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第 9 章 投資形態

3. IT・BPO 産業

(1) 政策

インドでは、1991 年以降の経済自由化の過程で、IT・BPO 産業の成長が経済成長を牽 引してきた(図表 23-22参照)。インドのIT・BPO産業は輸出主導で成長しており、英語 力や理科系の能力に優れた割安な労働力及び時差を活用し、世界各国からソフト開発など を請け負う「グローバル・デリバリー」といわれるビジネスモデルを確立することで、ソ フトウェア開発やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO:Business Process

Outsourcing)79といったサービスの輸出を拡大させてきた。現在、グローバルソーシング

(国際業務委託)の世界市場の50%以上はインドが獲得しており、世界の中でも代表的な オフショア開発先の一つとなっている。

インドはY2K(コンピュータ西暦2000年問題)80への対応を契機にグローバル市場にお いて確固たる地位を築き、今や世界をリードするグローバルサービスプロバイダーとなっ ている。インドの IT・BPO産業では、米国などに移住しシリンコンバレー等で成功を収め た非居住者インド人(NRI)のIT 技術者が、母国経済改革の進展を見て帰国し、経営者や 技術者として活躍している。また、外国企業によるIT 拠点のインドへの配置も活発化して おり、テキサス・インスツルメンツ(TI) やモトローラなどはバンガロールに、マイクロ ソフトやオラクルなどはハイデラバードにそれぞれIT 拠点を設けており、バンガロールは インドのシリコンバレーとも呼ばれている。

79 従来、単なるデータ入力等の比較的付加価値の高くない単純定型業務が多かったが、近年はその過程か ら得た気付きの点を踏まえ、顧客へ提案することにより、より上流のビジネスへ展開するような動きがみ られている。

80 1999年は世界中でY2K問題への対応が大きな課題となり、対策ソフトとしてはインド製プログラムも

米国製等と同様、欧米中心に広く利用された。インド国内の業界団体であるNASSCOM(全国ソフトウェ アサービス協会)によると、1999年までの4年間にY2K関連の受注は25億ドルに上り、フォーチュン誌 上位500社のうち104社以上から受注したY2K関連プロジェクトが無事に年を越したことから、2000 を迎えても電子商取引ソフトなどの継続的受注につながったとされる(株式会社日本総合研究所「アジア マンスリー20004月号」)

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図表 23-22 IT・BPO産業の輸出額・国内売上高の推移

(出所)NASSCOM より作成

(2) 業界動向

業界団体のインドソフトウェアサービス業者協会(NASSCOM:National Association

of Software and Service Companies)によると、輸出額・国内売上高を合わせた2011年度

の総売上高は880億ドルであり、前年度の740億ドルから約20%の成長を見せている(図 表 23-22参照)。これらIT・BPO業界の男女比率は女性30%、男性70%の構成となって いる。また、これらIT・BPO産業により、正規雇用人口は280万人、非正規雇用は約890 万人と、合わせて1,170万人の雇用を生み出している。

また、インドのIT・BPOサービスは世界にそのサービスを提供しているため、各企業と も品質に対する意識が強い。NASSCOMによれば、NASSCOMに登録している企業1,250 社のうち、52%がIEEEやISOなどの国際標準規格を保有しており、国際標準規格を保有 する企業も年々増加傾向にある。

当業界では、IT(情報技術)人材の争奪戦も過熱している。インドでの理工系学生の卒 業生は毎年70万人と日本の約7倍といわれている。2012年12月、インド主要紙などの一 部報道によれば、「15万ドル(約1,500万円)」を手にする学生が出た!」と報じられ、注 目を集めた。全国から優秀な理工系人材が集まるインド工科大学(IIT)の成績トップの学 生に韓国サムスングループが提示した金額であり、当年俸はいわゆる、インド中間層の平 均世帯年収の10倍以上となる。米Google、マイクロソフト、フェイスブックなど、IT大 手は毎年12月から始まる面接の「枠取り」合戦状態であり、早いもの勝ちで優秀な学生を 獲得していっている。このような状況下、日系企業も動き始めており、東芝の現地法人の 東芝ソフトウェア・インドは2013年1月にスマートグリット等、グループの先端研究を行

41 47 50

59

69

76

22 22 24 29 32 32

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

2008 2009 2010 2011 2012 2013(予測)

輸出額 国内売上高

(10億ドル)

(年度)

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うR&D部門を設立し、IIT卒業生を採用し、配置をしている。ソニーは現地採用だけでな

く、日本本社向けの即戦力人材としての採用も積極的に行っており、優秀なIT人材を採用 することも難しくなってきている。

ひとくちメモ(25):横河インディアの日本語対応部隊

横河インディアの従業員数は現在約1,400 名であるが、そのうちの800名が制御システムのソフト ウェアを設計するエンジニアたちである。その800名の中で350名がインドのお客様に納入するシステ ム向けのエンジニアで、残り450名がインド以外のお客様に収めるシステムを担当する部隊とのこと。

その中でもユニークなのが「J Team」と呼ばれる 140 名の日系のお客様を担当するエンジニアたち だ。当社には、4 ヶ月間の日本語集中研修を受けた日本語の話せるインド人の日系企業対応部隊が おり、昼礼なども全て日本語で行っており、場合によっては日本でお客様との打ち合わせにも参加する という。

当社の村田社長によれば、インド人の日本語習得能力が何か特別なものであるわけではないそう だ。日本語だけに限らずインド人一般の知識欲や学習意欲は極めて高いらしい。そんなエネルギーあ ふれるインドと技術立国であるわが日本が提携できる分野に限りはなさそうで、我々日本人もヒンディ ー語を4ヶ月で習得するぐらいのエネルギーを持ってインド人と肩を組めばインドが最強のビジネスパ ートナーとして立ち現われてくるはず。

【写真説明】制御システムのソフトウェアを日本語で構築するエンジニア(左)と出荷前検査中の制御シ ステム(右)

(出所)横河インディアより提供

167 (3) 主要プレイヤー概況

インドを拠点とするITサービス・プロバイダー上位5社の概要は図表 23-23のとおり。

米国ITアドバイザリ企業Gartner(2013年5月)によれば、インドのITサービス・プ ロバイダー上位5社の2012年の前年比成長率が13.3%であり、世界のITサービス産業の 前年度成長率2%を大きく上回ったと報じている。但し、これまでインドのITサービス・

プロバイダー上位5社の成長率は直近2年間では20%以上で推移したため、2012年の成長 率は減速した。

米国ITアドバイザリ企業Gartnerの見解では、このような状況下においてそれでも上位 5社が二桁成長をしている理由として、米国フォーチュン誌によるランキング上位1,000社 の大口顧客に対し、アプリケーションやインフラ、BPO等の統合サービスを提供し、コス ト削減などの提供価値を訴求し、案件を獲得している点にあるとしている。特に、上位 5 社はインフラサービスに注力しており、インフラサービスの売上高の 65~70%はリモー ト・インフラ管理サービスとなっている。なお、上位5社のうち、Cognizantは2011年売 上高ランキング2位であったInfosysを抜いて2位に浮上している。

図表 23-23 インドを拠点にするITサービス・プロバイダー上位5社の概要(2012年)81

(出所)ガートナープレスリリース「Gartner Says Top Five Indian Providers Grew 13.3 Percent In 2012, Exceeding Global IT Services Industry Growth Rate of 2 Percent」 2013528日、概要は各社公開 情報により作成

81 括弧内は2011年の値。なお、マーケットシェアはGartnerが定義しているITサービス・プロバイダー 市場でのシェア。

No 企業名 世界

ランク

売上高

(100万ドル)

前年比 成長率

マーケッ

トシェア 概要

1

TCS(TATA Consultancy Services)

16(16) 10,888

(9,451) 15.2% 1.2%

(1.1%)

タタグループ企業の一つ。1968年設立。

アプリケーション、インフラストラクチャ、BPO等のポート フォリオを構築し、全面的なITサービスを提供。

1987年より横浜で日本事業開始。

2 Cognizant 23(28) 7,053

(5,875) 20.1% 0.8%

(0.7%)

2008年日本法人設立。

チェンナイにオペレーションオフィスを持ち、近年、急成 長をしている企業の一つ。

3 Infosys

Technologies 26(27) 6,691

(6,279) 6.6% 0.7%

(0.7%)

1981年設立。資本金250ドル、メンバー7人で創業。

全世界28カ国に拠点をもつ、インド発ベンチャー。

1997年に日本法人設立。

4 Wipro 31(31) 5,737

(5,334) 7.6% 0.6%

(0.6%)

1945年設立。インドIT大手の中で最も古い歴史を持つ。

1998年横浜に日本法人設立。

5 HCL

Technologies 41(47) 3,916

(3,316) 18.1% 0.4%

(0.4%)

1976年設立。資本金20万ルピー、メンバー6人で創業。

1995年日本法人設立。

合計 34,285

(30,255) 13.3% 3.7%

(3.5%)

168 ひとくちメモ(26):インドのシリコンバレー(?)バンガロール

インドのシリコンバレーと呼ばれているバンガロールには、IT企業が集積している。インドの5大IT 企業とも呼ばれている、WiproとInfosysはバンガロールに本社がある。外資系企業では、Intel、

IBM、HP、Siemens、Oracle、Philips等の支社があり、バンガロールは世界で4番目に大きいIT 生産地とも呼ばれている。しかし、その実情は米国のシリコンバレーとは異なる。ある現地の日系IT 企業社員の話では、バンガロールで行われている業務の約3分の2はBPOであり、3分の1がシス テムインテグレーション、もしくはオフショア開発であり、多くのベンチャー企業が生まれる米国のシリコ ンバレーとは異なるとのことだ。一部では、NASSCOMの会長は公衆の面前ではインドのBPOにつ いて称賛しているが、インドではBPOしかできず、インドからアップルのような企業が生まれないことに 危機感を持っているとも噂されているようである。インド人材は優秀と言われているが、本当に優秀な 人材は米国のシリコンバレーに行ってしまうため、インド発のベンチャーはそれほど多くないという。イ ンドのシリコンバレーの将来はBPOからの脱却にあり、先に示したように、TCSやCognizantのよう にBPOにとどまらず、BPO業務を通じた情報収集を複合型のサービス提供につなげていくことが、イ ンドのシリコンバレーの更なる成長のためには必要かもしれない。

【写真説明】バンガロールのInfosysオフィスとHPオフィス

(出所)現地調査にて撮影