第 7 章 : 移動事象を表す複合動詞の自他対応の問題
3 事象構造から見る複合動詞の自他対応
3.3 自他両形を有する複合動詞の意味制約
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うな特徴が見られる。(8)のような自他両形を有する複合動詞は、V1が有方向移動事 象の様態補充を行うほか、事象構造における移動の方向性を規定することができる。
(9)のような他動詞形があり、自動詞形が存在しない複合動詞は、V1 による補充が 複合動詞の表わす結果事象と一致しない。さらに、(10)のような他動詞形がなく、自 動詞形がある複合動詞は、V1による様態補充は、結果事象まで継続しても、有方向移 動事象における経路部分を規定することができない。
110 (11) 風が雪を舞い上げた。
V2 [x ACT ON yi]CAUSE[yi MOVE<MANNER>[Path]BECOME[y BE-AT-UPWARD)]
V1 [yi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
(12) 雪が舞い上がった。
V2 [x MOVE<MANNER> [Path] BECOME[x BE AT- UPWARD PLACE]]
V1 [ xi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
(13) 選手たちは帽子を放り上げた。
V2 [x ACT ON yi]CAUSE[yi MOVE<MANNER>[Path]BECOME[y BE-AT-UPWARD)]
×
V1 [yi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
(14) *帽子が放り上がった。
V2 [x MOVE<MANNER> [Path] BECOME[x BE AT- UPWARD PLACE]]
× V1 [xi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
(15) 粉雪が舞い落ちた。
V2 [x MOVE<MANNER> [Path] BECOME[x BE AT- UPWARD PLACE]]
×
V1 [xi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
(16) *彼は雪粒を舞い落とした。
V2 [x ACT ON yi]CAUSE[yi MOVE<MANNER>[Path]BECOME[y BE-AT-UPWARD)]
× V1 [yi MOVE<MANNER>[P1<P2<…Pn…]]
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(11)と(12)では、V1 による様態補充と経路の規定が V2 の方向性と合致する。
これは点線部分を指す。(13)の他動詞形では、V1による様態補充と経路がV2の方向 性を規定することができない。この現象と相関し、(14)の自動詞形が形成されないこ とが観察される。また、(15)の自動詞形では、V1による経路の規定がV2の方向性と 一致しない。この現象と相関し、(16)の他動詞形が形成されないことが観察される9。
4 終わりに
本章では、複合動詞が単一動詞と異なり、自由に自他両形が作れないという問題に 対し、自他両形を有する複合動詞、自動詞か他動詞形か一方しか有しない複合動詞を 対象とし、考察を行った。全体の考察を通し、次の二点を明らかにした。
(ⅰ) 自他両形が存在する複合動詞における両者の関係は、派生関係ではなく、
それぞれ異なる移動事象である。
(ⅱ) 自他両形が共に存在する複合動詞は、その語形成が事象的意味と語彙的 意味の両方から制約されている。とりわけ、自他両形に代表される使役 移動と有方向移動事象の成立が、V1とV2における移動方向の整合性と関 わっている。
特に、結論の(ⅱ)は、複合動詞の自他両形の対応が構成要素の語彙的意味におけ る方向性の含意があるかどうかという複合動詞の構成要素にある周辺的な意味情報の 重要性が確認できたと言える。
9 ここでの方向性の含意を一種の結果指向と考えた場合、本章で述べたV1による経路の規 定は、複合動詞が表す移動事象の方向性と合致する点でいうと、陳(2010)による「結果 一致」と補完性のあるものと理解される。
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