• 検索結果がありません。

心原性肺水腫

CQ 6 胸郭損傷を伴う急性呼吸不全症例の呼吸管理に NPPV を使用すべきか?

回答:外傷における NPPV には,1 つのシステマティックレビューと有効性を示す 3 つのランダム化比 較試験やいくつかの症例集積研究が報告されているが,外傷は 1 例ごとに異なっており,軽症例から 重症例,単独胸部外傷から多発外傷などさまざまである.NPPV に十分習熟し,かつ,外傷の管理に も慣れている施設では,症例ごとに適応を吟味して行えば,合併症を併発することなく呼吸機能の改 善を早めることができ,挿管を回避して,経口摂取を早期に開始することができる.ただし,陽圧換 気に伴う気胸の発生や進行には十分に注意を払うべきである.外傷症例に対する NPPV の使用に習熟 していない施設の場合では,前者ほどは推奨し難い.NPPV 装着後 30〜60 分程度で治療効果を評価 して,改善が得られない症例であれば,躊躇せずに気管挿管に切り換えるべきである.

CQ6 推奨:胸郭損傷を伴う急性呼吸不全に対して,NPPV を試みてもよい.【エビデンスレベル Ⅱ,

推奨度 C1(経験があれば推奨度 B)】

表 1 胸部外傷の頻度

約 60%

約 50%

約 30%

約 20%

約 10%

約 10%

約 8%約 8%

約 5%約 3%

約 3%

(標準救急医学,第 3 版,医学書院,東京より引用改変 )

に挿管群であった.注意しなければならないことは,FIO2

が 40%以上でPaO2<60mmHgと定義されるような中等度 以上の肺損傷を有する症例は研究から除外されているこ とである.肋骨骨折患者にCPAPを実施する場合,侵襲 的人工呼吸の場合と同様の気胸をきたすリスクを認識す ることが重要である .

1998 年,Antonelliら3)は急性呼吸不全の 64 例の患者 においてNPPV群 32 例と気管挿管群 32 例を比較したラ ンダムコントロールスタディを行い,NPPVでも低酸素 血症の回復は挿管に劣らず,ICU滞在日数はむしろ短縮 され(9 日vs. 16 日),感染による合併症も少なかった

(38%vs. 66%)と報告した.多くの症例は内因性疾患で あるが,胸部外傷症例がそれぞれの群に 4 例ずつ含まれ

ている .

1998 年Gregorettiら4)は,22 例の急性呼吸不全を伴 う外傷患者を対象にほぼ同じ呼吸管理条件で,気管挿管 からNPPVに変更(EPAP:5.8vs. 5.2cmH2O,IPAP:

13.5vs. 12.8cmH2O)したところ,酸素分圧や呼吸パター ンの改善に遜色なかったと報告した .

1999 年,Beltrameら5)は急性呼吸不全を伴う 46 例の 外傷に対してNPPVを行い,33 例(72%)において成功 したと報告した.外傷の内訳は胸部外傷 11 例,頭部外傷 8 例,腹部外傷 6 例,脊髄損傷 6 例,多発外傷 8 例,広 範囲熱傷 7 例であった.観察項目はP/F比,呼気のVT

(tidal volume),呼吸数であり,P/F比は 152.4 から 277.9 に,VTは 356.1mLから 648.1mLに,呼吸数は 31.4 回から 20.4 回に改善した .しかしなが ら,広範囲熱傷による急性呼吸不全の症例群では,失敗 例が成功例を上回っていた .外傷症例の選択 によっては,呼吸不全の治療がうまくいく可能性を示唆 した.

1998 年,Abisheganadenら6)は多発性骨髄腫に伴う フレイルチェストの 1 例にNPPVを施行し,侵襲的な呼 吸管理を回避できたと報告した .また,2000 年,Sivaloganathan7)は交通外傷によるフレイルチェス トの 1 例に対して,NPPVによる呼吸管理によって,症 例は順調に経過し侵襲的な呼吸管理を回避できたと報告 した .さらに 2000 年,Garfieldら8)は交通 事故で重症な胸部外傷(左フレイルチェストと右肺挫傷)

の 35 歳の症例に対して,第 10 病日まで気管挿管で管理 を行い,その後はNPPVに移行した結果,早期にICUか ら 退 室 し , 合 併 症 の 発 生 を 予 防 で き た と 報 告 し

た .

2000 年,長谷川ら9)は,中等度の胸部外傷 40 例

(APACHEⅡスコア平均 17 点)に対してNPPVを施行 し,挿管症例と比較した結果,有意に経口摂取開始まで の日数が短く(2.1 日vs. 7.3 日),合併症の発生もなく,呼 吸管理上遜色ないと報告した.症例には,頭頸部・腹部・

骨盤・四肢の外傷を合併する多臓器損傷や多発外傷があ り,胸部単独外傷も含んでいたが,コミュニケーションが 容易で,受傷後しばらくして顕性化してくる症状の聴取 や観察にも,挿管症例に比べ有利であった .

2002 年,新井10)は胸部外傷に対するNPPVの適応基 準を以下のように示した.受傷機転あるいは他の検索な どから胸部単独損傷であること,損傷の全体像の把握が ある程度終了しており他に重大損傷がないこと,NPPV のための時間が確保できること,中等度以下の呼吸不全 であることとした.そして,多発外傷の場合は,他の合 併損傷が安定していることが絶対条件であると報告し

た .

2005 年,Gunduzら11)はP/F比 300 以下の胸部外 傷・フレイルチェスト 52 例について,気管挿管群 21 例 とマスクCPAP群 22 例に分け比較検討した結果,マス クCPAP群において,死亡率(33%vs. 9%,p=0.001)

と肺炎合併率(48%vs. 9%,p<0.01)が有意に低かっ

た .

2010 年,Hernandezら12)はレベル 1 外傷ICUにおい て,胸部外傷のランダム・クリニカル・トライアルを 行った.対象は受傷後 48 時間以内に酸素療法が開始され P/F比 200 未満が 8 時間以上続く 50 例である.25 症例 ずつを高流量酸素群とNPPV群とに割り付け,挿管頻度 と在院日数を比較したところ,挿管頻度はNPPV群で有 意に低く(40%vs. 12%,p=0.02),在院日数も少なかっ た(21 日vs. 14,p=0.001) .

2013 年,Duggalらa)は鈍的な胸部外傷における非侵襲 的陽圧換気の安全性と効果について,MEDLINE(1946〜

2012 年 6 月),EMBASE(1980〜2012 年 6 月),Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL) data-basesよりシステマティックレビューを行い 3 つのRCT と 2 つの後ろ向きコホート研究,4 つの症例報告を報告 している.その結果,エビデンスは強くないものの,非 侵襲的換気(NPPVやCPAP)を早期に開始すれば,気管 挿管を防ぎ,合併症とICU滞在期間を減少させるとし

た .

3 NPPV の治療方針

呼吸管理の目的は,換気障害の治療,低酸素血症の治 療と無気肺の発生・進行予防である(表 2).骨折による 疼痛のために呼吸運動制限,換気量減少,死腔増大,気 レベル Ⅳ

レベル Ⅳ

レベル Ⅲ

レベル Ⅳ

レベル Ⅱ

レベル Ⅱ レベル Ⅱ

レベル Ⅳ

レベル Ⅳ レベル Ⅳ

レベル Ⅳ

レベル Ⅰ レベル Ⅲ

表 2 胸部外傷における NPPV の使用目的

(内固定),

低酸素血症の治療と無気肺の発生・進行予防

道内分泌物貯留などにより二次的に無気肺,低酸素血症,

肺炎を併発する可能性があるため,鎮痛薬の内服,坐薬 や静脈内投与薬の使用,さらには胸部硬膜外ブロックな どを症例ごとに考慮する.十分で適切な除痛を図り,喀 痰のドレナージが十分に行える体位変換を組み合わせる ことで,酸素化障害の治療や無気肺の発症と進行予防に 効果的である.一般的なNPPVの適応基準を満たしたう えで,表 3にあげたような症例を除外すれば,多くの症 例に適応可能と考えられる.特に,気胸についてはドレ ナージでコントロールされていれば禁忌ではない13)

欧米や日本において,胸部外傷に対するNPPVによる 治療のランダムコントロールスタディはわずかであるた め,使用条件を満たしていれば行っても構わないと考え るが,NPPVの使用に慣れている施設や部署で,十分に 注意を払って行うべきである.

4 NPPV の導入の実際

長谷川ら14)は外傷症例におけるNPPVの設定を,

IPAP10cmH2O,EPAP5cmH2O,FIO2は症例ごとに適宜 として開始し,IPAPは最大 15cmH2O,EPAPは最大 8cmH2O程度までとしている.マスクの選択は症例ごと にフィットするものを選択している.

NPPV開始時はベッドサイドで患者に治療の必要性を よく説明し,機器装着による恐怖心を取り除き,マスク の密着性を微調整している.

Mehtaら15)やHoffmannら16)の肺水腫症例に対する NPPV施行では,呼吸数,心拍数,血圧,PaO2,PaCO2

をモニタリングし,挿管を回避した症例では,30〜60 分 で有意に観察項目の改善を認めていた.長谷川ら12)の外 傷症例においてもこの報告を参考に,観察項目は,パル スオキシメーターによるSpO2または,PaO2,PaCO2と呼 吸数,心拍数,血圧で行い,装着後 30〜60 分を経過して 悪化するようであれば気管挿管を考慮している.

5 おわりに

胸郭損傷におけるNPPVの有用性に関して,RCTによ る明確なエビデンスはわずかであるが,有用性を示唆す

る症例集積研究が報告されつつある.適応を吟味して NPPVに十分習熟した施設で管理すれば,合併症を併発 することなく呼吸機能の改善を早めることができ,挿管 を回避して,経口摂取を早期に開始することができる.

しかしながら,装着後 30〜60 分程度で改善が得られない 症例であれば,躊躇せずに気管挿管に切り換えるべきで ある.

文献

1)Branson RD, Hurst JM, Dehaven CB: Mask CPAP: state of art. Respir Care1985; 30: 846-857.

2)Bolliger CT, Hon BS, Eden SF: Treatment of multiple rib fractures: randomized controlled trial comparing venti-latory with nonventiventi-latory management. Chest1990; 97:

943-948.

3)Antonelli M, Conti G, Rocco M, et al: A comparison of noninvasive positive-pressure ventilation and conven-tional mechanical ventilation in patients with acute res-piratory failure. N Engl J Med1998; 339: 429-435.

4)Gregoretti C, Beltrame F, Lucangelo U, et al: Physiologic evaluation of non-invasive pressure support ventilation in trauma patients with acute respiratory failure. Inten-sive Care Med1998; 24: 785-790.

5)Beltrame F, Lucangelo U, Gregori D, et al: Noninvasive positive pressure ventilation in trauma patients with acute respiratory failure. Monaldi Arch Chest Dis1999;

54: 109-114.

6)Abisheganaden J, Chee CB, Wang WT: Use of bilevel positive airway pressure ventilatory support for patho-logical flail chest complicating multiple myeloma. Eur Respir J1998; 12: 238-239.

7)Sivaloganathan M: Management of flail chest. Hosp Med2000; 61: 811.

8)Garfield MJ, Howard-Grifffin M: Non-invasive positive pressure ventilation for severe thoracic trauma. Br J Anaesth2000; 85: 788-790.

9) 長谷川伸之,鈴川正之:集中治療(救急領域患者)におけ る非侵襲的陽圧換気療法—救急・集中治療における低侵 襲診断法・治療法—.集中治療 2000; 12(臨増): 235-239.

10) 新井正康:Ⅲ.非侵襲的陽圧換気法—急患室における NPPVの意義と外科的疾患,術後患者への応用—特集 呼 吸管理:最新の知識とノウハウ.救急医学 2002; 26:

1595-1598.

11)Gunduz M, Unlugenc H, Ozalevli M, et al: A compara-tive study of continuous posicompara-tive airway pressure

(CPAP)and intermittent positive pressure ventilation (IPPV) in patients with flail chest. Emerg Med J2005; 22:

325-329.

12)Hernandez G, Rafael F, Pilar LR, et al: Noninvasive ven-tilation reduces intubation in chest trauma-related hypoxemia: a randomized clinical trial free to view.

Chest2010; 137: 74-80.

表 3 外傷による NPPV の適応除外症例

(JCS で 20 以下)を認める症例

, 喉頭損傷の症例

関連したドキュメント