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メンバー

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 43-52)

第 3 章 表現活動の実際

3.1 こわれ者の祭典

3.1.2 メンバー

こわれ者の祭典のメンバーは,代表の月乃光司さん,副代表の Kacco さん,アイコさん,長男さ んの 4 名となっている 15。それぞれ,依存症や摂食障害をはじめとした精神疾患やいじめなどの

14 新潟のお笑い集団で,方言の「なまら」(すごい)にちなみ,1997 年,「地方発のお笑いを作ろう」と 江口さんが設立した(吉岡 2004)

15 厳密に誰がメンバーであるのかを規定するのは難しい点があるものの,一般的に現在のメンバーは この4名として表現者間で認識されている。なお,第1回こわれ者の祭典から出場してきた長男さん は2014年度をもってこわれ者の祭典としての活動を終えようとしている(2014 年12月13日長男さ ん主催イベント時トークおよび聞き取りより)。長男さんはこわれ者の祭典における自身の活動の集 大成として,自作映像をまとめて披露するこわれ者の祭典映画祭を行った(2014年12月13日)。

生きづらい経験を有している。それらの内容はイベントにて語られる。次の一例はアイコさんの経 験がイベントにて語られているところである。

アイコ:私は強迫神経症なんですけれども,わかりやすい例を言うと,手を洗うことがとめられ ないとか。私の症状ではなくて,自分の考えていることが吹き出しみたいに出て,大勢の人 の中にいるとみんながそれを見て,私の心の中を覗いているんだと思ったりして,無心にな ろう,無心になろうとするほどに,いろいろ考えてしまったりとか。

あと家の中の暴力がすごくたくさんあって,「おまえはだめだ,だめだ」と言われていたら,

本当にだめなんだなって自分でもすごく思って,学校に行けなくなったりしたときがとてもつ らかったです。

江口(司会)16:今日初めての方も多いですからあれですけれども,おじいちゃんとかに殺され そうになったんですからね,ある日。

江口:自分のお父さん,お母さんじゃないんだよね。

アイコ:はい。祖父ですね。

江口:結局,お父さんは逃げちゃったんだよね。

アイコ:父親もその暴力が嫌になっちゃって,家から出て行ってしまって。

江口:いまだにあまり会えないみたいな。

アイコ:そうですね。

江口:今,お母さんと。

アイコ:二人です。その祖父は亡くなったんですけど,最後までわかりあうことができなくて,そ の死んだあとのほうが余計につらかったんですよ。暴力を受けることが当たり前になってい て,暴力を受けない自分はどうやって生きていったらいいんだろうって。憎しみの対象がい なくなったことが,逆につらくなったんです。

江口:俺,アイコちゃんの話でつらそうだなと思ったのは,最初の記憶の言葉みたいなところ で,お母さんがね。

アイコ:最初,小さいころに,「ありがとうを言おう」とか,「ごめんなさいを言おうね」という言葉で はなくて,一番最初に言われたのが,「祖父を殺しちゃだめだよ」と言われたことが。

江口:わかります?ちょっと,元気よく「ちゃんと手を洗って」とか,そういうふうなんじゃなくて,

「おじいちゃん,殺さないでね」ということが。(2009年12月13日,こわれ者の祭典新潟公 演)

16 新潟のお笑い集団NAMARA代表で新潟公演の司会を務める江口歩さんを指す。

メンバーはそれぞれ表現活動をする際に用いる名前を用いて活動している。月乃さんは表現活 動をする際に用いている名前を「本名の一部分を変更して(月乃 2011: プロローグより)」「月乃 光司」としたとしている 17。以下に表現者自らが記載するプロフィールを示す。以下に示している 内容は公演の周知に用いられるフライヤー(2013年9月8日公演用)などに記載されているもの である。

月乃光司(アルコール依存症/引きこもり自慢)1965 年生まれ。■10 代の頃より醜形恐 怖症,対人恐怖症によりリストカット,薬物乱用などの自殺未遂を繰り返す。引きこもり生 活を4年間過ごす。24歳よりアルコール依存症になる。境界性人格障害と診断されて精 神科病棟に3度入院。27歳から酒を飲まない生き方を始める。自助グループ活動により 少しずつ回復。イベント以外では『落ちこぼれ会社員』として奮闘中。2009年「詩のポクシ ング」東京大会優勝。2010年新潟弁護士会人権賞受賞。

Kacco(摂食障害・引きこもり自慢)1967 年生まれ。■28 歳の時に,躁鬱病,摂食障害,

パニック障害と診断され,2 度の長期入院と5 年間の引きこもり生活を経験。摂食障害で 体重は 88キロから 46 キロへ激減。現在はイラストを中心に書道・詩を作るなど癒し系表 現者として活躍中!大手出版社のイラストを手かける傍ら,引きこもりの人たちのサポート 活動にも力を入れている。KHJ にいかた「秋桜の会」 居場所の代表・「K-BOX」代表・発 声・ボイストレーナー。

長男(アダルトチルドレン自慢)1975 年生まれ。■学校での成績が悪くて,親から見離さ れ,山に捨てられて山師となる。しかし,人生の鉱脈を見つけられずにうつ+社会恐怖を 発症。ニート・フリーターなど転々とする。学歴コンプレックスが強く,佐渡奉行のように出 世に憧れるも,いじめられるだけのマゾ奉行に転落。現在は親子間を改善していく様々 な活動に関わっている。02 年に,引きこもりの少年の周辺を描く映画「島の見える街」を 監督。マスコミ等で話題になった。

成宮アイコ(強迫行為自慢)1983 年生まれ。■機能不全家庭による暴力のストレスで幼 少期からおかしな妄想や癖に悩まされ,意味のない決まり事に縛られる毎日を送る。高

17 しかしながら本名は必ずしも厳密に秘匿されているわけではなく,月乃さんや Kacco さんが日常的 に用いている名刺には本名の記載があり,長男さんはステージ上以外の場では本名で話しかけたり する方がむしろ自然である状況であった。

校時代には体調を崩し,胃カメラの検査まで受けたが異常なし。その後,強迫観念と過 大妄想の中,表現活動の世界に逃げ込む。不安が始まった時の逃避得意技は,九九を 延々と数え続ける事。作詞作曲,歌,鍵盤演奏,詩,写真,短歌,映像,朗読,空間製作,

などたくさんの表現手段を模索し個展などを行い,さまざまな分野で日々格闘中。

このように30歳くらいから50歳くらいまでのメンバーでこわれ者の祭典は構成されている。筆者 がフィールドワークを始めたのは6 年間ほど前になるので,当時は 20 歳代から 40 歳代,こわれ 者の祭典が開始された時は月乃さんは30歳代,現在は,それぞれのメンバーが30 歳代,40歳 代,50歳代の節目を迎えつつある時期となっている。

病気は「~自慢」と紹介され,それぞれ病気の経験やひきこもりなどの経験を有していること,同 時に会社員生活を送ったり,当事者でありつつ支援者としての活動を行ったり,様々な活動を行 っていることが紹介される。

こわれ者の祭典のメンバーについては上記のとおりであるが,別途オーディションメンバーという メンバーがある。これは,以前,公演(2006年10月29日)のためのオーディションを行ったことが あり,その合格者を指している。なおオーディションは受けた人全員が合格しているとのことで,オ ーディションメンバーのうち何人かはその後も継続してこわれ者の祭典や,月乃さん主催の関連イ ベントなどに時折参加している。こわれ者の祭典の10周年記念公演(2012年9月16日)におい ては,オーディションメンバーによるステージが設けられた。しかしながら 10 周年記念公演といっ た例外を除いては,オーディションメンバーという名称が日常的に用いられることはあまりない。オ ーディションメンバーはこわれ者の祭典に出る際はゲストなど一出演者としてイベントに出演して おり,出演回数が多い人もいれば,そうではない人もいる。オーディションメンバーである統合失 調症の当事者の YOPPY さんは,こわれ者の祭典に参加する回数も過去に多く,メンバーのパフ ォーマンスのギター伴奏や自作曲などのパフォーマンス,当事者としてのトークなどを行っていた。

フライヤーにも出演者として以下のように紹介される時もあった。

YOPPY(統合失調症自慢・オーディションメンバー)■19 歳で統合失調症と診断され,精神

科病棟に計8回の入院。20代の半分以上を入院生活についやす。30代になって,精神病 患者が通う作業所に行きながら音楽活動を本格的に開始!現在,場所を選ばず様々な場

所でギター弾き語りをする。福祉施設やライブハウス,「生き様発表会 18」や「こわれ者の祭 典」など,県内外問わず精力的にイベントに参加している。音楽を通し様々な人との出会い から病気のリハビリと自分自身の生き方を模索する。(2010年12月5日こわれ者の祭典新 潟公演フライヤーより)

メンバーは精神疾患を抱える人々が多いが,脳性マヒなどの身体障害を有する人も含まれてい た。身体障害者が入ることによってこわれ者の祭典は「心身障害者によるパフォーマンスイベント」

と称されることが多い状況になっている。また,身体障害がありこわれ者の祭典に継続してかかわ っているオーディションメンバーの人もいる。イベント「こわれ者の祭典」を形作る人々は,精神疾 患やひきこもりなどを中心としながらもそれらに限定されない様相を示している。

なお,長期的な視点でみるとメンバーの変化はみられる。たとえば 2012 年 9 月まで,「脳性マヒ ブラザーズ」というお笑いコンビを組んでいるDAIGOさんと周佐さんが,身体障害者の立場として こわれ者の祭典のメンバーとして長く活動していたが,こわれ者の祭典を卒業するという形でメン バーではなくなった。他にも筆者がフィールドワークを始める前にメンバーとして活動していた人が 脱退するということもあった。DAIGOさんと周佐さんについては以下のように紹介されている(2011 年6月19日公演用フライヤーより)。

DAIGO(脳性マヒブラザーズ)1973 年生まれ。■幼い時に「脳性マヒ」と診断され,小中

学校と特殊学級在籍,高校は養護学校へ進学。ドキュメンタリー映画を創作し,「崇とそ の仲間たち」が神奈川県映像コンクール入選,山形国際ドキュメンタリー映画祭「日本パ ノラマ部門」招待作品となる。5 年前に同じ脳性マヒの障がいを持つ相方,周佐則雄とお 笑いコンビを「脳性マヒブラザーズ」を結成,TBS テレビ「筑紫哲也NEWS23」NHK教育

「きらっと生きる」に特集される。身障者芸人ホーキング青山氏が主催するイベント「C‐1 グ ランプリ」第1回,第3回と優勝!!現在は,ネットワークビジネスをしながら,NAMARA19 の営業,お笑い舞台で活動中。NAMARA所属。

周佐則雄(脳性マヒブラザーズ)1975 年生まれ。■生まれつきの障がいで学生時代は養 護学校に通う。卒業後東京の職業訓練校に通い,新潟で就職活動をしながら地元の福

18 新潟で行われている当事者による表現活動のひとつ。YOPPY さんは当事者の表現活動としては

「生き様発表会」を中心に活動しており,近年こわれ者の祭典へ出演する機会は少なくなっている。

しかし,月乃さん個人主催のイベント等にギタリストとして参加したりする場合が時折あるなどメンバ ーとの関係は続いている。

19 こわれ者の祭典新潟公演の司会を務める江口さんを代表とする新潟のお笑い集団。

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 43-52)