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第 4 章 農地賃貸市場の形成と農地利用の効率性:浙江省の事例を中心に

第 3 節 浙江省調査地域の農地流動化の特徴

3.2. 調査農家の概要

浙江省農家調査については、神戸大学の科研費研究の一環として、現地の研究機関に委 託する形で行われた10。実際の調査は、奉化市では2008年8月、徳清県では2011年1月 と3月に実施された。調査手順としては、まず2つの地域の調査農家数をそれぞれ450戸 と定め、郷鎮・街道-行政村-農家という3段階で標本農家の抽出を行った。郷鎮・街道 については、奉化市と徳清県を代表するものを各々3 つ選定したうえで、奉化市について は各郷鎮・街道から5つの行政村、徳清県では各郷鎮から3つの行政村を選出した。

そして、各行政村から奉化市では30戸、徳清県では50戸の農家を無作為に抽出した。

村あたりの平均農家数が2つの地域で大きく異なるため、抽出方法にこのような調整を加 えている11。農家の抽出に際しては、調査対象村に関する村民名簿を事前に入手し、ラン ダムスタートによる系統抽出法によって調査農家を選定した。なお、調査時に対象農家が 不在の場合には、代替標本の農家に調査を行った。また、農家調査のほかに、調査対象村 の幹部(書記、村会計)に対するアンケート調査と実態調査も実施し、調査対象村に関す る詳細な情報も収集している。

10本調査は、文部科学省科学研究費(基盤研究A・海外学術、平成20~23年度、研究課題名:「中国における 農村都市化の実証研究―企業・土地・労働力の集積と地方政府」、研究代表者:加藤弘之教授(神戸大学大学) の研究成果の一部であり、筆者は研究分担者として本科研費研究に参加した。

11調査対象村の平均農家数は、奉化市が278戸、徳清県が517戸である。

表 4-2 浙江省農家調査の概要

平均世帯員数(人)

3.32 4.38

世帯あたり労働力数(人)

2.16 2.70

就業先の構成(%)

 農業

30 23

採掘業

0 6

 製造業

35 28

 建設・運輸業

9 12

 商業・サービス業

14 24

1人あたり純収入(元)

12,723 15,474

世帯あたり請負面積(ムー)

2.64 3.77

奉化市 徳清県

(出所)浙江省奉化市・徳清県農家調査データより筆者作成(以下、同様)

(注)徳清県の純収入は、浙江省農村消費者物価指数(2007年=100)で実質化した。

まず、調査対象農家の基本的状況を表4-2に整理した。世帯員数を見てみると、奉化市 の方が徳清県よりも世帯員数が1人程度少なく、労働者数でも0.6人程度の格差が存在す る。就業先の構成については、2つの地域ともに農業就業者の割合が2~3割程度にとどま る一方で、非農業就業の割合が高く、奉化市では製造業、徳清県では商業・サービス業へ の就業者比率が高い。なお、両地域ともに県(市)内で産業が発展しているため、「農外就 業の就業先が県内」と回答した労働者の割合が8~9割を占め、とりわけ徳清県では8割を 超える非農業就業者が地元の郷鎮内で働いている。

他方、農民1人あたり純収入(2007年価格)でみると、徳清県農家の純収入が奉化市農 家のそれを上回り、経済水準は徳清県の方がやや高い。また、農家平均の請負面積(耕地 と一部の林地などが含まれる)は2つの地域で1ムー程度の格差が存在しているが、全国 平均(2010年)の世帯平均耕地面積である9.12ムーを大きく下回っている12

次に、農家経営の農地面積とその構成比について、表4-3で整理した。2つの地域で農 地面積について大きな格差がみられ、徳清県の農地面積が奉化市のそれ1.7 倍程度となっ ている。農地の構成比をみると、奉化市では果樹園とその他(主に養殖池)、徳清県では耕

12 2010年の全国平均の農村世帯耕地面積は、国家統計局住戸調査弁公室(2013: 30, 33頁)に基づく。

地と林地の構成比が相対的に高い。奉化市では水蜜桃やイチゴといった果物栽培が盛んで、

魚介類の養殖も広範に行われている一方で、山林資源の多い徳清県では孟宗竹や茶葉の栽 培が普及していることが、調査データからも確認できる。

表 4 - 3 農地の利用方法と流動化状況

面積(ムー) 構成比(%) 面積(ムー) 構成比(%)

農地面積

4.93 100 8.12 100

 耕地

1.59 32 3.17 39

  水田

0.92 19 2.22 27

  畑

0.63 13 0.94 12

 林地

0.78 16 3.16 39

 果樹園

0.91 18 0.30 4

 その他

1.64 33 1.48 18

貸出

0.84 17 1.55 19

 反租倒包

0.00 0 0.89 11

借入

2.28 46 1.53 19

ジニ係数  請負面積

 農地面積

0.67 0.63

奉化市 徳清県

0.32 0.33

それに対して、農地面積に対する貸出面積比率に関して、奉化市は17%、徳清県は19%

とほとんど格差がみられない。しかし、奉化市ではそのほとんどが「転包」によるもので あるのに対し、徳清県では貸出面積の半分以上が「反租倒包」の形で行われている13。ま た、農地の借入比率でみると、奉化市の借入比率は46%に達し、徳清県の19%を大きく上 回っている。この格差の主たる理由として、奉化市では村外から借り入れた農地(70~80 ムー程度)で大規模な水産養殖と果樹栽培を行う農家がサンプルに入っていることが挙げ られる。その農家(5世帯)を除くと平均借入面積は1.46ムーとなり、格差は大幅に縮小 する。

さらに、村民小組から配分された請負面積と、農家が実際に経営している農地面積のジ

13農家調査を行った調査機関の担当者によると、徳清県の調査農家のうち、村民委員会に対して農地経営権を 貸し出していた多くの農家は、貸出後の農地経営権の利用について十分な情報を持っていなかったため、調査 員に対して「転包」と回答していたという。しかしながら、村民委員会へのアンケート調査を通じて、村民委 員会に「転包」された農地は、実際には龍頭企業や大規模経営農家に一括して貸し出されていたことが明らか となった。そのため、調査期間中に調査担当者によって開催された会議において、このようなケースについて

「反租倒包」として取り扱うことを決定したという。

ニ係数を比較すると、2 つの値に大きな開きがあることがわかる。すなわち、農地面積の ジニ係数は請負面積のそれを大きく上回り、経営農地面積に関する農家間格差が非常に大 きいことである。このことは、請負面積については世帯員数や労働者数で相対的に均等に 配分されていたが、その後の農地流動化や農地転用などによって、農地配分の不平等化が 進んだこと、そして林地面積は村民全員の承包の対象とならず、特定の農家に請け負わせ る形で配分されたことが関係していると考えられる。