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セルフヘルプ・グループとしての表現活動

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 148-155)

第 4 章 他の当事者活動との比較

4.3 表現活動の位置づけ

4.3.1 セルフヘルプ・グループとしての表現活動

本研究のフィールドとなる活動は,当事者による活動のひとつである。当事者の活動の代表的 なものとしてセルフヘルプ・グループがある。本章において広く普及している形態を採用している セルフヘルプ・グループを例に挙げ,表現活動との比較を通して,表現活動がセルフヘルプ・グ ループの否定から始まったものではなく,むしろセルフヘルプ・グループを基盤にエンタテイメント 性等の要素が加わって発展してきたことを示してきた。しかしながら,単にセルフヘルプ・グループ といえども,その内実は多様である。

セルフヘルプ・グループの分類においては,グループの関心がメンバー内に向くものと,社会改 革に向くもの,スティグマを改めようとするものと,社会を問題視し,改めさせようとするものに分か れるとの見解が出されている(Katz and Bender 1976; Gartner and Riessman 1977=1985; 平野 1995)。日本においても,セルフ・ヘルプグループの分類については検討され,そのうちのひとつ

108 しかしながら,ひとりでも多くのまだ会につながっていない当事者に,活動を知ってもらうことの重要 性は重視される。

にセルフヘルプ・グループの活動のレベルと活動のベクトルの 2 軸で分けるあり方がある(野田 1998)。活動のレベルとは,「当事者個々人の抱える問題をどこで(どの範囲で)解決しようとしてい るかということ(野田 1998: 26)」とされ,「当事者内の責任の範囲内での『自己完結的な努力』と制 度・施策の活用等のように社会的な取り組みとして解決を図ろうとする『一般社会のレベルでの解 決・緩和』を両極とする軸(野田 1998: 26)」で表される。一方,活動のベクトルとは「問題の解決に 向けての働きかけの対象をどこに求めているかということ(野田 1998: 26)」とされ,「節制等の自 己規制をしたり,当事者個人を励ましたりという『自己内部への働きかけ』と,制度化・施策化を要 求して運動するというように,社会に対して何らかの対策を講ずるように働きかける『一般社会への 働きかけ』が両極となる(野田 1998: 26)」とされる 109。こうした「自己内部」や「一般社会」といった 軸を設定する考え方は,自己規定や対外的なアプローチについての当事者の知識を考察する本 研究と親和的であり,本研究フィールドとなる表現活動の当事者活動としての位置づけを考察す る視点として用いることにする。

活動のベクトルとレベルを軸とした分類では,AA(Alcoholic Anonymous)などが,自己完結的 努力,自己内部への働きかけの活動(ステージⅠ),親の会や障害者団体連合会などが,自己完 結的努力,一般社会への働きかけの活動(ステージⅡ),疾病,障害者の「友の会」などが,一般 社会レベルでの解決・緩和,自己内部への働きかけの活動(ステージⅢ),社会運動的な活動が,

一般社会レベルでの解決・緩和,一般社会への働きかけの活動(ステージⅣ)の例として示されて いる(図 43)。

109 さらに,野田(1998)は,活動の拡がりの2つのルートを組み合わせ,6つの志向群としてのセルフ・

ヘルプグループの分類を提示している。

図 43 セルフヘルプ・グループの活動のステージ(野田(1998: 26)の図2-1より一部改編)

こうしてみると,一言でセルフヘルプ・グループといえども,活動の考え方や方向性は異なって おり,様々なタイプがあることがわかる。セルフヘルプ・グループの活動の幅は広く,本研究のフィ ールドとなっている表現活動とセルフヘルプ・グループとは同じとも異なるともいうことは難しい。今 回筆者が参加したグループは,歴史のあるグループであり,ひとつの代表的なセルフヘルプ・グ ループの形態であるといえる。しかしながら,それもまた先に挙げた 4 つのステージⅠに属するタ イプのひとつであり,他の形態のグループも多い。また,典型的なあるタイプとみられるグループも 必ずしもそうではない側面を持つことがうかがえる。匿名性を重視し,自己完結で政治的な活動を しないことを信条としているグループであれども,ミーティングの常連のメンバーではお互いに本名 を知っていることもあり110,必ずしも厳密に匿名なわけではないことがある。また,自己内部への働 きかけ,自己完結型のセルフヘルプ・グループと位置付け的努力,自己内部への働きかけを志向 するグループと捉えられるAAも小規模なミーティングとは異なる規模の大きなイベントを企画,実 施し,政治活動という形は決してとらないが,多くの人々に対しての働きかけ,広く社会に活動を 知ってもらう働きかけ−それは未だつながりえないアルコール依存症者に活動につながってもらう ためという意図が大きい中であっても―を行う時もある(図 44)。

110 補助的なフィールドワークにおいて常連の参加者同士がミーティングが終わると本名で会話してい る様子がうかがえることもあった(2014年8月など)。

一般社会への働きかけ

〈ベクトル〉

自己内部への働きかけ

〈レベル〉

自己完結的努力 一般社会レベル

での解決・緩和 ステージⅠ

(AA等)

ステージⅢ

(友の会等)

ステージⅣ

(社会運動 的組織等)

ステージⅡ

(親の会等)

図 44 AAの大規模な集会(40周年記念)のパンフレット

フィールドワーク中でも,「断酒会と違って AA は会費もなければ会員名簿もない」,「断酒会で はカリスマ的な人がいるが,AA はそういったこともない」,といった声が聞かれることもあり,ように 同じような依存のグループであっても,そのやり方や組織において違いがみられることがうかがえ た。このように,あるひとつのグループであっても様々な面を有していたり,一見同じようにみえるグ ループでもその性質は大きく異なっていたりする。

セルフヘルプ・グループが「同じような問題をかかえている個人(またはその家族)が自分自身 の問題を自分自身で解決するために,意図的かつ自主的に結成され,しかも専門職から独立し た活動を展開している持続的な小集団(岡 1988: 12)」であるならば,表現活動もまたセルフヘル プ・グループの一種としてもとらえることができる。また,セルフヘルプ・グループといえどもそのタイ プは,自主性を重んじるものもあれば,専門家や行政がある程度主導しているようなタイプというタ イプの違いもある(Powell 1987)。保健所や保健センター等がかかわる子育てグループや健康づ くりグループといったグループもまたセルフヘルプ・グループとしてとらえられることもある(本保 1998)。このような立場に立つとすれば,自主性が弱くともセルフヘルプ・グループととらえることが 可能であり,セルフヘルプ・グループとそうではない活動の境も曖昧に思える。一見対極的な立場 にある専門家の活動とセルフヘルプ・グループとの境も明確ではないこともうかがえ,厳密に考え ると何がセルフヘルプ・グループであり,何がそうでないのかの判断は難しい。

病気の表現活動においても,100 人以上の多くの人々が集まるライブもあれば,10 人にも満た ない少人数しかいない状況でイベントが行われることもある。パフォーマンスが中心の時もあれば,

トークが中心の時もある。入場料をK-BOXの定例のライブやイベントこわれ者の祭典のように取る イベントもあれば,とらないイベントもある。本研究のフィールドとなっている2つの表現活動でもそ

の参集の頻度や構成人数,パフォーマンスの内容,組織,リーダーシップのあり方等において同 じ「表現活動」であれども異なっている。

表現活動やセルフヘルプ・グループに見受けられるように,それぞれに多様なあり方や特性を 有していることが当事者活動のあり方のように思われる。そしてそうした広さや各々の活動の特性 の重なりを有しつつ,大まかな傾向性として,病気の表現活動は公開されている活動であり,対外 志向を有し,フィールドワークを行った自助グループは非公開で対内部指向を有しているととらえ ることができると考えられた(図 45)。

図 45 病気の表現活動の位置づけ(筆者作成)

4.3.2 〈思考〉と〈参集の枠組み〉の軸における表現活動

当事者の活動をとらえる視点には,先に挙げた活動のレベルやベクトルの軸以外にも様々なも のがあることが考えられる。たとえば,こわれ者の祭典のスタッフとして長年活動のサポートをして いるミルさんは,自身がメンタルヘルス上の問題を抱えていたことがあり,パソコンのチャット上でメ ンタルヘルス系のつながりをつくり,多くのオフ会に参加したという。その際,多くのグループはネ ガティブ傾向にあり,長続きしないことがあったという。そしてこわれ者の祭典の魅力のひとつはポ ジティブではなくとも,ネガティブにならないところであるという(2014年9月14日聞き取りより)。ま た,特定の病気ではなく,「生きづらさ」という枠でなされることもこわれ者の祭典の特徴だという声 もメンバー(長男さん)やミルさんから聞かれ(2014年9月14日など),こうした点も表現活動として

一般社会への働きかけ

〈ベクトル〉

自己内部への働きかけ

〈レベル〉

自己完結的努力 一般社会レベル

での解決・緩和 AA系自助グループ

表現活動

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