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慢性心不全におけるチェーン・ストー

CQ 18 慢性心不全患者のチェーン・ストークス呼吸に対して NPPV を行うべきか?

慢性心不全(CHF)はあらゆる心疾患において最終転帰 となりうる共通の病態であり,近年,日本でも国民の高齢 化や,急性心筋梗塞など致死率の高い心疾患に対する治 療の進歩に伴う生存率の向上と関連して有病率は非常に 高くなっている.CHFに対する治療も目覚ましい進歩を 遂げているもののその予後はいまだに不良である.した がって,CHFを悪化せしめる病態および疾患を同定し,

それらに対する介入によってCHF自体の改善も期待でき るような新たな治療を見出すことが重要と考えられてい る.

CHFではチェーン・ストークス呼吸(CSR)を高頻度に 合併し,CSRを合併したCHFの予後は不良であること が数多く報告されている1).さらには,CHFに合併した CSRに対する治療により,短期的な心機能の改善や生活 の質の改善が報告されており2, 3),最近では,CSRの改善 を介したCHFそのものへの治療のひとつとして臨床の現 場でも広く普及してきている.

一般的にCSRは中枢性睡眠時無呼吸低呼吸と一回換気 量が漸増漸減する過呼吸のサイクルを繰り返す周期性異 常呼吸であり,同様にCHF患者で高頻度に合併する中枢 性睡眠時無呼吸のほとんどがCSRのパターンを呈してい るため,これまでの研究ではCSRと中枢性睡眠時無呼吸 を明確に区別しているものは少ない.本項でも特に断り のない限りCSRと中枢性睡眠時無呼吸を同義に扱うもの とする.

1 疫学

CHFにおけるCSRの合併は,CSRを睡眠 1 時間あた りの無呼吸ないし低呼吸の頻度を表す無呼吸低呼吸指数

(AHI)≧15 でかつ無呼吸および低呼吸イベントの>50%

が中枢性であると定義した研究の結果から 21〜37%と報 告されている4, 5)

CHFにおいてCSRは男性で 2〜3 倍多いということが

各論 B:慢性呼吸不全

知られており,これに加え,高齢,低PaCO2血症,心房 細動の合併,利尿薬の使用がCSRの独立した関連因子と 報告されている5).また,CSRがCHFの予後悪化因子で あることを示すデータがこれまでにも多数報告されてい る1)

CHFではCSRは睡眠中のみならず日中覚醒時にも出 現することが報告されており,その頻度は 60%ともいわ

れている6, 7).さらには,そのような日中CSRの合併も睡

眠中のCSRと同様にその後の予後悪化因子であることも 報告されている8, 9)

2 病態生理

CSRは基本的にCHFによって生ずるものであり,

PaCO2が無呼吸閾値を下回り中枢性無呼吸低呼吸が生じ ることから始まることが多い.一般的にCHF患者は,肺 うっ血に伴うirritant receptorの刺激,中枢および末梢の 化学受容体感受性の亢進から慢性的に過換気になりがち

である1, 3).無呼吸閾値が上昇する覚醒状態から睡眠状態

への移行期,覚醒反応の後に続く大きな換気によってPaCO2

が無呼吸閾値を下回ると中枢性無呼吸が発生する1, 3).そ の後,PaCO2が無呼吸閾値を上回ると換気が再開するが,

化学受容体感受性の亢進により換気のオーバーシュート が起こり,PaCO2が再び無呼吸閾値を下回るため,再度

無呼吸が出現しCSRサイクルを形成する.中枢性睡眠時 無呼吸のあとの過換気の持続時間が肺から化学受容体ま での循環時間や心拍出量の低下と関係しており,CHF患 者でCSRサイクルが継続する原因と考えられている1, 3)

このようにCSRはCHFの結果で引き起こされるもの であるが,CSRが合併することによって心機能へ悪影響 を及ぼす.特にCSRによる睡眠障害と一過性低酸素血症 などよって生じる交感神経活性の亢進により心機能や予 後がさらに悪化するものと考えられている(図 1).

3 CHF における CSR の治療

a.心不全治療による CSR への影響

CSRはCHFの結果で引き起こされるものであるため,

CHFの治療を適正化ないしは強化することがCSRを抑 制する治療としてまず検討される.実際に日本の非ラン ダム化試験にて心不全治療薬であるβ遮断薬や心臓リハ ビリテーションの一環としての運動療法によりCSRが抑 制されたと報告されている10, 11).また,両室ペーシングに よる心臓再同期療法に関するメタアナリシスでは,非ラ ンダム化試験を中心にした結果ではあるがCSRのAHI の低下効果が報告されている12).さらには心臓移植の前 後でCSRが抑制されたという報告もある13).これらの結 果のほとんどがランダム化試験による結果ではないため,

中途覚醒

↑交感神経活性

↑カテコラミン

↑心拍数↑血圧

↓PaO2

↑PaCO2

↓心筋酸素供給

↑心筋酸素需要

中枢性無呼吸 過換気

↓PaCO2

睡眠の分断 日中過眠

↑化学受容体感受性 肺迷走神経

求心路刺激

倦怠感 肺うっ血

脳血管血流 低下

↓心拍出量左心不全

↑左室充満圧

図 1 CSR の病態生理 中枢性無呼吸=CSR とする.

(文献 1 より引用)

CSRをターゲットにしてCSRの合併のみを理由にこれら の治療を考慮すべきとまではいえないが,いずれもCHF 治療としてのエビデンスが確立されており,CHF治療と して必要性や可能性がある症例ではCSRに対する特異的 治療の前に開始すべきである.

b.CSR に対する治療

CSRに対する治療として,呼吸中枢刺激作用と強心作用 のあるテオフィリンやPaCO2レベルを高めるための二酸化 炭素吸入やデッドスペースの付加などが試されたが14〜16), 不整脈やPaCO2レベルの上昇による交感神経活性の亢進 などが懸念され,現在のところ実用に至っていない17). アセタゾラミドはおそらく実際のPaCO2レベルと無呼吸 閾値の差を大きくすることでCSRを抑制する.男性 CHF患者におけるランダム化クロスオーバー試験では AHIを 38%低下させた18).しかしながら 6 日間と短期間 での結果であり,長期の効果や心機能への影響,副作用 の発生などを考慮した検討が必要である.さらに最近で は,経静脈的横隔神経電気刺激によってAHIが減少した という報告がなされているが,こちらも長期的な安全性 や心機能への影響については検証されていない19, 20)

酸素吸入療法に関しては,短期間のランダム化試験で 約 50%のAHIの低下を認めると報告されている21〜23). また,夜間の尿中ノルエピネフリン排泄の軽減24),最大 酸素摂取量,換気効率の改善効果などもあるとされてい る21).日本からも酸素療法付加群と通常治療群を比較し たランダム化試験の結果で 3 ヵ月および 13 ヵ月の酸素吸 入療法の効果が報告されているが,身体活動能力質問票 による活動能力の改善を認めたのみで,左室駆出率

(LVEF)の改善や心臓死やCHFの増悪を複合エンドポイ ントにした心イベント回避に対する効果は認められなかっ

25, 26).したがって,酸素吸入療法にて直接的に心機能

を改善するというエビデンスはない.しかしながら,簡 便で忍容性も高く,良好なアドヒアランスが期待できる ため,他の治療が困難である場合は導入を考慮してもよ いと考えられる.

前述のようにCSRはCHFに伴う肺うっ血などに起因 するため,心臓前負荷を軽減し血行動態を改善しうる持 続気道陽圧(CPAP)がCSRを合併するCHFの治療とし て検討されてきた.CPAPによってCSRが抑制される理 由は明らかではないが,前述の心負荷の軽減に加え,気 道への陽圧負荷によるPaCO2レベルの上昇などによると 考えられている.実際にCSR自体の改善が報告されてい る一方で,CPAPのCSR改善効果に対して否定的な報告

もある3, 27).これらを比べると,CPAPの圧レベルを 1 週間

程度かけて徐々に上げていき 10cmH2O前後まで上昇さ せた場合ではCSRの抑制に対し効果的なようである3, 27). この方法でCPAPを使用した場合にはPaCO2レベルを上

昇させ ,交感神経活性を低下し3, 27),ランダム化試験に て 3 ヵ月間のCPAP治療でLVEFの増加をきたすと報告 されている28).また,単施設における小規模のランダム 化試験では,CHF患者でCSRを合併しない場合,CPAP

はLVEF,死亡および心移植を複合エンドポイントとし

た心イベントの抑制のいずれに対しても効果はなかった が,CSRを合併した場合,CPAPによって 3 ヵ月後の LVEFは改善し,中央値 2.2 年間での心イベントの発生が 低下する傾向がみられた(p=0.059)29).特にCPAPコン プライアンスが保たれた患者に限った解析では,有意に 心イベントの発生を低下させた(p=0.017)29).しかしな がら,この結果はあくまで単施設の少数例で行われたラ ンダム化試験のサブグループにおける結果であったため,

この効果を証明するために多施設の大規模ランダム化試 験 で あ る Canadian Continuous Positive Airway Pres-sure for Treatment of Central Sleep Apnea in Heart Fail-ure(CANPAP)試験が行われた30).この試験ではCSRを 合併する 258 例のCHF患者がエントリーされ,対照群 130 例,CPAP治療群 128 例における死亡および心移植 の複合イベント回避率が比較されたが,2 年間の平均観 察期間で両群間のイベント回避率に有意な差を認めな かった(図 2).ランダム化後 3 ヵ月での睡眠ポリグラフ 検査でCPAP治療群のCPAP使用下での平均AHIは約 20 といまだ高いためより詳細な検討が追加された.それ までの報告でCPAPによってCSRの改善が不十分な症例 が存在することが知られていたため2),CPAP治療群を 3 ヵ月目のCPAP下でのAHI<15 と≧15 の 2 つのサブ グループに分けて解析をしたところ,AHI<15 の群では 対照群と比較して有意にイベント回避率が良好であるこ とが示された(図 3)31).これらの結果をまとめると,

CPAP治療はCSRを合併したすべてのCHF患者におい て推奨される治療ではないが,CSRがAHI<15 に抑制さ れる場合は治療継続するべきと考えられる.

以上よりCSRをより十分に抑制しうる治療法が重要と 考えられ,CPAPよりCSRの抑制効果が大きいと報告さ れている 2 つのNPPV療法の効果が検証されている.そ のひとつは二層性気道陽圧(bilevel PAP)であり,バック アップ換気を付加しないSモードbilevel PAP装置を使 用したランダム化試験で,CSRを有意に抑制しLVEFの 改善も有意であった32).しかしながら,理論上Sモード では中枢性無呼吸には無効であり,CSRの抑制効果に関 して議論の余地がある.S/Tモードでバックアップ換気 を付加できる装置によるCSRの抑制とLVEFの改善効果 が,日本からの非ランダム化試験の結果にて報告されて いる33).さらにはCPAPでAHI低下が不十分(AHI≧

15)であった症例(CPAP non-responder)に対してS/T モードbilevel PAPを導入することでAHIが十分に低下 し,6 ヵ月間の継続使用でLVEFや血中BNP濃度の改善

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