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ARDS,重症肺炎

CQ 11 重症肺炎患者に対して NPPV を使用すべきか?

回答:急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の呼吸管理として NPPV の有効性も報告されているが,気管挿管下の陽圧人工呼吸が基本である.メタアナリシスによ れば約 50%の症例で NPPV が失敗しており,ARDS 症例での NPPV 施行に際しては慎重であるべ きである.特に,全身状態が不良な患者や NPPV 開始後 1 時間で P/F 比に改善がない場合には,挿 管を検討すべきである.

重症肺炎(免疫不全に合併した症例を除く)では,基礎疾患によって NPPV の推奨レベルが異なる.

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に合併した重症肺炎においては,NPPV が集中治療室滞在期間を短縮し,

挿管率および死亡率を低下させることから,NPPV の使用が推奨される.一方,基礎疾患として COPD を持たない患者の重症肺炎に対する NPPV の有効性は明らかでなく,積極的に推奨する根拠が ない.インフルエンザ感染後の急性呼吸不全に関しては,NPPV の失敗率が高く,軽症例を除いて NPPV は推奨されない.

CQ10 推奨:

①ARDS 症例での NPPV 施行については慎重であるべきである.【エビデンスレベル Ⅰ,推奨度 C1】

②他臓器の障害が少ない軽症 ARDS に対しては,NPPV の使用が推奨される.【エビデンスレベル

Ⅱ,推奨度 B】

CQ11 推奨:

①COPD 患者に合併した重症肺炎に対しては,NPPV の使用が推奨される.【エビデンスレベル Ⅱ,推 奨度 B】

②非 COPD 患者に合併した重症肺炎に対しては,NPPV の有用性は明らかではない.【エビデンスレベ ル Ⅳ,推奨度 C2】

③インフルエンザ感染後の重症肺炎に対しては,軽症例を除いて NPPV は推奨されない.【エビデンス レベル Ⅳ,推奨度 C2】

しく,陽圧換気により虚脱した肺胞を開放させることが 重要になる.

b.ARDS における呼吸管理

日本では 2004 年に日本呼吸療法医学会が「ARDSに対 するClinical Practice Guideline(第 2 版)」4)を発表し,

2010 年には日本呼吸器学会から「ALI/ARDS診療のため のガイドライン第 2 版」5)が刊行されているが,呼吸管理 に関する両者の記述はほぼ同様である.両ガイドライン とも,気管挿管下での陽圧人工呼吸をARDS患者に対す る呼吸管理の基本としている.換気設定にあたっては,

肺胞の過伸展や虚脱・再開放の反復による人工呼吸器関 連肺損傷(ventilator-associated lung injury:VALI)を予 防するための肺保護戦略が重視されている.これは,一 回換気量を 10mL/kg以下,吸気終末のプラトー圧を 30cmH2O以下になるよう設定するもので,その結果とし て肺胞低換気による高二酸化炭素血症が生じても許容す る.また,肺胞の虚脱を防ぐためにPEEPを用いるが,

至適レベルは動脈血酸素分圧,最高気道内圧,循環抑制 の程度などを参考に決定される.

c.ARDS における NPPV の適応

ARDS患者においてNPPVは酸素化を改善し,呼吸困 難や呼吸筋への負荷を軽減することが示されている6)が,

その有効性についてはエビデンスが乏しい.CPAPのみ でもガス交換は改善するが,呼吸筋への負荷の軽減は図 れない6)

Agarwalらは,ARDS患者におけるNPPVの有効性を 評価するためにメタアナリシスを行った7).1995 年から 2009 年までに行われ,NPPVを施行されたARDS患者の 挿管率や死亡率を検討した 13 件(計 540 症例)の臨床研 究をデータベースから抽出した8〜20).挿管率は 30%から 86%であり,ランダム効果モデルを用いたプール解析では 挿管率 48%(95%信頼区間 39〜58%)であった(図 1)7). 死亡率は 15%から 71%であり,プール解析では死亡率 35%(95%信頼区間 26〜45%)であった(図 2)7).挿管率,

死亡率とも統計学的不均一性を認めたものの,ほぼ 50%

の症例でNPPVが失敗していることから,ARDS患者に 対するNPPVの施行にあたっては慎重であるべきと結論 さ れ て い る 7) . 一 方 , 軽 症( 200Torr<

PaO2/FIO2≦300Torr)の患者 40 名を対象とした多施設共 同ランダム化比較試験では,NPPV群で挿管率が 5%と 有意に低く,他臓器の障害が少ないうえ,院内死亡率も 低い傾向にあった.酸素化障害が比較的軽度の患者に対 してNPPVを早期から用いることは有効かもしれな い21)

Antonelliらによる多施設共同コホート研究では,147 名のARDS患者にNPPVが施行され,79 名(54%)で挿 管が回避されるとともに,人工呼吸器関連肺炎(ventila-tor-associated pneumonia:VAP)の発現率の有意な減少 やICU滞在日数の短縮が報告された22).しかし,重症度 スコア(SAPSⅡ)が高い場合や,NPPV開始後 1 時間で P/F比に改善がない場合は,NPPV失敗の可能性が高い ことが示された22) .また,NPPVの成功率は 各施設のNPPVの使用経験に左右されるため,ARDS患 者にNPPVを実施するにあたっては,随時挿管に移行でき る管理体制や経験あるスタッフが求められる22)

岡原らはARDSに対してNPPVを導入した 57 例を検 討し,NPPVで生存に至った 38 例と挿管または死亡に 至った 19 例とを比較した23).NPPV成否についての多変 量解析の結果,呼吸回数はオッズ比 0.82(95%信頼区間 0.72〜0.94),重症度スコア(APACHEⅡ)はオッズ比 0.82(95%信頼区間 0.67〜0.99)であり,いずれもNPPV の成否に関連する可能性が考えられた23).NPPV成功率 の目標を 60%とした場合,呼吸回数 30 回/分以上や APACHEⅡスコア 17 以上の患者では達成困難と考えら れ,そのような症例では挿管を検討すべきと結論されて いる23)

d.ARDS における NPPV の実際

ARDSにおけるNPPVの適応は他疾患による呼吸不全 の場合と同様であるが,できるだけ呼吸不全の初期治療

レベル Ⅰ

レベル Ⅱ

レベル Ⅳ

レベル Ⅳ 表 1 ARDS の新しい診断基準(The Berlin Defi nition)

急性発症  明らかな誘因または呼吸器症状の出現または悪化から 1 週 間以内

胸部画像(単純 X 線 /CT) 両側性陰影(bilateral opacities)(胸水,無気肺,結節の みでは説明できない)

肺水腫の原因 心不全や輸液過量のみでは説明できない(可能なら心エコー などの客観的評価が必要)

酸素化障害

 軽 症 200mmHg < PaO2/FIO2≦ 300mmHg(PEEP/CPAP ≧ 5cmH2O)

 中等症 100mmHg < PaO2/FIO2≦ 200mmHg(PEEP ≧ 5cmH2O)

 重 症 PaO2/FIO2≦ 100mmHg(PEEP ≧ 5cmH2O)

(文献 2 より引用)

0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1 Rocker10)

Antonelli11)

Delclaux12)

Hilbert13)

Antonelli8)

Confalonieri14)

Ferrer9)

Cheung15)

Rana16)

Antonelli17)

Domenighetti18)

Yoshida19)

Agarwal20)

Overall

10 8 40 64 86 24 7 20 54 147 12 47 21

0.40 0.38 0.38 0.75 0.51 0.33 0.86 0.30 0.70 0.46 0.33 0.30 0.57 0.46

0.16〜0.70 0.12〜0.72 0.24〜0.53 0.63〜0.84 0.41〜0.62 0.18〜0.54 0.42〜0.98 0.14〜0.53 0.57〜0.81 0.38〜0.54 0.13〜0.62 0.18〜0.44 0.36〜0.76 0.39〜0.58 1999

2000 2000 2000 2001 2002 2003 2004 2006 2007 2008 2008 2009

報告者 挿管率 95%信頼区間

図 1 NPPV 管理を受けた ARDS 患者の挿管率(ランダム効果モデル)

個々の研究における挿管率(%)を四角で,95%信頼区間を線で表している.

最下段の菱形は,すべての研究からプールされた挿管率を表す.

*:免疫不全患者を対象とした研究

(文献 7 より引用)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Rocker10)

Antonelli11)

Delclaux12)

Hilbert13)

Antonelli8)

Confalonieri14)

Ferrer9)

Cheung15)

Rana16)

Antonelli17)

Domenighetti18)

Yoshida19)

Agarwal20)

Overall

10 8 40 64 86 24 7 20 54 147 12 47 21

0.30 0.38 0.23 0.69 0.30 0.25 0.71 0.15 0.48 0.28 0.42 0.19 0.33 0.35

0.10〜0.62 0.13〜0.72 0.12〜0.38 0.57〜0.79 0.22〜0.41 0.12〜0.46 0.33〜0.93 0.05〜0.38 0.35〜0.61 0.21〜0.36 0.18〜0.69 0.10〜0.33 0.17〜0.55 0.26〜0.45 1999

2000 2000 2000 2001 2002 2003 2004 2006 2007 2008 2008 2009

報告者 死亡率 95%信頼区間

図 2 NPPV 管理を受けた ARDS 患者の死亡率

個々の研究における死亡率(%)を四角で,95%信頼区間を線で表している.

最下段の菱形は,すべての研究からプールされた死亡率を表す.

*:免疫不全患者を対象とした研究

(文献 7 より引用)

として使用すべきである.NPPVの初期設定としては,

COPDなどと同様に,低めの圧設定から開始するのが原 則である.EPAP5cmH2O前後から開始し,酸素飽和度 などをみながら 4cmH2O程度ずつ漸増するのが一般的で ある.胸部CTで肺胞の虚脱を伴う領域が広範であるな ど,肺胞のリクルートメントが必要な場合には,EPAP を高めに設定する.

NPPVのサポート圧は,呼吸数 25〜30 回/分以下,一 回換気量 5〜6mL/kg以上を目標にすることが多い.た だ食道入口部の静止圧が 20〜30cmH2O程度であるため,

誤嚥防止の観点から最大気道内圧が 20cmH2Oを超えな いことが望ましい.初期治療としては吸入気酸素濃度

(FIO2)1.0,もしくはSpO2>90%を達成できるFIO2が用 いられることが多い.

2 重症肺炎

重症肺炎の患者でNPPVが試みられることがあるが,

一般に喀痰分泌の多い状態ではマスク装着に伴う喀出困 難が問題となる.このため気道確保が優先される状況で は,患者の安全のために挿管ないし気管切開を行うべきで ある.免疫能が正常な患者の重症肺炎に対してNPPVの 適応を検討する場合,基礎疾患を考慮する必要がある.重 症肺炎のためICUに入室し,NPPVが施行された連続症 例 184 名に関するコホート研究では,116 例(63%)で挿管 を回避できたが,基礎疾患として心肺疾患を持たない患者 のほうがNPPVの失敗率が有意に高かった24) . また,臓器障害からみた重症度スコア(SOFAスコア)や 画像上の浸潤影の増悪傾向,NPPV開始 1 時間後の酸素 化の改善が不十分,などがNPPVの失敗と関連した24)

a.基礎に心肺疾患を持つ肺炎患者に対する NPPV の有効性

前述のコホート研究では,基礎疾患として心肺疾患を 持つ肺炎患者 82 名にNPPVを施行し,61 例(74%)で成 功した24).院内死亡率はNPPV成功例で 8%であったの に対し,失敗例では 67%と高率であった24) . また,肺炎に起因する急性呼吸不全に対するNPPVの有 効性を検討した前向きランダム化比較試験25)によれば,

基礎にCOPDを有する症例においては,NPPV非使用群と 比べてNPPV使用群で有意に挿管率が低く(55%vs. 0%),

集中治療室の滞在期間が短く(8 日vs. 0.3 日),2 ヵ月後の 死亡率が低値であった(63%vs. 11%)25) .一 方,急性呼吸不全に対してNPPVを導入したCOPD症例 のうち,NPPV失敗例(死亡あるいは気管挿管)の 39%が 肺炎による急性呼吸不全であり,成功例における肺炎の割合 はわずかに 9%であったとする報告もある26) . 研究のエビデンスの質を考慮すると,COPDに合併した

肺炎に起因する急性呼吸不全にはNPPVを行うことが推 奨される.

b.基礎に心肺疾患を持たない肺炎患者に対する NPPV の有効性

心肺疾患の既往のない患者では,NPPV失敗率が高く,

挿管の遅れが予後を悪化させることが報告されてい る24) .肺炎に起因する急性呼吸不全に対す るNPPVの有効性を検討した前向きランダム化比較試験 によれば,非COPD症例ではNPPVの有効性が認めら れなかった25) .また,基礎肺疾患のない重症 肺炎症例に対するNPPVの有効性についての検討では,

24 例中 22 例でNPPV導入初期に酸素化の改善と呼吸回 数の減少が認められたものの,最終的には 16 例(66%)

で気管挿管を必要とした27) .これらの成績か ら,基礎疾患として心肺疾患,特にCOPDを持たない患 者の重症肺炎に対するNPPVの有効性は明らかではなく,

積極的に推奨する根拠がない.ただし,市中肺炎患者に 対するヘルメットによるCPAPの有効性を検討したラン ダム化比較試験28)では,CPAPにより酸素化の有意な改 善がもたらされることが示されており,状況によっては 有効と考えられる28)

c.インフルエンザ感染後の重症肺炎に対する NPPV の有効性

2009 年の新型インフルエンザ(A(H1N1)pdm09)のパ ンデミックでは,重症肺炎による死亡例が欧米を中心に多 数みられた.NPPVが施行された 177 名を対象としたコ ホート研究では成功率が 40.6%で,成功例で入院期間が 短縮したことが報告されているa) .同様に急 性呼吸不全のためNPPVを開始した 12 名のうち 5 名(42%)

で挿管を回避できたとの報告がある29) .一 方,20 施設のICUによるコホート研究では,NPPVを施行さ れた 49 例のうち,最終的に 46 例(94%)が挿管されており,

NPPVは推奨されないと結論されている30) . ただし,挿管が必要になった症例は,APACHEⅡスコア やP/F比が不良であり,NPPVが成功した例の重症度 は,他の 2 報にある患者背景とほぼ同等であった.この ことから,インフルエンザに伴う急性呼吸不全では,軽 症例を除いてNPPVは推奨されない.

インフルエンザ患者のNPPV管理にあたっては周囲へ の伝播が問題になるが,シミュレーターを用いた検討で はマスクから半径 0.5〜1mに飛散がみられ,IPAPが高 いと拡がりが大きくなる傾向にあった31)

文献

1)Ware LB, Matthay MA: The acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med2000; 342: 1334-1349.

レベル Ⅳ

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レベル Ⅱ

レベル Ⅳ

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レベル Ⅱ

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レベル Ⅱ

レベル Ⅳ レベル Ⅴ

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