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高校物理とセンター試験

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 167-180)

5.3. 家庭:高校の物理履修率

5.3.2. 高校物理とセンター試験

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(主として文系志望者が購入)と上級(主として理系志望者が購入)の履修率の合計は、高 校生全体の物理科目の履修率を意味する。しかし、ケースBであれば、物理の初級(理系・

文系志望者が購入)と上級(理系志望者が購入)の履修率を足した値は理系志望者を二重に 数え上げるので、それを高校生全体の物理科目の履修率と考えると過大評価になる。

表5-1 高等学校の学習指導要領と物理科目の変遷(1963-2013)

【注】URL12、鶴岡ほか1996、物理教育実情調査研究委員会1990、村田1997、鈴木2005、

旺文社2012、増子2014、唐木1990を参考にして筆者が作成。

期 学習指導要領 物理科目

F

公示 2009 実施

2013-物理基礎/物理 告示

1978 実施 1982-1993

理科Ⅰ/物理

(ゆとり教育)

D

告示 1989 実施 1994-2002

物理ⅠA+物Ⅰ理B/物理Ⅱ

(理科2科目選択必修)

E

告示 1999 実施 2003-2012

物理Ⅰ/物理Ⅱ

(基礎、総合のいずれかと理科1科目選択必 修)

A

告示 1960 実施 1963-1972

物理Aと物理B

(普通科では理科4科目必修)

B

告示 1970 実施 1973-1981

物理Ⅰと物理Ⅱ

(選択の始まり:理科2科目選択必修)

C

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表5-1のA期(1967-1972)では、普通高校において理科4科目(物理、化学、生物、地学)

が必修だったが、B期(1973-1981)以降、理科2科目または1科目の選択になった。B期が

「選択時代」の始まりである。

(ii) 既報における高校物理の履修率の推移

図5-13に1963-2013年の高校物理科目の履修率の推移を示す。高等学校の科目履修率は

教科書の採択率から推測するしか方法がない(増子2014)。従来から「各科目の教科書の販 売総数をその年の高校生総数の1/3(1学年相当)で割った値」が用いられている(物理教 育実情調査委員会1990)。図5-13は初級物理(物理A、物理Ⅰ、物理基礎)と上級物理(物

理B、物理Ⅱ、物理)の履修率の合計《初級+上級》を◆印(細実線)で示し、上級科目の

履修率《上級》を○印(太実線)で示した。《初級+上級》が「高校生全体の物理履修率」で あり、高校生の物理学リテラシー(物理学の理解力)を推測する指標として注目されてきた。

《上級》が「理系志望高校生の物理履修率」である。

第2次ベビーブーム世代はC期のとき高校に在籍した。C期は「ゆとり教育」時代と呼 ばれ、物理・化学・生物・地学の初歩を総合的に教える必修科目「理科Ⅰ」(4 単位)の中 に1単位に相当する物理分野が含まれた(増子2014)。しかし、理科の選択科目の教科書で は「物理」、「化学」、「生物」、「地学」の4科目から1科目を選択すればよかった。さらに選 択科目の教科書には初級と上級の区別がなく、選択科目の「物理」が唯一の物理科目の教科 書だった。そのため教科書採択率から求めた「高校生全体の物理履修率」(《初級+上級》)

はA期とB期でほぼ100%だったが、選択科目の教科書が「物理」一種類だけだったC期

(1982-1993)の「高校生全体の物理履修率」は30数%に低下した。これが物理教育関係 者に大きな衝撃を与えた(唐木1990,2000)。

C 期の履修率を見積もる際に注意すべき点がひとつある。それは上述したように C 期の 選択科目の教科書は上級物理に分類される「物理」しかなかったことである。したがってC 期の教科書販売数は初級レベルの授業を行った場合を含んでいる。つまり、この教科書販売 数からもとめた履修率は「高校生全体の物理履修率」であり、従来の《初級+上級》に相当 すると解釈することが可能である。しかし、C期の教科書「物理」は上級の教科書であるか ら、A期やB期の《初級+上級》と同じではなく、また《上級》そのものでもない。この点 を考慮して図5-13のC期「物理」のプロットは●《初級+上級》でも○《上級》でもない*

とした。

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D期(1994-2002)、E期(2003-2012)では初級と上級の区別が復活し、「高校生全体の物理 履修率」《初級+上級》は50-60%だった。2013年では90%近くまで上昇した(増子2014)。

図 5-13 の履修率の算定方法や解釈に問題はあるが、「いつ高校で学んだかによって物理 学の基本的な考え方に触れる機会に違いがあり、日本国民の物理学テラシーが低下する方 向に向かっている」という大きな流れがある。これは教育政策の大きな課題である。

しかし、高校物理の履修率と物理系大学院博士課程の学生数の関係を考えるとき、実質的 な上級物理の履修率《上級》がどのように推移したかを明らかにする必要がある。その理由

図5-13 高校物理の履修率の推移(1963-2013)

【注1】学習指導要領の実施期間をA期(1963-1972);B期(1973-1981);C

期(1982-1993);D期(1994-2002);E期(2003-2012);F期(2013-)と表示した。図にFは表記

しなかった。【注 2】△と二重線(=)は初級物理《初級》、○と太実線(━)は上級物理《上 級》、◆と細実線(─)は初級物理と上級物理の合計《初級+上級》である。プロットが飛ん でいる期間は破線で結んだ。【注3】*はC期の選択「物理」である。C期のプロットは前 後の期と線で結ばず独立させた。【注4】「 」内は科目名(A期は必修科目、それ以外は選 択科目)である。【注5】履修率の出典は以下の文献である:唐木1990、物理教育実情調査 研究委員会1990、鶴岡1994、村田1997、唐木2000、江澤2001、鈴木2005、旺文社2012、

増子2014。

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 2011

高校物理の履修率/ ‐

西暦

「 物 理Ⅰ」

《 初級》 「 物 理Ⅰ」

「 物 理 」

「 物 理A」

「 物 理B」

《 初級+上級》

「 物 理Ⅱ」

「 物ⅠA+物ⅠB」

「 物 理Ⅱ」

「 物 理Ⅱ」

「 物 理 基礎」

「 物 理 」

《 上級》

A B C D E

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は2つある:ひとつ目は「初級物理を履修率した高校生群」の生徒が物理系大学院博士課程 に進学する可能性は非常に低いことである。ふたつ目は理系志望高校生のほとんどが「上級 物理を履修した高校生群」であると考えられることである。

物理系大学院博士課程を志望する高校生のほとんどが「上級物理を履修した高校生群」に 含まれるとすれば、大学院博士課程学生数の増減に影響を与えるのは《初級+上級》(高校 生全体の物理履修率)の変動ではなく、《上級》(図5-13の○と太実線)、すなわち「理系志 望高校生の物理履修率」の変動である。

(iii) 物理系予備群:上級物理を履修した高校生群

本研究では「上級物理を履修した高校生群」を「物理系大学院志望予備群」(以下、略し て物理系予備群)と呼び、生徒数に対する「物理系予備群」の比率は上級物理の履修率に等 しいと仮定する。興味深いことに、B期、D期(いずれも理科2科目が選択必修)とE期

(理科1科目が選択必修)の3期における上級科目「物理Ⅱ」の履修率《上級》は15%前 後でほぼ同じであった。生徒数と履修率《上級》の値からB期とD期、E期の「物理系予 備群」の人数を求めることができる。

重要なことは、A 期とC期の上級物理の履修者には物理系予備群以外の高校生が含まれ ている可能性があることである。A 期では理科 4 科目が必修であり、見かけの《上級》は 30数%であったが、上級物理(「物理B」)の履修者には物理系以外の理系志望者(化学系、

生物系、医学・薬学系、農学系の予備群)が混在していたと考えられる。また前述したよう に文系志望者が上級物理「物理B」を購入することもあった。C期では理科1科目が選択必 修で、選択科目の教科書には上級と初級の区別がなかった。C期の選択科目「物理」の履修 率はA期の「物理B」とほとんど同じであり、B期やD期の《上級》と比較すると2倍以 上(30 数%)もあった。これらを勘案すれば、C 期の選択「物理」の履修者がすべて物理 系予備群とは考えにくい。

唐木(1990)は、通常の履修率(教科書の需要数を生徒数の1/3で割った値)を「履修率 α」と名づけ、C期(1982-1993年)において選択「物理」の「履修率α」がA期やB期の

《初級+上級》(いずれも「履修率α」)と比較して急激に低下した事実を危機的事態と捉え て、1990年の時点で詳細に検討した。当時の物理教師の最大の関心事は「必修『理科I』を 学んだ生徒の何%が物理を選択するだろうか?」だったと述べている(唐木 1990)。そして 必修「理科I」の教科書需要数に対する選択「物理」の教科書の需要数の割合を「履修率β」

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として求め、1984-1989年のあいだにβが24.1%から22.9%に減ったと報告した。さら に必修「理科I」の教科書には2分冊のものが何種類かあるため教科書需要数は実際の履修 者数より多く、βは大きめになると指摘し、「理科I」の全ての教科書の総需要数と2分冊の 教科書の種類数(2分冊で1種類)、全ての教科書の種類数から「理科I」の学習者数を予測 し、補正β値を求めた。唐木(1990)は、補正β値は31.8%(1989年の必修「理科Ⅰ」の 学習者数は207万人、それに対する選択「物理」の教科書需要数の割合)でα値(30数%)

より小さく、β 値(23~24%)より大きかったと述べている。しかし、唐木が求めたC 期 の補正β値もB期、D期、E期の《上級》(10数%)の約2倍であり、前後の期と比較し てC期の《上級》だけ突出して高くなる。この補正β値をC期の《上級》相当値とするこ とは妥当ではないと筆者は考える。

当時の物理教師が「必修『理科I』を学んだ生徒の何%が物理を選択するか」に関心があ ったという記述に注目すべきである。これは、当時の多くの物理教師が選択「物理」を理系 志望者が学ぶ上級科目として認識していたと同時に、A期の初級科目「物理A」あるいはB 期の初級科目「物理I」のように物理学リテラシーを涵養する教養的物理科目としての役割 を選択「物理」に期待していたことを意味する。つまり、当時の物理教師が選択「物理」の 履修率の比較対象としてA期やB期の《初級+上級》を想定していたと考えられる。これ は選択「物理」の履修者にA 期の「物理B」と同様に物理系以外の理系志望者が含まれて いた可能性を示唆する。A期「物理B」とC期「物理」の履修率がいずれも30数%でほぼ 同じであった事実はこれを支持する。

(iv) C期の物理系予備群の比率

C期に長野県内の高等学校で物理の教師をしていた武井統氏にインタビューした(2016.

5.3)。武井氏からつぎの証言を得ることができた:C期の長野県内の多くの普通高校では

文系・理系を問わず全員に4科目を教えていた。これらの高校では物理(上級)の教科書を 理系・文系の区別なく使い、文系志望者は物理の前半部分を履修していた。理系は全体の半 分ぐらいと考えて良いだろう。職業高校の事情はわからないが、教科書販売数から求めた履 修率の約半分が理系志望者に相当すると考えてよいだろう。

B期、D期、E期では上級物理の履修率《上級》は15%前後であった。また武井氏の証 言によれば、C期の「物理」の教科書販売数から求めた履修率(35%)の約半分が理系志望 者に相当すると考えられる。この証言に基づいて計算したC 期の「物理系予備群の比率」

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