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NPPVは導入することが可能であれば,ある程度の目 的は達したことになり,導入することがNPPV成功の第 一歩となる.導入時に患者の反応,覚醒時,睡眠時の使 用状況,口漏れの有無などをチェックし,対策を立て,

十分に対処しておくことが,その後の継続,効果に関連 する.

原則として,低酸素血症のみの場合にはCPAPが目的 となり,高二酸化炭素血症を伴う場合には換気量の増加 あるいは維持のためにbilevel PAPが必要となる.CSR ではCPAPあるいはASVが使用される.

1 NPPV の効果に関連する因子

NPPVの導入の際に,挿管しないために,上気道の生 理学的変化について注意を払う必要があり,効果に影響 する因子を図 1に示す.効果が不十分な場合には,これら の点について検討することになる.

a.患者の協力

患者の協力が前提であり,NPPVの必要性,効果の事 前の説明が重要である.マスクの装着,陽圧呼吸は非生

理的であるため,最初は不快感が強いことが多い.患者 には誰でも最初は不快であるが,次第に慣れると説明し,

一般的には数分間行い,休んでは装着時間を長くする.

睡眠呼吸障害がある場合には,NPPVの導入とともに入 眠する場合もある.急性期の使用では短時間で装着する 必要があり,我慢してもらえなければ挿管することもあ ると説明し,協力が得られなければ,鎮静薬の使用を検 討することになる.

慢性呼吸不全の場合には,外来段階で,高二酸化炭素 血症が次第に悪化しつつあればマスクを使用した人工呼 吸を行う可能性があることを予備知識として話しておく.

また,現在のところ必ずしも必要でないが,将来的には 使用の可能性が高い場合には,たとえうまくいかなくて も実際に試してセッティングなどを確認しておくと,増 悪時などには装着しやすい.口漏れが起こるかどうか確 認しておくと,NPPVが必要時に使用するマスクなどが わかっているので,時間の節約になると思われる.

b.加湿器の使用

NPPVは,機構的に一方向流量のため,また口呼吸の 場合には鼻呼吸に比べ加湿の効率が低下し,漏れの代償

総 論

作用があるがために漏れがあれば高流量となり,熱と湿 気の喪失が起こりやすい.CPAPの際に,口漏れがある と,鼻抵抗は増加し,一回換気量が低下するが,加温加湿 器(heated humidifier:HH)で防止可能である1).正常 被験者を対象に,加湿なし,HH,heat moisture exchanger

(HME)の 1 時間の比較では,HHで漏れがあっても,湿 度の低下はなく,加湿なしでは,口の乾燥感が強い2). HMEでは,死腔量の増加によるPaCO2の増加,抵抗の 増加による換気量の増加のために呼吸仕事量が増加し,

呼気時に漏れがあれば湿度付加の低下があり,NPPVで は使用すべきでないとされる3, 4)

COPDによる慢性呼吸不全を対象とした報告では,

HHとHMEを 6 ヵ月ごとに交替使用し,副鼻腔感染,

肺炎などがHHで少ないものの,有意差はなく,増悪に よる入院に有意差はなく,多くの症例がHHを好んだ5). ヘルメット型インターフェイスを使用時は,ヘルメット 内の湿度,温度に注意する必要がある6)

c.マスク

マスクはマン・マシーンインターフェイスとして NPPVにおいて最も重要である.近年,多種類のマスク が発売されているが,それぞれに長所と欠点があるので,

ピロー型,鼻マスク型など数種類用意し,漏れと患者の 好みにより選択する.

患者の不快感の少ないものが使用されるが,鼻呼吸で は鼻マスクあるいはピロー型が,口呼吸であれば,鼻口 マスクが使用される.また,顔全体を覆うトータルフェ イスマスク,ヘルメット型などがある.マスクの容積が,

どの程度,死腔として機能するかどうかは,機構的にマ スクの一部に漏れる部分があるが(intentional leak),こ の穴の位置7),マスク周囲よりの漏れ,口漏れなどの unintentional leak,マスク内流量,EPAPなどが影響す る.一般的には容量が少ないほうがPaCO2の改善はよい とされるが8, 9),マスクによる違いはほとんどないとする 報告もある10).また,EPAPは 4cmH2O以下では再呼吸 が増加する11, 12)

d.マスク周囲よりの漏れ

bilevel PAPは機構的にintentional leakがあり,また マスク周囲よりの漏れ,口漏れなどのunintentional leak があり,ある程度の漏れは代償可能で,圧を維持するこ とができる.顔面の形態にあった,患者の不快感の少な いマスクの選択によりunintentional leakを少なくするこ とができるが,限界を越えると換気量は維持できないた めフィッティングの工夫,マスクの変更を考慮する.

PaCO2の低下を目的とする場合には漏れの少ないほうが よいと思われる.低酸素血症の改善にはCPAP圧が維持 されればある程度の漏れは許容できる.

NPPV用機器のソフトウエアにより,使用時間,漏れ,

一回換気量,呼吸数,分時換気量,患者によってトリ ガーされた呼吸,無呼吸低呼吸指数(AHI)などが測定さ れる.機器によって正確性が異なり,一般的には一回換気 量は低く計測され,吸気圧が高いと誤差が大きくなる13). これらの測定値とセッティングの変更などの実際にとっ た対策との関連について検討した報告ではオキシメーター 記録の補助的使用にとどまるようである14)

e.上気道抵抗

高度な鼻閉がある場合には必要なIPAP圧が高くなり,

また,口呼吸のために,鼻口マスクが必要となる場合が ある.睡眠に伴って上気道抵抗が増加し,NPPVの効果 が減弱する可能性があり15),睡眠時は少なくとも覚醒時 のPaCO2が維持されていれば有効と考えられる.閉塞性 無呼吸を伴えば,無呼吸の消失する圧にEPAPを設定す る必要がある.

声帯の動きは通常のNPPVでは問題とならないが16), 過換気となると吸気時に内側に動き,NPPVの効果を減 弱させることが報告されている17)

f.口漏れ

患者の協力が得られ口を閉じていることが可能であれ ば,覚醒時には口よりの漏れは少ないが,睡眠時には開 口のためにしばしば口よりの漏れが起こる.睡眠時呼吸 異常が高度である場合には,少量の口漏れであれば,

NPPV非使用時の睡眠時に比べ,睡眠中の呼吸異常は軽 くなると考えられる.しかし,睡眠時の開口による口漏 れは中途覚醒の原因となることがある18)

覚醒時,患者の協力が得られず,口漏れが高度である 場合は鼻口マスクを使用する.睡眠時の口漏れがある場 合にはテープを貼る,chin strapの使用あるいは鼻口マス クを使用する.鼻口マスクは,患者の協力が必要ないた め,急性期にははじめに鼻口マスクを使用し,慣れれば 鼻マスクに変更するという考え方もある19).また,NPPV が長時間必要な場合には,マスクの交替使用により,装 着部位の圧迫による障害を防止できる.睡眠時に口漏れ があり,覚醒時には口を閉じることができる場合には,

睡眠時鼻口マスクを使用し,覚醒時は鼻マスクを使用す る.睡眠時,覚醒時ともに開口してしまう場合には睡眠 時トータルフェイスマスク,覚醒時鼻口マスクとすると 鼻根部の潰瘍形成などの予防が可能である.

g.食道・胃への漏れ

陽圧のため,胃へ空気が漏れ,腹部膨満となる.この 際,患者の耐えられる腹部膨満をきたす気道内圧が,

IPAPの上限となってしまう.このような場合,換気量の 増加のためには呼吸数を増加させる.胃・食道チューブ

を併用することもできる.

h.肺・気道系の異常

侵襲的人工呼吸と同様に,肺・気道系の異常の影響を 受ける.したがって,漏れがない状態で,PaCO2が十分 低下しない場合には,IPAP圧を上げるか,呼吸数を増加 させる必要がある.

通常は,神経・筋疾患では,20cmH2O以下の気道内圧 で十分であるが,肺・気道系の異常がある呼吸器疾患で は 30cmH2Oに達することもある.

COPDでは増悪時にはintrinsic PEEPが増加する可能 性があり,intrinsic PEEPに相当するEPAPを設定する 必要があるが,多くは 4cmH2Oでも十分である20).また,

吸気triggerが十分でない場合にもEPAPの増加を考慮す る.

ARDS/ALIで使用の場合には圧–気量関係を考慮し,

EPAP圧を設定するか,CPAPとする.

2 患者と人工呼吸器との同調

NPPVでは挿管しないために,覚醒時,睡眠時の人工 呼吸器との関係がより問題となる.覚醒時においては,

導入時,下部胸部を呼気時に用手圧迫することにより同 調しやすくする方法もある.睡眠中に使用する場合には,

正常人では安定した睡眠時の呼吸の維持されるPaCO2よ りも数mmHg低下しただけで,無呼吸となり21),(S)

モードでは周期性呼吸となるために,(T)あるいは

(S/T)モードとしておくことが必要である22).(S)モー ドによる自発呼吸時に短期覚醒が起こり,また,十分同 調しない場合もあり,結核後遺症例では高二酸化炭素血 症を伴う症例はTモードのほうがよい可能性もある23)

3 血液ガスが改善しない場合の対策

上記の問題を考慮しつつ導入し,また,血液ガスが改 善しない場合にも,上記の生理学的問題を参考に対策を 考えるが,実際の対策について表 1に示す24)

4 導入後の管理

急性期の導入後のモニタリングについては表 2に示す.

導入後は,NPPVの使用時間,自覚症状の改善の程度,

血液ガスをチェックしていく必要がある.PaCO2の上昇 を認める場合には,睡眠時の口漏れの有無,使用時間の 延長,可能であればIPAPの増加,呼吸数の増加を考慮 する.夜間不眠のために,使用できない場合は,昼間数時 間の使用でもPaCO2の安定化が可能である場合もある25). PaCO2の増加,睡眠呼吸障害に関連した症状の悪化があ れば睡眠時にオキシメーターでモニターを行う.NPPV のマスク,換気条件,酸素付加の必要性の有無などが決 定すれば,在宅での使用のためには,患者・家族への NPPVの使用方法,マスク,チューブ,フィルターなど

表 1 NPPV が効果的でない場合の検討項目 原因治療が適切か?

合併症の出現

PaCO2高値の継続

O2 85〜90%に

は適切か    ・呼吸数,I/E,assist/control の変更    ・吸気トリガーのチェック(可能なら)

   ・呼気トリガーのチェック(可能なら)

   ・EPAP の増加を考慮(COPD で bilevel PAP の場合)口で吸気,呼気を指示,手で下部胸郭の呼吸補助    ・IPAP あるいは換気量を増加,吸気時間の増加

   ・呼吸数の増加(換気量増加のため)

   ・換気モード,人工呼吸器の変更(可能なら)

PaCO2は改善したが,PaO2が低い EPAP の増加(bilevel PAP の場合)

(文献 24 より引用)

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