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経済循環モデル

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 39-48)

2.4. 社会におけるサイエンス型産業の位置づけ

2.4.1. 経済循環モデル

図2-1に代表的な経済循環図(石井・西條・塩澤1995:13)を示す。経済循環には家計

(消費者)、政府、企業の3つの経済主体が存在する。図2-1は、生産要素・用役市場と生 産物・サービス市場に着目した図である。生産要素・用役市場では、消費者は企業に労働力 を提供して賃金を受け取り、企業は労働力を用いて生産物を生産する。生産物・サービス市 場では、企業は消費者に生産物を提供して代価を受け取り、消費者は代価を支払って、生産 物を消費する。

このように経済循環モデルでは、家計と企業の 2つの市場における2つの交換関係を提 示する:(1)家計が提供した労働力が賃金として家計に還流すると同時に、(2) 企業が提供 した生産物が代価として企業に還流する。経済循環では、私たち個人は労働力を提供して 賃金を受け取り、代価を払って生産物とサービスを消費する「消費者」(家計)として描か れている。経済循環モデルは労働力と生産物・サービスの流れとして個人と企業のあいだ の循環構造を捉える。市場のなかでこの交換関係が形成される。

2つの交換関係は、見方を変えれば家計と企業のあいだの二重の循環構造である:1つ目 の循環は、家計が提供した労働力・投資が企業において生産物・サービスになり、家計へ 還る。2つ目の循環は、家計が支払った代価が賃金・利子・配当として家計へ還る。

しかし、経済循環モデルでは、個人と政府あるいは企業と政府のあいだで交わされる税金 の支払いと公共財・サービスの流れは市場を形成すると考えない。混合経済体制を基調とす る資本主義社会では政府の市場介入は部分的に制約される。経済循環モデルは消費者(家計)

と政府の関係は税金を介した公共財・サービスの提供という補助的な流れで捉える。そのた め図2-1の中段には破線の囲み枠(市場を意味する)が描かれていない。

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2.4.2. 「知識と人」の流れ:家庭・学校・企業のあいだの交換関係

知識は非競合性と非排除性という公共財と共通する特性をもつ (小田切 2010:196)。図 2-1の中段(市場の枠外)に示された政府から企業へ向かう公共財・サービスが「知識」の 流れとして見えてくる。具体的な一つの例は国公立大学が発表する学術論文である。政府か ら家計へ向かう公共財・サービスの一つの例は公立学校における学校教育である。

企業は経済循環において経済活動のひとつの主体である。企業は市場で労働力(従業員)

と資金を調達して、生産物・サービスを提供し代価を得ることで賃金を支払う。しかし、企 業の活動はこれだけではない。「知識」あるいは「知識を備えた人」の流れの視点で経済循 環図を見ると、企業から家計へ向かう生産物・サービスは、企業が外部から取り入れた「知 識」を企業の内部で生産物やサービスに変換し、企業の外へ送り出した「知識」の流れであ る。具体的な例は企業が製造し、市場に提供した製品やサービスである。多くの場合、製品 やサービスには知財としての特許あるいは研究成果としての論文が付随するので、企業か ら家庭へ向かう「知識」は製品と特許と論文である。これを「製品/特許/論文」のように

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対で示す。家計から企業へ向かう労働力は従業員であり、「知識を備えた人」の流れとして 見えてくる。

経済活動の主体である家計も同様である。経済循環における家計は、市場で企業に労働力

(従業員として)と資金(投資家として)を提供して企業から賃金と利子・配当を得て、企 業から購入した生産物・サービスの代価を支払う。さらに市場の外で政府から「知識」とし ての公共財・サービスである学校教育を受け取る。家計から企業へ向かう労働力は「知識を 備えた人」の流れであり、企業から家計へ向かう生産物・サービスは「知識」の流れである。

さらに「知識と人」(以降「知識」と「人」をまとめてこのように記す)の視点で経済循 環図を見直すと、この図に描かれていない「知識と人」の流れが見えてくる。図2-1中段に 描かれた市場の枠外に置かれた政府から家計に向かう「公共財・サービスの交換」の具体的 な中味を「知識と人」の流れとして考えると、サービスとして政府(公立学校、国公立大学)

が提供する学校教育(知識)と経済循環図には描かれない教育を受ける子供(人)の流れが 見える。また政府と企業のあいだの「公共財・サービス」の具体的な中味として、政府(国 公立大学、国立研究機関)が発表する学術論文(知識)と経済循環図には描かれない大学か ら企業へ向かう就職者としての卒業生(人)の流れが見える。

図 2-2に経済循環図の市場の枠外(図2-1中段)における3つの主体(家計、政府、企 業)のあいだの交換関係を「知識と人」の視点で見直した結果を示す。この図は「知識と人」

の流れを表すので、3つの主体の呼び名を「人」の集合である「家庭」と「学校」と「企業」

に置き換えた。政府を学校(小学校~大学院)に置き換えたのは、学校は国民が納めた税金 と授業料等をもとに初等教育から高等教育を提供し、人を社会の諸活動を担う素養を備え た一人前の社会人に育て上げ、「知の進化」の出発点となる論文を発表する役割をもつ機関 であり、「知識と人」の流れに関与する主体として相応しいと考えたからである。

家庭と学校のあいだには、家庭から学校へ進学する子供(人)と学校が家庭に提供する責 任のあいだに交換関係があると考える。責任とは「子供を生徒・学生として受け入れ、社会 における様々な活動を担う素養を備えた一人前の社会人に育てる責任」である。図では責任 aとして示す。すなわち、家庭と学校のあいだには、“子供(人)-責任a(社会人育成)”

と“税金-公共財・サービス(教育等)”の2つの交換関係が存在する。ここで税金は授業料 等を含む家庭が負担する支出を代表する。

企業と学校のあいだには企業が学校に提供する責任と学校の卒業生が企業へ就職する人 の流れのあいだに交換関係があると考える。責任とは「卒業生を従業員として受け入れて安

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定した職を提供する責任」である。図では責任bとして示す。すなわち学校と企業のあいだ には、“卒業生(人)-責任b(採用)”と“税金-公共財・サービス(論文等)”の2つの交 換関係が存在する。ここで税金は企業が負担する支出(寄付金や委託研究費等を含む)を代 表する。

サイエンス型産業の特徴を探るポイントは「サイエンス型産業の技術の進展がどのよう にして科学へ伝わるか」である。企業から流れ出る「知識」によって技術の進展が伝わると 考えれば、それはサイエンス型産業の企業が発表する学術論文である。しかし、図2-2には サイエンス型産業の企業が発表する「知識」としての学術論文は描かれていない。これは経 済循環図では論文を経済財あるいはサービスと見なさなかったためであると考えられる。

科学研究を主体的に行なう大学とサイエンス型産業のあいだで知識を共有することが重 要であるという立場で本研究を進めて、企業から流れ出る「知識」としての論文について今 後の考察で検討する。

図2-2 家庭・学校・学校・企業のあいだに存在する交換関係

【注1】責任a(社会人育成)は学校が子供を一人前の社会人に育てる責任を意味する。家

庭はそれと引き換えに学校に子供を託す。【注2】責任b(採用)は企業が学校に対して卒業 生に安定した職業(責任をもって卒業生の受け皿となる)を提供する責任を意味する。学校 はそれと引き換えに企業へ卒業生を送り込む。

学 校 家

企 業

公共財・サービス(教育)

税金 子供(人)

責任a(社会人の育成)

卒業生(人)

責任b(採用)

税金 公共財・サービス

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2.5. 「知識と人」社会循環モデルの提案

2.5.1. 3主体の間に存在する交換関係

図 2-3 に経済循環図の 3主体間における経済財の交換関係を「知識と人」の視点で見直 した結果を示す。一部の経済財を「知識と人」に置き換え、さらに市場の枠外における「人 の流れ」とそれに伴う「受け入れ責任」との交換関係を付け加えた。その結果、経済循環図 の3つの主体(家計、政府、企業)は、それぞれ家庭、学校、企業となり、2要素の交換関 係を1組としたとき、3主体のあいだに6組12要素の交換関係が存在した。

この図は経済循環図の3主体を引き継いでいるうえに、経済活動に含まれない 3主体間 の「知識と人」の交換関係を含む。すなわち、図2-3 は社会を代表する3主体の間に存在 する「知識と人」の交換関係を集約する図である。

図では1組となる2要素を2本の円弧矢印を挟んで左右または上下に配置した。例えば、

図の左下の[賃金]と[人](労働力)が1組となる2要素である。6組12要素の交換関係は以 下の通りである:(1) 家庭と学校のあいだには【教育と税金】と【人(子供)と責任a】;(2) 学校と企業のあいだには【知識(論文)と税金】と【人(卒業生)と責任b】;(3) 企業と家 庭のあいだには【知識(製品/特許/論文)と代価】と【人(労働力)と賃金】。

ここで責任aとは「学校が子供を生徒・学生として受け入れ、一人前の社会人に育てる責 任」であり、責任bとは「企業が卒業生を従業員として受け入れ、安定した職を提供する責 任」である。また論文は製品や特許と同様に企業の研究・開発の成果であり、その経費は製 品の代価に含まれていると考え、企業から家庭へ向かう知識を(製品/特許/論文)とした。

(製品/特許/論文)は、製品やサービスには知財としての特許あるいは論文の研究成果が 付随していることを意味する。

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