2.4. 社会におけるサイエンス型産業の位置づけ
2.5.4. 研究者の育成
大学と企業では研究者が科学・技術分野の研究を行う。そして大学、企業は独自に研究者 を育成する仕組みを備えている。15 図2-5に大学と企業における研究者の育成経路と大学 から企業への人の流れを示す。AからHは育成の対象者を示す。
15企業は別に技術開発や生産・販売に従事する従業員を育成する仕組みも備えている。
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1 から 4 は経路の分岐点または合流点である。大学では大学研究者(E;教授、准教授、
助教、講師、博士研究員)と博士院生(C)が論文を作成する。企業では企業研究者(H)
と企業研究員(G)が論文と特許を作成する。この図は人の流れだけ示している。
a. 大学における研究者の育成と人の流れ
大学に入学した学生は学士課程(A;大学生)、修士課程(B;修士院生)、さらに博士課 程(C;博士院生)で学ぶ。AとBは大学と大学院における教育の対象者であり、Cは大学 院の教育の対象者であるが、大学で行なわれる研究に参加して研究者としての訓練を受け る。Cは博士論文を提出して審査に合格すると博士号が授与され、課程博士(D)となる。一 部のDは大学研究者(E)になる。これが大学における研究者の育成経路である。
b. 企業における研究者の育成と人の流れ
経路(D→4→3→H)を通って企業に就職したDは企業研究者(H)になる。大学から企 業へ向かう2つの経路(A→1→FとB→2→F)を通って、AとBが企業に就職してFにな る。企業には研究員の育成経路が2つあり、いずれも企業研究員(F)から始まる。
(i) 論文博士:企業内研究に依拠する研究者育成
1 つ目の研究者の育成経路は企業内における研究成果に基づいて論文博士になる経路で ある:F→G→H。企業研究員(F)は業務として行なった研究の成果を企業の許可を得て、
学会で発表し、学術論文として発表することがある。多くの場合、研究組織の上司である企 業研究者H(博士号保持者)が指導に当たる。企業研究員が上司と相談して研究成果を博士 論文としてまとめ、大学の論文審査を経て論文博士となることがある。この場合、博士論文 の審査は大学が行なうが、研究員の指導は企業の研究者(博士号保持者)が日常の業務の中 で行ない、企業は研究成果を論文として発表する。
1970-1980年代には、企業内に研究者を自前で育てるこの育成経路が存在した。筆者が知
る限りでは制度化された育成経路ではなかったが、この育成経路の存在は修士卒あるいは 大学卒の研究員が研究業務に取り組むうえで大きな動機づけであった。
図 2-6に日本の理系専攻の博士論文数の推移(1975-2012)を示す。1980年代末まで論 文博士の授与数は 60%台で推移しており、課程博士の授与数を越えていた。日本が高度成 長を遂げた1970-1980 年代に多くの企業研究員が論文博士になり、民間企業の研究機関で
37 研究者として活躍したことが判る。
ところが1990年頃から課程博士号の授与数が増加し始めた。博士課程の定員増やポスド ク1万人計画が実施されたためと推察される。一方、論文博士号の授与数は1995年にピー クとなり、1996 年に論文博士の論文数は博士論文全体の 50%を割り、急速に減少した。
2012年では博士号授与数全体の約15%になった。この事実は2000年代が進むに連れて企 業研究員の世代交代が進み、企業の自前の研究者育成の経路が徐々に消滅したことを示唆 している。
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(ii) 博士課程への社会人入学
2つ目の研究者の育成経路は大学の研究者育成経路を経由する。企業から大学へ向かう経 路F→C(点線矢印)を通って一部のFが大学院博士課程に入学し、社会人学生(博士院生、
C)となる。企業研究員Fは博士課程に在籍して大学研究者のもとで研究の指導を受け、博
士論文の審査に合格するとDになり、経路(D→4→3)を通って企業に戻り、Hとして企 業内で研究に従事する。
論文博士の減少と並行して大学院の社会人入学制度が整備され、企業研究員が社会人学 生として博士課程で博士号を取得する例が増えた。これによって従来から民間企業にあっ た自前の博士育成経路(F→G→H)は徐々に機能しなくなったと考えられる。