第 3 章 表現活動の実際
3.1 こわれ者の祭典
3.1.4 公演の概要
動時の車の運転などを行っている。継続してボランティアスタッフとして活動している人も多く,当 日のみならず,打ち合わせなどに定期的に参加し企画・運営にかかわるスタッフも数名おり,筆者 もそのうちのひとりとして活動させてもらっている。
新潟県に在住しボランティアスタッフを長年行っているミルさんは,新聞記事でこわれ者の祭典 を知り,活動にかかわるようになった。精神保健福祉士や社会保険労務士の資格を有し,病院な どでの勤務経験を経て,現在社会保険労務士として県内で勤務している。イベントでは,新潟で のイベント終了後の打ち上げ交流会の運営,受付や物販の管理などを主に行っている。ミルさん は活動の開始当初(第 1 回こわれ者の祭典)からほぼ全期間にまたがって活動に関与しており,
こわれ者の祭典はじめ,表現活動について熟知している人のひとりであり,本研究においても貴 重な情報を多々提供していただいた。
同様に継続して関わっている丸山さんは,旅行会社の営業や社会福祉士,看護補助などの勤 務経験を有し,現在は福祉関係の仕事をしている。活動にかかわるようになって 6~7 年ほどにな る。活動にかかわるきっかけは,こわれ者の祭典のファンである知人より活動を教えてもらったこと による。その後活動にかかわるようになり,ボランティアスタッフを継続している。フライヤーの各関 係機関への配布やメディアへのイベント周知など広報的活動を担当することが多い。また,こわれ 者の祭典は新潟,東京以外にも福島公演(2009年2月28日),秋田公演(2009年9月20日)
を行っており,こうしたライブの企画・運営は丸山さんが中心となって行われていた。また,筆者も 継続してかかわっているボランティアスタッフの一員であり,予算管理,その他の補助をしている。
こわれ者の祭典は数多くの活動に共感するボランティアスタッフの協力の元行われており,時にイ ベントを企画するなどの活動を行っている。
東京公演と新潟公演では地理的な違いからかイベント当日に来られるスタッフも異なる。もっと も,東京公演においても東京および近隣に在住している何人かのボランティアスタッフが継続して かかわっており,物販や打ち上げ交流会の運営,イベント時の配布物の準備,写真撮影などの協 力を行っている。
(1) 新潟公演
新潟公演は,年に2回,新潟市総合福祉会館で行われる。観客数は通常70~90名程度で31, 司会は江口さんと,松井さんであり,主に新潟で活動するゲストが呼ばれる。公演には何かしらの テーマが与えられるが,それは,吃音の当事者がゲストで招かれた際は「伝える」(2011年6月19 日),HIV陽性者のゲストが招かれた際は「偏見」(2013年9月8日),といったようにその回のゲ ストなどの状況に合わせて設定される。代表的な公演の当日の流れは以下の通りになっている。
9:00 スタッフ,出演者集合,会場準備
10:30 音響確認等
11:30 スタッフ,出演者打ち合わせ,進行確認,リハーサル
13:00 開場
13:25 司会者舞台へ。前説
13:30 公演第1部
14:45 休憩
15:00 公演第2部
16:00 公演終了
会場は,広いバスケットボールのゴールなども設置されている体育館のようなホールが用いられ る 32。会場準備では,観客が靴を履いたまま入場できるようにシートが敷かれ,椅子が並べられる。
そして,物販ブースが設置され,徐々に会場がイベント用につくられていく。会場が設営されてい る間,マイクの状態などがステージで確認される(図 2)。会場の入り口付近には立て看板が設置 される(図 3)。
31 第1回こわれ者の祭典や10周年記念イベントなど100名を大きく超える動員数の時もある。
32 ホールが確保できない時など別の広い会議室などが使われる時もある(2010年12月5日など)
図 2 こわれ者の祭典新潟公演リハーサル風景(2012年2月12日)
図 3 案内看板(2012年2月12日)
ある程度会場の準備が終わると,メンバー,スタッフ,司会者,ゲストなどが集まり,簡単な打ち合 わせをする。簡単にそれぞれが名乗る程度の自己紹介がなされ,当日のイベントの進行等の確 認等がなされる。打ち合わせ時には,月乃さんより当日の進行表が配られる。進行表には,イベン トのコンセプトやテーマ,タイムテーブル,出演者の動き,司会者のトークの振り方,などが簡潔に 用紙 1 枚程度にまとめられている。その進行表に沿ってイベントの流れが説明される。イベント中 のボランティアスタッフの役割には,受付や物販,音響管理,ステージ上の物品の出し入れ(マイ クスタンド,椅子,譜面台など),車いすユーザーの出演者のステージの上げ下げ,イベント終了 後の打ち上げ交流会の観客の誘導,交流会の進行などがあるが,そうしたスタッフの役割も打ち 合わせで調整される。そして,パフォーマンスの詳細は省略されながら,実際に出演者がステージ
に上がり,リハーサルがなされる。そこで,スタッフの動きや物品の動き,どのマイクを利用するか,
どこでどの音楽を流すか,といった点が確認されていく。打ち合わせ,およびリハーサルが終了す ると,各々昼食をとり,出演者は着替えをするなど,イベントに向けての準備が進められる。
開場時間(多くは 13 時)になると,ホールのドアが開けられ,観客が入場する。開演 30 分前に 開場時間が設定されているが,10~20 名程度の観客がすでに並んで入場を待っている状況が 多い。観客は入場すると,受付で参加費を支払い,配布物を受け取る。
開演時間10分ほど前になると,司会者による開演前のトークにて,来場してくれたお礼や,イベ ントの紹介などがなされる。お笑い集団NAMARA代表の江口さん,フリーアナウンサーの松井さ んというイベントのプロフェッショナルによるトークであり,時にユーモアを含ませながら,観客を楽 しませる(図 4)。
図 4 開演前トーク時の会場の様子(2012年2月12日)
開演時間になるとイベントが開始される。照明が落とされ,パフォーマンスの開始を予感させる。
パフォーマーは,紙袋で作ったマスクをつけてステージにあがり,入場する。紙袋は何処ででも手 に入るような簡単なもの33であり,紙袋のマスクを外し,メンバーの紹介がなされる(図 5)。
33 2013 年頃より紙袋にこわれ者の祭典のロゴを貼ったものを用いている。このロゴはゲスト出演したこ
ともある漫画家の小田原ドラゴンさんが作成したものであり,ロゴのついた紙袋はイベントで販売され,
活動の収入源の一部となっている。
図 5 紙袋のマスクをかぶっての入場(2012年2月12日)
フライヤーに記載されているような自己紹介の内容が司会の松井さんより紹介され,それが終 わると,「病気だよ!全員集合!」とかけ声がかけられ,公演が始まる。これは表現者の誰かが(時 にはゲストが),「病気だよ!」と声をかけると,会場の観客と共に「全員集合!」と声を合わせる取 り組みで,こわれ者の祭典の恒例となっているものである。みんなが声を合わせられるように,司会 者の案内や進行がなされたうえで,こうしたパフォーマンスはなされる(図 6)。
図 6 病気だよ!全員集合(2014年4月27日)
イベントが開始されると,その後は,詩の朗読などのパフォーマンスと,病気や生きづらさの経 験,伝えたいメッセージなどを含んだトークが進行していく。また,ゲストを交えたトークやパフォー マンスもなされる。パフォーマンスを行う際には,照明が落とされ,演出的な環境がつくられる。一 部トークを行う際や,休憩中の様々なアナウンスを行う際は,照明が付けられるなど,舞台上の演
出には気が配られる。衣装にも気を配られ,月乃さんは,自らがひきこもっていた頃に来ていたパ ジャマを着て,Kaccoさんは女装して,パフォーマンスをすることが多い(図 7,図 8)。
図 7 パジャマ姿の月乃さん(2012年2月12日)
図 8 女装姿のKaccoさん(2012年2月12日)
パフォーマンスの合間には,病気や生きづらい体験のトークがなされる。特にトークにおいては,
その回その回のテーマに沿った内容が意識される。公演のエンディングでは出演者がステージに 上がり,一言ずつメッセージが発せられる。そして,イベント開始時と同じく「病気だよ!全員集合」
とのかけ声で終了する。イベントが終了すると,観客は退出する。出口の近くには,物販のブース が設けられ,メンバーや出演者の出している書籍,CD などの販売がなされる。メンバーは,物販 ブースで希望者に応じて,購入された販売物にサインしたりする。また,メンバーが観客を見送り ながら,観客と言葉を交わす機会となっている(図 9)。