第 3 章 表現活動の実際
3.1 こわれ者の祭典
3.1.3 関係者・協力者
こわれ者の祭典はメンバー以外にも様々な関係者・協力者がいる。たとえばイベントでの司会 者,イベントを手伝うボランティアスタッフもいればイベントに招かれトークやパフォーマンスをする ゲストもいる。ここではそうした活動を支える人々について述べる。
(1) 司会者
新潟公演の際の司会者は,新潟のお笑い集団NAMARAの代表である江口さんと,フリーアナ ウンサーの松井さんが務めている。こわれ者の祭典は,月乃さんと江口さんがラジオ番組で共演 したことに端を発し,当初はNAMARAのイベントとして行われていた。江口さんによる著書(江口 2011)には月乃さんのコメントが記載されている箇所もあり,そこには以下のように記されている。
今から9年前の平成14年2月,私は江口歩とラジオ局のスタジオで対峙してた。江口 歩は「月乃さんは,何かやりたいことがありますか?」と聞いてきた。「病気イベントをやりた いのです・・・」と私は答えた。番組のエンディングで江口歩は「近々,月乃さんと病気イベ ントをやります」と断言したのである。現実にタイトルを「こわれ者の祭典」として3か月後の 平成14年の5月にイベントは超満員の観客を集めて開催された(月乃さんによる記述,
江口 2011: 88より)。
このような経緯から当初は江口さんが代表を務める NAMARA のイベントとしてこわれ者の祭典
は行われていた27。その後NAMARA主催ではなく,こわれ者の祭典(実行委員会 28)が主催す るイベントへと変遷していった。そのような変化がみられるものの,江口さんは継続してこわれ者の 祭典の新潟公演の司会を務めるなどこわれ者の祭典の協力者であり続けている。江口さんはお 笑い集団の代表であり,障害者イベントであるこわれ者の祭典においてユーモアを織り交ぜるの に大きな貢献をしている。そのユーモアの織り交ぜ方は毒を含むもので,障害を笑ってはいけな いというタブー意識に強く働きかけるものであり,こわれ者の祭典を特徴づける上で司会者の江口 さんは重要な役割を果たしている。
江口さんと共にこわれ者の祭典を司会者として支えている松井さんは,舞台上にいる健常者とし てのスタンスでイベントに出演している立場となっている(以下引用 小林 2012 より)。「時にブラ ックユーモアも交え,一瞬,出演者や観客がたじろいでしまいそうな鋭い質問もする」江口さんに 対し,松井さんは,「笑いが『ギリギリ』の線を越えないよう,出演者と観客へのフォローをすること」
が役割となっているとのことである。そして,「『堅苦しい顔で,まじめなことだけを言っていても,関 心は持ってもらいにくい。ただ人前で話すことに慣れていない出演者には,どう答えればいいか分 からなくなることもある』。そんな時,うまく質問を重ねたり,雰囲気を和らげたりする。『出演者と観 客を結ぶ』という司会者のやりがいを強く感じる。学ばせてもらうことも多い」という。「松井さんにと って精神障害は,祭典に協力するまで身近な存在ではなかった」が,大学時代,「精神的に不安 定になったことを思い出し」,「生きづらさや心の病について『誰にでも起こり得ることなのかもしれ ない』ということに気付いた」。このような司会者の松井さんの思いにみられるように,こわれ者の祭 典は当事者イベントであるが多くの多様な生きづらさを抱える人々の共感を生み出す要素を併せ 持つものとなっており,出演者と観客を結ぶ役割を司会者は担っている。
東京公演の司会は,開始当初は江口さんが行っていたが,現在は江口さんとつながりのある映 画監督の松本さんが行っている(2011 年 1 月 9 日,松本さんからの聞き取りより)。松本さんもお 笑いの世界で活動していたこともあり,イベントを福祉イベントの枠を越えてエンタテイメントとして イベントを形作るのに貢献している。
このように司会者によって,笑いや毒のあるイベントが形作られ,イベントは刺激的なものになり,
時に雰囲気が和らげられ,出演者と観客が結ばれる。イベントを進行し,活動をつくりあげる上で の司会者の影響は大きい。
27 たとえば2004年11月には,こわれ者の祭典東京公演の記事が載っているが,そこでは主催は「新 潟お笑い集団NAMARA」となっている(吉岡 2004)。
28 こわれ者の祭典実行委員会は厳密に組織されているものではないが,会場を借りたり,問い合わせ 先として記載したりと,イベントを運営する主体として用いられている言葉となる。
(2) ゲスト
公演の出演者には表現者,司会に加え,ゲストが含まれる。ゲストは,新潟公演では,吃音者の グループメンバー(2011年6月19日),新潟県薬物依存症者を抱える家族の会世話人(2010年 12月5日)など,主に新潟で活動する家族等含む当事者の人々が招かれ,その幅は様々な障害 や病気,生きづらさにまたがっている。また,当事者のみならず新潟で活動する精神科医(2009 年 7 月 12日など)も出演したこともあった。このように新潟公演ではゲストには,時折専門家等の 参加がみられるも,県内で活動する当事者の人たちが中心となって招かれ,体験談を話すことが 多い。
一方,東京公演では,メディアへの出演をしていたり,著書を出版していたりする著名人のゲスト が招かれる場合が多い 29。こうしたゲストの違いは,新潟,東京それぞれの公演を特徴づけている。
月乃さんは活動を通して様々な人脈を築いており,そうした人脈がイベントに多様なゲストを招くこ とを可能にしていると思われる。また,面識がなくとも,時には路上で声をかけて出演してもらうこと もあったという(月乃 2011など)。SNS含むインターネットを通して出演を依頼をすることもあるが,
断られることも多いという(2011 年 7月 17日など聞き取りより)。そうした出演への過程を経て,活 動に継続して深くかかわる著名人のゲストもおり,観客の動員に影響を与えたり活動を特色づけ たりしている30。
(3) ボランティアスタッフ
こわれ者の祭典は,多くのボランティアスタッフの協力で成り立っている。イベント当日には回に よって差があるものの,10 名程度のボランティアスタッフが集まる。ボランティアスタッフは会場の 準備や受付,配布物の準備,物販物の管理,ステージまわりの譜面台の出し入れ,金銭管理,移
29 たとえば次の文章に挙げられている人物がゲストとして示されている。「この 9 年間に,中島らも,加 護亜依,さかもと未明,雨宮処凛,戸川純,ハヤブサ選手,ホーキング青山,湯浅誠,田代まさし,
小田原ドラゴン,かつらボクサー小口選手,香山リカ,田口ランディ,遠藤ミチロウ,西原理恵子,赤 木智弘,福島泰樹,東ちづる,大槻ケンヂ,細川紹々ら多くの皆様にイベント出演をしていただいた
(月乃 2011: 184)」
30 中でも作家の雨宮処凛さんは観客としてイベントを見に来たことが縁で,こわれ者の祭典の名誉会 長となっており(月乃 2011),イベントへの出演のほか,著書を月乃さんと共同で執筆したりしている
(雨宮 2007; 月乃・雨宮 2008 など)。また,精神科医の香山リカさんが定期的にゲスト出演し,こ
われ者の祭典と共同して「香山リカのみーんなビョウキだね!」(中島映像教材出版)という DVD を 作成するなど,継続した関係がもたれている。
動時の車の運転などを行っている。継続してボランティアスタッフとして活動している人も多く,当 日のみならず,打ち合わせなどに定期的に参加し企画・運営にかかわるスタッフも数名おり,筆者 もそのうちのひとりとして活動させてもらっている。
新潟県に在住しボランティアスタッフを長年行っているミルさんは,新聞記事でこわれ者の祭典 を知り,活動にかかわるようになった。精神保健福祉士や社会保険労務士の資格を有し,病院な どでの勤務経験を経て,現在社会保険労務士として県内で勤務している。イベントでは,新潟で のイベント終了後の打ち上げ交流会の運営,受付や物販の管理などを主に行っている。ミルさん は活動の開始当初(第 1 回こわれ者の祭典)からほぼ全期間にまたがって活動に関与しており,
こわれ者の祭典はじめ,表現活動について熟知している人のひとりであり,本研究においても貴 重な情報を多々提供していただいた。
同様に継続して関わっている丸山さんは,旅行会社の営業や社会福祉士,看護補助などの勤 務経験を有し,現在は福祉関係の仕事をしている。活動にかかわるようになって 6~7 年ほどにな る。活動にかかわるきっかけは,こわれ者の祭典のファンである知人より活動を教えてもらったこと による。その後活動にかかわるようになり,ボランティアスタッフを継続している。フライヤーの各関 係機関への配布やメディアへのイベント周知など広報的活動を担当することが多い。また,こわれ 者の祭典は新潟,東京以外にも福島公演(2009年2月28日),秋田公演(2009年9月20日)
を行っており,こうしたライブの企画・運営は丸山さんが中心となって行われていた。また,筆者も 継続してかかわっているボランティアスタッフの一員であり,予算管理,その他の補助をしている。
こわれ者の祭典は数多くの活動に共感するボランティアスタッフの協力の元行われており,時にイ ベントを企画するなどの活動を行っている。
東京公演と新潟公演では地理的な違いからかイベント当日に来られるスタッフも異なる。もっと も,東京公演においても東京および近隣に在住している何人かのボランティアスタッフが継続して かかわっており,物販や打ち上げ交流会の運営,イベント時の配布物の準備,写真撮影などの協 力を行っている。