第 9 章 投資形態
1. 電力事情
(1) 電力
インド全体の発電設備容量は2013年9月末時点で228.7GWである。加えて、いわゆる 自家発電と呼ばれるキャプティブプラントがあり、その発電容量は約34.4GWである。
キャプティブプラント以外の電力会社(ユーティリティー)について、エネルギー源別 内訳をみると、火力発電が最大で156.0GWと全体の68.2%を占めている。なかでも石炭火
力発電が 134.4GW と最大であり、火力発電の 86.2%を占めている。次いで、水力発電が
39.8GW、水力を除く再生可能エネルギーが28.2GW、原子力が4.8GWとなっており、そ
れぞれのシェアは17.4%、12.3%、2.1%である(図表 21-1参照)。
地域別では、西部の発電量が78.8GWと最も多く、次いで北部が61.3GW、南部が56.8GW、
東部が28.9GWとなっている59。また、地域によって、異なる発電の特徴が見られる。東部
は石炭火力への依存度が最も高く全体の 84.2%を占める。他の地域と比較すると西部は石 炭及びディーゼルの火力発電容量が最も高く、北部は水力発電容量が最も大きく、南部は 風力発電などの再生可能エネルギーの発電容量が最も高い。
図表 21-1 インドの発電設備容量(2013 年9 月末時点)60
(出所)Central Electricity Authority, “Monthly Report”より作成
インド全体では、2007 年から 2012年まで電力インフラ整備が進んでおり、電力供給量 は増加傾向にある。一方、電力需要も近年、インドの急激な経済成長を背景に増加傾向に ある。需要と供給の差を示す電力不足率は近年下がってきており、2012 年度においては
2008年度比で2.4%ポイント減の8.7%となった(図表 21-2参照)。
ピーク時の電力需給状況をみると、2012年度においては、ピーク時の電力不足率は2007 年度比で7.6ポイント減の9.0%となっている(図表 21-3参照)。電力供給の伸長率が需要 の伸長率を上回っていることから、ピーク時の電力不足は改善される傾向が見られるもの
59 各地域の定義は第6章を参照。
60 自家発電(キャプティブプラント)を除いた数値である。
(単位:GW)
石炭 ガス ディーゼル 小計
北部 33.42 5.03 0.01 38.47 1.62 15.57 5.64 61.30
西部 51.04 8.99 0.02 60.05 1.84 7.47 9.40 78.76
南部 25.78 4.96 0.94 31.68 1.32 11.40 12.42 56.82
東部 24.08 0.19 0.02 24.29 0.00 4.11 0.46 28.86
北東部 0.06 1.21 0.14 1.41 0.00 1.24 0.25 2.91
島嶼 0.00 0.00 0.07 0.07 0.00 0.00 0.01 0.08
合計 134.39 20.38 1.20 155.97 4.78 39.79 28.18 228.72
火力 原子力 水力 再生可能
エネルギー 合計
133
の、平均的にみた電力不足2010年度から2012年度までの3年間においてほぼ横ばいであ り、未だに慢性的な電力不足が続いている。
図表 21-2 電力の需給状況と不足率
図表 21-3 ピーク時電力の需給状況と不足率
(出所)図表 21-2、図表 21-3ともにCentral Electricity Authority “Load Generation Balance Report”
より作成
さらに、州別に電力需給状況を見ると、パンジャブ州、ラジャスタン州、ウッタル州・
プラデシュ州、ウッタラーカンド州といった北部地域、カルナタカ州、ケララ州、タミル・
ナドゥ州、ビハール州の南部や北東部のアルナチャル州・プラデシュ州、アッサム州、ト リプラ州では電力が不足している。これらの州における2012年度の電力不足率は約10~
25%前後であり、ピーク時では電力不足率が30%を超える州もある。一方、西部のマハラ
シュトラ州以外では電力不足が4.5%以下であり、半分以上の州が電力超過となっている
(図表21-4、21-5参照)。
また、電力供給が電力需要を大きく上回っている州は北部のデリー州、ハリヤナ州、西
134
部のグジャラート州、マディヤ・プラデシュ州、南部のDVC 61、西ベンガル州、シッキム 州や東部のマニプール州、ミゾラム州である(図表21-4参照)。
図表21-5では、電力不足状態を正の値、超過状況を負の値で示している。タミル・ナド ゥ州では電力不足率及びピーク時電力不足率の予測値が、それぞれ 26.5%、34.1%と最も 高い。一方、電力超過率の予測値が最も高い州はシッキム州(▲65.8%)、ピーク電力超過 率の予測値が最も高い州はDVC(▲55.5%)である。
図表 21-4 各州の電力需給(2012年度)
61 DVC (Damodar Valley Corporation) - ダモーダル河谷の総合開発された地域 0
20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
チャンディガル デリー ハリヤナ ヒマチャル・プラデシュ ジャンム・カシミール パンジャブ ラジャスタン ウッタル・プラデシュ ウッタラーカンド チャッティスガル グジャラート マディヤ・プラデシュ マハラシュトラ ダマン・ディーウ ダドラ&ナガルハヴェリ ゴア アンドラ・プラデシュ カルナタカ ケララ タミル・ナドゥ プドゥチェリー ビハール DVC ジャルカンド オリッサ 西ベンガル シッキム アルナチャル・プラデシュ アッサム マニプル メガラヤ ミゾラム ナガランド トリプラ
(GWh)
需要 供給
135 図表 21-5 各州の電力不足率の予測値(2013年度)
(出所)図表 21-4、図表 21-5ともにCentral Electricity Authority ”Load Generation Balance Report”
より作成
電力発電量の国別ランキングによると、インドは世界第 6 位の発電規模がある62。一方 で、同国は電力事情を大幅に改善してきたとはいえ、電力不足は依然として深刻な問題と して残っている。年間の一人当たり電力消費量は約 673kWh/人と低水準であり63、特に地 方では人口の56%が電力へアクセスできずにいる (2010年) 。
電力不足の背景には、総発電量の不足のみならず、盗電や送配電ロス率の高さなども挙 げられる。近年、送配電ロス率は低下傾向にあると言われるが、2011年度のロス率はイン ド全発電設備容量の24%に達しており、世界平均値である10%と比べると極めて高水準に あることがわかる。また、電力料金では、政治的・社会的配慮から農民向けの電力料金が 無料となっている地域もあるため、電力の供給コストを回収できずに、州政府が一部補助 する場合もある(図表 21-6参照)。
62 「CIA - The World Factbook」、「Country Comparison - Electricity Production」(2013年9月)によれ ば、第1位:中国(494万GWh)、第2位:米国(412万GWh)、第3位:欧州連合(325万GWh)、第4位:
ロシア(106万GWh)、第5位:日本(93万GWh)、第6位:インド(88万GWh) 。
63 IEA「KEY WORLD ENERGY STATISTICS 2012」によれば、主要な途上国における年間一人当たり 電力消費量は、次のとおりである。マレーシア:4,231 kWh/人、中国:3,312 kWh/人、ブラジル:2,441 kWh/
人、メキシコ:2,285 kWh/人、タイ:2,217 kWh/人、コロンビア:1,126 kWh/人、ベトナム:1,073 kWh/
人、北朝鮮:745 kWh/人、インドネシア:684 kWh/人、フィリピン:649 kWh/人。
-80.0 -60.0 -40.0 -20.0 0.0 20.0 40.0
チャンディガル デリー ハリヤナ ヒマチャル・プラデシュ ジャンム・カシミール パンジャブ ラジャスタン ウッタル・プラデシュ ウッタラーカンド チャッティスガル グジャラート マディヤ・プラデシュ マハラシュトラ ダマン・ディーウ ダドラ&ナガルハヴェリ ゴア アンドラ・プラデシュ カルナタカ ケララ タミル・ナドゥ プドゥチェリー ビハール DVC ジャルカンド オリッサ 西ベンガル シッキム アルナチャル・プラデシュ アッサム マニプル メガラヤ ミゾラム ナガランド トリプラ
(%)
ピーク電力不足率 電力不足率
136 図表 21-6 電力供給コストとその回収状況64
(出所) Central Electricity Authority “Monthly Report”より作成
インド電力省は2005年に4,000MW級の超大型開発計画(UMPP:Ultra Mega Power
Projects)を策定しており、国内外からの注目が集まっている。当計画では 11件の発電施
設開発プロジェクトが計画されている。グジャラート州のムンドラではタタ・パワー、マ ディヤ・プラデシュ州ではササン、アンドラ・プラデシュ州のクリシュナパトナム及びジ ャールカンド州ではティライヤをリライアンス・パワーが、それぞれの開発案件を落札し ている。その後、1件が計画中止となり、新たに2 件の開発案件が追加された結果、2012 年6月時点で合計12 件の開発計画が予定されている。
インド既出の日系企業に対するヒアリングによると、毎日数回の瞬間停電は日常茶飯事 であり、電力事情の比較的良好なところであっても、バックアップを取っておくことが不 可欠となっている。自家発電を設ける企業もあるが、近年の燃料高は経営を圧迫する要因 となっている。また、供給電力の電圧が不安定なため、安定機を導入しているケースも少 なくないようだ。
64 1 ルピー=100 パイサ。農業セクターを含む。
0 50 100 150 200 250 300 350 400
2006/07 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11
(パイサ/kWh)
供給コスト コスト回収分
137 ひとくちメモ(21):インドの電力セクター改革
インドの電力セクターは、憲法によって中央政府と州政府が共同で管轄している。中央政府は主に複 数の州にまたがる発電・送電事業を管轄し、州政府は州内に供給する発電・送電及び配電事業をそれ ぞれ管轄している。各州は、発電から送配電までを一貫して担う垂直統合型の事業体として州電力局
(SEB:State Electricity Board)を設けていたが、SEB は農業保護政策や非合理的な電力料金体 系などで財政破綻に陥っていた。
1991 年以降の経済自由化の過程で電力セクター改革も着手されたが、発電部門への外国直接投
資を中心とする民間セクター(IPP:Independent Power Plant)の導入を柱とする改革は、電力売買 契約PPA(Power Purchase Agreement)の相手となるSEB の信用力の欠如(財務の劣悪さ)から 行き詰まった。このため、1996 年に中央政府は州レベルの改革のガイドラインを策定し、SEB の州 政府からの独立性確保及び組織・機構改革、規制委員会の設立による電力料金体系の合理化などの 方針を示した。現在の電力セクター改革は 2003 年新電力法に基づいて進められており、SEB 改革 では、発電と送配電事業の分離(アンバンドリング)や民営化が指向されている。
中央政府は格付け会社に委託して、各州の送配電公社についてパフォーマンス・レーティングを実 施している。2012 年 7 月に、インド電力省により送配電公社の統合評価フレームワークを使った客観 的な評価設計が示された。本フレームワークを使用することで、国家配電施設の財務状況を把握し、
将来の資金調達のニーズを特定することが目されている。そして、実際の調査はインドの電力金融公 社(PFC:Power Finance Corporation Ltd.)が行い、格付けは ICRA(Investment Information and Credit Rating Agency of India Limited)とCARE(Credit Analysis and Research Ltd)社に よって行われ、2013年3月に第一回総合評価結果が公開された(図表 21-7参照)。グジャラート州、
西ベンガル州、マハラシュトラ州などが上位にランクインしている65。
65 ICRA、CAREはともにインドローカルの格付け機関。