 ち上がる」のV1も他動詞であるにもかかわらず、複合動詞として成立することができ

7 「舞う」はニ格と共起する例も観察される。しかし、このようなニ格は着点ではなく、

方向性を表していると理解される。このことは、次のⅰとⅱを対照させながら説明する。

(ⅰ) a. 1時間で家に帰った。

b. *1時間で空中に舞った。

(ⅱ) a. 花びらが空に(へ)舞う。

b. 台風が北へ(に)向かっている。

(ia)があるように、着点のニ格が現れる際に、時間副詞の「一時間で」と共起できる。

しかし、(ib)が非文であることは、「舞う」と共起するニ格は着点を意味していないこと を示唆する。むしろ、ここでは(ⅱa)のように、へ格と入れ替えられ、方向性を表す(ⅱ b)のへ格に近い。

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る。そうなると、「*放り上がる」と「打ち上がる」の(非)適切性は、「主語一致の原 則」よりも、V1の違いと関わってくるように思われる。V1「放る」と「投げる」の違 いを以下の通りに考える。

「打ち上がる」の移動事象は、その移動物が「花火」や「衛星」になっている。ま た、「花火/衛星を打つ」という行為に伴い、移動物が必ず上方向への移動が想定され る。これに対し、「帽子を放る」の行為は、移動物である帽子が必ずしも上方向へ移動 するとは限らない。帽子を放ったら、帽子が斜め下に移動することもある。つまり、

「打ち上がる」のV1「打つ」による様態補充は、V2が意味するAT-UPWARD PLACEの方 向性と整合できるのに対し、「*放り上がる」のV1「放る」は上への方向性を含意して おらず、AT-UPWARD PLACEと必ずしも整合しないと言える。

最後に、(9)と(10)と対照的に、他動詞形の複合動詞は存在せず、自動詞形が存 在する「舞い落ちる」のような複合動詞を見ていく。これは、次の例文(10)をもと に考えていく。

(10) 白い粉雪が(地面に)舞い落ちた。

V2「上がる」の語彙的意味

V-[xi MOVE<MANNER>[Path]BECOME[xi BE AT- DOWNWARD PLACE]]

× V1「舞う」の語彙的意味

(10)は、移動物の粉雪が地面に舞いながら移動するということを表しており、有 方向移動事象の事象構造を有する。この事象構造を観察すると、(9)とほぼ同様であ ることが分かるが、次の点で、(9)と(10)には違いがある。

(9)と(10)は同じ V1 を取っており、いずれも粉雪が移動物であることが可能で ある。ただし、移動物である粉雪が舞ったら、一般的には立体空間の上に位置する空 中にあると想定しやすいが、地面方向にあるとは想定しにくい。これは、たとえば、

「粉雪が空/宙/上を舞う」があるように、「舞う」が中間経路を取る際に、中間経路 のあり方は、DOWNWARD PLACEと整合しないことから支持される。中間経路を地面方向 の名詞句が現れた場合、「*粉雪が地面を舞う」となるように、非文であり、「舞う」と 共起しない。

以上のことを踏まえると、「舞い落ちる」の事象構造において、V1 による様態補充 は、有方向移動事象の結果事象であるDOWNWARD PLACE まで継続するが、V2「落ちる」

が意味する方向性と必ずしも一致することがしないことから、V1の「舞う」は事象構 造上のPathを規定することができないということになる8。この点は(8)と対照的で あることが見て取れる。

以上、自動詞形の複合動詞の事象構造を見てきた。自動詞形の複合動詞は、次のよ

8 「散り落ちる」や「崩れ落ちる」のような複合動詞もある。これらの複合動詞のV1は、

方向性を含意しているにもかかわらず、「*散り落とす」や「*崩れ落とす」のような他動詞 形の複合動詞が存在しない。その理由として、「*空を散る」や「*崖を崩れる」があるよう に、これらのV1は中間経路を取ることができないということが考えられる。

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うな特徴が見られる。(8)のような自他両形を有する複合動詞は、V1が有方向移動事 象の様態補充を行うほか、事象構造における移動の方向性を規定することができる。

(9)のような他動詞形があり、自動詞形が存在しない複合動詞は、V1 による補充が 複合動詞の表わす結果事象と一致しない。さらに、(10)のような他動詞形がなく、自 動詞形がある複合動詞は、V1による様態補充は、結果事象まで継続しても、有方向移 動事象における経路部分を規定することができない。

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