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第 7 章 農民専業合作社の加入効果分析(2):山西省農家調査による実証 . 157

第 3 節 農民専業合作社による会員向けサービスの実態

3.1. 農民専業合作社によるサービスと会員農家の評価

調査対象となった2つの合作社の概要について、表7-4に整理した。2つの村の合 作社設立母体はともに村民委員会で、合作社の理事を村党支部委員が兼任するなど、

村民委員会との関係は緊密である。また、合作社の会員数はA村が125世帯、B村が 105世帯で、全戸数の約3分の1が会員となっている。そして合作社への加入条件は、

2 つの村ともに野菜栽培用のハウスを建設し、野菜栽培を行っていることで、ハウス 栽培を行っていない農家は原則上、加入することはできない。実際、調査対象となっ た会員農家はすべて野菜ハウスを保有している。

表 7 - 4 農民専業合作社の概要( 2010 年末)

A 村 B 村

野菜合作社の設立年 2008年12月 2009年3月

合作社の設立母体 村民委員会 村民委員会

会員数(戸) 125 105

登記資本金(万元) 320 315

主要な取扱品目 茄子、その他野菜 茄子(長茄子、丸茄子)

専属職員(人) 4 5

農産物の販売方式 合作社の買取、卸売市場で の販売

合作社による等級分け、卸売 市場での販売

(出所)合作社へのアンケート調査と現地でのヒアリング調査(20125月)に基づいて筆者作成。

新絳県の野菜ハウスは、もともと「琴弦式」と呼ばれる竹枠を立ててビニールで耕 地を囲った簡易なものが中心で、敷地面積も約0.7~0.8ムーと狭く、建設費用も1万 元程度であった。だが、ハウス内の保温性を高めるため、2000年代前半から「冬暖式」

と呼ばれる保温性の高いハウスの建設が普及してきている。このハウスは地面全体を 80センチ程度掘り下げ、北側の厚い土壁とコンクリート製の支柱を作り、竹枠に沿っ てビニールで耕地を覆ったもので、ハウス1棟の平均的な建築面積は3ムーで、4~5 万元程度のコストもかかるという。

また、2 つの村の合作社ともに、会員は入会金や年会費の支払いは不要だが、現金 による出資が必要である。調査対象の会員農家のうち、出資をしていない農家数は 2 世帯だけで、そのほかの会員農家はすべて出資している。ただし、出資方式は2つの

村で異なり、A村では500元を1株として1~2株程度の出資を行っているのに対して、

B村では野菜ハウス1棟を1万5000元に換算し、合作社への出資と見なしている。B 村の会員農家の多くは2棟のハウスを保有していることから、会計上の出資金は3万 元となっているケースが大半を占めている。合作社全体では、合作社の幹部による出 資金が2つの村ともに出資金総額の5割程度を占めている。ただし、社員大会での投 票権は一会員一票で、出資額には左右されない形になっている。また、いずれの合作 社も2010年末まで会員農家への利潤の配当を実施していない。

合作社が会員農家に対して提供する主なサービスは、①茄子の育苗と会員農家への 割引価格での販売、②農業生産資材(化学肥料、農薬、建設資材など)の一括購入と 割引価格(約1割引)での農家への販売、③卸売市場での産地仲買人・消費地の商人 向けの販売、④会員農家に対する栽培技術の指導と講習会の開催、の4点である。

①についてやや詳しく説明すると、A村の合作社ではオランダの大手種子会社と代 理店契約を交わすなど盛んに行われ、40棟のハウスで長茄子(「10-765茄子」と呼ば れる品種)の育種を実施し、県全体の育苗基地になっている。2009年のデータによる と、合作社が育苗した茄子は約58万株にのぼり、約38万株が合作社の会員用、残り の約20万株は新絳県内の農家に販売しているという。なお、販売価格は会員・非会員 でも同一で、1株あたり0.25元の政府による優良品種補助も受けることができる。他 方、B村では2011年から茄子の育種を開始したが、村内の野菜栽培農家向け販売が主 であり、栽培規模も4棟のハウスに限定されている。

また、③の農産物の販売面では、2 つの合作社で販売方法に格差が存在する。すな わち、A村では合作社が生産農家から農産物を買い取ったうえで一括販売するのに対 して、B 村では、農家が卸売市場に持ち込んだ農産物を合作社が無料で等級分けを行 ったのちに、合作社による代理販売が行われている。そして、合作社の事務所に隣接 する形で卸売市場が常設されていて、その管理・運営も合作社の職員が担当している 点は共通している。

ここで注目すべきは、農民専業合作社が提供するサービスについて、いずれの合作 社も必ずしも会員農家に限定されたものではなく、村民であれば利用可能な点である。

合作社が栽培する苗について、会員以外の村内外の農家にも販売され、合作社の主要 な収入源となっている。また農業生産資材の購入や農産物の販売についても、村内の 非会員農家はそのサービスを利用可能で、後述するように合作社のルートを通じて農 産物を販売する非会員農家の割合も高い。これは合作社が村民委員会主導で設立され ているため、村民であれば合作社のサービスから排除することが困難であることと関 連している3

3 20125月に筆者が2つの村民委員会の幹部(合作社理事を兼任)に対して行ったヒアリングに基づ

く。

このように農民専業合作社の基本的特徴や会員農家向けサービスについて、2 つの 合作社で大きな格差は存在しないため、以下の分析では2つの行政村の農家データを 集計した形で分析を進めていく。

表7-5では、合作社サービスに対する会員農家の評価を整理した。表からわかるよ うに、播種技術指導や病虫害の予防、農業生産資材の提供といった生産関連のサービ スでは会員農家の満足度は高い。その一方で農産物の優遇価格での買い取りと出荷物 の貯蔵といった販売関連について、「満足している」と回答した農家の割合がそれぞれ

39%と22%と相対的に低く、とくに農産物の貯蔵についてはサービス提供自体が行わ

れていないと評価している。また、農業機械の使用や掛売・掛買の面で満足と回答す る会員農家の割合が低く、サービス自体が提供されていないと回答する割合も相対的 に高い。

他方、合作社への未加入農家に対しては、合作社に加入しない理由について質問(複 数選択)を行った。最も多い未加入理由として、未加入農家の43%が「合作社に関す る知識・理解の不足」と回答している。このことは、合作社に関する情報や理解の不 足が加入の大きな妨げとなっている可能性が高いことを示唆している。それに次ぐ回 答では、「労働力の不足」が 16%を占め、労働力が合作社加入の重要な要素となって いることがわかる。その他の主な回答しとしては「合作社加入の収益効果が感じられ ない」が11%、「独自の技術・販路あり」が8%を占めるなど、未加入農家のなかには 独自の経営能力をもつ世帯が存在していることが窺える。

表 7-5 合作社提供サービスに対する会員農家の評価

単位:%

満足 不満 サービス なし

播種技術指導

93 0 7

農業生産資材の提供

76 3 22

農産物の優遇価格買取

39 30 31

買付商人への連絡・調整

59 11 30

農業機械の使用

47 3 50

病虫害の予防

78 1 20

掛売・掛買

43 8 49

農産物の貯蔵

22 5 73

(出所)新絳県農家調査に基づいて筆者作成(以下、同様)