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V2 が使役移動動詞である場合

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 70-73)

第 4 章 :移動事象を表す複合動詞の意味制約

4 V2 主要部である移動事象を表す複合動詞の表示モデルと意味制約

4.1 V2 が使役移動動詞である場合

まず、V2が使役移動動詞である複合動詞の表示モデルとその意味制約を考える。V2 が使役移動動詞の場合、客体移動事象と客体・主体移動事象の二種類に分かれる。ま ず、客体移動事象を有する複合動詞の表示モデルは、(17)の例文をもとに見ていく。

(17) 彼は木を押し倒した。

V2「倒す」の事象的・語彙的意味

V-[[xi ACT<Manner>ON yj]CAUSE[yj MOVE[Path]BECOME[yj BE-AT KNOCKED-DOWN]]

「押す」の語彙的意味

(17)は上段・中段・下段の三段構造になっている。これは二段構造を取る単一動 詞より複雑なように見えるが、単一動詞と同様に基本的に事象構造に定項が代入され るという仕方で成り立っている。ただし、(17)では、一つの事象構造に二つの構成要 素が代入されており、これは、単一動詞と最も異なる箇所である。このような表示モ デルは、本論における複合動詞の語形成のあり方と絡めて以下の通りに説明する。

まず、複合動詞は、二つの構成要素によって形成されているため、そのうちのどれ かが主要事象であるのかを判断する必要がある。主要事象の判断は、すなわち、複合 動詞の主要部を特定するということである。(17)では、「大木を地面に*押した/倒し た」があるように、複合動詞全体が表す着点への移動の意味、あるいは経路という意 味要素は、V2によって実現されている。そのため、「押し倒す」の主要部はV2である。

(17)では、便宜上のため、主要部のV2を(17)の上段に、非主要部のV1を下段に 位置づけている。そして、V2 は主要部であることから、「倒す」の有する事象的意味 と語彙的意味が中段の使役移動事象の事象構造であるV-[ ]に代入される。「倒す」の 持つ事象的意味は、使役移動事象と合致するため、そのまま V-[ ]の空所位置に代入 されることになる。これによって、複合動詞が有する項も基本的にV2から受け継がれ ることになる。また、事象的意味を取り除いた「倒す」の語彙的意味は、〈立っている 状態のものを横にしながら、それを横に寝かす状態にする〉ということを表している。

このような語彙的意味によって、使役移動事象の結果事象が規定される。この場合、

(17)における使役移動事象の基幹部分の結果事象は、「y BE-AT KNOCKED-DOWN」によ って表示される。ここでの結果事象の規定は、第3 章で述べたように、使役移動動詞 の語彙的意味によって異なる。たとえば、「~入れる」の場合、「y BE-AT INSIDE」と 規定しれなければならない。このように、(17)の上段と中段部分では、使役移動事象 の事象構造に、主要部「~倒す」の事象的意味と語彙的意味が代入されていることが 表されている。

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(17)の下段部分は、非主要部であるV1「押す」の語彙的意味が上段の事象構造に おける適切な空所位置に代入されることを表す。まず、V1の項は、すでに事象構造に 代入されたV2の項と同定される必要がある。これは、V1とV2における動作主と移動 物が一致しなければ、適切な移動事象が形成されないからである。V1 と V2 における 項の同定は、(17)では同一指標を意味する下付きのi とjによって表される。また、

客体の移動事象を有する「~倒す」は、使役動作の様態部分が未指定である。すなわ ち、移動物がどのように倒されるのかということが不明というである。このことから、

V1「押す」は使役移動の事象構造における[x ACT ON y]のMANNER部分に、様態補充を 行う必要がある。また、V1によるMANNERへの補充は、「~倒す」における結果事象を 規定する必要がある。これは、V1の動作が使役移動における結果事象の達成に対し、

使役連鎖の成立に関わる必要があるからである。もし、V1による様態補充が[y BE-AT KNOCKED-DOWN]という結果事象に繋がらなければ、適切な複合動詞として形成されなく なる。

さらに、(17)の「押し倒す」の事象においては、その解釈が多義的になる。たとえ ば、彼が木を押したままで倒したことと、彼が一回ぐっと力を入れて、木を倒したこ と、という二つの事象的意味が想定される。「木を押したままで倒した」場合、動作主 は移動物に対する動作が客体移動の期間中に継続的であることから、V1「押す」は動 作の過程である[yj MOVE]の部分における経路の規定を行う必要もある。「木を倒した」

場合、動作主は一回のみ動作を行うことから、[yj MOVE]に対して規定する必要がない。

続いて、客体・主体移動の事象を有する複合動詞を見ていく。このタイプの表示モ デルは次の(18)で示すことができる。

(18) 彼は妻を玄関に抱え入れた。

V2「入れる」の事象的・語彙的意味

V-[[xi ACT<MANNER>ON yj]CAUSE[yj MOVE<MANNER WITH x>[Path ]BECOME[yj BE-AT INSIDE]]

V1「抱える」の語彙的意味

(18)の移動事象を(17)と比較すると、次の点で異なることが分かる。(18)の主 体である「彼」は(17)と異なり、移動物の「妻」と一緒に着点に移動する必要があ る。このことは、(18)の事象構造の上で、下段にある V1の語彙的意味が使役移動事 象における下位事象のMOVEの様態部分を補充することで実現されている。もっと具体 的に言うと、V1「抱える」が中段におけるMOVE の様態部分に対し、MANNER WITH xと して様態補充を行うことが可能である8。このような補充によって、客体の「妻」が移

8 Manner WITH xは移動事象の下位事象にある。これは次節で述べる有方向移動事象と異

なる。また、事象構造への反映の仕方について、下位事象における移動物を「x/y」と表記 することも考えられる。しかし、「*彼は妻と彼を玄関に抱え入れた」のように事象構造上 では項構造による制約を受けるため、そのような表記が採用できない。ただし、主体のx は下位事象に対応する項の位置に現れないが、(18)のMOVEに実行の仕方の様態成分とし て出現することは可能である。

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動する際に、主体の「彼」に抱えられながら移動するという意味が表される9。 以上、V2が使役移動動詞の場合、異なる二つの移動事象を見てきた。本論では、移 動事象のタイプごとに、違いがあるものの、(17)と(18)における基本的な語形成の あり方は、その他のタイプの移動事象を表す複合動詞の語形成にも適用されると考え る。

続いて、複合動詞の表示モデルから、形成可能のものとそうでないものがある理由 について考える。たとえば、「~倒す」の複合動詞には、「切り倒す」、「打ち倒す」、「殴 り倒す」、「突き倒す」などがあげられる。これらのV1の動作について、いずれも「倒 す」の移動物が「BE-AT KNOCKED-DOWN」である必要があるという点で共通している。

一方、たとえば、「*触り倒す」のような複合動詞は成立しない。これは、「触る」によ る動作様態の補充が「~倒す」が意味する結果事象「BE-AT KNOCKED-DOWN」に繋がら ず、適切な使役連鎖を成すことができないからである。適正な客体移動事象が形成で きないことから、複合動詞としても形成不可能であると思われる10

最後に、事象構造の観点から、使役移動事象を表す複合動詞の意味関係を考える。

使役移動事象を表す複合動詞の意味関係について、その多くは「手段型」と解釈され うる。また、少数ではあるが、陳・松本(2018:80)で言う「前段階型」が出現して いる。これは、たとえば、「(卵を)割り入れる」があげられる。この場合の「割り入

れる」のV1「割る」は、V2が意味する「卵を(フライパンに)入れる」という目的事

象の準備事象であることを表している。使役移動事象を表す複合動詞の中で、このよ うな限定された意味関係しか現れない理由は、以下のように考えられる。

使役移動の事象構造自体は、主体の動作による客体の移動という意味を持つ。この ような事象構造に対し、V2 は複合動詞全体の表す下位事象の結果事象を規定するが、

上位事象を規定することがない。一方、V1 は V2 が表す使役移動事象の成立に使役移 動の動作や過程を規定している。「押し倒す」や「抱え入れる」の場合、V1 はどのよ うに移動物を倒すか、もしくは、どのように移動物を入れるかについて使役移動の様 態を補充することで、詳述を行っている。このようなV1とV2における役割分担の棲 み分けにより、これらの例は結果的に「手段‐目的」と解釈される。また、たとえば、

「割り入れる」は、複合動詞全体の移動事象が次の(19)のように表示される。

9 このような移動事象を有する複合動詞について、第5章と第6章では、複合動詞の生産 性の問題と関わらせながら、改めて述べる。

10 陳・松本(2018:150)では、V1による結果の含意は、「倒す」という動詞のフレーム意

味論における「目的」が含意されていると考えている。しかし、本論では、複合動詞にお ける個々の意味要素が持つフレーム的な意味ではなく、事象成立の観点から複合動詞の語 形成を考えている。すなわち、使役移動という事象が成立するために、V1とV2がどのよ うに事象構造に意味を添加し、一連の移動を成立させるのか、ということである。

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(19) 卵をフライパンに割りいれた。

V2「入れる」の事象的・語彙的意味

V-[[xi ACT<MANNER>ON y]CAUSE[y’s content MOVE[Path]BECOME[y’s cont BE-AT INSIDE OF PAN]

V1「割る」の語彙的意味

(19)はフライパンに割った卵を入れるという事象を表している。ただし、厳密に 言うと、「割る」の対象は「卵」であり、「入れる」の対象は「卵の中身」である。「卵」

と「卵の中身」は全体と部分の関係を成している。このことを(19)の事象構造に反 映させると、上位事象と下位事象の移動物は、それぞれyとy’s content(cont)に よって表示される。また、複合動詞が表わす事象的意味は、V1「割る」が使役移動の 上位事象に関与するが、「卵の中身」が移動するという動作の過程に関与しない。つま り、この場合のV1「割る」は、上位事象のy項のみ規定するということである。V1が 上段の使役移動事象における上位事象のみ補充することになるため、複合動詞全体が

「V1した上で、V2」という「前段階型」に解釈されることになる。

ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 70-73)