出典 『金匱要略』
膈間の支飲にして、喘満し、心下痞堅、面色黧黒、その脈沈緊なる証。(痰 飲䈙嗽病篇)
腹候
腹力は中等度以上(4‑5/5)。心下痞堅を認 める(腹候図)。
気血水
水が主体の気血水。『金匱要略』、痰飲咳嗽病脈証并治第十二
(1)問曰:夫飲有四、何謂也? 師曰:有 痰飲、有懸飲、有溢飲、有支飲。
(2)問曰:四飲何以為異? 師曰:其人素 盛今痩、水走腸間、瀝瀝有声、謂之痰飲;
飲後水流在脇下、咳唾引痛、謂之懸飲;飲水流行、帰於四肢、当汗出而不 汗出、身体、疼重、謂之溢飲;咳逆倚息、短気不得臥、其形如腫、謂之支 飲。
六病位
少陽病。脈・舌
脈は沈緊。舌苔は黄。
口訣
膈間支飲ありて、䈙逆倚息、短気臥すことを得ずその形腫るるが如き者 を治す。膈間の水気、石膏にあらざれば墜下すること能はず。(浅田宗伯)
按ずるに、まさに煩渇の証あるべし。(吉益東洞)
本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態効能または効果
顔色がさえず、咳をともなう呼吸困難があり、心臓下部に緊張重圧感があ るものの、心臓、あるいは、腎臓にもとづく疾患、浮腫、心臓性喘息。
b 漢方的適応病態
支飲(胸部の痰飲)。すなわち、呼吸困難、呼吸促進、浮腫、身体が重だる い、尿量減少などで、咳嗽、喀痰を伴うことがあり、甚だしければ起坐呼 吸、チアノーゼを呈する。口渇、いらいら、発熱などの熱証を伴う。舌苔 は黄、脈は沈緊。
腹候=腹力は中等度以上
(4‑5/5)。心下痞堅を認 める。
構成生薬
石膏10、防已4、桂皮3、人参3。(単位g)
TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説
利水滲湿・益気・清熱(利水して体内の湿をさばき、気を益して、熱を冷 ます)。
効果増強の工夫
利尿効果を高めるために五苓散を合方するのは理に適っている。また不整 脈の自覚症状を減少させられる可能性がある。五苓散は甘草を含有しない 製剤であるので、カリウムを変動させる可能性は少ないと思われる。
処方例) ツムラ木防已湯 5.0g㾹 ツムラ五苓散 5.0g㾸分 食前
利尿効果という視点から強心作用をもつ附子を配合することもある。この 場合に少量から増量するのが安全である。
処方例) ツムラ木防已湯 7.5g㾹
ブシ末(調剤用)「ツムラ」 0.5g㾸混合し分 食前
本方で先人は何を治療したか?
龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より
1 )腎炎・ネフローゼ・妊娠腎・心臓弁膜症・心筋変性・心臓不全・心臓 喘息・動脈硬化症・脚気等に於て呼吸困難、咳、動悸、浮腫、小便不利、
心下堅満、腹満、口渇、顔色黒ずみ、脈沈緊等の症状があるもの。
2 )アジソン氏病、黒皮症。
ヒ ン ト
木防已湯は心循環器系の薬剤と受け止められているためか用いられる機会 の少ない漢方製剤であるが、自覚症状の強い動悸や不整脈には著効を奏する ことがあり、循環器専門医による臨床応用が望まれている製剤の つである。
心不全に適応するというイメージが邪魔して多様な臨床応用を妨げていると いう印象がある。本来は腎性浮腫などにも適応を有しているし、さらに呼吸 苦を伴う慢性呼吸器疾患などにも応用が可能なはずである。
著者も交連切開術後に、整脈にもかかわらず頑固な動悸を訴える患者に本 方が切れ味よく奏効した一例を経験している。
37.半夏白朮天麻湯
(はんげびゃくじゅつてんまとう)出典 李東垣著『脾胃論』
眼黒の頭旋悪心煩悶、気短促上喘息、力なくして言ふを欲せず、心神顛 倒、兀兀(ゆらゆら動いて安定しない様)やまず、目あえて開かず、風雲の 中にあるがごとく、頭苦痛して裂くがごとく、身重くして山のごとし。四 肢厥冷して安臥する事を得ず。(『脾胃論』)
腹候
腹力は中等度よりやや軟(2‑3/5)。胃内停 水を認めることがある(腹候図)。
気血水
気水が主体の気血水。
六病位
少陽病。脈・舌
脈は滑。舌質は淡白、舌苔は白膩。
口訣
水毒と頭痛が目的である。嘔吐が激しいものは呉茱萸湯がよい。(浅田 宗伯)
本方は脾気虚に伴うめまいに対する代表処方である。(『中医処方解説』)
本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態効能または効果
胃腸虚弱で下肢が冷え、めまい、頭痛などがある者。
b 漢方的適応病態
脾気虚の痰濁上擾。すなわち、頭がふらつく、頭が重くはる、目がくらむ、
甚だしければ回転性のめまい発作で立っていられない、悪心、嘔吐などの 痰濁上擾の症候に、食欲不振、元気がない、疲れやすい、胸腹部が脹って 苦しい、泥状〜水様便などの脾気虚の症候を伴う。舌質は淡白、舌苔は白 膩。脈は滑。
構成生薬
陳皮3、半夏3、白朮3、茯苓3、黄耆1.5、沢瀉1.5、人参1.5、黄柏1、生姜0.5、
天麻2、麦芽2、乾姜1。(単位g)
より深い理解のために 上擾とは、ノボリ乱すこと。また、痰飲のうちで身 体上部の失調症状を呈するものを、特に痰濁というようである。
より深い理解のために 上擾とは、ノボリ乱すこと。また、痰飲のうちで身 体上部の失調症状を呈するものを、特に痰濁というようである。
腹候=腹力は中等度より や や 軟(2‑3/5)。 胃 内 停 水を認めることがある。
TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説
化痰熄風・補気健脾・利水消食。効果増強の工夫
痰飲が上衝して起こすめまいや頭痛であれば、五苓散などが併用される。
処方例) ツムラ半夏白朮天麻湯 5.0g㾹 ツムラ五苓散 5.0g㾸分 食前
本方は血に対処する内容が乏しいところから、要すれば当帰芍薬散を合方 する。
処方例) ツムラ半夏白朮天麻湯 5.0g㾹 ツムラ当帰芍薬散 5.0g㾸分 食前
本方で先人は何を治療したか?
矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
眩暈・頭痛・食後疲れて眠くなる者・常習性頭痛・常習性のめまい・低血 圧者の頭痛とめまい・メニエール病・胃腸虚弱者の高血圧で頭痛めまいす る者・胃アトニー・胃下垂症・上顎洞化膿症など。
龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より
虚証、冷性の劇しい頭痛、眩暈、悪心、煩悶。目を開くことが出来ず、身 重く四肢冷え安臥することを得ぬもの。胃腸虚弱者、また低血圧症の頭痛、
眩暈。
桑木崇秀著新版『漢方診療ハンドブック』より
顔色の悪い胃弱者で、腹部に振水音を触れるような人の頭痛・めまいに適 する。
より深い理解のために 熄(息)風、内風を平熄する方法。内風の症状として、
眩暈、震顫、発熱、抽搐(ひきつけ)、小児の驚風、癲癇などがある。
より深い理解のために 熄(息)風、内風を平熄する方法。内風の症状として、
眩暈、震顫、発熱、抽搐(ひきつけ)、小児の驚風、癲癇などがある。
ヒ ン ト
本方の働きは胃内の水分が上衝してめまい、頭痛がするのを治療すること である。このように水が失調すると病的な精神が醸されるようである。本方 がパニック障害の一部に有効である理由かもしれない。