第 9 章 投資形態
2. 世界銀行によるビジネス環境評価 145
世界銀行が毎年行っているビジネス環境調査報告(Doing Business)において、インド のランキング(Ease of doing business)は前年報告書同様、185ヵ国中132位であった(図 表 22-4参照)。同調査報告は、各国のビジネス環境について、事業開始のしやすさ(Starting
a business)、許認可の得やすさ(Dealing with construction permits)、電力の得やすさ
(Getting electricity)、不動産登記の容易さ(Registering property)、資金調達の利便性
(Getting credit)、投資家保護の制度整備(Protecting investors)、納税負担の軽さ(Paying taxes)、貿易手続きの簡便さ(Trading across borders)、契約履行の確実性(Enforcing
contracts)、撤退・清算のしやすさ(Resolving insolvency)といった観点からスコアリン
グをし、ランキングするものである。これらは、外資系企業からみた経営環境の評価では ないが、インドは内外無差別を原則としていることから、外資系企業が直面する課題と見 做すことに問題はないと思われる。
図表 22-4 世界銀行ビジネス環境指標におけるインドのランキング
(出所)世界銀行 ”Doing Business 2012 及び2013” より作成 166
181
98 97
40 46
147
109
182
128 132
173
182
105 94
23
49
152
127
184
116
132
2012 2013
(Rank)
146
3. インド投資の魅力と留意点
(1) インド投資の魅力
インドの投資環境は、州政府の政策スタンスの違いも反映されるようになり、地域格差 が生じつつある。その詳細は後述の地域編で言及するが、インド全体の投資環境について 整理する。インドの魅力は総じて、以下の3点に集約される。
魅力①:巨大な消費市場・豊富な労働力 魅力②:政府主導のインフラへの積極投資 魅力③:基幹産業の成長、増加する対印直接投資
まず、「巨大な消費市場・豊富な労働力」であるが、12億人という世界2位の人口を有す るインドは人口増加率も高く、2020年には中国を上回り、世界一の人口となることが見込 まれている。そのうち、可処分所得別家計人口で見た場合、2015年には人口の約6割が世 帯年間可処分所得 5,000~35,000 ドルの中間層で占められると予測されている。これらか ら、まず巨大な消費市場としてのインドの魅力を感じることができる。
また、12億人の人口構成は綺麗なピラミッドとなっており、25歳以下が全人口の 54%
を占める若年層中心の人口構成となっている。そして、英語や技術系人材も豊富にいるこ とから労働力としての魅力もインドにはある。
次に、「政府主導のインフラへの積極投資」は裏を返せば、まだまだインフラが整ってい ないともいえるが、そのボトルネックの解消にインド政府はGDP の 7~8%をインフラ整 備に充てている。この投資自体に日系企業の商機もあるといえる。
最後に、「基幹産業の成長、増加する対印直接投資」であるが、直近、2011、2012 年度 のGDP成長率は落ち込んだものの、2005年~2007年度では3年連続で9%以上の高成長 率を遂げている。また、直接投資額も直近は落ち込んだものの、2011年度には対印直接投 資額は過去最高365億ドルとなり、日本からの直接投資額も2011年度は39.7億ドルと過 去最高を記録している。
これらインドの経済は、自動車、IT・通信といったいわゆる基幹産業を主に成長してき たが、今後はその他産業の成長も見込まれる。2012年2月に発表された第12次5ヶ年計 画では、上記基幹産業以外の産業の育成にも言及しており、具体的には、家電や産業用な どの電機、銀行や保険といった金融、医療機器や医薬品といった医療関連、太陽光発電や 省エネ技術などの環境技術において日系企業の進出機運が高まると予想される。また、日 系企業の進出増加に伴って、広告や物流、ホテル、貸しオフィスなどの日系サービス業の 進出も活発化している。
147 (2) 留意点
一方、インド投資に際して留意しなければならない点もある。
まずは、輸送インフラや電力といったインフラの不足が依然として解消されていないこ とがある。また、そもそも工業団地といってもインドの場合は、土地収用が完了している というだけであり、電力、上下水道は自前で用意しなければならないといったこともあり、
留意が必要である。
第二に、こうした問題に加えて、近年は、高成長の持続や投機的な不動産取引の活発化 などを背景に、地価や賃金が上昇していることがある。図表 22-5に、インド各都市とタイ・
バンコクと投資コストを比較しているが、ワーカー、エンジニア、中間管理職の賃金にお いて、自動車産業やIT・通信産業が盛んなバンガロールはバンコクを上回っている。一方、
地価について、工業団地では、同表のニューデリーに記載されたラジャスタン州ニムラナ は州政府が日系企業向けに補助金を支給しておりデリー首都圏でも破格の安さであるが、
チェンナイのマヒンドラ・ワールド・シティ工業団地の駐在員用住宅借上料はバンコクを 上回っているほか、事務所賃料では、ムンバイはバンコクを上回っており、デリー、バン ガロールはバンコクとあまり差がない。とりわけムンバイの高さは際立っており、いまや 日系企業の駐在員コスト世界 1 位とも言われている。日系企業からみて、インドは中東や アフリカ、欧州市場を展望するとき地政学的に重要な拠点といえるが、このようなコスト 高は価格競争力にマイナスの影響を与えており、輸送インフラの不足なども相まって、国 際戦略においてインドを輸出拠点と位置付けることに慎重にならざるを得ないであろう。
なお、土地については、正式な手続きを経て収用し工業用地に転換された後になって、所 有者であった農民が値上がり益を要求してくるようなケースが生じている。
第三に、労働市場の硬直性や税制運用の不透明さも引き続き重要な経営課題である。
第四に、州政府の独立性が強く、統治システムは複雑であることや、連立政権下で政策 の意思決定に時間がかかることといったことがある。世界最大の民主主義国家であるため、
民意反映の意思決定は極めて遅く、インドで「遅々として進む」と言われる所以はここに ある。
第五に、州ごとに異なる規制や税制があることに、物流・通信インフラの未整備も相ま って、必ずしも国内統一市場が形成されているとは限らないことがある。インドで国内市 場が分断されていることは、国内市場を目的に進出する場合に、とりわけマーケティング 戦略が重要になることを示唆している。
そして最後に日本人にとって生活面でのハードシップの高いことがある。在留邦人数は、
デリー首都圏を中心に拡大しているものの、インド全土でも5,554人程度69にすぎず、日本 食レストランや日本食の食材、カラオケといった娯楽、日本人を対象とするビジネスが未 だ市場として成立する規模にないといったこともあり、電力、水といった生活インフラの 不足と相まって、日常生活の困難も小さくない。
69 外務省「海外在留邦人数調査統計平成24年速報版」の値。
148 図表 22-5 投資コストの国際比較70
(出所)JETRO「主要都市投資コスト比較(2013年1月時点)」より作成
ひとくちメモ(23):O.K.Y
新興国の事業展開には予想外の困難があり、その事情について日本本社の理解をなかなか得るこ とができないのはよくあることだ。それにしてもインドはその度合いも大きく、当局の対応や商習慣、労 務問題、生活環境などハードシップは高い。例えば、進出に際しては、州政府が投資誘致に積極的で 優遇措置を用意しているといっても、環境基準など中央政府が管轄する問題ではその管轄官庁の方 針が厳然とあり、進出にかかわる全ての手続きをクリアするのは謳い文句ほど簡単にはいかないとい った声もある。また、進出後では、仕事をルーティーン化してみても、なかなかうまくまわるようにならな いといったことや、賃上げ要求の姿勢はきわめて強硬といったこともあるようだ。仕事を離れても、カラ オケなどの気晴らしができるわけでもなく、熱いお湯のシャワーを浴びることもできないこともある。
日々そのような環境と格闘している現地駐在員の間では、「O.K.Y.=オマエ、ココニキテ、ヤッテミロ」と いうのが、合言葉だそうだ。
70 賃金等の単位で明記していないものは全てドル。
タイ
チェンナイ ニューデリー バンガロール ムンバイ アーメダバード バンコク
ワーカー
(一般工職) 324 276 398 188
非熟練工:91~127 準熟練:109~182 熟練工:273~455
345 エンジニア
(中堅技術者) 611 641 927 546 大卒:909/院卒:1,273自動車産業 698
中間管理職(課長
クラス) 1,236 1,395 1,738 1,289 1,819~2,183自動車産業 1,574
スタッフ
(一般職) 418 562 518 775 146~218 664
マネージャー(課
長クラス) 1,074 1,442 1,382 2,039 1,819~2,183病院関連 1,602
店舗スタッフ(アパ
レル) 104 182~273 109 273~546 146~273 283
店舗スタッフ(飲
食) n.a. 127~164 n.a. 218~364 146~273 242
109
非熟練工:128 準熟練工:141 熟練工:155
非熟練工:78 準熟練工:84 熟練工:86
非熟練工:110 準熟練工:119 熟練工:128
非熟練工:77 準熟練工:78 熟練工:81
9.85(日額)
基本給与の1.06カ月分 基本給与の1.21カ月分 基本給与の1.26カ月分 基本給与の1.59カ月分 工場ワーカー1.0ヵ月分基本給与の3.06カ月 分 雇用者負担率:5%
被雇用者負担率:
5%
2009年:11.0%
2010年:9.6%
2011年:11.1%
2009年:11.0%
2010年:12.4%
2011年:13.5%
2009年:▲2.45%
2010年:6.53%
2011年:7.18%
オラガダム:27/㎡
マヒンドラ・ワールド・シティ:
157/㎡
ニムラナ:55/㎡
パワル:91/㎡
ナルサブル:38/㎡
ヴェームガル:38/㎡
ヴァサンタナラサプラ:27/㎡
チャカン:60/㎡
ケースルディ:52/㎡
サナンド:59/㎡
ナロダ:68/㎡ 144/㎡
n.a. マネサール:3.93/㎡
グルガオン近郊:3.91/㎡
ボマサンドラ:4.89/㎡
エレクトロニックシティ:5.29/㎡
ドッダバラブル:2.93/㎡
n.a. n.a. 6.90~7.22/㎡
12/㎡ 29.4/㎡ 20/㎡ 44/㎡ 7.24/㎡ 21/㎡
21/㎡ 11.7/㎡
M.G.ロード:47/㎡
ブリゲート・ロード:64/㎡
インディラナガ:39/㎡
67/㎡ 26/㎡
市内中心部:33-99/
㎡ 市内シーロム通:82-99/㎡
2,910~5,093 2,274 1,546~2,000 3,001 485 サービスアパート:1,806
アパート:2,791 2009年:11%
2010年:13.3%
2011年:16.3%
市内中心部店舗スペース/
ショールーム賃料(月額)
インド
雇用者負担率:18.35%
被雇用者負担率:13.75%
比較項目
製造業
(月額)
非製造業
(月額)
法定最低賃金(月額)
賞与支給額(固定賞与+変動 賞与)
社会保険負担率
名目賃金上昇率
工業団地(土地)購入価格
工業団地借料(月額)
事務所賃料(月額)
賃金
地価・事 務所賃料 等
駐在員用住宅借上料(月額)