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表現活動の位置づけ

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 122-125)

第 3 章 表現活動の実際

3.4 表現者の日常

3.4.4 表現活動の位置づけ

表現者はそれぞれ,職業生活をはじめとした日常生活に時に困難さを感じながら,医療や福祉 サービス,セルフヘルプ・グループなどを活用しながら日々暮らしており,そうした日常生活の中

に表現活動は組み込まれている。表現者は日常,会社員などとして,当事者として,表現者として などの立場で暮らしている。それらはそれぞれ別個なものではなく,表現活動が同時に当事者の 活動であったりと,重なり合うものとなっている。そして表現を中心としている人から,支援者的立 場の要素が強い人までそれぞれの立場の度合いは個々の表現者によって異なりながら,それぞ れの立場,活動が重なる中で日常生活が構成されているといえる(図 37)。

図 37 表現者の日常生活上の立場(筆者作成)

表現活動の位置づけ方は表現者によって異なっている。月乃さんは表現活動や講演会を県内 外多数行い,著作の出版やメディアへの出演も多数行っている状況であるが,プロの表現者とし て活躍しようとしているわけではないという。表現活動の場においても,会社員としてダメ社員でい ることが語られたり,表現されることも多く(2013年6月1日イベントなど),「すごく職場に行くのが 嫌で、会社にいる間は『1 時間こうして椅子にすわっていればいくら金が入る』とか考えてる」(月 乃・雨宮 2008: 18)と記載されることがある。しかし,「仕事は、無能で社会不適格者の僕を、社会 へつなげてくれる重要な場所」,「痛みが自分のエネルギー源」,「傷ついていく場数が僕の生きる 技術の習得」(月乃 2011: 165)であり,会社員としての生活を重要視していることがうかがえる。そ して,こわれ者の祭典は決して儲からないけれども行っており,ストレス発散であり,社会適応の練 習であり,生活の一部であるとする(月乃・雨宮 2008)。

一方で表現やパフォーマンスを軸に生活しており,それを願う人もいる。脳性マヒブラザーズは プロの芸人として活動をしていきたく思っており,Kacco さんも K-BOX の運営はじめ表現活動に

当事者

支援者 表現者

会 社 員 な ど

かかわる部分が生活の多くを占め,表現活動を生活の軸においている。K-BOX の純名さんは,

「できれば音楽で食べられるようになりたい」との思いを持っており,近年はライブ活動の他に,CD を販売したり,新潟県内のご当地キャラクターのイメージソングを複数制作するなどシンガーソング ライターとしての活動の幅を広げている。打ち合わせでは,DAIGO さんから,こわれ者の祭典に て,「パフォーマンスと,脳性マヒブラザーズのレベルアップを図りたい」,周佐さんより「パフォーマ ンスする場所なのか,病気の関係なのかわからない。無理に分けなくてもいいが,曖昧な部分が 多い」との提言,問題提起がなされ(2011年2月5日),表現活動の位置づけについての問題意 識や迷いを表現者が有していることがうかがえた。

表現活動の位置づけは,日常生活の大部分を占め,職業的な意味合いを持つ人もいれば,そ うではない人もいる。しかしながら,一方が表現を重視し,他方は重視していないというものでもな く,表現活動自体は重要なものとして位置づけられている。しかしながら,その重視の仕方は表現 者によって少し異なってくる。また同じ人であっても様々な志向を同時に持っている。たとえば基 本的に会社員としてなどの生活を有し,プロとして活動する意図のない人の中では時に「(当事者 としての)素人の魅力」を出していくことが表現において重視される。これは表現として洗練されて いるものとは異なった魅力を打ち出す志向ととらえられる。一方では,表現活動には,パフォーマ ンスの質の向上を目指す姿勢のようなものも同時に強く表れてくる。それは長期にわたりパフォー マンスイベントとして活動が継続されていることや,声やマイクの音量,楽器の音響,照明等のパ フォーマンスの質の向上へのこだわり,こわれ者の祭典においてはプロの芸人やアナウンサーの 参加,K-BOXにおいては,Kaccoさんのリーダーシップのもと,有料でパフォーマンスを行うことに 対する責任感がメンバーに浸透していること,などに見て取れる。当事者による芸術活動は,素人 的な「病気や障害があっても行える」立場で行うのか,プロ志向的なパフォーマンスの質を追求す る立場で行うのかの両極でとらえられがちに思われる。しかしながら,当事者が行う表現活動はそ れぞれの極の立場がみられるも,パフォーマンスの質の向上を目指す立場と素人としての魅力を 引き出す立場の双方にまたがった実践が見受けられる。素人(Lay)の知識と専門的(Professional)

知識という知識の分類と共に,素人の知識とも異なる体験的(Experiential)知識の視点が提示さ れているが(Borkman 1990),そのありようは,パフォーマンスのありようにおいても同様であるよう に考えられる。パフォーマンスや芸術活動にも素人的な立場と専門的な立場があり,それぞれに 出せる魅力がある。病気の表現活動においても,素人的な立場を重視する人もいれば,専門的 な立場を重視する人もいる。しかしながら,やはり表現という点において素人でありながら質の高さ を追求するところがあり,そうした素人的な立場とプロフェッショナルな立場が重なり合うところで生 み出される素人の魅力が表出されるよう取り組んでいるように見受けられる(図 38)。

図 38 表現活動の位置づけ(筆者作成)

表現活動に対してはプロ志向の人,そうでない人,それぞれ表現者の中にいるが,活動全般に わたってパフォーマンスの質は重視されている。そこには素人の魅力を出すというような,素人的,

専門的双方の視点が重なる表現活動の位置づけが垣間みえる。

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