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71.四物湯 (しもつとう)

ドキュメント内 Q.c i.p.ai (ページ 148-152)

 出典 『和剤局方』

   

栄衛を調益し、気血を滋養す。衝任虚損、月水ととのわず、臍腹䉘痛、

崩中漏下、血瘕塊硬、発歇疼痛、妊娠宿冷、将に理宜を失し、胎動して安 からず、血下りて止まず、及び産後虚に乗じて、風寒内にたたかい、悪露 下らず、結して瘕聚を生じ、少腹堅痛し、時に寒熱を作すを治す。(婦人 諸疾門)

 腹候

   

腹力は中等度前後(2‑4/5)。臍上悸、また は臍下悸を認めることがある(腹候図)。

 気血水

    血が主体の気血水。

 六病位

    太陰病。

 脈・舌

   

虚脈であるが定まった脈状はない。舌質は 淡白。

 口訣

   

血道を滑らかにするの手段なり。それ故血虚は勿論、瘀血血塊の類、臍 腹に滞積して種々の害をなすものに用うれば、たとえば戸障子の開闔(か いこう)にきしむ者に上下の溝へ油を塗るごとく活血して通利を付けるな り。(浅田宗伯)

いわゆる肝虚とは腎気もまた虚するなり。水分の悸(臍上悸)があれば、

肝虚の証として疑いなし。地黄を含む本方の目標である。(和田東郭)

 本剤が適応となる病名・病態

    a  保険適応病名・病態

効能または効果

皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症:産後あ るいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症。

b  漢方的適応病態:血虚。すなわち、顔色が悪くつやがない、皮膚がカ サカサして潤いがない、爪の色が悪くもろい、目がかすむ、目が疲れる、

目の乾燥感、頭がボーッとする、ふらつく、動悸、四肢のしびれ感、筋肉 がびくびく引きつる、筋肉の痙攣がよく起きるなどの症候で、女性では月 経周期の延長、月経量が少ない、無月経などがみられる。

 構成生薬

   

地黄3、芍薬3、川芎3、当帰3。(単位g)

腹候=腹力は中等度前後

(2‑4/5)。 臍 上 悸、 ま た は臍下悸を認めることが ある。

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

    補血活血・調経。

 効果増強の工夫

   

本方は基本処方として血虚を伴うさまざまな病態に適応される。四物湯を 含む薬方は実に多い。

 本方で先人は何を治療したか?

   

矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より

月経異常・不妊症・血の道症・産前産後諸病(産後の脚弱・産後の舌爛れ・

産後血脚気)・皮膚病(乾燥性)・痿癖(下肢運動麻痺)・カリエスなど。

龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より

貧血、月経不順、腹痛、子宮出血、腹塊、不安、産後悪露下らず、下腹堅 痛、ときに寒熱をなすものなど。

桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より

虚弱体質者で、湿証でないものの月経不順、産前産後の異常、血の道症、

指掌角皮症。

ヒ ン ト

 四物湯が、婦人患者の心身ともに改善したという矢数道明氏の経験例を紹 介する。

 「三四歳の韓国婦人。四年前二度目のお産後からこの病状が起こった。とに かくつらくてつらくて、なんともお話のしようがない。呼吸が苦しくて息を 吸う力がない。動悸がしていまにも心臓が止まりそうである。肩は破れるよ うに凝って、腰は痛むし、子宮が下がってくるし、冷汗が流れてきて、足は 氷のように冷たく、いまにも消えてなくなりそうに全身がだるくなって起き ておれず、グッタリ倒れるように横になる。顔色が一日七度も変わり、七面 鳥のようだと人からいわれる。黒くなったり、赤くなったり、蒼白になったり、

桜色になったりする。

 だるくなると箸を持つのもいやになり、憂鬱でなんとも申しようがない。

ときどき足の裏に火がついたかと思われるようにほてってくる。四年間、家 事一切は他人まかせで、一流大病院数カ所を次々と訪れて、際限もなく以上 のような訴えを繰り返してきた。

 栄養は普通。このときの顔色は真赤であった。脈は沈んで微弱、舌白苔、

月経はきわめて少ない。腹は軟弱で綿のようである。臍傍に動悸と圧痛がある。

 私はこの腹証により、 四物湯に脚気加減をして与えた。この方は瘀血を去り、

血熱をさまし、婦人血の道の神経症状をよく鎮静させる能がある。本方服用 により俄然好転し、二カ月後には家事一切を自ら行なうようになった。(『臨 床応用漢方処方解説』)」

 ちなみに四物湯脚気加減は、四物湯加木瓜 g、蒼朮 g、薏苡仁 gの内 容である。

72.甘麦大棗湯

(かんばくたいそうとう)

 出典 『金匱要略』

   

婦人の蔵躁、しばしば悲傷して哭せんと欲し、象心霊の所作のごとく、

しばしば欠伸する証。(婦人雑病篇)

 腹候

   

腹力中等度前後(2‑4/5)だが、腹力に関わ らず用いられる。ときに腹直筋の緊張を認 めることがある(腹候図)。

 気血水

    気が主体の気血水。

 六病位

    少陽病。

 脈・舌

    舌質は淡白、脈細。

 口訣

   

小児啼泣止まざる者に用いて速効あり。(浅田宗伯)

(虚弱な小児や婦人)神経過敏で厭世的傾向があったり、他愛なく喜んだ りするもの。(『現代漢方治療の指針』)

 本剤が適応となる病名・病態

    a  保険適応病名・病態

効能または効果 夜泣き、ひきつけ。

b  漢方的適応病態

臓躁。すなわち、不安感、悲哀感、驚きやすい、寝つきが悪い、眠りが浅 い、頭がボーッとするなどの心血虚の症候に、食が細い、あくびがよく出 るなどの脾虚の症候を伴うもの。甚だしければけいれん、意識喪失を来す。

 構成生薬

   

大棗6、甘草5、小麦20。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

    心安神・健脾緩中。

 効果増強の工夫

   

安神薬の配合をある解説書では勧めている。著者は未験だが酸棗仁湯など より深い理解のために 臓躁とは、ヒステリー様の症候をいうが、心血虚と 脾虚の軽度のものと考えられ、軽い栄養不良に伴う脳の抑制過程と興奮過程 の失調状態と推察する。

より深い理解のために 臓躁とは、ヒステリー様の症候をいうが、心血虚と 脾虚の軽度のものと考えられ、軽い栄養不良に伴う脳の抑制過程と興奮過程 の失調状態と推察する。

腹 候 = 腹 力 中 等 度 前 後

(2‑4/5)だが、腹力に関 わらず用いられる。とき に腹直筋の緊張を認める ことがある。

の兼用は期待できるかもしれない。

 本方で先人は何を治療したか?

   

龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より

1 ) ヒステリー・泣き中風・笑止まざるもの・夢遊病・小舞踏病・チック病・

てんかん・憂鬱病・狂躁病等で、不随意運動、無意識夢中の運動、欠 伸などし、或は泣き悲しみ、或は笑うなどの精神症状があるもの。

2 )小児の夜啼きで、泣くが如く長啼きをするもの。

3 ) 胃アトニー・内臓無力、或は下垂・飢餓感が強いもの等で、疲れやす く欠伸の出るもの。

ヒ ン ト

 このようにほとんど日常の食材からなるような方剤がどうしてこのような 効果を発揮するのだろう。わが師匠、藤平健先生の興味深い治験例を著書『漢 方臨床ノート・治験篇』から要約して紹介しよう。

ヒステリー

 25歳の女性があるとき藤平医院を初診した。多彩な症状があったが、当初、

理由もなく悲しむという愁訴を目標に、甘麦大棗湯を投与した。多少うつの 傾向があるとみたのである。これである程度よくなり、薬を飲んだり止めた りしながら一年ほど経過したのであるが、あるとき、肩が非常に凝る、気分 も沈むし、寒くて仕方がない、と訴えてきた。

 そこで、今回は灸をやってみようと思い立った。背中の両方の脾兪にハリ をして、その上にもぐさを置き、火を付ける。

 「すぐあたたかくなって気分がよくなりますよ。少し動悸がするかもしれな いけれど、心配ないですからね」と、いって、私は次の患者の診察に移ったの であるが、しばらくすると、「先生、気持が悪い」という。顔色が青ざめ、脈 を診ると、だんだん小さくなっていく様子。あわてて 人ほど従業員を呼び、

みんなで背中をなでたり、手足をマッサージしたりし、息が苦しそうなので 六神丸を服用させた。

(中略)みんなでけんめいにマッサージしているというのに、本人は「なんだか 私は今日、お姫様になったみたい」などといっている。約30分でいくらか安静 になったので、カーテンを閉めてそのまま寝かせておいた。

 ところが、しばらくして行ってみると、姿が見えない。従業員に聞くと、「ト イレに行きました」との答えである。トイレに行けるくらいなら、とホッと安 心したのだが、このときはじめて、ヒステリーの発作だったのではないかと 気がついた。別室の電話で、家の人に問い合わせてみると、しょっちゅうこ のような発作を起こしているという。「動悸がするかもしれない」といった私 の言葉が暗示となって、発作を誘発してしまったようである。

 患者に「咽に何かひっかかったような感じがありますか」と聞くと、あると いう。そこでAを半夏厚朴湯エキス g、Bを甘麦大棗湯エキス gとして、

Aを朝、Bを夕飲むように指示した。

 その後の経過は順調で、約半年の服薬で発作が起こらなくなり、多彩な愁 訴も消失した。

ドキュメント内 Q.c i.p.ai (ページ 148-152)