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(1)

活用自在の処方解説

医療法人社団伝統医学研究会

あきば伝統医学クリニック院長

秋葉 哲生

(2)

目 次

序によせて・・・・・・・・・・・・・・ 5

本書の構成について・・・・・・ 9

.葛根湯 ・・・・・・・・・・・・ 14

.葛根湯加川芎辛夷 ・・ 16

.乙字湯 ・・・・・・・・・・・・ 18

.安中散 ・・・・・・・・・・・・ 20

.十味敗毒湯 ・・・・・・・・ 22

.八味地黄丸 ・・・・・・・・ 24

.大柴胡湯 ・・・・・・・・・・ 26

.小柴胡湯 ・・・・・・・・・・ 28

10.柴胡桂枝湯 ・・・・・・・・ 32

11.柴胡桂枝乾姜湯 ・・・・ 34

12.柴胡加竜骨牡蛎湯 ・・ 36

14.半夏瀉心湯 ・・・・・・・・ 38

15.黄連解毒湯 ・・・・・・・・ 40

16.半夏厚朴湯 ・・・・・・・・ 42

17.五苓散 ・・・・・・・・・・・・ 44

18.桂枝加朮附湯 ・・・・・・ 46

19.小青竜湯 ・・・・・・・・・・ 48

20.防已黄耆湯 ・・・・・・・・ 50

21.小半夏加茯苓湯 ・・・・ 52

22.消風散 ・・・・・・・・・・・・ 54

23.当帰芍薬散 ・・・・・・・・ 56

24.加味逍遙散 ・・・・・・・・ 60

25.桂枝茯苓丸 ・・・・・・・・ 62

26.桂枝加竜骨牡蛎湯 ・・ 64

27.麻黄湯 ・・・・・・・・・・・・ 66

28.越婢加朮湯 ・・・・・・・・ 68

29.麦門冬湯 ・・・・・・・・・・ 70

30.真武湯 ・・・・・・・・・・・・ 72

31.呉茱萸湯 ・・・・・・・・・・ 74

32.人参湯 ・・・・・・・・・・・・ 76

33.大黄牡丹皮湯 ・・・・・・ 78

34.白虎加人参湯 ・・・・・・ 80

35.四逆散 ・・・・・・・・・・・・ 82

36.木防已湯 ・・・・・・・・・・ 84

37.半夏白朮天麻湯 ・・・・ 86

38.当帰四逆加呉茱萸生姜湯

    ・・・・・・・・・・・・・・・・ 88

39.苓桂朮甘湯 ・・・・・・・・ 90

40.猪苓湯 ・・・・・・・・・・・・ 92

41.補中益気湯 ・・・・・・・・ 94

43.六君子湯 ・・・・・・・・・・ 96

45.桂枝湯 ・・・・・・・・・・・・ 98

46.七物降下湯 ・・・・・・・・ 100

47.釣藤散 ・・・・・・・・・・・・ 102

48.十全大補湯 ・・・・・・・・ 104

50.荊芥連翹湯 ・・・・・・・・ 106

51.潤腸湯 ・・・・・・・・・・・・ 108

52.薏苡仁湯 ・・・・・・・・・・ 110

53.疎経活血湯 ・・・・・・・・ 112

54.抑肝散 ・・・・・・・・・・・・ 114

55.麻杏甘石湯 ・・・・・・・・ 116

56.五淋散 ・・・・・・・・・・・・ 118

57.温清飲 ・・・・・・・・・・・・ 120

58.清上防風湯 ・・・・・・・・ 122

59.治頭瘡一方 ・・・・・・・・ 124

60.桂枝加芍薬湯 ・・・・・・ 126

61.桃核承気湯 ・・・・・・・・ 128

62.防風通聖散 ・・・・・・・・ 130

63.五積散 ・・・・・・・・・・・・ 132

64.炙甘草湯 ・・・・・・・・・・ 134

65.帰脾湯 ・・・・・・・・・・・・ 136

66.参蘇飲 ・・・・・・・・・・・・ 138

67.女神散 ・・・・・・・・・・・・ 140

68.芍薬甘草湯 ・・・・・・・・ 142

69.茯苓飲 ・・・・・・・・・・・・ 144

70.香蘇散 ・・・・・・・・・・・・ 146

71.四物湯 ・・・・・・・・・・・・ 148

72.甘麦大棗湯 ・・・・・・・・ 150

73.柴陥湯 ・・・・・・・・・・・・ 152

74.調胃承気湯 ・・・・・・・・ 154

(3)

75.四君子湯 ・・・・・・・・・・ 156

76.竜胆瀉肝湯 ・・・・・・・・ 158

77.芎帰膠艾湯 ・・・・・・・・ 160

78.麻杏薏甘湯 ・・・・・・・・ 162

79.平胃散 ・・・・・・・・・・・・ 164

80.柴胡清肝湯 ・・・・・・・・ 166

81.二陳湯 ・・・・・・・・・・・・ 168

82.桂枝人参湯 ・・・・・・・・ 170

83.抑肝散加陳皮半夏 ・・ 172

84.大黄甘草湯 ・・・・・・・・ 174

85.神秘湯 ・・・・・・・・・・・・ 176

86.当帰飲子 ・・・・・・・・・・ 178

87.六味丸 ・・・・・・・・・・・・ 180

88.二朮湯 ・・・・・・・・・・・・ 182

89.治打撲一方 ・・・・・・・・ 184

90.清肺湯 ・・・・・・・・・・・・ 186

91.竹筎温胆湯 ・・・・・・・・ 188

92.滋陰至宝湯 ・・・・・・・・ 190

93.滋陰降火湯 ・・・・・・・・ 192

95.五虎湯 ・・・・・・・・・・・・ 194

96.柴朴湯 ・・・・・・・・・・・・ 196

97.大防風湯 ・・・・・・・・・・ 198

98.黄耆建中湯 ・・・・・・・・ 200

99.小建中湯 ・・・・・・・・・・ 202

100.大建中湯 ・・・・・・・・・・ 204

101.升麻葛根湯 ・・・・・・・・ 206

102.当帰湯 ・・・・・・・・・・・・ 208

103.酸棗仁湯 ・・・・・・・・・・ 210

104.辛夷清肺湯 ・・・・・・・・ 212

105.通導散 ・・・・・・・・・・・・ 214

106.温経湯 ・・・・・・・・・・・・ 216

107.牛車腎気丸 ・・・・・・・・ 218

108.人参養栄湯 ・・・・・・・・ 220

109.小柴胡湯加桔梗石膏

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 222

111.清心蓮子飲 ・・・・・・・ 226

112.猪苓湯合四物湯 ・・・ 228

113.三黄瀉心湯 ・・・・・・・ 230

114.柴苓湯 ・・・・・・・・・・・ 232

115.胃苓湯 ・・・・・・・・・・・ 234

116.茯苓飲合半夏厚朴湯

    ・・・・・・・・・・・・・・・・ 236

117.茵䋄五苓散 ・・・・・・・ 238

118.苓姜朮甘湯 ・・・・・・・ 240

119.苓甘姜味辛夏仁湯

    ・・・・・・・・・・・・・・・・ 242

120.黄連湯 ・・・・・・・・・・・ 244

121.三物黄䊫湯 ・・・・・・・ 246

122.排膿散及湯 ・・・・・・・ 248

123.当帰建中湯 ・・・・・・・ 250

124.川芎茶調散 ・・・・・・・ 252

125.桂枝茯苓丸加薏苡仁

    ・・・・・・・・・・・・・・・・ 254

126.麻子仁丸 ・・・・・・・・・ 256

127.麻黄附子細辛湯 ・・・ 258

128.啓脾湯 ・・・・・・・・・・・ 260

133.大承気湯 ・・・・・・・・・ 262

134.桂枝加芍薬大黄湯

    ・・・・・・・・・・・・・・・・ 264

135.茵䋄蒿湯 ・・・・・・・・・ 266

136.清暑益気湯 ・・・・・・・ 268

137.加味帰脾湯 ・・・・・・・ 270

138.桔梗湯 ・・・・・・・・・・・ 272

生薬の薬味・薬性(薬能)

 一覧(本草的薬能)・・・・・・ 274

あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・ 283

方剤名索引・・・・・・・・・・・・・・ 284

出典索引・・・・・・・・・・・・・・・・ 289

症状・病名索引・・・・・・・・・・ 291

(4)
(5)

序によせて

はじめに

 現代日本の漢方医学の始まりは、1976年に漢方エキス製剤がそれま でに比して大幅に薬価基準に収載され、保険診療に供された時である。 今21世紀に入って漢方医学は新たな発展の時を迎えようとしている。  漢方医学は明治初めの医制の制定以来、わが国の公式な医学制度か ら除外されていて、それは今日に至るまで基本的に変化はない。しか し、1960年代から先進諸国で始まった伝統医学を見直そうとする機運 は徐々に顕在化し、世界的にみては相補代替医療の評価と伝統医学の 活性化につながった。前世紀の末になると、米国ではそれらが医学教 育に組み入れられるに至った。20世紀の後半に起こった漢方医学をめ ぐるわが国の諸制度の変更の経過も、世界的な動向と軌を一にするも のであった。2001年になり、わが国の医学および薬学教育に和漢薬の 知識の習得が追加されたことは記憶に新しいことである。  著者はちょうどエキス製剤の大幅収載の時期に医家となり、約30年 の間それらを治療薬として用いてきた。21世紀の最初の10年が過ぎよ うとする今日、わが国の漢方診療は質的な変化を余儀なくされている。

これまでと今

 ある時期までは漢方診療が可能な診療施設があまりに少なく、患者 はどこにいけば漢方治療を受けることができるかということを知るだ けでも大変な努力を要した時代があった。これは漢方治療を学びたい とする医師や薬剤師にとっても同じであり、一種の知的寡占状態、言 い換えれば家元制度的状態が常態であったのである。  伝統医学であるから、日本のなかですら、歴史的に異なる複数の考 え方があるのは当然であるが、それら相互の学術交流はあまりなされ ず、異なる局面のみが強調される時代が続いた。治療医学としての有 用性を競うならばまだしも、相違を強調することが目的化していたの で、他流を学ぶことなどは不純として退けられた。  個人的な印象をいえば、このような状況が変化したと感じられたの は、2004あるいは2005年ごろからである。特別にきっかけとなったも のは思い当たらないので、長く水面下の動きであったものがある日閾 値に達して意識され始めたということかもしれない。そこにあるのは、

(6)

受療行動の変化

 状況を動かしたものとして つの要素が考えられる。 つは漢方治 療の普及の結果、質を問わなければ多くの医療施設で漢方治療が受け られるようになったことである。個人的信頼感の有無を超えて、ほか にも漢方治療施設があると認識した患者は転院をためらわなくなった。  さらに、担当医師にその治療法の説明を納得するまで求めるという 患者の受療行動が漢方治療の状況を変えた可能性がある。この理由の 方が本質的かもしれない。  今は世にない漢方の大家の診療に陪席したことのある方は、伝統的 な漢方治療のスタイルをご存知だろう。暗黙の了解として診療は進行 し、処方された漢方薬がなぜ必要なのかについての説明は、通常西洋 医学的に簡略になされるか、あるいはそれすら省かれる。患者はその 処方をありがたく押し抱くのみである。処方の決定がすなわち漢方診 断であるという建前だから、せいぜい処方薬名を伝えることくらいし かされない。多くの場合は、それすら省略される。もっとも最近の医 療用漢方製剤には方剤名が印刷してあり、同時に印刷された薬剤情報 も手渡されるので患者には薬剤名は知られるわけである。  しかし、漢方の考え方やそれに基づく治療薬の解説されるのを期待 した今日の患者の多くは、薬剤名以外に知りたいことが少しも得られ ずに途方に暮れるのである。  つまり、伝統的正統的な漢方治療の診療スタイルをとる多くの医師 が、患者の不満そうな顔つきを察知しては日夜悩んでいる現状がある。 医師・患者とも、現状の漢方治療には多くの不満が蓄積している。  冒頭に「漢方診療の質的な変化」と申し上げたのはこのことである。 それでは、このような閉塞を打開するにはどうしたらよいのだろうか。

現状変革のために

 前段に述べたように、漢方界では自国の伝統医学の方法論に従順に 従うという、一種の判断停止状態が長らく続いてきた。  著者らの研究に待つまでもなく、わが国の漢方医学の方法論は歴史 の必然と偶然とが混在して形成されたものである。必ずしもそれ自体 まとまりがよいわけではない。  事態打開の第一段階として、これまでの方法論に少し改良を加える ことから始めたらよいのではないかと考える。そのような具体例の つに、著者が1996年に提案した「統合的漢方医学理論(診断系)の提唱」 (漢方の臨床 43(9):64-70,1996)がある。

(7)

東アジアの伝統医学として

 わが国の漢方医学は、大陸中国はもとより、韓国、台湾など、古代 中国医学に始まる東アジア伝統医学の つの流れである。古代中国医 学には、湯液、鍼灸、推拿があり、各国でそれぞれ治療学として特色 ある発展を遂げている。  わが国は明治の医制の改革によって、残念なことに伝統医学の継承 に一頓挫を来し、明治維新前の高い到達点は今では忘れられてしまっ た。すでに追試すべき資料さえも一部を残して散逸してしまっている。  しかし、それらの諸国の後塵を拝しているだけかというとそうでは ない。われわれには西洋医学の水準における評価基準と、それに照ら して客観的な有効性を示すことができるエキス製剤がある。これは先 に述べた東アジア諸国に若干先んじているといえよう。  日本の漢方人が、東アジアのみならず世界に伍して優位性を主張で きるのはまさにこの領域である。手元に四半世紀以上前から存在する 優秀なエキス製剤の縦横な活用法の創出こそが、日本の漢方家の使命 であるといっても過言でない。

本書の目的

 ここまで語れば、読者には本書『活用自在の処方解説』の意図はおわ かりかもしれない。  本書は、1996年に発表した「統合的漢方医学理論(診断系)の提唱」に 基づき、これまで主流として行われてきたわが国の漢方医学に対する 批判を経て、現状を打開する方法を実際のエキス製剤に基づいて具体 的に論じたものである。 つの方剤に関する全方位的な視点の紹介を 試みたので、ここには吉益流もあれば五行説に基づく中医学的な薬能 解説もある。それらは相互に反照する知識の源泉ともなり、ときには 協調し相互補完する対象となる。個々の要素の間には優劣の関係は存 在しない。  「本書の構成について」の参考図書をご覧になれば、本書で参考にし た文献はこれまであまり取り上げられなかったものを含んでいるのが 理解されるだろう。いずれも日本の漢方医学にとって著者が重要とす るものばかりである。読者が改めてこれらの書物を手に取られること を期待している。

おわりに

(8)

が処方されたのだという説明をお願いしたいことである。  これまでのように単に西洋医学の言葉に置き換えただけでは、真剣 に漢方治療を求める患者の納得が得られない場合が多い。そのように しようと心掛けるだけでも、漢方治療を行う医師にとって何が必要か はおのずと感得されてくるであろう。  本書がわが国の漢方治療の現場で活用されることを心から願ってい る。  平成21年 月11日 藤平健先生没して12年、師恩を謝しながら      あきば伝統医学クリニック 秋葉哲生

(9)

本書の構成について

 本書は既存の128処方の漢方エキス製剤について、11項目の視点か ら解説し各漢方製剤の特徴を明確にする目的で編まれたものである。 その視点とは、次の通りである。 .出典 .腹候 .気血水 .六病位 .脈・舌 .口訣 .本剤が適応となる病名・病態 .構成生薬(本草的薬能)

.TCM(Traditional Chinese Medicine;中国伝統医学)的解説 10.効果増強の工夫 11.本方で先人は何を治療したか?

 出典

 出典はいうまでもなくその方剤が最初に記載された文献である。そ こにはその方剤の主治が詳述されていて、生薬構成と加減方などに及 ぶのが通常であるので、主治の部分を引用した。この主治に従って適 用するのが基本的な用い方である。  方剤の主治が多方面に及び、条文が多岐にわたる場合も少なくない が、『傷寒論』、『金匱要略』では奥田謙藏著『古方要方解説』を参考とし て適宜省略を加えた。

 腹候

 当該方剤が適用される腹診所見(腹候)を図示した。腹診はいわゆる 古方派の主要な診断手技であるが、その内容は論者によりまちまちで 必ずしも統一されてはいない。  著者は藤平健氏の腹診を研修したが、その内容は江戸時代以来の累 代の漢方医家となった奥田謙藏の方法論であり、わが国古方派を代表 するものとしてよいと考えられる。ここでは藤平健著『漢方処方類方

(10)

ある。腹力を知ることが腹診を行う半分の目的であるというのはけだ し名言である。これにより検者の脳裏には、適用し難い方剤が隅に寄 せられ、適用の可能性ある方剤が中心に映ずるようになるのである。 古方派の腹候はもともと『傷寒論』・『金匱要略』の方剤について語られ たものであるので、後世方についてはコンセンサスある腹候は存在し ないといってよい。後世方は条文解釈や生薬の薬能や口訣から適応を 定めるのが本来のやり方であろう。今から振り返っておよそ250年前 に成立した方法論だけが、2000年以来の方剤の運用を規定することが できるとは理性的にみれば考え難いことである。あの手この手の方法 論が妍を競ってこそ伝統医学というものであろう。

 気血水

 気、血、水の 種類の仮想された生理的因子は、過剰または過少と なることにより病理的因子に転じ得るもので、それらの体内における 盛衰は漢方治療のかなめである。  気、血、水については論者の立場によりその内容を異にするが、こ の項では日本の伝統医学における平均的な気血水の意味内容とした。

 六病位

 六病位の項目は、当該方剤が六病位のどの段階を治療するかを病位 名で示したものである。『傷寒論』は急性熱性疾患の経過を、太陽、陽明、 少陽、太陰、少陰、厥陰の 段階のステージ分類としてとらえ、それ ぞれ時期と病態に応じた治療法を説いた戦術書である。  個々の方剤が六病位のどの病位にあるかは江戸時代の川越衡山以来 種々論議されている。藤平健氏はこのテーマに早くから取り組んでお られ、その成果を時々発表されたが、ここでは著書『漢方処方類方鑑 別便覧』の記述より引用している。六病位と方剤の関係は古方派的方 剤運用に便利な点もあるが、病位にとらわれ過ぎると、闊達な運用の 妨げになる場合もありうるので柔軟な見方が不可欠であろう。

 脈・舌

 論者により脈候、舌候の評価は異なり、わが国の漢方医学では一定 した位置づけがなされていないように思われる。しかし高齢者の増加 に伴い、問診が十分に行えないような場合には視診や舌診、あるいは 脈診がカギとなるケースも出てくると予想され、古くて新しい研究対 象として浮上する可能性がある。

(11)

 ここでは出典のほか、主として伊藤良、山本巌監修、神戸中医学研 究会編著『中医処方解説』の方剤解説の記述から引用した。

 口訣

 口訣は文書にせず口頭で伝える秘訣のことで、かつてさまざまな修 練の領域において普遍的に行われた。漢方には歴史的にさまざまな口 訣が残されており、それらの多くは現代でも有用である。日本の漢方 医学の特徴は豊富な口訣にあると主張する方もおられる。  口訣には戦略の大綱を示すものと、具体的な生薬や方剤の運用を示 す戦術レベルのものとがある。ここでは著者が興味をもって日ごろ収 集した口訣の一部を示した。

 本剤が適用となる病名・病態

 保険診療は病名主義であるから、処方する漢方薬は基本的に診断病 名に対して適応を有する必要がある。そのため当該方剤の保険適応病 名や病態を、「a 保険適応病名・病態」としてツムラ医療用漢方製剤の 添付文書から「効能または効果」を引用して示した。  ただ漢方製剤のなかには保険病名に相当する適応症をもたないもの もあり、その場合には適応状態だけが示されるので、医師としての専 門的な判断から適応症を判断する必要がある。 例を挙げれば、白虎 加人参湯の「のどの渇きとほてりのあるもの」に用いるというのがそれ に該当する。  その際のよりどころは、『一般用漢方処方の手引き』によれば、「(こ れらの漢方製剤は)漢方治療の原則に基づいて,証に従って使用すべ きもの」とされていることである。つまり、医療の専門職としての漢 方家により、ある証がある病名に相当すると判断されればその病名に 適応が可能であるということである。したがって、白虎加人参湯は、「の どの渇きとほてりのあるもの」とあるから、このような病状を伴う糖 尿病やアトピー性皮膚炎、尿崩症あるいは発熱疾患の経過中などに適 応できることになるのである。  古典の条文理解、腹診、気血水、六病位などは日本の伝統的な手が かりであるが、さらに広く漢方薬の伝統的な適用方法を知る目的で、 文献10)より中医学的な適用病態を「b 漢方的適応病態」として後半に 引用した。

(12)

 構成生薬(本草的薬能)

 伝統的生薬学に本草学があるが、生薬の薬味・薬性(薬能)を、主た る日本の文献と中国医学の文献資料とから引用し簡潔に表にまとめ巻 末に示した。ここでは生薬の薬性を赤文字青文字、黒文字の つで 示し、理解の一助とした。すなわち、赤文字の生薬は熱性あるいは温性、 青文字は寒性あるいは涼性、黒文字は平性で、数字は 日の生薬量を グラム表示したものである。

 TCM(Traditional Chinese Medicine;中国伝統医学)的解説

 本項は当該方剤の中医学的な薬能解説を主に文献10)より引用した。 主として つから つの漢字よりなる薬能解説は、なじみやすく類型 化されていて記憶しやすいのが特徴である。

 効果増強の工夫

 本項目は記入されていない方剤もあるが、汎用処方については処方 展開の仕方を知ってもらうために著者の経験の範囲で記述した。参考 にしていただきたい。

 本方で先人は何を治療したか?

  つの漢方方剤は通常複数の適応状態(証といい換えてもよい)を有 している。漢方志望の若い医師や薬剤師に接してみると、彼らがとら われた発想しかできないことに気付いて驚くことがある。多様な発想 こそ漢方治療の面白さがあるといえるのであるが、西洋医学の一薬物 に一効能という直線的思考方法に慣れているためであろうと推測され る。しばらくすればそのことはすぐに克服され、彼らは漢方的な思考 を自由に駆使して楽しむことができるようになるのであるが。  そうなるまでの時期を短縮するために、われわれと同時代の先輩が その方剤をどのように活用したかを彼らの書物からできるだけ忠実に 引用して示すこととして本項を設けた。したがって、現在は歴史的用 語として用いられない病名や名称変更された病名も可能な限り引用紹 介していることをご了解いただきたい。  先人として、『傷寒論』、『金匱要略』収載の方剤については龍野一雄 氏、その他の方剤については矢数道明氏、龍野一雄氏、桑木崇秀氏の 著作からそれぞれ引用した。 引用および参考資料 )矢数道明、『漢方後世要方解説』、医道の日本社、1959

(13)

)矢数 格、『漢方一貫堂医学』、医道の日本社、1964 )奥田謙藏、『傷寒論講義』、医道の日本社、1965 )奥田謙藏、『漢方古方要方解説』、医道の日本社、1968 )中日漢方研究会篇、『重要漢方処方解説口訣集』増補改訂版、1971 )龍野一雄、『新撰類聚方』増補改訂版、株式会社中国漢方、1974 ) 日薬連漢方専門委員会編集、『一般用漢方処方の手引き』、薬業時報社、 1975 )龍野一雄、『改訂新版漢方処方集』、株式会社中国漢方、1980 )藤平漢方研究所編、『漢方処方類方鑑別便覧』、株式会社リンネ、1982 10) 伊藤 良、山本巌監修、神戸中医学研究会編著、『中医処方解説』、医歯 薬出版株式会社、1982 11)創医会学術部編、『漢方用語大辞典』、株式会社 燎原、1984 12) 山田光胤・丁宗鐵監修、『生薬ハンドブック』第二版、津村順天堂学術部、 1986 13)矢数道明、『臨床応用漢方処方解説』増補改訂版、創元社、1992 14)桑木崇秀、『新版漢方診療ハンドブック』、創元社、1995 15)『傷寒雑病論(三訂版)』、東洋学術出版、2000 16)高金亮監修、『中医基本用語辞典』、東洋学術出版、2006

(14)

.葛根湯

(かっこんとう)

 出典 『傷寒論』、『金匱要略』

(1)太陽病、項背こわばること⺇⺇、汗なく、悪風する証。(『傷寒論』太陽 病中篇) (2)太陽と陽明との合病、自下利する証。(同上) (3)太陽病、汗なく、小便反つて少なく、気、胸に上衝し、口噤みて語る を得ざる証。(『金匱要略』䛢湿喝病篇)

 腹候

急性病初期では脈が重要とされ、腹候は考 慮しない。慢性疾患では、腹力中等度かそ れ以上(2-4/5)。葛根湯証は一般に筋緊張 の傾向が認められる(腹候図)。

 気血水

気が主体の気血水。

 六病位

太陽病。

 脈・舌

脈浮実数。太陽病では舌候の変化は原則と してない。

 口訣

●首から上の症状には葛根湯を考慮。(道聴子) ●急性熱性の首の張る状態に用いるのは誰もが知っているが、古方の常と して応用範囲の広いことはいうまでもない。(浅田宗伯)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 自然発汗がなく、頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるも のの次の諸症:感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角 膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、 じんましん。 b 漢方的適応病態 表寒・表実。 解説 ⺇⺇を、几几とする見方もあり、その場合はキキと音読する。⺇⺇は、 短羽の鳥の飛び立つときの首を前傾させる様子をいい、几几は硬く強ばる状 態を指す。ともに葛根湯の「項背強」の状態を形容したものとみなされる。 解説 ⺇⺇を、几几とする見方もあり、その場合はキキと音読する。⺇⺇は、 短羽の鳥の飛び立つときの首を前傾させる様子をいい、几几は硬く強ばる状 態を指す。ともに葛根湯の「項背強」の状態を形容したものとみなされる。 腹候=腹力中等度かそれ 以上(2-4/5)。慢性疾患の 葛根湯証は一般に筋緊張 の傾向が認められる。

(15)

 構成生薬

葛根4、大棗3、麻黄3、甘草2、桂皮2、芍薬2、生姜2。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

辛温解表・生津・舒筋(辛温解表・舒筋)。

 効果増強の工夫

肩関節周囲炎などの治療には、附子を加えると一層有効である。 処方例) ツムラ葛根湯       7.5g ブシ末(調剤用)「ツムラ」 1.5g分 食前

 本方で先人は何を治療したか?

龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より ) 感冒・流感・肺炎・麻疹・丹毒・猩紅熱・脳膜炎・日本脳炎・リンパ 腺炎・扁桃腺炎・中耳炎などで、発熱悪寒頭痛、項背部がこるもの、 あるいは軽咳、あるいは軽咽頭痛などを伴ってもよい。 ) 肩こり・四十肩・五十肩・高血圧症による肩や首のこり、首が回らぬ もの・腰痛・関節リウマチなどで実証で腹部に変化なきもの。 ) 破傷風初期・小児ひきつけ・脊髄空洞症などで項背強急するもの。 ) 口が開かぬものを痙病と見て治した例がある。 ) トラコーマ・結膜炎・眼瞼炎・網膜炎・虹彩炎・急性球後視神経炎な どの眼病で、頭痛項背強ばるもの、ただし下剤の証がないもの。 ) 副鼻腔蓄膿症・鼻炎・肥厚性鼻炎などで頭痛項背強ばるもの。 ) 気管支喘息で表実頭痛または項背がこるもの。 ) 皮膚炎・失神・じん麻疹などで、発赤強く分泌のない表証のもの。 ) フルンケル・カルブンケル・面疔・背癰・皮下膿瘍・筋炎などで発熱 頭痛または悪寒などの表証のあるもの。 10) 急性腸炎・急性大腸炎で発熱頭痛または悪寒など表証があるもの。 11) 夜尿症を治した例がある。 12) 乳児の無声を治した例がある。 より深い理解のために 本方が日本で広く用いられる理由としては、薬味構 成から麻黄湯と桂枝湯の中間の効果とされ第一選択としやすいこと、また、 葛根が辛涼解表の効果をもつところから、表熱(悪寒を伴わない急性発熱で温 病などが考えられ銀翹散などが適応される)にもある程度対応できたことな どが考えられる。すなわち、葛根湯そのままでは辛温解表剤(傷寒、中風に適 応)にも、辛涼解表剤にもなる(石膏を加味すればさらによい)という考え方で ある。 より深い理解のために 本方が日本で広く用いられる理由としては、薬味構 成から麻黄湯と桂枝湯の中間の効果とされ第一選択としやすいこと、また、 葛根が辛涼解表の効果をもつところから、表熱(悪寒を伴わない急性発熱で温 病などが考えられ銀翹散などが適応される)にもある程度対応できたことな どが考えられる。すなわち、葛根湯そのままでは辛温解表剤(傷寒、中風に適 応)にも、辛涼解表剤にもなる(石膏を加味すればさらによい)という考え方で ある。

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2.葛根湯加川芎辛夷

(かっこんとうかせんきゅうしんい)

 出典 本朝経験方

本方は『傷寒論』、『金匱要略』が出典の葛根湯に辛夷と川芎の二味を加味し て、副鼻腔炎の炎症と頭痛などの改善を狙った処方で、わが国の経験方で ある。

 腹候

急性病初期では脈が重要とされ、腹候は考 慮しない。慢性副鼻腔炎では、腹力中等度 かそれ以上(2-4/5)。本方証は一般に筋緊 張の傾向が認められる(腹候図は葛根湯に 準ずる)。

 気血水

気が主体の気血水。

 六病位

太陽病。

 脈・舌

慢性副鼻腔炎などに適用する場合、脈は有力で、少なくとも沈微ではない こと。舌候は、脾虚(淡白舌など)や陰虚(紅舌など)を思わせるものではな いこと。

 口訣

●急性副鼻腔炎には、本方より葛根湯が適する場合が多く、急性で鼻汁が 粘稠あるいは膿性のものには葛根湯加桔梗石膏、鼻閉頭痛頭部圧迫感が著 しいものに本方が適応する。(『現代漢方治療の指針』)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎。 b 漢方的適応病態 表寒・表実。

 構成生薬

葛根4、大棗3、麻黄3、甘草2、桂皮2、芍薬2、川芎2、生姜1、辛夷2。 (単 位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

辛温解表・排膿・通竅。 腹 候 = 慢 性 副 鼻 腔 炎 で は、腹力中等度かそれ以 上(2-4/5)。本方証は一般 に筋緊張の傾向が認めら れる。

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 効果増強の工夫

もし便秘傾向があるようならば、抗炎症効果も有する大黄を適宜配合する。 処方例) 葛根湯加辛川芎夷 7.5g 局方 大黄末   1.5g分 食前14日分

 本方で先人は何を治療したか?

桑木崇秀著新版『漢方診療ハンドブック』より 慢性副鼻腔炎、鼻づまり。

本方の話題

 本方の特徴はいうまでもなく、葛根湯というもっとも知名な漢方薬の加味 方であることだ。葛根湯はよくも悪くも日本漢方医学の象徴的存在である。 有名な落語の葛根湯医者を思い出す方も多いだろう。この作品は江戸時代に 舞台を設定しているが、これが成り立つためには誰もが知っている風邪に対 する葛根湯の日常的な服用が前提とならねばならない。だからこそ、病人で ない付添の伴の者にまで葛根湯を勧める不条理が笑いを誘うのである。葛根 湯はきわめて多様な応用を許す漢方薬である。その加味方である本方も、多 分かなり広範な応用範囲があるであろうことは疑いない。  そのような考えを進めるに当たって、根拠になるのは辛夷と川芎という生 薬の薬能である。  辛夷は呼吸器に関連した外界と通じる通路を開き、風寒を去る作用がある。 鼻閉の改善がその直接的な効能として挙げられる、敷衍すれば原因不明の嗅 覚脱失などにも応用が可能であろう。  川芎については、当帰と同じセリ科植物で活血と気を巡らす作用があり、 一方では風邪を去り頭痛、身体痛、関節痛などを緩和する作用がある。以上 よりすれば、本方は炎症性の耳鼻科疾患をはじめとする上焦の急性、あるい は慢性疼痛性疾患に有効であることが推測される。 より深い理解のために 竅は穴の意で、通竅とは鼻孔のような身体にもとも とある外部に開かれた「孔」が通じるようにする作用のことである。ちなみに 九 竅とは、眼(二つ)、鼻(二つ)、口、耳(二つ)、さらに前陰、後陰を指す。 より深い理解のために 竅は穴の意で、通竅とは鼻孔のような身体にもとも とある外部に開かれた「孔」が通じるようにする作用のことである。ちなみに 九 竅とは、眼(二つ)、鼻(二つ)、口、耳(二つ)、さらに前陰、後陰を指す。

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3.乙字湯

(おつじとう)

  出典 原南陽著

『叢桂亭藏方』

●痔疾、脱肛痛楚し、あるいは下血腸風し、あるいは前陰痒痛する者を 理*する方。 腸風下血し、久服して無効なるは、理中湯(人参湯)に宜し。 (* 理は、ただす、おさめる、つくろう、意。)

 腹候

腹力は中等度かそれ以上(2-4/5)で、瘀血 の圧痛を認めることが多い(腹候図)。

 気血水

血が主体の気血水。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

脈、平、脈有力。舌、乾燥白苔。

 口訣

●南陽は柴胡升麻を昇提の意に用いたれど も、やはり湿熱清解の効に取るがよし。そのうち升麻は古より犀角の代用 にして止血の効有り。(浅田宗伯) ●女子前陰部瘙痒症に対して奇効を得る場合がある。(『現代漢方治療の指 針』)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 病状がそれほど激しくなく、体力が中位で衰弱していないものの次の諸症: キレ痔、イボ痔。 b 漢方的適応病態 (升提作用の有効である)脱肛、痔核の脱出。

 構成生薬

当帰6、柴胡5、黄䊫3、甘草2、升麻1、大黄0.5。(単位g) 腹候=腹力は中等度かそ れ以上(2-4/5)で、瘀血の 圧 痛 を 認 め る こ と が 多 い。

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 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

升提・緩急・清熱化湿。

 効果増強の工夫

痔核を瘀血の表現として、桂枝茯苓丸を合方し作用を増強する。 処方例) ツムラ乙字湯   7.5g ツムラ桂枝茯苓丸 7.5g分 食前

 本方で先人は何を治療したか?

●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より 痔核の疼痛・出血・肛門裂傷、脱肛の初期軽症、婦人の陰部痒痛、皮膚病 の内攻に伴う神経症。 ●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より 実証の痔、脱肛、痔出血。 ●桑木崇秀著新版『漢方診療ハンドブック』より 実証で便秘傾向の者の痔核、脱肛、痔出血、時に婦人の陰部痒痛。

注 意 事 項

 本方は黄䊫を含む方剤であるので、投与前と投与 カ月後の肝機能を比較 し安全性を確認することが望ましい。 より深い理解のために 本方は原南陽の原方の大棗を当帰に変化させた浅田 宗伯の処方である。緩急の大棗を除き、活血の当帰を加えたことにより、鎮 痙の効果がやや弱くなるかわりに、うっ血性腫脹を除く効果が強められてい る。 ● 柴胡、升麻には、昇提(升提)作用(身体上部に臓器を引き上げるという作用) があると信じられている。(脱肛に有効な理由とされる) ● 水戸藩医であった原南陽は、甲字湯(瘀血治療薬)、乙字湯(痔疾薬)、丙字 湯(淋の病の治療薬)、丁字湯(癖嚢の治療薬、慢性腹痛、吐宿水、食後の腹 痛)などの処方を創製した。現在用いられるものはほとんど乙字湯のみで、 漢方エキス製剤となっている。大黄が入っていて便秘の方にも用いやすい 処方である。 より深い理解のために 本方は原南陽の原方の大棗を当帰に変化させた浅田 宗伯の処方である。緩急の大棗を除き、活血の当帰を加えたことにより、鎮 痙の効果がやや弱くなるかわりに、うっ血性腫脹を除く効果が強められてい る。 ● 柴胡、升麻には、昇提(升提)作用(身体上部に臓器を引き上げるという作用) があると信じられている。(脱肛に有効な理由とされる) ● 水戸藩医であった原南陽は、甲字湯(瘀血治療薬)、乙字湯(痔疾薬)、丙字 湯(淋の病の治療薬)、丁字湯(癖嚢の治療薬、慢性腹痛、吐宿水、食後の腹 痛)などの処方を創製した。現在用いられるものはほとんど乙字湯のみで、 漢方エキス製剤となっている。大黄が入っていて便秘の方にも用いやすい 処方である。

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5 .安中散

(あんちゅうさん)

 出典 『和剤局方』

宋代に皇帝の命により陳師文、斐宋元らが天下の名医の得効方を集めたも の。 遠年日近の脾疼翻胃にて、口に酸水を吐し、寒邪の気が内に留滞し、停 積消えず、胸膈脹満、腹脇を攻刺し、悪心嘔逆、面黄肌痩せ、四肢倦怠す るを治す。又婦人血気刺痛し、小腹より腰に連なりて攻注重痛するを治す。 並びに能く之を治す。(『和剤局方』一切気門)

 腹候

中等度よりやや軟(1-3/5)。心下痞䌤を認 めることがある(腹候図)。

 気血水

気血主体の気血水。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

脈、やや遅。舌、淡紅、薄白苔。

 口訣

やせ型で冷え症の、甘味好きには、安中散。(道聴子) ●この方世上には癖嚢(胃拡張)の主薬とすれども、吐水甚だしき者には効 なし。痛み甚だしき者を主とす。反胃に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。 また、婦人血気刺痛には癖嚢より反つて効あり。(『勿誤薬室方函口訣』浅 田宗伯)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、とき に胸やけ、げっぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:神経性胃炎、 慢性胃炎、胃アトニー。 b 漢方的適応病態 脾胃の虚寒と気鬱血滞による胃痛、腹痛、月経痛。 腹候=中等度よりやや軟 (1-3/5)。心下痞䌤を認 めることがある。

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 構成生薬

桂皮4、延胡索3、牡蛎3、茴香1.5、甘草1、縮砂1、良姜0.5。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

温中散寒・止痛・止嘔・制酸。

 効果増強の工夫

鎮痛効果を増すために芍薬甘草湯を短期間だけ頓用する。 処方例) 1 .ツムラ安中散 7.5g 分 食前 2 .ツムラ芍薬甘草湯 2.5g 有痛時頓用   (芍薬甘草湯併用は短期間に留めるのが原則である)

 本方で先人は何を治療したか?

●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より 神経性胃痛(胃神経症)・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃酸過多症(疼痛)・胃下 垂症・慢性胃炎、幽門狭窄・胃の腫瘍・婦人の血気刺痛(鬱血をかねた神経 性疼痛)・月経痛・悪阻・ヒステリー。 ●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より 胃炎、胃酸過多症、減酸症。 ●桑木崇秀著新版『漢方診療ハンドブック』より 冷え症で胃アトニータイプの者の胃十二指腸潰瘍、慢性胃炎、胃酸過多症 で心下部の持続性疼痛を目標とする。 より深い理解のために 胃痛だろうが、生理痛だろうが、腹痛一般に効くこ とである。単なる胃の薬には留まらない。食思不振、元気がない、疲れやす いなどの気虚を伴う慢性の腹痛に用いる場合には、人参の入った補気の処方 を配合するか、後に切り替える必要がある。  著者は初学の頃に、勤務していた病院関係者に胸やけの薬を問われたとき、 自信がなかったので西洋医学の制酸剤のたっぷり入った薬を処方した。 ∼ 週間して彼に会うと私を避けるふうである。胸やけはどうかと問うと、彼 は答えにくそうに市販の安中散ですっかり治ったと言った。安中散の薬名を みるたびにそのことを思い出す。 より深い理解のために 胃痛だろうが、生理痛だろうが、腹痛一般に効くこ とである。単なる胃の薬には留まらない。食思不振、元気がない、疲れやす いなどの気虚を伴う慢性の腹痛に用いる場合には、人参の入った補気の処方 を配合するか、後に切り替える必要がある。  著者は初学の頃に、勤務していた病院関係者に胸やけの薬を問われたとき、 自信がなかったので西洋医学の制酸剤のたっぷり入った薬を処方した。 ∼ 週間して彼に会うと私を避けるふうである。胸やけはどうかと問うと、彼 は答えにくそうに市販の安中散ですっかり治ったと言った。安中散の薬名を みるたびにそのことを思い出す。

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6 .十味敗毒湯

(じゅうみはいどくとう)

 出典 華岡青洲経験方

華岡青洲が『和剤局方』の荊防排毒散を改良して創方したもの。 癰疽および諸般の瘡、腫起、憎寒、壯熱、䉀痛するを治す。(『癰科方筌』 癰疽門)

 腹候

腹力は中等度以上(2-4/5)。ときに心下痞 䌤を認める。柴胡を含むために、胸脇苦満 を認めるとする論者もある(腹候図)。

 気血水

気血水いずれも関わる。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

脈、有力。舌、舌質淡紅、乾燥傾向の白苔。

 口訣

蕁麻疹以外には、化膿傾向がポイント。 (道聴子) 青洲が荊防排毒散を改良したものだが、たしかに原方より優れている。 (浅田宗伯)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫。 b 漢方的適応病態:風湿熱の皮疹。

 構成生薬

桔梗3、柴胡3、川芎3、茯苓3、防風1.5、甘草1、荊芥1、生姜1、樸樕*3、 独活1.5。(単位g) *樸樕(ボクソク、クヌギ科の樹皮):わが国だけで用いられる生薬で、性 味ははっきりしない。

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

袪風化湿・清熱解毒。 より深い理解のために 荊防排毒散『万病回春』は、荊芥、防風、羌活、独活、 柴胡、前胡、薄荷、連翹、桔梗、枳殻、川芎、金銀花、茯苓、甘草(下線部は 本方と共通) より深い理解のために 荊防排毒散『万病回春』は、荊芥、防風、羌活、独活、 柴胡、前胡、薄荷、連翹、桔梗、枳殻、川芎、金銀花、茯苓、甘草(下線部は 本方と共通) 腹候=腹力は中等度以上 (2-4/5)。ときに心下痞 䌤を認める。柴胡を含む ために、胸脇苦満を認め るとする論者もある。

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 効果増強の工夫

アトピー性皮膚炎などに消風散などと合方して用いられる。 処方例) ツムラ十味敗毒湯 5.0∼7.5g ツムラ消風散   5.0∼7.5g分 または分 食前 もろもろの皮膚疾患用の薬方に本方を追加して効果増強を図ることができ る。また樸樕は本方にしか配合されていないので、その皮膚炎改善作用を 期待して他薬方にしばしば合方される。

 本方で先人は何を治療したか?

矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より 化膿性疾患、皮膚疾患の初期、あるいは体質改善目的で一般に用いる。癰・ 䉜・湿疹・蕁麻疹・フルンクロージス・アレルギー体質改善薬、乳腺炎・ リンパ腺炎・上顎洞炎・水虫・面疱・中耳炎・麦粒腫・外耳炎など。 龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より フルンケル、カルブンケル、皮下膿瘍、筋炎、中耳炎、リンパ腺炎。 桑木崇秀著『漢方診療ハンドブック』より 化膿性疾患(癰・䉜)、皮膚疾患(湿疹や蕁麻疹)初期。フルンクロージス・ アレルギー体質の改善薬。乳腺炎・リンパ腺炎・麦粒腫(ものもらい)など の初期。

本方の話題

 本方の特徴は、中国では用いられない樸樕が配合されていることである。 樸樕はクヌギ科の樹木の樹皮であり、あまり詳しい薬能はわかっていない。 クヌギ科というと外皮はザラザラした手触りなので、あるいは形象薬理学的 に似た状態の皮膚を治するということかもしれない。  江戸時代にも半数以上の生薬は輸入品であったから、名前だけで実物が入 手できない生薬がわが国のなんという生薬に相当するかという研究は、漢方、 蘭方を問わず重要な研究対象であった。これについては、むしろヨーロッパ から遠いことからオランダ医学の先人が苦心を重ねたようである。教科書に ある有名な薬の代替品を見い出すのは重要な研究で、竹節人参などもそのよ うにして発見された薬用人参の代替品であった。著者に漢方の指導をしてく ださった藤平健先生は、柴胡加竜骨牡蛎湯と小柴胡湯にはお種人参ではなく、 竹節人参を指定して用いられた。伊藤清夫先生は脱毛症に積極的に竹節人参

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7 .八味地黄丸

(はちみじおうがん)

 出典 『金匱要略』

1 )脚気上り入り、少腹不仁なる証。(『金匱要略』中風歴節病篇、附方) 2 )虚労、腰痛し、少腹拘急し、小便不利の証。(血痺虚労病篇) 3 )短気(呼吸促迫)して微飲(停水)ある証。(痰飲咳嗽病篇) 4 )消渇、小便すること反つて多き証。(消渇小便利淋病篇) 5 )胞系了戻(輸尿系捻戻の謂)するがゆえ に溺するを得ざる証。(婦人雑病篇)

 腹候

腹力によらずに適用される(2-4/5)。臍下 の不仁と、ときに腹直筋の攣急を認める( 候図)。

 気血水

水気主体の気血水。

 六病位

太陰病。

 脈・舌

脈、沈、尺脈が弱。舌質、淡白、湿潤、舌苔は白滑。

 口訣

これはもっぱら下焦を治す。虚腫あるいは腰痛などに用いて効有り。(浅 田宗伯) 40歳以上は八味丸を服用してよい。(藤平健)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互に冷感と 熱感のあるものの次の諸症:腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚 気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。 b 漢方的適応病態:以下の状態に適用する。 1 )腎陽虚。すなわち、腰や膝がだるく力がない、知力減退、動作緩慢、 ふらつき、耳鳴、下半身や四肢の冷え、寒がり、嗜眠傾向、インポテ ンツ、尿量が少なく頻回あるいは尿量過多、排尿に時間がかかる、排 尿困難あるいは失禁、夜間多尿、遺尿など。多痰、水様便、浮腫を伴 うこともある。 2 )腎陰陽両虚。すなわち上記の腎陽虚の症状に、ほてり、口渇、いらい らなどの陰虚の症候もときにみられるもの。 腹候=腹力によらずに適 用 さ れ る(2-4/5)。 臍 下 の不仁と、ときに腹直筋 の攣急を認める。

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腎虚:腎は五臓の つで、人体の成長、発育、生殖を司り、体内の水分 を正常に代謝する。このような生理機能は腎の有する精気が担うとされ ている。腎の精気が不足した状態を腎虚と呼び、成長障害やむくみ、耳 鳴や聴力低下などを来す。

 構成生薬

地黄6、山茱萸3、山薬3、沢瀉3、茯苓3、牡丹皮2.5、桂皮1、附子0.5。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

温補腎陽(不足した腎の陽気を温めて補うこと)。

 効果増強の工夫

1 .方中の附子を増やすのが一般的。ブシ末(調剤用)「ツムラ」0.5∼1.5g/ 日を加える。 処方例) ツムラ八味地黄丸     5.0∼7.5g ブシ末(調剤用)「ツムラ」 1.0∼1.5g分 または分 食前 2 .胃弱の人には次のような合方も勧められる。 処方例) ツムラ八味地黄丸 5.0g ツムラ人参湯   5.0g分 食前

 本方で先人は何を治療したか?

龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より。病名のみ引用。 1 )腎炎・ネフローゼ・腎臓結石・腎臓結核・萎縮腎・腎盂炎・蛋白尿。 2 )膀胱炎・老人性膀胱萎縮・膀胱結核・膀胱結石・膀胱括約筋麻痺・膀 胱直腸障害・前立腺肥大症・尿閉・尿失禁・夜尿症など。 3 )脳出血・動脈硬化症・高血圧症・低血圧症など。 4 )気管支喘息・心臓喘息・肺気腫など。 5 )咳で寒因のもの。 6 )糖尿病・尿崩症。 7 )脚気で、動悸・息切れ・浮腫・脚弱などのうちどれかがあるもの。 8 )腰痛・坐骨神経痛・リチャード氏病・畸型性脊椎症・遊走腎などで腰 が痛むもの。 9 )腰脚麻痺・下肢麻痺など。 10)頭痛・肩こり。 11)神経衰弱・遺精・夢精・早漏・陰萎・陰茎強直症など。 12)ノイローゼ・脱力感・健忘症・朦朧感など。 13)胃痛で胸やけ、げっぷ、不眠のもの。 14)その他次の諸症:回虫、下痢腹痛横断、五更瀉、大小便秘結、動悸・ 上衝・面赤・声嗄・夜間肩痛、内痔核・脱肛・痔瘻、白帯下、吐血、

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8 .大柴胡湯

(だいさいことう)

 出典 『傷寒論』、『金匱要略』

1 )太陽病、十余日、之を下し、後四五日、柴胡の証なほあり、先づ小柴 胡湯を与へ、嘔止まず、心下急、鬱々として微煩する証。(『傷寒論』太 陽病中篇) 2 )傷寒、十余日、熱結ぼれて裏に在り、復た往来寒熱する証。(太陽病下 篇) 3 )発熱し、汗出でて解せず、心下痞䌤し、嘔吐して下利する証。(同上) 4 )傷寒、後脈沈にして内実する証。(弁可下病篇) 5 )これを按じて心下満痛する証。(『金匱要略』腹満寒疝宿食病篇)

 腹候

腹力は中等度以上(4-5/5)。心下痞䌤、胸 脇苦満、ときに腹直筋の緊張を認める( 候図)。

 気血水

気血主体の気血水。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

脈、弦数あるいは沈弦、有力。舌、紅、乾 燥黄苔、白黄苔。

 口訣

これは病が少陽の位にゐて、漸やく裏に実せんとし、嘔吐、心下の急、鬱々 微煩、便秘の傾向等を発する証に対する薬方であつて、主として裏に実せ んとする所の少陽の邪熱を下し去る等の能を有する。(奥田謙藏)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 比較的体力のある人で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、耳鳴り、肩 こりなどを伴うものの次の諸症:胆石症、胆嚢炎、黄疸、肝機能障害、高 血圧症、脳溢血、じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、悪心、嘔吐、 食欲不振、痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症。 b 漢方的適応病態 1 )少陽陽明合病:発熱性疾患の経過にみられる。往来寒熱、心下部のつ かえ、悪心、嘔吐、いらいら、口が苦いなどの半表半裏証(少陽病)に、 腹部膨満感、腹痛、便秘あるいは下痢の裏熱(陽明病)を伴うもの。 腹候=腹力は中等度以上 (4-5/5)。 心 下 痞 䌤、 胸 脇苦満、ときに腹直筋の 緊張を認める。

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2 )肝鬱化火・胃気上逆:ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、不眠、顔 面紅潮、目の充血、胸脇部が張って苦しい、口が苦いなどの肝鬱化火 の症候に、悪心、嘔吐、上腹部膨満感、便秘などの胃気上逆を伴うもの。

 構成生薬

柴胡6、半夏4、黄䊫3、芍薬3、大棗3、枳実2、生姜1、大黄1。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

和解半表半裏・瀉下熱結、疏肝解欝・理気止嘔・清熱瀉下。

 効果増強の工夫

いろいろと工夫の余地があるが、着眼点は芍薬と枳実を含むことである。 芍薬は単独では甘草と併用して緊張と痛みを緩和する。枳実、芍薬に桔梗 が加われば排膿散で、化膿性炎症を解く作用が期待できる。すなわち、芍 薬甘草湯の合方で疼痛の寛解、桔梗湯の合方で化膿症の改善が得られるこ とになる。

 本方で先人は何を治療したか?

龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より(病名を摘録) 1 )チフス・マラリヤ・丹毒・猩紅熱・ワイル病など。 2 )気管支喘息・気管支拡張症・肺炎・肺気腫・肋膜炎・肺結核など。 3 )心臓弁膜症・心筋障碍・心嚢炎・心悸亢進症・心臓喘息など。 4 )高血圧症・動脈硬化症・脳出血・脳軟化症など。 5 )胃炎・胃酸過多症・胃潰瘍・腸炎・大腸炎・食傷・十二指腸潰瘍・虫 垂炎・胆石症・肝炎・肝硬変症・胆嚢炎・黄疸・すい臓炎・常習便秘・ イレウス・口中臭気・吃逆など。 6 )急性慢性腎炎・ネフローゼ・萎縮腎・腎臓結石・陰萎など。 7 )糖尿病・肥満症・脚気など。 8 )半身不随・肋間神経痛・腰痛・てんかん・ノイローゼ・神経衰弱・気 鬱症・癎・麻痺・不眠症・肩こりなど。 9 )結膜炎・虹彩炎・角膜炎・白内障などの眼病、中耳炎・耳鳴・難聴な どの耳病・咽喉腫痛し声が鼻に漏れて言語を弁ぜぬもの・歯痛など。 10)禿頭・ふけ・頭髪赤きもの・じん麻疹・帯状疱疹など。 11)痔・亀胸・亀背に脈腹により使つた例がある。 12)不妊症・交接後出血・無月経に、脈腹に従って使つた例がある。 より深い理解のために 肝鬱化火とは、肝気鬱結が持続したために自律神経 機能の過亢進や異化作用亢進が発生し、これに伴って熱証がみられる状況を いう。 より深い理解のために 肝鬱化火とは、肝気鬱結が持続したために自律神経 機能の過亢進や異化作用亢進が発生し、これに伴って熱証がみられる状況を いう。

(28)

9 .小柴胡湯

(しょうさいことう)

 出典 『傷寒論』、『金匱要略』

1 )傷寒五六日、中風、往来寒熱し、胸脇苦満し、黙々として飲食を欲せず、 心煩し、喜嘔(しばしば嘔すの意)し、或いは胸中煩して嘔せず、或い は渇し、或いは腹中痛み、或いは脇下痞䌤し、或いは心下悸し、小便 不利、或いは渇せず、身に微熱有り、或いは䈙する証。(『傷寒論』太陽 病中篇) 2 )傷寒四五日、身熱、悪風し、頸項強ばり、脇下満ち、手足温にして渇 する証。(同上) 3 )婦人の中風、七八日続いて寒熱を得、発作時有り、経水たまたま断つ証。 (太陽病下篇) 4 )傷寒五六日、嘔して発熱する証。(同上) 5 )陽明病、脇下䌤満し、大便せずして嘔し、舌上白苔の証。(同上) 6 )傷寒、差えて已後、更に発熱する証。(陰陽易差後労復病篇) 7 )諸黄、腹痛して嘔する証。(『金匱要略』黄疸病篇) 8 )婦人、草蓐(産牀)に在り、自ら発露して風を得、四肢煩熱に苦しみ、 頭痛する証。(婦人産後病篇附方)等。

 腹候

腹力中等度(3-4/5)。心下痞䌤、胸脇苦満 があり、ときに腹直筋拘攣を認める(腹候 )。

 気血水

気水主体の気血水。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

半表半裏証では、脈は弦、有熱時にはやや 数、有力。舌質紅、薄白苔。肝鬱化火・脾 気虚・痰湿では、舌質は紅、舌苔は白∼白膩。脈は弦軟。

 口訣

小柴胡湯は、いわゆる少陽正対の方にして、その応用範囲最も広大なり。 (奥田謙藏) ムンプスの耳下腺腫脹が消褪し難いものに、本方は著効を奏することが ある。(道聴子) 腹 候 = 腹 力 中 等 度 (3-4/5)。 心 下 痞 䌤、 胸 脇苦満があり、ときに腹 直筋拘攣を認める。

(29)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 1 )体力中等度で上腹部が張って苦しく、舌苔を生じ、口中不快、食欲不振、 時により微熱、悪心などのあるものの次の諸症:諸種の急性熱性病、 肺炎、気管支炎、感冒、胸膜炎・肺結核などの結核性諸疾患の補助療法、 リンパ腺炎、慢性胃腸障害、産後回復不全。 2 )慢性肝炎における肝機能障害の改善。 b 漢方的適応病態 1 )半表半裏証(少陽病)。すなわち発熱性疾患の経過中にみられる、発熱、 往来寒熱、胸脇部が脹って苦しい(胸脇苦満)、胸脇部痛、口が苦い、 悪心、嘔吐、咳嗽、咽のかわき、食欲がない、目がくらむなどの症候。 2 )肝鬱化火・脾気虚・痰湿。すなわち、ゆううつ感、いらいら、怒りっ ぽい、口が苦い、胸脇部が脹って苦しい、寝つきが悪いなどの肝鬱化 火の症候に、元気がない、食欲がない、疲れやすいなどの脾気虚の症 候と、悪心、嘔吐、咳嗽、多痰などの痰湿の症候を伴うもの。

 構成生薬

柴胡7、半夏5、黄䊫3、大棗3、人参3、甘草2、生姜1。(単位g)

 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説

和解半表半裏・清熱透表、疏肝解欝・補気健脾・和胃止嘔。

 効果増強の工夫

瘀血の存在する場合には適切な駆瘀血剤と合方される。 処方例) ツムラ小柴胡湯  5.0g ツムラ桂枝伏苓丸 5.0g分 食前

 本方で先人は何を治療したか?

龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より 1 )感冒・流感・チフス・ワイル氏病・麻疹・丹毒・猩紅熱・泉熱・マラ リヤ・暑気あたり・小児原因不明の熱・抗生物質を使用後高熱が下ら ぬものなど。 2 )気管支炎・気管支喘息・気管支拡張症・肺炎・膿胸・肺気腫・肺結核・ 肋膜炎など。 3 )頭痛・肋間神経痛・半身不随等で胸脇苦満を伴うもの。 4 )肝炎・胆嚢炎・胆石症・黄疸・肝機能障害等で或は発熱或は寒熱或は 無熱、或は黄疸があり胸脇苦満心下痛食欲不振嘔吐、或は神経症状あ るもの。

(30)

6 )リンパ腺炎・るいれき・扁桃腺炎・中耳炎・乳嘴突起炎・耳下腺炎・ 乳腺炎・各種化膿症等で発熱疼痛、或は食欲不振或は胸脇苦満するもの。 7 )腎炎・腎石・腎孟炎等で或は発熱、往来寒熱或は無熱で胸脇苦満、或 は浮腫するもの。 8 )急性附属器炎・産褥熱で発熱、往来寒熱し、血の道症で月経止まず、 寒熱胸脇苦満、神経症状があるもの。 9 )急性睾丸炎・副睾丸炎で発熱腫痛するもの。 10)陰部瘙痒症・いんきんたむし・霜やけ・帯状疱疹・禿頭・頭汗症等で 或は胸脇苦満、或は瘙痒不眠、或は痛むもの。 11)車酔いで嘔吐胸脇苦満、打撲で発熱胸脇苦満するもの。 12)神経質・ノイローゼ・肝積持ち・唖・どもり・不眠症・てんかん・精 神分裂症・痙攣発作など。

本方の話題

 奥田謙藏は著書『古方要方解説』で小柴胡湯を、いわゆる少陽正対の方にし て、その応用範囲最も広大なり、と述べられた。その内容と先生が昭和12年 月に『漢方と漢薬』第四巻第五号に投稿された治験例を参考までにご紹介し よう。 )熱性病、胸痛あり、時に発熱、悪寒し、心下痞䌤して嘔し、脈弦なる証。 )悪風して時に発熱し、気欝し、胸満感あり、汗出でて尿利減少する証。 )熱候無く、腹痛刺すが如く、嘔、渇ありて心煩し、脈沈なる証。 )熱性病、便秘し、時に譫語し、喘咳ありて嘔吐し、食欲無くして脈浮緊の証。 )熱性病、胸腹膨満を覚えて食を欲せず、若し食すれば嘔吐する証。 )胸部膨満感ありて心悸亢進し、時時腹痛し、其の脈沈遅なる証。 ) 発汗を行ひて後、発熱減退するも、未だ心身爽快ならず、時に腹痛甚しく、 口乾きて嘔する証。 )婦人、産後の頭痛にして、胸脇苦満を訴ふる証。 )小児、乳食を吐し、発熱する証。 10)諸種の黄疸にして、腹痛、嘔吐を発する証。 11)「マラリア」、及び其の類似疾患。 12)「フルンケル」、及び其の類似疾患にして、往来寒熱を発する証。

(31)

13) 麻疹、及び痘瘡等にして、煩渇甚しき者には、証に由り石膏を加味し、或 は白虎湯を合方す。 14)瘰癧には、証に由り石膏を加ふ。 15)腸「カタール」等には、証に由り芍薬を加味し、或は又五苓散を合方す。 16)吃逆には、証に由り橘皮竹筎湯を合方す。 17)肋膜炎等には、証に由り小陥胸湯を合方す。 小柴胡湯に似たる大柴胡湯証治験  若○四○ 三十七歳、男。  患者は、平生より胃腸の弱き方なることを自覚し、徒つて暴飲暴食等は自 から堅く戒めていた。所が咋夜誤つて肉類を多食し、夫れより本日に至るも 食物停滞の感去らず、胃部膨滿し、食欲なく、嘔気があり、噫気頻発し、時々 軽き胃痛発作があり、苦悶忍び難きに付き診察を乞うとのことである。  診するに、体格、営養共に中等の男子、脈は緊張弱くして少しく遅、舌に は微白苔を薄く衣し、能く湿潤せるも口渇があると言う。やや不快なる口臭 を感ずる。胸腹部を診するに、胃部少しく膨満の観あるも、これを按ずるに 柔軟である。更に精診するに、心下痞䌤があり、胸脇苦満がある。其他、別 に腹証として認むるものはない。便通は、今日はまだないが、平生より大抵 二日に一回ぐらいの習慣で、便はやや硬き方、尿利は著しき変化なしとのこ とである。  以上の所見により、小柴胡湯を与えんかと思つたが、かつて同様の証に対し、 小柴胡湯効なくして、つぎに大柴胡湯に転じた所、大に奏効した経験あるを 想起し、試験的に先づ大柴胡湯一日分を投じて見た。  翌日、患者欣々然として来訪し、服薬後は便通が二回あり胃部の不快感は 総て一掃したような感がある。今一度この薬を乞うとのことである。  診するに、成程薬は能く効を奏していた。よりて前方を与うること三日、 これにて快癒、体薬するに至つた。(旧字体を新字体に変更、著者)

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10.柴胡桂枝湯

(さいこけいしとう)

 出典 『傷寒論』、『金匱要略』

1 )発熱し、微悪寒し、支節煩疼し、微嘔し、心下支結して、外證未だ去 らざる証。(『傷寒論』太陽病下篇) 2 )汗を発すること多くして、亡陽し、䋫語する証。(辨発汗後病篇) 3 )心腹卒(にわ)かに痛む証。(『金匱要略』腹満寒疝宿食病篇附方)

 腹候

腹力中等度よりやや軟(2-3/5)。軽度の心 下痞䌤、胸脇苦満、腹直筋の緊張を認める (腹候図)。

 気血水

気血水いずれも関わる。

 六病位

少陽病。

 脈・舌

発熱性疾患の場合には、脈は浮弱数、舌は 淡紅舌、白苔が中等度。

 口訣

この方は、世医、風薬の套方とすれども左に非ず、結胸の類証にして心 下支結を目的とする薬なり。(浅田宗伯) 小児の体質改善の目的でひろく用いられる。(道聴子)

 本剤が適応となる病名・病態

a 保険適応病名・病態 効能または効果 発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症:感 冒、流感、肺炎、肺結核などの熱性疾患、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆のう 炎、胆石、肝機能障害、膵臓炎などの心下部緊張疼痛。 b 漢方的適応病態 1 )太陽少陽合病。すなわち半表半裏証(少陽病)に頭痛、悪風、身体痛な どの表寒(太陽病)を伴うもの。 2 )肝鬱化火・脾気虚・痰湿。 腹候=腹力中等度よりや や 軟(2-3/5)。 軽 度 の 心 下痞䌤、胸脇苦満、腹直 筋の緊張を認める。

参照

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