2.4. 社会におけるサイエンス型産業の位置づけ
2.5.6. サイエンス型産業の位置づけ
家庭から大学へ向かう人の流れは、子供の大学への進学である。図2-8にこの流れを実線 矢印で示す。図2-8は以下の手順で描いた:図2-5と図2-7を繋ぎ、家庭から大学へ向かう 人の流れを描き、図 2-4 の円環を完成させたあと、大学を経由して企業へ向かう人の流れ
(実線矢印)と企業から家庭へ向かう知識の流れ(破線矢印)を描いた。このとき大学から 企業へ流れる知識(論文)と企業の研究以外の役割(技術開発と生産・販売)を省略した。
図2-8は「知識と人」社会循環モデルにおけるサイエンス型産業の位置づけを明確にした 図になっている:「サイエンス型産業に属する企業は、家庭と大学が育てた人を受け入れ、
大学が生み出した知識を具体的な製品・サービスとして実現し、社会へ提供する拠点であ る」。企業を起点にしてこの図の矢印を辿ると、企業から流れ出た知識が家庭で人に乗り移 り、大学を経由して企業に返ってくる「知識と人」の循環が見えてくる。
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図2-8 「知識と人」社会循環モデルにおけるサイエンス型産業の位置づけ
【注1】実線矢印は家庭から大学を経由して企業へ向かう人の流れ、破線矢印は企業から
家庭へ向かう知識の流れ。【注2】大学から企業へ向かう知識の流れと企業内の技術開発と 生産・販売の役割は省略。
家庭
子供 大学生
修士院生 研究者
大学
研究者 企業 博士院生
研究員
製品/特許/
論文
製品/特許 評判/記事
41 社会システム理論の考え方:先行研究の検討
本章(3章)は理論編の後半である。本章では、サイエンス型産業の企業の機能と社会構 造との関係の整合性を図るために「社会システム理論」の機能-構造主義の基本を理解する。
最初にコミュニケーションと機能システムなど「社会システム理論」を構成する主要な要素 の考え方を把握したうえで、「知の進化」の源泉である知識生産のプロセスである「知識シ ステム」の作動原理について考察する。この考察は、第7章で「知識と人」社会循環モデル の機能に焦点を当てた議論を進める際の理論的基盤となる。
3.1. 「知識と人」社会循環モデルと社会システム理論の関係
科学・技術が高度に発達した現代社会では、すべての人と組織が科学・技術の恩恵に与っ ている。したがって、「科学・技術はどうあるべきか」や「私たちは科学・技術とどのよう に関わるか」を問うことは、社会を構成するすべての組織とその構成員である私たちにとっ て共通の課題である。
「科学・技術が社会を支える」というとき、「科学・技術が快適で物に囲まれた豊かな暮 しを提供する」という物質的な意味だけではなく、「科学が知識を創り、知識が人を育てる」
という精神的な意味を含む。前者は科学の成果によって発達した技術から派生した物やサ ービスの提供に関わる具体的な活動であり、後者は新しい知識を創造することや社会に知 識を広め、人を育てることなど知識自体に関わる抽象的な活動である。
物質的で具体的な活動は目で見て手に取るなど身体で感じることができるが、精神的で 抽象的な活動は見ることができない。「科学・技術の発展」がもつ物質的な意味を「身体的 な活動」と呼ぶならば、「科学・技術の発展」の精神的な意味は「知的な活動」と呼ぶこと ができる。私たちが科学・技術に支えられた現代社会をより良く生きるためには、科学・技 術の知的な活動のあり方により多くの意識を向けなければならない。
第 2章では、この知的な活動を理解するために3 つの主体が構成する社会の構造に着目 し、その構造の中を「知識」と「人」が循環することで各主体が機能を果たすという構造-機能主義的な考え方に基づいて「知識と人」社会循環モデルを提案した。
本研究の第3の目的は、3つの主体のあいだを「知識と人」が循環する様子を社会の構造 と機能の両面から不偏的に分析し、科学・技術の発展における物質的で具体的な身体的活動 と精神的で抽象的な知的活動が行われる実態を明らかにすることである。ドイツの社会学
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者ニクラス・ルーマンが提唱した「社会システム理論」(Luhmann 1984=1993,1984=1995)
は社会の機能に着目した分析である。第3の目的を果たすために「社会システム理論」を援 用する。第 7 章において、社会システム理論の視点で社会循環モデルが提示する動的構造 を各主体における機能の対等な相互作用に落とし込み、機能が発現するメカニズムを検討 する。これにより社会における「知識と人」の好循環を支配する機能的要因を明らかにする。
3.2. 「社会システム理論」の基本的な考え方