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コミュニケーションと機能システム

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 61-66)

3.5.1. コミュニケーション

a. 一般的な理解

『ブリタニカ国際大百科事典』(ギブニー 1995:7-407c)では「コミュニケーション」は つぎのように説明されている:

異なった個体の間で、あるものを仲立ちとして、共通なものがつくられる過程のこ とをいう。コミュニケーションを定義するには、少なくとも 3 つの項目、すなわち

(1)コミュニケーションするもの(コミュニケーション主体)、(2)コミュニケーシ ョンされるもの(コミュニケーション対象)、(3)コミュニケーションを媒介するも

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の(コミュニケーション・メディア)が必要である。

この説明のあとに3つの項目に関する解説がある。それぞれの要点はつぎの通りである:

(1) コミュニケーション主体は通常、動物や人間のような「意識」をもつ生物であ るが、物質、物体、場所といった無生物もコミュニケーションの「主体」とみ なされる場合もある。

(2) 相互に共有される「共通なもの」(コミュニケーション対象)は、内面的ある いは観念的なものばかりでなく、直接目で見て確認することのできるような、

外面的あるいは行動上の特性である場合も多い。

(3) 表情、身ぶり、音声、言葉、文字、鉄道、電話、DNA、蛋白質、ホルモン等々、

多種多様なコミュニケーション・メディアは異なった個体がある共通なもの を共有し合うことを助ける、という1点で同じ性質を示す。

そしてコミュニケーションは「私たちのものの見方によって生成してくる事柄である」と 規定し、「一連の過程が、『コミュニケーション主体』、『コミュニケーション・メディア』、

『コミュニケーション対象』の 3 項目に分解され、それらが時間の経過のなかで総合化し てくものとして再構成されるとき、コミュニケーション現象は成立する」とまとめている。

b. 社会システムにおけるコミュニケーション:位相空間への投影

ルーマンは、社会システムはコミュニケーションの連鎖で構成されており、システムの内 と外は境界により明確に区別されると捉えた。Kneer and Nassehi(1993=1995:44)はル ーマン理論の特徴を簡潔にまとめた:

社会システムとは互いに指示し合う社会的行為の連関のことである。多数の人の 行為が互いに結合されるときには、いつでも社会システムないし行為システムが成 立し、それは環境から区別される。互いに意味を指示し合うすべての行為は、それぞ れの社会システムに属し、そうしたそれぞれの意味連関への関係を欠いている他の すべての行為は、システムの環境に属する。

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ここで「互いに指示し合う社会的相互行為」がコミュニケーションのことであり、「連関」

は連続的な関係、つまり「連鎖」と置き換えて読むことができる。人は社会的行為の主体で あっても社会的行為そのものではないから、システムの外(環境)に置かれる。

「社会システム理論」を理解するうえで重要なことは、主体が存在する世界と主体が行な う社会的行為そのものが存在する世界が異なることである。社会的行為の主体、(例えば人)

は実空間に存在するが、社会的行為そのもの、すなわち社会的行為の機能(あるいは働き)

は位相空間20に存在する。主体が社会的行為を実行する姿は社会的行為の機能(あるいは働 き)ではない。

実空間と位相空間の関係は「実空間の構造を位相空間へ投影すると機能が現れる」と考え ればよい。さきほどの引用の冒頭の一文は「社会システムは実空間に存在する社会を位相空 間へ投影して見えるコミュニケーションの連鎖である」という意味である。

c. コミュニケーションの3要素とコミュニケーションの連鎖

図3-2にコミュニケーション(上図)とコミュニケーションの連鎖(下図)のイメージを 示す。上図に示すように、コミュニケーションとは、複数の主体(主体A と主体 B)のあ いだで「相互調整的に創発する出来事」であり、「ある“情報”が主体Aから何かの意図を もって“伝達”された、と主体Bに“理解”された」ときに創発する出来事のことである。

主体Aが情報をもち、ある意図をもって情報を伝達(発信)し、主体Bが主体Aの情報を 理解したとき、コミュニケーションが成立する。「情報、伝達、理解」をコミュニケーショ ンの3要素21と呼ぶ。下図は、社会システムが社会の構成要素であるコミュニケーションを 産出するイメージである。一つのコミュニケーションがつぎのコミュニケーションを創発 し、それが繰り返されてコミュニケーションが連鎖的に創発される。

20 位相空間についての詳しい説明は3.6.2.を参照。

21 「コミュニケーションの3要素」は3.5.1aで述べた「コミュニケーションの3項目」

とは異なる。コミュニケーションの3項目は、コミュニケーションの構成的要素であり、

コミュニケーションの3要素はコミュニケーションが成立するための機能的要素である。

情報を発見、創造、発想などと言い換えれば、3要素の機能的側面が際立ってくる。

51 3.5.2. コミュニケーション・メディア

a. コミュニケーションにおける理解・伝達・成果の不確実さ

コミュニケーションを媒介するもの、コミュニケーションの連鎖に寄与するものを「コ ミュニケーション・メディア」と呼ぶ22。ルーマンは、コミュニケーションが立ち現れる とき、3つの不確実さがあり、それぞれに対応して不確実さを確実さに変換させる機能と してメディアと名づけた(Luhmann 1984=1993:252)。

第 1 の不確実さは、自我他我が何を考えているのか理解することの不確実さである

(Luhmann 1984=1993:248)。第2の不確実さは、コミュニケーションの空間的および 時間的なひろがりのうちに存在しており、受け手へのコミュニケーションの到達すること の不確実さである(Luhmann 1984=1993:249)。第3の不確実さは、その成果の不確実 さ、すなわち「コミュニケーションがその人まで到達して、その人に理解されるとしても、

22 一般的な理解におけるコミュニケーション・メディアと同じである。

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コミュニケーションが受容されて、それに従われるかどうかはなお確実ではない」

(Luhmann 1984=1993:250)。

b. 不確実さを克服する3つのメディア

コミュニケーションにみられる3つの不確実さに対応して、3つの異なるメディアが区 別される。ルーマンは、①言語、②コミュニケーションを拡充するメディア、③シンボル に よ っ て 一 般 化 さ れ た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ メ デ ィ ア と 名 づ け た (Luhmann 1984=1993:252-254)。

言語はコミュニケーションの相手が何を考えているのかを知ることを可能にしてくれ るメディアである。自然言語はもちろん、ボディ・ランゲージや芸術表現なども含む広い 意味での言語である。

②の例は文書、印刷、無線通信である。これらは、時間や空間を超えてコミュニケーシ ョンが成立することを可能にしてくれる。本研究では②を流布メディアと呼ぶ。

③の例は真理、愛、所有権/貨幣、権力/正義などである。本研究では③を象徴メディ アと呼ぶ。象徴メディアは、生じたコミュニケーションが受け入れられる可能性を高める メディアである。これによりコミュニケーションが単発で終わらずに、つぎのコミュニケ ーションへ接続されてコミュニケーションの連鎖が起こる。

3.5.3. 機能システム

経済、法、科学、政治、宗教、芸術、教育、マスメディアなどの領域には、特定の3要 素のバリエーションがある。井庭(2011:23-33)は、それぞれの領域に存在する機能シス テムの特徴について要点を説明し、機能システムの複合体としの現代社会の姿を提示して いる:

 コミュニケーションの 3 要素の連鎖は、社会において固有の機能を担う独自の機能 システムを形成する。たとえば、経済領域には希少価値を減少させるという機能を担 う経済システムが存在し、科学領域には新しい知識を生産するという機能を担う科 学システムが存在する。

 各機能システムは自律的に動いており、他のシステム等から「他律的」に制御される のではなく、そのシステム独自の論理に従って動いている。経済は経済の論理で動き、

53 政治は政治の論理で動いている。

 個々の機能システムは自律的に動いているが、孤立しているわけではなく、お互いの 機能を前提として動いている。社会は複数の機能システムが並列的に存在し、それら が自律的に動きながらも相互に依存し合っている機能システムの複合体である。

 このような機能システムの水平的な配置と相互依存関係が現代社会の姿である。

そして井庭(2011:33)は機能システムの機能が不全に陥る影響について「どの機能シ ステムも、そのシステムが担うもの以外の機能がどこかで満たされていることを前提とし ているため、どれかひとつでも機能システムが機能不全に陥り、破綻したとすると、それが 社会全体に及ぼす影響は計り知れない」と述べている。機能システムは個別の領域において 独自の論理で作動し自律的で並列的に存在しているが、孤立しているわけではなく相互に 依存し合いながら複合体“現代社会”を形成する。

ひとつの機能システムの不全はその領域の問題に留まらず、ほかの機能システムの不全 を引き起こし、社会全体の不全に発展する可能性がある。この認識に立つことが本研究で

「社会システム理論」を援用する意図である。

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 61-66)