OHS)は,著しい肥満と日中の肺胞低換気を示す病態で あり,過去にPickwick症候群1)と呼ばれていたものに 相当する.現在では,OHSは閉塞型睡眠時無呼吸症候群
(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)の最重症型 と考えられている.OHSに関して,これまで明確な定義 はなかったが,近年,厚生省研究班(栗山班)2)が表 1の ような定義を発表しており,診断と治療のための指針も 公表されている.しかし,この定義は日本独自のものであ り,AASM(American Academy of Sleep Medicine)3)で は,特にOHSを分類せず,sleep hypoventilation syndrome のなかに含め,BMI(body mass index)>35kg/m2を危 険因子としている.しかし,最近発表されたいくつかの レビュー4〜6)ではOHSという言葉が用いられており,
BMI>30kg/m2と日中の肺胞低換気(PaCO2>45mmHg およびPaO2<70 mmHg)に睡眠呼吸障害(sleep-disor-dered breathing:SDB)を伴う病態と定義されている.近 年注目されている最大の理由は,罹患率の高さと予後の
悪さであり,有病率は全SDB患者の 10〜20%に過ぎな いのに死亡率は高く,図 14)に示すように明らかな予後 不良が示されている.したがって,OHSに対しては早期 の適切な診断と有効な治療が望まれる.
2 治療法の選択
a.減 量
OHSは高度の肥満(BMI>30kg/m2)を伴っているた め,減量は常に考慮されるべき治療法である.OSASに 対する減量の効果は大規模研究で明らかにされており,
各論 B:慢性呼吸不全
肥満低換気症候群
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CQ 19 肥満低換気症候群に対して,CPAP と bilevel PAP のいずれを第一選択とすべ きか?
回答:肥満低換気症候群は,高度肥満(BMI≧30kg/m2)・高二酸化炭素血症(PaCO2≧45mmHg)を 伴う重症の OSAS(AHI≧30)例が多く,ガス交換障害が高度であるため循環系合併症を惹起しやす く,予後不良の病態である.前向きのコホート研究で CPAP 単独でも有効性が期待できることが示唆 され,ランダム化比較試験で bilevel PAP の CPAP に対する優位な治療効果が示されていないことか ら,減量と同時に nasal CPAP が治療の第一選択と考えられる.しかし,通常の OSAS 患者に比し高 圧の CPAP が必要なことが多く,その不快感のため治療の継続が難しかったり,CPAP だけでは睡眠 中の低呼吸や desaturation を是正できない場合は,bilevel PAP による治療が必要となる.
CQ19 推奨:
①肥満低換気症候群に対し,第一選択として CPAP を使用する.【エビデンスレベル Ⅲ,推奨度 B】
②CPAP の治療効果が不十分であれば,bilevel PAP を使用する.【エビデンスレベル Ⅲ,推奨度 C1】
表 1 肥満低換気症候群(OHS)の診断基準
①高度の肥満(BMI ≧ 30kg/m2)を呈する.
②日中における高度の傾眠を呈する.
③慢性の高二酸化炭素血症(PaCO2> 45mmHg)を呈する.
④睡眠時呼吸障害の重症度が重症以上(つまり,無呼吸低呼吸 指数≧ 30,SaO2最低値≦ 75%,SaO2< 90%の時間が 45 分以上または全睡眠時間の 10%以上,SaO2< 80%の時 間が 10 分以上,などを目安にして総合的に判定する)である 診断の基準 : 上記①〜④のすべてを満たす場合こと.
10%の減量が無呼吸低呼吸指数(AHI)を 26%低下させる と報告されている7).しかし,実際には,減量だけで睡 眠時の呼吸障害を取り除くのは極めて困難で,特にOHS のように肥満が著しい例では他の治療との併用が必要で
ある .
近年,減量のための外科手術が試みられている.OSAS 患者に対する手術の効果を検討した最近のメタアナリシ ス8)によれば,12 の論文で 342 人の患者の結果をみる と,術前のAHIは 55 から手術後には 16 にまで減少し 71%の減少をみた.しかし,完全にAHI<5 となったの は 38%に過ぎず,残りの 62%には中等度のSAS(AHI>
15)が残存した.また,6〜8 年後には 7%が体重の増加が みられた.OHS患者を対象とした報告9)は 1 つだけであ るが,31 例で手術後 1 年には,PaO2は 53mmHgから 73mmHgへと増加し,PaCO2は 53mmHgから 44mmHg に低下した.しかし,5 年後を追跡できた 12 例では,
PaO2は 68mmHgへ,PaCO2は 47mmHgへと増悪して いた.さらにこの間にBMIは 38 から 40 へと増加し,こ れがSDBの増悪をもたらし肺胞低換気を再燃させたと考 えられる.
減量手術にはかなりの危険が伴うことが報告されてお り,手術時の死亡率は 0.5〜1.5%とされている10).対象 がOSASやOHSの場合には,この値がさらに増大する と考えられており,手術の施行には十分な考慮が必要と 考えられている .
b.nasal CPAP
OHSの多くは重症のOSASを伴っているため,その治
療の第一選択はnasal CPAP11)である.OSAS治療にお ける適正圧の設定(CPAP titration)は,治療効果を左右 する重要な行為でいわば薬物療法における処方に相当す る.実際には,睡眠検査(polysomnography:PSG)下に無 呼吸を認めたら,徐々に圧を上げていき,全睡眠経過を通 じて,いびき,無呼吸が完全に消失し,酸素飽和度(SaO2) が 90%以下に低下しないように圧を設定するmanual titrationを原則とすべきである.通常は,このtitration studyで至適圧を決定できるが,肥満が高度の場合,とき にSaO2の低下(desaturation)を十分に是正できないこと がある.nasal CPAPのOSASに対する有効性は多くの RCTで証明されている.日中の過眠12),QOL(quality of life)12, 13),高血圧14)に対して明らかな効果が認められて おり,生命予後に対しても,近年の比較的大規模の研究で,
重症OSAS患者の致命的心血管イベントを有意に抑制し 予後を向上させることが報告されている15) .
これらの報告は,重症のOSASを対象としたものであ り,OHSに対するnasal CPAPの有効性を検討したRCT は見当たらないが,いくつかのnon-RCTでは有効性が示 されている.最近のOHSを対象とした前向き研究16)で は,57%の患者がCPAP単独でtitrationが可能であり,
その平均圧は 13.9cmH2Oであった.残りの 43%は titra-tionが不十分で圧を十分に上げても 25 以上のAHIが残 存しSpO2も 90%以下が睡眠時間の 20%を占めていた.
これらのCPAPが不能の群のBMIは成功群に比し有意に 高値(61.6vs. 56.5)であった.この結果は約 6 割の患者は CPAP単独で十分な有効性が得られるが,残りの 4 割は,
CPAP単独では難しいことを表しており,特に肥満が重 レベル Ⅳ
レベル Ⅰ レベル Ⅳ
50 60 70 80 90 100
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
Probability of survival(%)
Months after diagnosis of OHS OHS treated with NIV
Eucapnic morbid obesity Untreated OHS
図 1 OHS 患者の死亡率
(詳細は本文参照)
度な患者に対してはbilevel PAPなどの他のオプションを 考慮する必要がある.
治療の安定には 1〜3 ヵ月ほどかかる場合もあり,最初 の 3 ヵ月は特にきめ細かい指導が必要である.また,
CPAP治療はあくまで対症療法であり根治的治療ではな いため,治療を継続し,かつ十分な使用時間を維持( ア ドヒアランス)することが極めて重要である.75 例の安 定したOHS患者の治療 1 ヵ月後の血液ガスの検討17)で は,毎晩 1 時間しか使用しない群では,PaO2は 3mmHg 増加し,PaCO2は 1.8mmHg低下したのに対し,毎晩 4.5 時間以上使用した群ではPaO2は 7.5mmHg増加し,
PaCO2は 9.2mmHg低下したと報告されている.した がって,1〜2 ヵ月ごとに定期的にフォローアップして適 切な治療の継続を指導していく必要がある.現在では,
毎回の使用状況を内蔵のカードで記録できるものがほと んどであり,治療のアドヒアランスを高めるうえで有用 である.OHSは,日中覚醒時に高二酸化炭素血症と低酸 素血症を伴うのが特徴であるが,CPAP治療を続けている と,これらの血液ガス異常が改善されることがしばしば みられる.その理由はいまだ明らかではないが,nasal CPAP治療により肺胞換気量が増加し18),また換気/血流 不均等が是正されるためと考えられている.また,CPAP 治療を続けながら減量を指導すると,比較的容易に減量 が可能となることがしばしば経験され,肥満の改善も血液 ガス異常の改善に貢献している可能性も考えられる.OHS に対しては,まず,nasal CPAPを行うことが第一選択であ
る .
c.nasal bilevel PAP
前述したようにOHS患者の約 4 割はnasal CPAPでは 完全に睡眠時の低呼吸やdesaturationを是正できず,ま た高圧のため患者が受容できない.特に肥満度が重度の ケースでは,しばしば 15cmH2O以上の高圧が必要とな る.このような場合には,吸気と呼気時に別々に圧を負荷 するnasal bilevel PAPが有効であることが報告され19), bilevel PAP治療の嚆矢となった.bilevel PAPシステム は,CPAPに比し,低圧で上気道閉塞をコントロールでき るため,高圧のCPAPより患者に与える不快感が少なく,
毎晩の使用に耐えられることが多い.ACCP(American Collage of Chest Physician)のコンセンサスレポート20)
では,bilevel PAPの適応として,CPAPでは圧が高過ぎ て使用に耐えられない場合,エアリークが多くて適正な 圧が得られない場合,OSASに慢性の閉塞性あるいは拘 束性換気障害の合併のため,CPAPでコントロールでき ない場合をあげている.しかし,CPAPとbilevel PAPの 効果を比較した最近の前向き研究21)では,治療 3 ヵ月後 において, アドヒアランス,自覚症状,低酸素状態の改 善などに有意な差は認められず,bilevel PAPが必ずしも
CPAPより優れているとはいえないとしている.したがっ て,現時点では,OHSに対する治療の第一選択はnasal CPAPであり,CPAPが高圧(>15cmH2O)であったり,
低呼吸や低酸素血症を是正できないときにbilevel PAPを 考慮すべきであろう.図 1に示すように,OHSの予後は 極めて不良であるが,CPAPとbilevel PAP治療により明 らかに向上する.bilevel PAPのtitrationは簡単ではない が,吸気圧(IPAP)は呼気圧(EPAP)より少なくとも 8 か ら 10cmH2O大きくする必要がある.CPAP治療を 3 ヵ月 以上継続してもPaCO2が低下しないときにはbilevel PAP への変更を考慮すべきである .
d.auto CPAP
近年登場したauto CPAP22)は,CPAP器機が内蔵の コンピュータにより自動的に上気道の狭窄・閉塞を感知 し,圧をかけて上気道閉塞を防ぐ装置である.したがっ て,上気道の開存が保たれているときには圧はかからな いため,患者の不快感は通常のCPAP器機に比し軽減さ れる.10cmH2O以上の高圧が必要なOSASにおいては,
auto CPAPのほうが固定圧CPAPより患者の使用時間が 増加し,不快感も少ないことがRCTで報告されている23). しかし,OHS症例では,マニュアルによるtitrationを 行ってもしばしば圧を固定することが難しく,auto-CPAP機器でも適正圧の設定が困難な場合も多い.した がって,OHS症例では必ずしもauto CPAPが優れてい るとは限らず,個々の患者に応じて慎重にモードや圧の 設定を行う必要がある .
文献
1)Bickelmann AG, Burwell CS, Robin ED, et al: Extreme obesity associated with alveolar hypoventilation: a Pick-wick syndrome. Am J Med1956; 21: 811-818.
2) 栗山喬之:総括報告.厚生省特定疾患呼吸不全調査研究 班平成 8 年度研究 報告書,1997: p1-11.
3)American Academy of Sleep Medicine Task Force:
Sleep-related breathing disorders in adults: recommen-dations for syndrome definition and measurement tech-niques in clinical research. Sleep1999; 22: 667-689.
4)Mokhlesi B, Kryger MH, Grunstein RR: Assessment nd management of patients with obesity hypoventilation syndrome. Proc Am Thorac Soc2008: 5: 218-225.
5)Chau EHL, Lam B, Wong J, et al: Obestiy hypoventila-tion syndrome: a review of epidemiology, pathophysiol-gy, and perioperative consideration. Anesthesiology 2012; 117: 188-205.
6)Borel JC, Borel AL, Monneret D, et al: Obesity hypoven-tilation syndrome: from sleep-disordered breathing to systemic comorbidities and the need to offer combined treatment strategies. Respirology2012; 17: 601-610.
7)Peppard PE, Young T, Palta M, et al: Longitudinal study レベル Ⅲ
レベル Ⅵ レベル Ⅲ