• 検索結果がありません。

第 7 章 農民専業合作社の加入効果分析(2):山西省農家調査による実証 . 157

第 4 節 合作社加入効果の推計

4.3. PSM による推計

合作社ダミーの係数を見てみると、耕種業純収入と野菜純収入ともに係数自体は正であ るが、後者のケースのみで有意な結果となった。野菜純収入に関する合作社ダミーの係数

が0.213 であることから、他の条件を一定にすると、会員農家は非会員農家と比較して純

収入が23.8%(exp(0.213)-1)多いことになる。したがって、野菜合作社への加入は野菜生

産の純収入において有意なプラスの効果が見られる一方で、自給目的の穀物栽培などを含 めた耕種業全体では、会員農家と会員農家との間で純収入の有意な格差が存在していない ことを意味する。

その他の変数では、農業資本額が耕種業純収入および野菜純収入のいずれのケースでも 有意な正の値をとっているのに対し、請負耕地面積は耕種業純収入のみで有意な正、年齢 とその二乗項は野菜純収入と有意な逆U字関係にあることがわかる。それに対して、労働 者数、教育年数、リスク回避度といった世帯主・世帯の属性を示す変数や、農業技術への 積極性や市況の理解度といった農業への積極性を示す変数、そして農地条件を示す圃場分 散度は、OLSのケースではいずれも有意ではなかった。

にあり、幹部世帯や高齢者がいる世帯では栽培実施の確率が有意に低いのである。さらに、

世帯主の健康状態がよく、リスク愛好的で、農業技術への積極性が高い農家ほど、野菜栽 培を実施する確率が高いことが示された。

表 7 - 10 合作社加入・野菜栽培実施に関するプロビット分析結果

世帯主の年齢 -0.060 -0.484 0.460 2.538** 0.292 2.225**

年齢(二乗) 0.001 0.597 -0.005 -2.524** -0.003 -2.386**

世帯主の教育年数 0.175 0.603 -0.035 -0.125 0.198 0.546

教育年数(二乗) -0.008 -0.496 0.004 0.213 -0.013 -0.615

幹部ダミー -1.128 -2.128** 0.906 1.654* -1.107 -1.624

党員ダミー 1.567 1.936* -0.815 -1.138 0.872 1.049

健康指数 0.252 1.675* 0.082 0.456 0.493 2.518**

請負面積 0.047 0.168 0.261 0.943 0.147 1.618

請負面積(二乗) 0.005 0.284 -0.018 -1.085 -0.004 -1.344

世帯人数 -0.044 -0.361 0.193 1.502 0.166 1.269

リスク選好度 0.010 0.051 0.302 1.715* 0.300 1.738*

農繁期の手伝い度 0.084 0.539 -0.086 -0.467 0.015 0.086

農業技術への積極性 0.386 1.430 0.451 1.573 1.016 3.003**

市況の把握度 -0.019 -0.104 0.006 0.028 -0.147 -0.673

幼児ダミー 0.180 0.521 -0.150 -0.436 -0.294 -0.765

高齢者ダミー -0.728 -1.883* -0.606 -1.330 -1.297 -2.776***

人民公社への印象 0.228 0.548 -0.061 -0.100 1.036 1.771*

村民大会への積極性 0.199 0.996 -0.028 -0.120 -0.195 -0.748

村ダミー(B村) -0.255 -0.811 1.621 4.562*** 1.549 4.433***

定数項 -2.694 -0.771** -14.532 -3.030*** -13.386 -3.493***

標本数 Log Likelihood LR χ2(19) Pseudo R2

(注)1)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

2) Case (A)は、ともに野菜栽培を行う会員農家と非会員農家のデータを利用し、会員農家であるか否かのプロビット分析の推計結果である。

3) Case (B)は、野菜栽培を行う非会員農家と伝統的農作物の栽培農家のデータを利用し、野菜栽培を行っているか否かのプロビット分析の推計結果である。

4) Case (C)は、野菜栽培を行う会員農家と伝統的農作物の栽培農家のデータを利用し、会員農家であるか否かのプロビット分析の推計結果である。

29.44* 63.41*** 81.45***

0.163 0.369 0.437

131 124 135

-75.43 -54.23 -52.55

Case (A) 会員農家 vs 非会員農家

Case (B)

非会員農家 vs 伝統作物農家

Case (C)

会員農家 vs 伝統的作物農家 coefficient z-Value coefficient z-Value coefficient z-Value

このプロビット分析の結果に基づき、傾向スコアによるマッチングを行った。なお、マ ッチングの際にはCS条件のため、Case (A)では6~8世帯、Case (B)では23世帯、 Case (C)

では24~25世帯のオブザベーションがATT推計から除外されている。また、マッチング

された標本の属性に関するバランス検定(平均差のt検定)も行ったが、全ての変数につ

いて10%水準で有意差は確認されなかった。

表 7-11 PSM による処理効果の推計結果

処理群 対照群 格差 処理群 対照群 格差 処理群 対照群 格差

Case (A): 会員農家 vs. 非会員農家(野菜栽培農家)

野菜純収入(元) 20,770 17,248 3,522 1.370 20,492 17,877 2,615 0.788 20,492 18,286 2,206 0.664

労働生産性(元/日) 48.10 43.98 4.12 0.651 46.64 45.01 1.63 0.197 46.64 45.45 1.19 0.144

 土地生産性(元/ムー) 5,044 3,594 1,450 2.389 ** 4,994 3,573 1,421 2.063 * 4,994 3,659 1,336 1.937 *

耕種業純収入(元) 25,421 20,306 5,115 1.750 * 24,735 20,220 4,514 1.244 24,735 20,155 4,580 1.256

労働生産性(元/日) 48.56 42.14 6.42 1.003 46.77 40.39 6.38 0.792 46.77 40.17 6.59 0.827

 土地生産性(元/ムー) 2,166 2,126 40 0.126 2,216 1,884 332 0.811 2,216 1,907 308 0.750 Case (B): 非会員農家(野菜栽培農家) vs. 伝統的作物農家

耕種業純収入(元) 20,306 7,961 12,345 4.513 *** 17,129 10,198 6,931 1.730 * 17,129 10,488 6,641 1.611

労働生産性(元/日) 42.14 26.84 15.30 2.377 *** 33.31 22.97 10.34 1.244 33.31 22.30 11.01 1.280

 土地生産性(元/ムー) 2,126 531 1,595 5.560 *** 1,854 581 1,273 3.137 *** 1,854 588 1,266 3.093 **:

Case (c): 会員農家 vs. 伝統的作物農家

耕種業純収入(元) 25,421 7,961 17,460 6.976 *** 24,289 13,816 10,473 2.320 *** 24,289 13,913 10,375 2.206 **

労働生産性(元/日) 48.56 26.84 21.72 3.905 *** 49.23 30.08 19.15 1.815 * 49.23 30.06 19.17 1.846 *

 土地生産性(元/ムー) 2,166 531 1,635 8.193 *** 2,079 830 1,250 4.189 *** 2,079 868 1,211 4.024 ***

(注)1)***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

2)マッチングはcommon support条件を課して実施した。

マッチング前 マッチング後

カーネルマッチング 半径マッチング

t値 t値 t値

PSMによる処理効果の結果は、表7-11にまとめた。まずCase (A)の野菜純収入の結果 を見ると、マッチング前には会員・非会員農家野菜純収入には有意差が検出されなかった が、マッチング後も加入農家と非加入農家の間では野菜純収入に有意な差が認められなか った。この結果はいずれのマッチング方法でも共通している。さらに、労働生産性(純収 入/労働投入日)と土地生産性(純収入/作付面積)についても、同様の比較分析を行っ たところ、土地生産性ではマッチング前後のいずれのケースでも、処理群の純収入が有意 に高いという結果が導かれた。処理群と対照群のムーあたりの純収入の差は1400元前後で、

対照群を基準とすると、ムーあたりの純収入が約4割高くなっている。他方、労働生産性 で見ると、マッチング前後のいずれのケースでも有意差は存在していない。したがって、

合作社への加入は野菜生産の土地生産性を有意に高める効果があると言える。

実際、作付面積あたりの茄子生産量で比較してみると、会員農家の茄子単収は4357kg/

ムーであるのに対し、非会員農家のそれは3383kg/ムーにとどまり、会員農家の単収の方 が約3 割高くなっている(1%水準で有意差あり、t値は 6.0271)。このような土地集約型 の野菜生産によって、会員農家は相対的に高い作付面積あたりの野菜純収入を実現してい ると考えられる。

それに対してCase (A)の耕種業純収入について、マッチング前には会員農家の純収入が 非会員農家のそれに比べて有意に多かったが、マッチング後には労働・土地生産性を含め てすべてのケースで有意差は確認できなかった。この結果は表7―9で示した純収入関数の 推計結果と整合的で、合作社への加入は特定品目の収益性上昇には有意な効果をもつもの の、野菜以外の品目を含めた耕種業全体では、必ずしも純収入上昇効果が存在しないこと を示唆している。

他方、非会員農家と伝統的作物農家の耕種業純収入を比較したCase (B)では、マッチン グ前にはいずれのケースでも有意差が存在したが、カーネルマッチング後には非会員農家 の耕種業純収入と土地生産性が伝統的作物農家のそれよりも有意に多いこと、半径マッチ ング後には土地生産性で有意差が存在する。さらに会員農家と伝統的農家との比較を行っ

たCase (C)では、いずれのマッチング方法を採用した場合でも、有意な有意差が確認でき

る。すなわち、会員農家の耕種業純収入は世帯の属性をコントロールした場合でも、伝統 的農家のそれを有意に上回っていて、土地・労働生産性でみた場合でもその結果に変化は ないのである。

したがって、野菜栽培実施の耕種業純収入に対する処理効果は、概ね有意な正の効果を もつこと、そして会員農家と伝統的作物農家を比較した場合には、その効果がより顕著で あることが指摘できる。

5

節 おわりに

本章では、中国内陸部の野菜産地である山西省新絳県を対象に、合作社設立の経緯や運 営状況、農家向けの具体的なサービス内容を踏まえた上で、農民専業合作社加入による経 済効果を実証してきた。本章の分析結果は、以下の3点にまとめることができる。

第1に、調査対象となった2つの野菜合作社は、ともに行政主導で設立されているため、

合作社の提供するサービス(種苗の提供、農業生産資材の共同購入、合作社を通じた野菜 の販売、技術指導など)は非会員を必ずしも排除しておらず、外部効果も大きい点である。

また、野菜販売については合作社に隣接する卸売市場に依存していることに加え、合作社 はスーパーへの直売や商標・認証(ブランド野菜、有機・無公害)を確立できていない。

そのため、卸売段階では一般的な農産物と明確な価格差別化ができず、販売価格の安定化 の面でも合作社の機能は弱いといった特徴がある。

第2に、完全誘導型の回帰分析とプログラム評価法に基づいて、農家に対する野菜合作 社の加入効果の効果を推計したところ、耕種業純収入に対して有意な加入効果がみられな かったのに対し、野菜純収入については有意な正の効果が計測されたことである。合作社 への加入は会員農家による野菜の栽培技術を高め、野菜生産の土地生産性を高める形で増 収を実現していることが指摘できる。さらに、PSMによって野菜栽培農家と伝統的作物農 家と比較した場合、野菜栽培の導入は野菜栽培農家に対して有意な正の効果をもち、会員 農家ではその正の効果がより顕著となった。

第3に、農家による合作社加入選択において、世帯主や世帯属性(党員、幹部、世帯主 の健康状態、高齢者の有無)は有意な効果をもたらす一方で、農繁期の手伝い度合いや村 民大会への積極性といった公共意識の高さを意味する変数について、いずれも正の係数を