1 はじめに
急性呼吸不全を呈する間質性肺炎には種々の疾患が含 まれるが,現在まで多数例を対象とした検討や呼吸管理 に関する検討はあまりなされていない.急性呼吸不全を 呈する間質性肺炎の代表的疾患には,急性間質性肺炎
(acute interstitial pneumonia:AIP)があげられる1).本 疾患は急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)2)と類似の臨床像を呈する原因不明 の疾患で,死亡率は 59〜88%と予後不良である3〜5).最 近では,類似の臨床像を呈する疾患にAIP以外にも種々 の病理像を呈する疾患が含まれることが知られてきてお り,治療反応性や予後を検討するうえでの組織学的な分 類の意義が注目されつつある6〜8).また,急性呼吸不全を 呈する間質性肺炎として,慢性間質性肺炎の経過中に急 速に呼吸不全に陥り,明らかな原因が確認できない,い わゆる増悪も含まれうることを銘記すべきである.急性 呼吸不全で挿管人工呼吸管理を要した特発性肺線維症
(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)症 例 の 系 統 的 レ ビューでは,135 例(原因のある呼吸不全 56 例,増悪 79 例)の検討で 87%の症例が入院中死亡と極めて予後不良 のため,その適応について疑問視している9〜14).しかし,
報告ごとに適応基準が異なり,2011 年に発表されたIPF の国際ガイドラインでは,過半数のIPF症例の呼吸不全
に対して人工呼吸管理は勧められないが,少数例には適 応となりうるとしている(weak recommendation, low quality evidence)15).
急性呼吸不全に対するNPPVの利点としては,挿管回 避により,挿管に伴う合併症,特に人工呼吸器関連肺炎
(ventilator-associated pneumonia:VAP)などの院内感 染のリスクを減少させ,死亡率を下げるという点が期待 されている16〜19).実際,免疫抑制患者における急性呼吸 不全症例においてはNPPVにより死亡率を減少させるこ とが報告されている20).急性呼吸不全を呈する間質性肺 炎では,ほとんどの症例でステロイド薬や免疫抑制薬が 使用されるため結果的に免疫抑制状態に陥る.そのため,
挿管を回避することが,より院内感染などの合併症発生 率を減らし死亡率を減らすことにつながると期待される.
2 NPPV のエビデンス
急性呼吸不全を呈する間質性肺炎の系統的な検討は現 在まであまり行われておらず,急性間質性肺炎症例の検 討と,IPFの増悪を主体とする急性呼吸不全症例の検討 が少数の報告で行われているに過ぎず,ランダム化比較 試験は行われていない.以下に急性呼吸不全を呈する間 質性肺炎,およびNPPVに関する論文を概説する.
KatzensteinらはAIP8 例を検討し生存率 12%と報告 している3).Olsonらは 29 例のAIP症例を検討し,生存 率はARDSとほぼ同様の 41%と報告し4),Ichikadoらは 31 例のAIP症例を検討し生存率 32%(10/31)と報告して いる5).以上のごとくAIPの予後は不良であると報告さ れているが,NPPVについては言及されていない.最近,
原因が明らかでないARDSに対して外科的肺生検を行っ たところ,AIPに合致するびまん性肺胞障害(diffuse alveolar damage:DAD)所見は 40%の症例にしか認め られなかったと報告されており6),AIPと類似の臨床像を 呈する間質性肺炎の存在が指摘されている.近藤らは,
慢性間質性肺炎の既往のない急性経過の間質性肺炎 14 例
(特発性 8 例,膠原病 6 例)に対し,高めのCPAP主体の NPPVを施行し 3 ヵ月生存率が 50%と,本対象における NPPVの有効性を示唆する結果を示している22).
日本から提唱された疾患概念であるIPFの増悪23〜26)
を主体とする急性呼吸不全症例は,近年,欧米において も予後不良なことから注目され種々の報告がなされてき ている.Sternらの報告では,急性呼吸不全のために人工 呼吸管理(mechanical ventilation:MV)を要したIPF患 者 23 例を検討し,MVの開始後,肺移植を受けることが できた 1 例を除き,すべてMVを受けている期間中に死 亡(中間生存期間 3 日,1 時間〜60 日)したと報告した9). Blivetらは,急性呼吸不全を呈したIPF15 症例における侵 襲的および非侵襲的人工呼吸の有効性を検討し,ICUで の死亡は 11 例で,ICUから退室した 4 例のうち 2 例が退 室後早期に死亡したと報告した.このうちNPPVは 5 例 に施行され(2 例は挿管人工呼吸管理に移行),3 例が死 亡,NPPVのままで 2 例は改善しICUを退室している10). FumeauxらによるICUで人工呼吸管理を行ったIPF11 例,二次性肺線維症 3 例の検討では,11 例にNPPVが施 行され全例挿管管理に移行し,ICU滞在平均 7.6±4.6 日 で全例死亡している11).Saydainらは,ICUに入室した IPF38 例を検討し,18 例の人工呼吸管理症例のうち 7 例 にNPPVを行い 6 例が挿管人工呼吸管理に移行したと報 告している12).彼らの成績では,ICU死亡率は 45%,病 院死亡率は 61%で,病院で生存した患者の 92%は退院 後,2 ヵ月の中間生存期間で死亡している.Al-Hameed らは,IPFの増悪 25 例を検討し,3 例がNPPVを施行し ているが,25 例中 24 例が死亡し,生存 1 例も,31 日間
入院し,退院 30 日後に再入院し死亡している13).これら 5 文献からはIPFの急性呼吸不全症例の予後は極めて不 良であり,NPPVの有効性も限られたものであった.近 藤らは,急性呼吸不全を呈した間質性肺炎全 31 症例にお ける検討では,3 ヵ月での生存率は 48%(15/31)で,
NPPV成功群ではNPPV失敗・挿管群に比し有意に予後 が良好(生存率 81%vs. 15%,p=0.0002)であったと報告 している22).Tomiiらは,間質性肺炎の増悪 33 例を,前 NPPV期 11 例,NPPV期 22 例に分け比較検討し,60 日 生存率は前者で 27%に対し後者で 65%と有意差を認めた
(p=0.02)27).YokoyamaらはNPPV療法を施行したIPF の増悪 11 例の成績を検討し 90 日生存率は 45.5%と比較 的良好であったと報告している28).Mollicaらは,ICU管 理を要した終末期IPF34 例を検討し,入院死亡率は挿管 人工呼吸管理群 100%,NPPV73%と不良だが,NPPV により呼吸数は減少し緩和的な効果が示唆された29). Yokoyamaらは,NPPV療法を施行した急速進行性間質 性肺炎 38 例の成績を検討し,早期NPPV導入(ハザード 比 37.04(95%CI0.003〜0.257)p=0.002),PaO2/FIO2高 値,KL-6 低値,LDH低値がNPPV成功の予測因子であ ると報告した30).GungorらはICU管理を要した間質性 肺炎 120 例(IPF96 例)を検討した.NPPVは 75 例に施 行 さ れ 38 例(50.7% )で 成 功 し ,失 敗 の 予 測 因 子 は APACHEⅡ>20(ハザード比 2.77(95%CI1.19〜6.45)
p<0.02)と継続的なNPPV使用(5.12(1.44〜18.19)p<
0.01)であり,NPPVはAPACHEⅡ<20 の重症でない症 例がよい適応であろうと報告しているa).2011 年のIPF の国際ガイドラインでは,NPPVが適応となる症例があ ろうと記載されており15),日本の特発性間質性肺炎 診 断と治療の手引きの改訂第 2 版ではNPPVを積極的に試 みてよいと記載されている1).表 1に間質性肺炎に対す るNPPVの報告のまとめを示す.
本ガイドラインでは,比較試験が行われていないため 本対象群に対してNPPVを日常的に使用することは推奨 できないが,本疾患群が免疫抑制療法の適応となること が多く,挿管人工呼吸管理を行っても人工呼吸器関連肺 障害のリスクが高く,極めて予後不良であることから,
慎重な観察下での施行は許容できると判断する.また,挿 管人工呼吸管理を希望しない症例(do not intubate:
DNI)では,NPPVを上限としてもよいと考えられる.
3 NPPV の治療方針
間質性肺炎における呼吸管理には,低酸素血症主体の
Ⅰ型呼吸不全の場合と,呼吸性アシドーシスを伴うⅡ型 呼吸不全の場合に大別されるが,滲出期から器質化期の 主体は前者であり,不可逆性の線維化に進行すると死腔 換気が増え,また呼吸筋疲労を伴うにしたがい後者に移
行する.
前者の病態に対しては,ARDSタイプの呼吸管理に準 じて行われ,ガス交換の改善と挿管の回避が目標となる.
最近では人工呼吸管理自体が肺損傷を助長することが知
られ31, 32),呼吸サイクルごとでの肺胞の虚脱と開放の繰り
返しが炎症を惹起することが知られている.これに対し,
高めのPEEPによる肺胞の開存の維持(open lung strate-gy)が呼吸状態を改善し炎症性サイトカインを低下させ るとの報告もある33).ARDS症例におけるNPPVによる CPAP 4cmH2Oと CPAP 12cmH2O の 比 較 検 討 で も CPAP12cmH2Oの有効性が報告されている34).しかしな がら最近の報告では,間質性肺炎症例においてPEEPを 上げても肺胞は開存できず,むしろ予後を悪化させる可 能性を示唆する報告がされているが,対象症例は挿管・
人工呼吸管理例である35).PEEP/CPAPの意義は個々の 症例で異なるため慎重に設定条件を検討する必要があろ う.換気不全を合併した場合は圧換気補助(pressure sup-port ventilation:PSV)主体の呼吸管理を行う.ただし,
分時換気量が多量にもかかわらず高二酸化炭素血症が進
行する場合は不可逆性の線維化への進行による死腔換気 の増加を意味し予後不良の徴候である.
4 NPPV 導入基準
低酸素性急性呼吸不全(PaO2/FIO2≦300)を呈した場合 は,早期よりNPPVを導入してよい.挿管人工呼吸に比 べて早期から開始できるというNPPVの利点を十分に活 かしてよい.また,呼吸性アシドーシスを呈する場合も 導入してよい.
5 NPPV 導入の実際
CPAP/EPAP 4cmH2O,FIO2 1.0 で 開 始 し , 8〜
12cmH2Oを目標に徐々にCPAP/EPAPを増加させる25). FIO2はできるだけ 0.6 以下にし,高濃度酸素中毒を防ぐ よう試みる.頻呼吸が著しい場合や,呼吸筋疲労の徴候 が認められる場合は,PSVは行ってもよい.呼吸性アシ ドーシスを合併した場合は十分なPSVを併用する.ただ 表 1 間質性肺炎に対する NPPV
論文コード 対象 方法 結果
近藤ほか , 2005
コホート研究 NPPV 療法を施行した急速進 行性間質性肺炎 31 例 慢性間質性肺炎急性増悪 17 例
(特発性肺線維症 11 例)
その他 14 例 PaO2/FIO2 137 APACHE Ⅱ 15.0
NPPV 専用機
CPAP 4 〜 12cmH2O, 適 宜 PS 追加
NPPV 使用期間 9(1〜24)日 挿管は 10 例で 2 例が生存 3 ヵ月生存:13 例(42%)
特発性肺線維症症例は有意に予後不良
Tomii et al, 2010
コホート研究 間質性肺炎の急性増悪 33 例 前 NPPV 期 11 例 11 エピソー ド[PaO2/FIO2 167]
NPPV 期 22 例 27 エ ピ ソ ー ド[PaO2/FIO2 139]
NPPV 専用機
前 NPPV 期と NPPV 期の比較 CPAP/EPAP 4cmH2O 〜 上 限 10cmH2O,適宜 PS 追加
60 日生存
前 NPPV 期 27%,NPPV 期 65%
0.02
Yokoyama et al, 2010
コホート研究 特発性肺線維症の急性増悪 11 例PaO2/FIO2 139
NPPV 専用機
CPAP 10cmH2O,6 例 S/T 15cmH2O/10cmH2O,5 例
90 日生存 45.5%
生存期間中央値 30 日
挿管人工呼吸移行 4 例は全例死亡 Mollica et al, 2010
コホート研究 終末期特発性肺線維症 34 例 NPPV 19 例[PaO2/FIO2 89,APACHE Ⅱ 19.5]
挿 管・ 人 工 呼 吸(INV)15 例
[PaO2/FIO2 99,APACHE Ⅱ 24.2]
NPPV は通常型人工呼吸器の PS mode でヘルメット使用
PS 18(15〜22cmH2O)
PEEP 7(4〜10)cmH2O,
NPPV で有意に呼吸数低下
ICU・入院死亡率:NPPV 73%,INV 100%ただし,APACHE Ⅱは NPPV 群は有 意に軽症
Yokoyama et al, 2012
コホート研究 NPPV 療法を施行した急速進 行性間質性肺炎 38 例 慢性間質性肺炎急性増悪 19 例
(特発性肺線維症 16 例),薬剤 性間質性肺炎 12 例,急性間質 性肺炎 7 例(膠原病性 3 例)
PaO2/FIO2 192 APACHE Ⅱ 10.1
NPPV 専用機
CPAP 4 〜 12cmH2O, 適 宜 PS 追加
NPPV 使用期間 11 ± 14 日
30 日評価:成功 18 例.8 例は挿管拒 否し死亡.挿管は 12 例で 4 例が生存.
早 期 NPPV 導 入,PaO2/FIO2高 値,
KL-6 低値,LDH 低値が NPPV 成功の 予測因子
Güngör et al, 2013
コホート研究 ICU 管理を要した間質性肺炎 120 例(特発性肺線維症 96 例)
NPPV 75 例
NPPV 75 例の予後
NPPV 失敗因子の検討 NPPV 75 例→成功 38 例,APACHE
Ⅱ> 20 と継続的な NPPV 管理の必要 性が NPPV 失敗の予測因子