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動詞四分類と移動動詞

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 44-48)

第 3 章 :本研究の枠組み

2 移動動詞と移動事象

2.1 動詞四分類と移動動詞

最初に単一動詞である移動動詞の位置づけを述べる。このことを従来の動詞分類と の関わりから概観する 。Vendler(1967)は、次の表 1 のように、「動的/静的

(static/dynamic)」、「継続的/非継続的(durative/non-durative)」、「終結的/非終結 的(telic/atelic)」といった三つの「語彙的なアスペクト側面(aktionsart)」から、

動詞(句)が(1)のような四種類に分類されると指摘している。

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表1:Vendler(1967)による動詞分類

(1) a.状態動詞:love、know、resemble、いる、ある b.活動動詞:talk、swim、push、笑う、読む、歌う c.到達動詞:die、reach、recognize、見つかる、消える d.達成動詞:build(a house)、break(a vase)、(家を)建てる

(1a)の状態動詞は、静的であり、かつ恒常的な時間幅を有する継続的な事象であ る。限界点を持たない非終結的な事象であることが特徴である。(1b)の活動動詞は動 的であり、かつ一定の時間幅を持つ継続的な事象である。(1b)は(1a)の状態動詞と 同様に非終結的である。これは、両者とも期間副詞の「(I know him)for years/(He talked) for a hour/一時間(話した)」と共起するが、期限副詞の「in a hour/一 時間で」と共起しないことから分かる。(1c)の到達動詞は何らかの状態から別の結果 状態への変化を表しており、動的であるが、活動を含まないため、非継続的である。

また、期限副詞の「arrived in a hour/一時間で着いた」と共起する際に、変化が起 きる時点が限界点であるため、終結的である。(1d)の達成動詞は活動動詞と到達動詞 の性質を合わせ持つことが特徴である。そのため、継続的であり、かつ終結的である。

これは「built a house(in a month)/一軒家を一年で建てた」のように、buildと いう活動が動作の対象であるhouseが完成した時点で終結的となり、期限副詞の「in a month」と共起することからも分かる。

Vendler(1967)によるこの枠組みから、数多くの動詞を個別的にではなく、共通す る語彙的アスペクトによって集約的に捉えうることに重要な意味があると言える。た だし、すべての動詞をこの四分類に含めることには問題がある。そして、そのうちの 一つとして移動動詞があげられる。まずは、活動動詞との対照から、移動動詞の特殊 性について述べる。次の(2)と(3)を見られたい。

(2) a. 一時間歩いた。

b. 一時間笑った。

(3) a. 小径を1時間で歩いた。

b. *人を1時間で笑った。

(2a)の移動動詞は期間副詞と共起することが可能であるため、(2b)の活動動詞と 類似していると思われる。しかし、(2)と対照的に(3)のような特徴が見られる。(3a)

では、移動に中間経路のヲ格を伴う場合、期限副詞の「一時間で」と共起できる。こ 特徴

動詞四分類

動的 /静的

継続的 /非継続的

終結的 /非終結的

states(状態動詞 )

activities(活動動詞)

achievements(到達動詞)

accomplishements(達成動詞)

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の場合、「歩く」は終結点を持つと認められる。これは、活動動詞(3b)が目的語のヲ 格が現れる際に期限副詞と共起しない点と異なる1。影山(2008:251)は、このよう な違いを「活動」と「過程」による問題と指摘している。氏によれば、活動動詞が持 つ活動には変化がない。一方、「歩く」は主語の位置が動いていくことが想定されるた め、変化がある、という。続いて、「入る」のような移動動詞は、到達動詞との対照か ら説明する。次の(4)と(5)に見られたい。

(4) a.列車が一時間で着いた。

b.スープが一時間で冷えた。

(5) a.列車が駅に入った。

b.スープが冷えた。

(4a)は(4b)の到達動詞と同様に期限副詞と共起することが可能である。しかし、

(4)と対照的に(5)のような違いも見られる。(5a)から分かるように、移動動詞が 持つ着点は結果状態の判断が重要視される。これは、「入る」という移動が終結した際 に、必ず何かしらの着点が想定されるからである。しかし、このような特徴は(5b)

に見られない。さらに、Kearns(2002:170)では、語彙的アスペクトによる動詞分類 が動詞の持つ「Agentivity(動作主性)」と相関することを指摘している。(1)を見て 分かるように、状態動詞と到達動詞は動作主性を持たないが、活動動詞と達成動詞は 動作主性を持つ。これは次の(6)と(7)の比較からも分かる。

(6) *Notice the mark on the wall!

(7) a. *スープが冷えようとしている。

b. 列車が駅に入ろうとしている。

(6)では、到達動詞のnoticeは命令表現と相いれないため、動作主性がない。日 本語の場合も同様である。(7a)「冷える」は意志表現の「う(よう)」と共起できない ことから分かる。それに対し、(7b)の「入る」は意志表現の「う(よう)」と共起で きるため、動作主性を持つと理解される2。この場合、「入る」を単に到達動詞に含め ることは問題があると言える。

このように、「歩く」や「入る」のような移動動詞は特殊性を持ち、従来の動詞四分 類とうまく合致しない側面がある。この特殊性が存在する理由は、次のように考えら れる。移動動詞は物理的な移動事象を表しているが、物理的な移動が行われる際、移

1 さらに言うと、活動動詞と移動動詞における対格も異なる。これは以下のような受け身

テストからわかる。移動動詞の場合、受動態の使用が不可能である。これは三宅(1996)

によれば、経路のヲ格は構造格であり、目的格のヲ格と異なるからであるという。

a.太郎はご飯を食べる→ご飯が食べられる。

b.涙が頬を落ちる→*頬が落ちられる。

2 三宅(1996:146)では、乗り物は人の意志的なコントロール下にあると見なせるため、

意志表現が可能であると述べている。たとえば、「船が港から出ようとしている」もそのう ちの一例としてあげられる。

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動に伴った経路や着点という意味情報が必ず想定される。たとえば、「歩く」と「入る」

の場合、ここでは歩いた道や入った場所という語彙的情報が含まれる。そして、この ような語彙的情報から、移動動詞に限界性を持たせることが可能である。ただし、こ の特徴は、動作動詞と達成動詞には見られず、移動動詞にしかないものである。

したがって、本論では Levin and Rappaport Hovav(1995)と影山(2010)の用語 に倣い、「歩く」のような動詞を「verbs of manner of motion(移動様態動詞)」、「着 く」のような動詞を「verbs of directed motion(有方向移動動詞)」と名付け、従来 の動詞四分類とは別に移動動詞が独立に存在すると仮定する。このような二種類の移 動動詞を以下の(8)と(9)に提示する。

(8) 移動様態動詞:滴る、しなだれる、流れる、転がる、転ぶ、跳ねる、ほ とばしる、舞う、歩く、滑る、駆ける、潜る、連れる、さまよう、跳ぶ、

走る、這いずる、馳せる、這う、急ぐ、泳ぐ、飛ぶ、回る、突く、沿う、

など

(9) 有方向移動動詞:出る、去る、遠ざかる、逃げる、離れる、抜く、来る、

通う、越える、くぐる、抜ける、辿る、巡る、通る、横切る、過ぎる、

進む、移る、沈む、帰る、寄る、上る、登る、下りる、昇る、込む、上 がる、下がる、下る、降りる、入る、渡る、着く、届く、近づく、戻る、

迫る、伏す、退く、越す、貫く、乗る、返る、行く、落ちる など

(8)は移動の様態を中心に描写する動詞の類である。また、「空を舞う」があるよ うに、中間経路を取ることは可能である。一方、「*駅に歩いた」が非文であるように、

着点を取ることが普通できない。(9)は何かしらの方向性や着点を含意する動詞の類 である。たとえば、「自宅に帰る」、もしくは「学校から出る」があるように、着点と 起点を取ることが可能である3

しかし、移動動詞のすべてが(8)と(9)の二分類に入るとは限らない。(1)の分 類に含まれるものも存在する。たとえば、到達動詞の中で、状態変化と位置変化動詞 の二種類がある。位置変化動詞は、基本的に意志性を持たない類であるため、(9)と 区別される。位置変化動詞の語例を次の(11)に示す4。また、達成動詞の中には、使 役移動動詞が属している。使役移動動詞は主体動作による客体の移動を表すため、(8)

と(9)に見られない動詞類である。使役移動動詞の語例を次の(12)に示す。

(11) 位置変化動詞:起点;現れる、生まれる、浮かぶ/着点;あふれる、崩 れる、こぼれる、伝わる、漏れる、当たる、止まる、広がる、落ちる、

散る、浮く、染みる など

(12) 使役移動動詞:取る、置く、寄せる、のける、着ける、付ける、移す、

3 松本(2017:247)では、日本語ではダイクシスに関する調査が不十分であることから、

「行く」「来る」のような直示動詞を主体移動動詞から区別して調査をしている。本論では、

このような直示動詞について、着点と起点と共起することができることから、「有方向移動 動詞」として分類している。

4 位置変化動詞である到達動詞の中には、特殊なものが入っている。例えば、「火が(向こ う岸まで)広がった」のように、移動物である火の面積が拡大するという点で、移動事象 を成すものがあると認められる。

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埋める、下げる、沈める、届ける、はめる、まぶす、広げる、回す、渡 す、さげる、動かす、下す、散らす、こぼす、流す、飛ばす、転がす、

入れる、出す、上げる、落とす、下ろす、通す、戻す、返す、掛ける、

載せる、投げる、進める、与える、やる、よこす など

以上、移動動詞を Vendler(1967)による動詞四分類と関わらせながら整理していく と、移動動詞は独自性を持ちながら、既存の動詞分類と重なる部分もあるということ が分かってくる5。本論では、このような特徴を持つ移動動詞は、自ら体系を成してお り、既存の動詞分類との関係性を次の図1のように示すことができると考える。

動詞四分類 移動動詞の分類

状態動詞、活動動詞、到達動詞・位置変化動詞 移動様態動詞、有方向移動動詞 達成動詞・使役移動動詞

図1:移動動詞の位置づけ

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 44-48)