5.2. 日本の物理論文数の推移:所属機関の影響
5.2.4. 物理産業の経営環境
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1980年代後半から2010年代初めまでの物理系企業の経営環境を振り返ると、業界全体 が成長から停滞、そして後退にいたる大きな変動の山が見える。
注目すべきことは、第Ⅱ期(1991-2000:バブル崩壊のあと2000年まで)の売上高と 付加価値額が減少しなかったことである。これはバブル崩壊に物理系企業が経常利益を低 下させながらも、一定の企業活動を継続した証である。
第Ⅰ期~第Ⅳ期における論文数と学生数(物理学専攻の修士課程・博士課程の志願者数 と入学者数)の変化は下のように整理することができる。しかし、物理学専攻の修士課 程・博士課程の志願者数と入学者数の推移から企業活動と学生の進学状況の関係を読み取 ることはできない:
第Ⅰ期(1986-1990、絶頂期):日本の物理論文数、企業論文、修士課程・博士課程の 志願者数と入学者数はいずれも右肩上がりで増加。
第Ⅱ期(1991-2000、停滞期):企業の物理論文数がピークとなり(1996)、減少した
(1997-2000)。企業の化学論文数は1996年に増加を止め、停滞。修士課程・博士課 程の志願者数と入学者数は1996年にピークとなり減少。
第Ⅲ期(2001-2007、第1次衰退期):企業論文数の減少が継続(2001-2007)、日本の物 理論文数がピーク(2003)となり、急減。修士課程の志願者数・入学者数はほぼ一定。
博士課程の志願者数・入学者数は減少が継続。
第Ⅳ期(2008-2012、第 2 次衰退期):日本の物理論文数と企業論文数の減少が継続。
修士課程の志願者数・入学者数はほぼ一定。博士課程の志願者数・入学者数は減少が 継続。
b. 産業別修士卒者の就職者数の推移:理学研究科と工学研究科
図5-10-1から図5-10-3に理学研究科と工学研究科の修士課程の就職者数の実数(a)と
比率(b)の5年度ごとの推移(1985-2015年度)を示す。図5-10-1 は理学研究科、図 5-10-2は工学研究科、図5-10-3は理学研究科と工学研究科の合計である。
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両研究科とも全体の就職者数(a)は1985 年度から 2007 年度まで直線的に増加してお り、2007年度以降の就職者数はほぼ同じであった。
産業別でもっとも就職者数が多かったのは、両研究科とも製造業であった。2番目に就職 者数が多かったのは、両研究科とも 1990 年代ではサービス業52
で
あったが、2003 年度か ら情報通信・運輸・郵便業53が急増したため、両研究科の合計では2003年度から情報通信・運輸・郵便業(以後、情報通信業と記載する)が2番目になった。2015年度の就職者数が 多い順は、両研究科とも製造業、情報通信業、サービス業の順である。理学では製造業が理
学全体の 43.9%、情報通信業が 20.2%、サービス業が 20.1%であり、工学ではそれぞれ
57.6%、16.2%、8.8%であった。理学と工学の合計では、それぞれ55.6%、16.8%、10.5%
であった。
興味深いことに、バブル崩壊(1991-1993)のあとも理学、工学ともに2007年度まで就 職者数が増えた。バブル崩壊後は「就職氷河期」と呼ばれ、大学新卒者が就職できなかった といわれるが、理学・工学研究科の修士課程修了者の就職状況はけっして「氷河期」ではな かったことを示している。この事実は前項で明らかになったように、第Ⅱ期(1991-2000)
の物理産業の売上高と付加価値額が減少しなかった事実とよく符合する。
就職者数の比率(b)を見ると、バブル崩壊後に理系修士が就職した産業分野に大きな変 化があったことがわかる。就職者数の上位3業種(製造業、情報通信業、サービス業)の就 職者数の合計の割合は、1985-2015 年のあいだ、理学、工学ともほぼ 80-85%であった。
1995年度と 1999年度では製造業の割合が減少したが、その減少分だけサービス業が増え た。2000年度以降も製造業の割合は年々小さくなり続けた。この間のサービス業の割合は ほぼ一定(理学で約20%、工学で3%、理学と工学の合計で約10%)であったが、情報通 信業が製造業の減少分を増やした。
これらの事実から、つぎの4つの結論を得た:
52 サービス業とは、2015年度の統計では、学術研究,専門・技術サービス業 、宿泊 業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業、医療、福祉、複 合サービス事業、サービス業(ほかに分類されないもの)である。1985年度の統計では、
単にサービス業という分類であったが、2003年度から徐々に詳細な分類となった。
53 当初(1985年度は、運輸・通信業という分類であったが、2003年度から情報通信業と 運輸業に分割され、2011年度から情報通信業と運輸業・郵便業になった。ここでは運輸・
通信業、情報通信業と運輸業の合計、情報通信業と運輸業、郵便業の合計を情報通信・運 輸・郵便業とした。情報通信業に対する運輸業あるは運輸業・郵便業の割合は約1/10であ った。したがって、情報通信・運輸・郵便業の就職者数(比率)はほぼ情報通信業である と考えられる。
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バブル崩壊(1991-1993)のあとも、理学・工学研究科の修士課程修了者の就職者数 は2007年ころまで製造業を含むすべての業種において増加した。
1990 年代後半はサービス業への就職者数の伸びが著しく、2000 年代は情報通信業 の就職者数が大きく増加した。
バブル崩壊後、製造業への就職者数の割合は低下したが、その減少分を1990年代後 半はサービス業が補い、2000年代は情報通信業が補った。その結果、上位3業種の 就職者数の合計の割合は1985-2015年のあいだ、ほぼ80-85%であった。
理学・工学研究科の修士課程修了者の就職状況はバブル崩壊後も2007年頃まで良好 であった。
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