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人間の思考や意志の働き

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 56-59)

2.4. 社会におけるサイエンス型産業の位置づけ

3.2.2. 人間の思考や意志の働き

ルーマンは人間を社会の構成要素とは考えなかった。機能を主体とする分析を主眼とす れば、この考え方は妥当である。しかし、社会で発現するすべての機能の契機は人間が思考 し、意思を発信することである。ルーマンもそのように考えていたことは、図3-1で社会シ ステムと心理システムをシステムの第 2 水準に併記したことから伺える。さらにルーマン は「社会システム理論」(Luhmann 1984=1993,1984=1995)の全12章(890頁)の中 に、心理システムについて独立に考察する章として第7章「心理システムの個体性」(40頁)

を設けた。

ルーマン(Luhmann 1984=1995:481)は、「心理システムは社会システムの環境の一 部にほかならない」が、「心理システムは、社会システムの形成・発展にとって格別の重要 性を有している環境の一部である」と記したあと、つぎのように述べている:「(心理システ ムという環境が)形成されうる社会システムに対する一種の限定になっている」。そのうえ でルーマンは「(心理システムという環境が)社会システムが自立的に、つまり社会システ ム自体の基礎的なオペレーションに基づいてみずからを形成することをなんら妨げるもの ではない」と主張し、ルーマンの立ち位置を明確にしている。

ルーマンがこのように考える理由は、社会システムと心理システムの関係について「社会 システムのこうしたオペレーションは、コミュニケーションにほかならず、心理過程それ自 体、つまり意識過程なのではない」と述べていることから明らかである。この主張はルーマ

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ンと対立する個体主義的還元主義に対する批判である。個体主義的還元主義では、社会は人 間がその構成単位(個体)であり、「諸個体の行動について観察をすすめると、(中略)社会 秩序を組み立てている決定要因を認識しうる」(Luhmann 1984=1995:482)と考える。

重要なことは、ルーマンは人間が社会の構成単位であるという個体主義的還元主義の考 え方とは真っ向から対立するけれども、「社会システムの世界においてそもそも個体が存在 しないと主張しているのではない」(Luhmann 1984=1995:483)ことである。さらに重 要なことは、社会システムの理論は心理システムのオペレーションを問う際の手助けにな る(Luhmann 1984=1995:484)と考えていることである。

心理システムと社会システムの関係を詳しく考察することは本研究の範囲を越えている が、現実の世界に人間の思考や意思が作用しなければ、社会は存在し得ないことを前提に考 えれば、少なくともつぎの2点は主張できる:(1)社会システムが存在するならば、人間は その環境に存在しており、人間の中では心理システムが作動している;(2)人間の中で心理 システムが作動したとしても、心理システムの環境(人間の外)に社会システムが存在する とは限らない。つまり「社会システムが存在する → 心理システムが存在する」は成り立 つけれども、その逆は成り立たない。この命題は、(1)心理システムが存在することは社会 システムが存在するための必要条件であり、(2)社会システムが存在することは心理システ ムが存在する十分条件であることを意味している。

これは心理システムと社会システムの接合部における影響の仕方に関係している。ルー マンが述べた「心理システムは社会システムに対する一種の限定になっている」という記述 とも関係する可能性がある。

心理システムと社会システムのあいだにこのような包摂関係があると仮定すれば、心理 システムを社会システムが成立する前提として位置づけることができる。この包摂関係の もつ限定のもとで、心理システムの作動原理や心理システムと社会システムの接続につい て考察を加えることができる。

そこで本章ではまず、図3-1に示した3種類の社会システム―相互行為、組織体、全体社 会―の違いを明らかにし(3.3.)、ついでルーマンとパーソンズの考え方の違いとルーマンの

等価機能主義(3.4.)について述べる。そのあと順にルーマン理論の内容を概説する(3.6-3.8)。そしてまとめとして、「知識と人」社会循環モデルと社会システム理論の関係(3.10.)

を整理し、知識生産のプロセスの作動原理を紹介する。

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3.3. 3種類の社会システム:相互行為・組織体・全体社会

社会システムは3つの種類―相互行為システム、組織体システム、全体社会システム―に 分類される(Kneer and Nassehi 1993=1995:49-51)。

相互行為システムは、そこにいあわせている人たちが行為することによって成立する

(Kneer and Nassehi 1993=1995:49)。たとえば、ある会議室で開かれた会議の参加者に よって行われるすべての行為が含まれる。会議室の外にいる人たちの行為はこの相互行為 システムの環境にある。そして会議が終了して参加者が会議室から退出すると、この相互行 為システムは消滅する。

組織体システムは、ある一定の条件のもとに組織体に結びつけられている構成員が行為 することによって成立する。本研究では、サイエンス型産業を取り巻く活動領域を代表する 組織体として大学、企業、家庭18を取り上げる。大学の構成員(教員、職員、学生)が行為 することによって組織体システムとしての大学システムが成立する。企業システムと家庭 システムも同様である。企業システムの構成員は従業員と経営者、資本家であり、家庭シス テムの構成員は保護者(祖父母や親など)と子供(兄弟姉妹)などである。

すべての相互行為システムとすべての組織体システムは全体社会システムに属する。し た が っ て 全 体 社 会 シ ス テ ム は も っ と も 包 括 的 な 社 会 シ ス テ ム で あ る 。 し か し Luhmann(1984=1993:2)は、全体社会システムの下位に相互行為システムと組織体シス テムを置かず、3つを同じ水準に並べている(図3-1)。

Kneer and Nassehi (1993=1995:50)はLuhmannの意図をつぎのように説明する:全

体社会システムのなかには、相互行為システムや組織体システムからは産み出されないよ うな多数の行為が現れる。したがって全体社会システムは、あらゆる相互行為システムと組 織体システムの総和以上のものである。

本研究で取り上げる大学システムはサイエンス型産業と関係がある研究・教育活動に直

18 本研究では血縁集団としての家族とその活動の場所の意味を併せもつ「家庭」を組織体 の名称として採用する。「家庭」とは、「一緒に生活する親子・夫婦・兄弟姉妹などの集 団。また、その生活するところ」である(金田一ほか1994:224)。「家族」とは、「夫 婦・親子など、婚姻・血縁関係で結ばれている生活共同体」である(金田一ほか1994:

214)。『広辞苑』(新村1955)によれば、「家族」は「血縁によって結ばれた生活を共にす

る人々の仲間で、婚姻によって成立する社会構成の一単位」、「家庭」は「家族が生活する 所」である。『ブリタニカ国際大百科事典』(ギブニー1995:4-166a)によれば、「家 族」とは「婚姻、血縁または養子縁組の紐帯によって結ばれ、単一の世帯を構成し、夫婦 と妻、父と母、息子と娘、兄弟と姉妹というそれぞれの社会的位置において相互行為をも ち、同一の文化を共有し、創造し、かつ維持する人々の集団」である。

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接関わる構成員の行為によって成立する限定的な組織体システムである。したがって、本研 究における大学システムは教育活動と研究活動に限定した教員と学生の行為が対象である。

本研究で取り上げる企業システムはサイエンス型産業に属する企業における研究、開発、

生産、販売、流通などの活動に直接関わる従業員と経営者の行為によって成立する特殊な組 織体システムである。したがって、本研究における企業システムはサイエンス型産業に属す る企業の研究、開発、生産、販売、流通などの活動に限定された従業員と経営者の行為が対 象である。

本研究で取り上げる家庭システムはサイエンス型産業の活動と関係がある養育や教育活 動に直接関わる構成員の行為によって成立する限定的な組織体システムである。したがっ て、本研究における家庭システムは経済活動と教育活動に限定した保護者と子供の行為が 対象である。

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