4.3. 日本の論文数の推移
4.3.2. 代表的な 10 分野の論文数:Web of Science の「研究分野」を用いた分類
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85 a. 論文数の増減の全体像
1975-2014年に出版された論文数の合計(以下、総論文数)が多い順に物理学、化学、工
学、生化学・分子生物学、物質科学、薬理学・薬学、神経科学・神経学、腫瘍学、細胞生物 学、高分子科学である。それぞれの総論文数は以下の通りである:物理学(約344,000報)、
化学(約300,000報)、工学(約179,000報)、生化学・分子生物学(約160,000報)、物質
科学(約154,000報)、薬理学・薬学(約93,000報)、神経科学・神経学(約87,000報)、
腫瘍学(約62,000報)、細胞生物学(約58,000報)、高分子科学(約44,000報)。
前項と同様に、10 研究分野を 2000 年代に論文数が停滞あるいは減少した研究分野(A 群)と増加を続けた研究分野(B群)に分けたところ、B群に入ったのは腫瘍学だけであっ た。腫瘍学は1975年から2000年まで増加を続け、2000年代前半に停滞したが、2010年
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代に入って増加した。2000年に約2,500報弱だった論文数が2014年に2,900報強になっ た。これは約19%の増加である。
残りの9分野はA群であり、2000年代に論文数が減少ないしは停滞した。2014年の論 文数とそれぞれの最高値を比較して、2014年における最高値からの減少率を求めた。
論文数が最も多かった年とその値、減少率(▲)は以下の通りである:物理学(2003年、
約14,500報、▲22.9%)、化学(2005年、約10,800報、▲4.3%)工学(2006年、約6,900
報、▲7.1%)、物質科学(2004年、7,400報、▲15.4%)、生化学・分子生物化学(2004年、
約5,900報、▲30.3%)、神経科学・神経学(2000年、約3,600報、▲6.2%)、薬理学・薬
学(2000年、約 3,200報、▲18.3%)、細胞生物学(1999年、約2,400 報、▲24.2%)、
高分子科学(2003年、約1,900報、▲37.8%)。
減少率が高い順に並べると、減少率が10%以上であった分野は、第1位が高分子科学、
第2位が生化学・分子生物学、第3位が細胞生物学、第4位は物理学、第5位が薬理学・
薬学、第6位が物質科学であった。2000年前後から論文数が減少したこれらの分野を物理 学タイプと呼ぶ。
減少率が10%以下であった分野は、第7位が工学、第8位が神経科学・神経学、第9位
が化学であった。2000年代に論文数が停滞したこれら3分野を化学タイプと呼ぶ。
b. 研究分野ごとの論文数の推移:物理学タイプと化学タイプ
物理学の論文総数は10分野の中で最も多い。物理学の年間の論文数は、1975年から1986 年までは化学に次いで第2位であったが、1987年に化学を抜き、2014年まで第1位であ った。特に1987年から2003年までの論文数の伸びは著しく、1987年に年間およそ6,000 報だった論文数が2003年には年間15,000報に迫る勢いであった。1987-2003年の17 年 間で年間の論文数は約2.5倍になった。ところが、物理学の論文数は2004年から急に減少 し始め、2014年には年間約11,000報になった。これは1996年の年間論文数と同じレベル である。
物理学タイプの物質科学、生化学・分子生物学は物理学と同様に総論文数が15万報以上 あり、日本のサイエンス型産業を支えてきた基幹科学である。しかし、物理学、物質科学、
生化学・分子生物学の3分野の年間の論文数は2003年前後を境に減少に転じた。
化学(総論文数約 30 万報)もサイエンス型産業の一翼を担う基幹科学のひとつである。
化学の論文数の推移は物理学と異なった。化学の年間論文数は1975年から1999年までほ
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ぼ単調に増加した。1975年に年間約3,000報だったが、1999年に年間約10,000報になっ た。この年から化学の年間論文数は 2014 年に至るまで僅かな増減を繰り返しながら概ね
10,000報前後であった。化学タイプの工学、神経科学・神経学の論文数も2000年代に増え
ずにほぼ停滞した。
日本の科学・技術を先導してきた物理学の論文数が急減したことは、日本の科学・技術の 動向を象徴する注目すべき現象である。化学の論文数は物理学のように大きく減少するこ となくほぼ停滞した状態であった。研究分野により論文数の変動に違いがあるという事実 は、論文数の変動は大学あるいは学界だけに閉じられた問題ではなく、産業界を含む社会全 体の様々な要因が影響していることを伺わせる。