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越境によるつながり-福祉,芸術,サブカルチャー

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 165-170)

第 5 章 表現活動における「生きづらさ」のつながりと知識

5.1 当事者間のつながり-共感,差異,越境

5.1.3 越境によるつながり-福祉,芸術,サブカルチャー

病気の表現活動では,病気や障害などを持った当事者同士のいわば福祉的な活動であると共

116 2014年9月14日イベント時のアンケートなど

117 わったんと Wattan は同一人物であるが,わったんはアート部門で活動する際に用いられ,Wattan はミュージック部門で活動する際に用いられるステージネームとなっているとのことである。

にエンタテイメント性が重されるパフォーマンス活動でもある。また,こわれ者の祭典はアンダーグ ラウンドなサブカルチャー的要素が強い活動であることが特徴的な点となっている。こうしたイベン トの特性は,当事者間の今まで作りえなかったつながりをつくっていることがうかがえる。月乃さん は以下のように記している。

イベント(こわれ者の祭典等)は自分達が社会的少数派であることを前提として,その中で の共感,共同体意識を持つことで「生きづらさ」の多い現実を生き抜いていこう,ということを コンセプトとしています。秘密結社めいた共感,つながりを深めるために,お笑い,下ネタ,

差別用語を多用します。必ずしも「人間みな同じだ」ということはテーマとしていません。切り 口としては,サブカル内アングラであり,その「石の下の虫」めいたヌル118のようなつながり感 が,「生きられない人間が,ギリギリ生きられる力」を得ることができるきっかけとなるのでは,と 考えています(月乃 2014)。

このようにサブカルチャー的要素を活かして,当事者間の強固なつながりをつくることは表現活 動(特にこわれ者の祭典)の狙いとするところのひとつとなっている。加えて,表現活動も様々であ り,幅の広い聞き手を見据えた活動もなされている。特に活動が,福祉的のみならず,芸術やサ ブカルチャーの分野に跨ることで,多くの当事者の活動へのアクセスを促していることが考えられ る。

こわれ者の祭典,K-BOX 共にユーモアを交えたり,パフォーマンスイベントとして観客に楽しん でもらおうとしている。K-BOX は団体としてライブを行う時もあれば,ショッピングセンターでメンバ ーがライブを行ったり,地域の祭や企業のイベントに出演したり,新潟県内の地方のゆるキャラの テーマソングを作り,イベントに出たりとさまざまな福祉的な活動の場以外の場でパフォーマンスを 行っている。K-BOXは当事者による「プロダクション」として自らを規定し 119,質の高いパフォーマ ンス,作品を提供することを意識する。そして,福祉的活動であると共に時に芸術,作品の創造を 志向した側面を有する活動としての側面が強調される。このように,表現者は時に芸術的な側面

118 「ヌル」とは何であるかと,SNS を通して筆者が月乃さんに尋ねたところ,「私,プロレスの味方です」

という本(村松 1994)に記載があることを教えてもらった。そこには,「げんげ」という「下魚の類(村松

1994: 218)」の魚の特徴として,「本体をトロリと包む寒天状のヌルの存在が一大特徴(村松 1994:

218)」と説明される。そして,げんげは「しょせんは下魚(村松 1994: 219)」として切り捨てられるムー ドも店に漂えば,逆に,「げんげを注文する客同士には,何か微妙な連帯感めいたものが生じるらし

い(村松 1994: 219)」と記されている。月乃さんはこの「ヌル」をたとえに,虐げられ,排除されがちな

人々,アンダーグラウンドな場で集う人々のつながりについて記していると考えられる。

119 K-BOXフライヤー,オフィシャルホームページなどの紹介より

を打ち出し,時に様々な場で,活躍の場を広めるために動いている。

そして,福祉的な場以外の場でも,さりげなく表現者が当事者であること,表現活動が当事者に よる活動であることを示すことも多い。K-BOX の多様な場でなされる活動では,ほとんど障害の経 験などの話がされないこともあるが,自己紹介やパフォーマーの紹介において,軽くK-BOXの紹 介と共に,病気や障害を持っていながら活動をしている旨が紹介されたりする。観客は祭に来て いる人々であったり,ショッピングセンターの客であったりと,病気や障害とは関係のない人々も多 く含まれてくる。そこでパフォーマンスで存在を示し,病気の内容が少しでも触れられることで,病 気や障害を持つ人々の存在や K-BOX のことがより広い範囲の人々に周知される。セルフヘル プ・グループの限界として,参加する人が問題を抱える人のうちのごく一部であることが挙げられ ている(岡 1988)。当事者内部においても未だつながりえない人々は多数存在するのであり,エ ンタテイメントとしての活動の特性をもたせ,福祉的な枠組みを超えて多くの人々の目に触れるよ うな活動を展開することは,当事者であれども今までつながりえなかった人々のつながりを形成す る上で有用であると考えられる。

また,表現活動では,ゲストを目的に来場する人が多数見受けられることもある。共感すること が目的の人が多いが,パフォーマンスを楽しみに来る人もいる。パフォーマンスの場やサブカルチ ャーイベントであることで,より気軽に,もしくは福祉活動とは異なった観点で多くの人々が活動に アクセスできることが考えられる。K-BOXのメンバーには,大きな会場でのイベントでK-BOXの活 動を知り,徐々にK-BOXのメンバーとして活動するに至った人がいた。表現活動は福祉やパフォ ーマンス,サブカルチャーといった複数の特徴を有することで人のアクセスの場を広げており,そ れが当事者間のつながりをつくる一助となっていることが考えられる。

表現活動が文脈の越境を通してつながりをつくるということは,表現活動が観客を引き付けると いう意味のみならず,当事者である表現者間のつながりをつくるという側面もあることがうかがえる。

K-BOXは,単にプロダクションとして作品を生み出すのみならず,K-BOXを通してひきこもりや心

の病を持つ人がつながる場となっている。Kacco さんは,それぞれが個々でパフォーマンスなり,

制作活動なり,音楽活動を行っていた人々が集う場にK-BOXがなることを願っている(2014年6 月15日ライブ時トークより)。K-BOXの実践は芸術的立場と福祉的な立場の双方を見据えたもの となっている 120。表現活動は芸術と福祉の立場を越境することで,広く開かれた場から当事者の アクセスを可能にし,それぞれ個で活動していた芸術活動をする当事者がつながる場となる。病

120 もっともここでいう芸術や福祉は単純に二分できるものではないと考えられる。当事者が芸術的才 能に恵まれることがあることはいわれているところであり,療法的な観点から地域づくりといった観点 に至るまで芸術活動のいわゆる福祉的意義も多くある。K-BOXにおいてはMerry’zというバンドが,

通信制サポート校に校歌を提供するなど,福祉と芸術が交わる場での活動も活発に行われている。

気の表現活動では,芸術や福祉の間を往来しながら,その重なりの場で活動をしながら,当事者 間のつながりがつくられている。

以上に示されるように,病気の表現活動は福祉に加え,芸術的観点や,エンタテイメント性をも たせたサブカルチャーイベントであることで,広く今までつながりえなかった当事者のつながりをつ くる入り口となっていることが考えられる。加えて,表現活動は,様々な当事者の活動へと人々を つなぐ出口的な役割を果たすことが期待されている。こわれ者の祭典では,多くのセルフヘルプ・

グループなどの連絡先を紹介した案内を配布している。この案内はさりげない活動にみえて,ひと つの活動の重要な要素となっていることがうかがえる。セルフヘルプ・グループの案内については イベントにおいて以下のようになされる。

月乃:今日,お手元に配布しました紙に自助グループっていうところがあるんですね。私も,

実はアルコール依存症の自助グループのメンバーなんですけども,こうやってお互いに カミングアウトをしあって,お互いの生きづらさを共感し合う場所っていうのが,結構,実は,

この福祉会館なんか,いろんな集まりやってるんですけれども。そういった場所で,いつも 話せない自分の痛みとか,恥ずかしいことを人前で話すと,すごく生きるの楽になるんで,

何か一歩そこに行ってみると,皆さんも生きるエネルギーがわいてくるんじゃないかと思う んで,ぜひ見てみてください。(2013年1月13日こわれ者の祭典)

月乃さんは活動の動機として,エンタテイメント性を持たせた活動をしたかったことと並んで,自 助グループのことを知ってもらいたかったことを挙げており(2013年6月1日イベント時トークより),

多くの人に身近な自助グループや相談できる場所があることを知ってもらうことは活動の柱となっ ている。月乃さんは以下のようにいう。

月乃:(自助グループのことを知ったのは)やっぱり病院に入院したからなんですね。そうじゃ なかったら,気づかなかったと思うんですよ。それが実は私のイベント活動の結構,根本 なんですけど。イベントに来て下さったら,セルフヘルプのことを知らない人にも,今日み たいなセルフヘルプの話,よくするんですけど。そして,その会場で,いろんな引きこもり の会,依存症の会,とかいろんな会の一覧を書いて,みんなに配っているんですよね。そ この中で,自分の特性に合ったピアサポートにつながってくれたら・・・みたいなのが実は,

イベントの趣旨の重要なことなんですね。(NHK ONLINE: 10(一部省略))

月乃さんは自助グループで救われたことをイベントがある度くらいの頻度で述べ,現在も複数の

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