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1 はじめに

血液悪性疾患,固形癌に対する強力な化学療法,また,

骨髄移植,臓器移植,ステロイド,生物製剤使用患者の 増加により,免疫不全(immnocompromised)・免疫抑制 下(immunosuppressed)の患者は世界的に増加している.

これら免疫不全患者の呼吸器合併症は患者の予後を左右 する重大要因のひとつである.免疫不全・抑制下の患者 の急性呼吸不全は重篤化しやすく,従来から挿管,人工呼 吸管理になることが多かった.気管挿管にも多くの合併 症があり,人工呼吸管理中に,人工呼吸器関連肺炎(venti-lator-associated pneumonia:VAP)などの感染症を免疫 不全・抑制下患者では起こしやすく予後の悪化を招くこ とが多いとされる.免疫不全・抑制下患者の急性呼吸不全 患者にNPPVの介入RCTが 2 つ行われ,従来の人工呼吸 器関連肺炎などの重篤な合併症の回避,減少などにより,

患者の予後改善が得られ,COPDの増悪,心原性肺水腫な どとともにその有効性が確認されたが1) ,そ の後,大規模な症例数の後ろ向き研究が行われ,若干の 意見の追加が報告されつつある2)

2 免疫不全,免疫抑制下患者において行わ れた 2 つの RCT

40 例の臓器移植後患者を 20 例ずつNPPV有群と NPPV無群で比較したRCTではP/F比の改善率(60%

vs. 25%,p=0.03),挿管率(20%vs. 70%,p=0.002),

ICU内での死亡率(20%vs. 50%,p=0.05)といずれも NPPV有群のほうが無群より有意に治療成績が良好で あった.ただし,院内死亡率は(35%vs. 55%,p=0.17)と 有意差が出ていない3).臓器移植後の患者は急性呼吸不 全状態からいったん回復しても退院までにさらに多くの 合併症を起こす可能性を示唆している.

Hilbertらの 52 例を 26 例ずつの群に分けたRCT報告 の主な疾患は血液悪性腫瘍(30 例)であった.この報告で は,挿管率(46%vs. 76%,p=0.03),重篤な合併症(50%

vs. 80%,p=0.02),ICU内での死亡率(38%vs. 69%,p=

0.03),院内死亡率(50%vs. 81%,p=0.02)ともNPPV有 群の治療成績が有意に良好であった.なお,挿管された患 者はNPPV有群,無群ともすべてその後死亡していた4)

両報告とも患者の基本病態は免疫不全・免疫抑制下と 共通しているが,急性呼吸不全の原因となった病態が肺 炎,心原性肺水腫,急性呼吸窮迫症候群(acute respirato-ry distress syndrome:ARDS)などさまざまであるにも かかわらずNPPVが有効であったとのことは注目される ところである.

3 対象患者

免疫不全,抑制下の患者,肝臓,肺,腎臓などの臓器 移植後,骨髄移植後,高用量化学療法後の血液悪性疾患,

副腎皮質ステロイドなどの薬剤治療後,後天性免疫不全 レベル Ⅱ

各論 A:急性呼吸不全

症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)

患者などを対象にNPPVを加えた呼吸管理と従来の呼吸 管理がなされた 2 つの報告3, 4)によると,対象患者は呼吸 困難が強く,

①呼吸数が 30〜35 回/分以上

②ベンチュリーマスクを使用してPaCO2/FIO2が 200 以 下

③呼吸時の呼吸補助筋の使用と腹部の奇異呼吸など となっている.Hilbertらの報告では肺の浸潤影と発熱 がつけ加えられている.早期の使用がNPPVの有効性を 高め,患者の生存率の向上をもたらすとされている.日 本 の 健 康 保 険 上 で はP/F 比 300 以 下 ま た はPaCO2

45mnHg以上で使用可能なので,保険上の適応で使用開 始可能が妥当と考えられる.不適応例は総論 1「NPPV からみた急性呼吸不全」の表 2 を参照されたい.

使用マスクに関しては急性期には,口を閉じることが 困難なことが多く,鼻口マスクを使用することが多く,

状態が安定した後に鼻マスクに変更することも多い.ま た,鼻マスク使用時の睡眠中の口漏れが多いときには顎 マスク(チンストラップ)使用によりある程度の改善が得 られることもある.最近では,ヘルメット型のマスクが 使用され,使用時問の延長など鼻口マスクに比し患者の アドヒアランスが良好との報告がある6〜10)

4 NPPV の設定条件

報告されたRCT3, 4)では,従量式人工呼吸器が使用さ れ心電図と酸素飽和度の持続モニター下で,以下のよう な条件としている.

①一回換気量が 7〜10mL/kgになるように換気量を調 節

②呼吸数を 25 回/分以下

③胸鎖乳突筋を触れながら,呼吸補助筋使用呼吸の消 失

④患者の呼吸困難などの軽減・解消

⑤吸入気酸素濃度が 60〜65%以下になるように呼気終 末圧を最高 10cmH2Oまで 2〜3cmH2Oずつ上昇さ せる.血液ガスをみて設定の変更

⑥鎮静薬は投与しない

2 つのRCTとも従量式人工呼吸器を使用して,NPPV を行っているが,現状ではbilevel PAP(bilevel positive airway pressure)を使用してNPPVが行われることが多 い.通常,NPPVで呼吸管理中には換気量の測定は正確 に行えないことが多いが,NPPV開始時には少し低い設 定圧,たとえば,吸気圧(IPAP)8cmH2O,呼気圧(EPAP)

4cmH2Oくらいから開始し,酸素飽和度,血液ガスの値 をみながら,徐々に設定圧を変えるほうが患者のアドヒ アランスがよいことが多い.

5 離脱条件

Antonelliらの方法3)による雜脱条件は以下のとおりで ある.

①当初 24 時間は,酸素化と臨床症状が改善するまで,

NPPVは継続使用.

②その後毎日,患者はNPPVを停止して,酸素投与下 で 15 分間,自発呼吸を行った状態で評価され,FIO2

0.5 以下でPaO2が 75mmHg以上を維持し,呼吸数 が 30 回/分以下なら,徐々にNPPVの時間を減らし て離脱する

Hilbertらの方法4)による離脱条件は,少なくとも 3 時 間中 45 分間はNPPVを施行して,3 時間間隔で評価す る.3 時間間隔の評価時にSpO2を連続測定して,SpO2が 85%を切るか,呼吸数が 30 回以上になればNPPVを再 開する.呼吸数が 25 回/分以下になり,かつPaO2/FIO2

が 24 時間 200 を超えればNPPVは中止となる.

6 挿管の条件

2 つのRCTでは,NPPV有,無群とも従来の酸素,薬 物,理学療法などは継続して行われている.NPPV有,

無群ともFIO2が 0.6 でPaO2が 65mmHgを維持できな い,あるいはP/F比が 85 を超えることができない,昏 睡,痙攣のため気道確保が必要,喀痰が大量で喀出が困 難,循環動態が不安定(たとえば血圧が 70mmHg以下)

NPPV群の患者で鼻口マスクが耐えられないなどであれ ば,挿管の適応となっている.

7 その他の報告

両側肺移植後の患者で術後急性呼吸不全になった 21 例

(囊胞線維症が 18 例)にNPPVが使用され,18 例(86%)

が挿管を回避でき,挿管された 3 例中 2 例は敗血症 ショックで死亡している.この報告はRCTではないが,

両側肺移植後の急性呼吸不全にはNPPV使用で対応可能 であることを示している5)

また,AIDS患者におけるニューモシスチス肺炎によ る急性呼吸不全おいても,従来の呼吸管理にNPPVを追 加した呼吸管理法で管理された患者(各群 24 名)のICU および院内死亡率が有意に低下している6)

8 検討されるべき問題点

2)

近年,血液悪性疾患に関連したNPPV使用の報告では,

①Addaら7)の 99 名の患者では 53 名(54%)がNPPVで 管理困難で挿管人工呼吸を受け,NPPV成功群の死亡率 は 41%に比較してNPPV後挿管された群の死亡率は

79%であった.NPPV後挿管群はNPPV下の呼吸数が多 く,ICU入室からNPPVまでの時間が長く,昇圧剤およ び腎置換療法群が多く,NPPV使用時の診断がARDSが 多かったとされ,さらにNPPV後挿管群のICU滞在日数 は長く,ICU内感染が多かったとしている,②Gristina ら8)のイタリアで 158 施設の 5 年間の後ろ向き共同研究 では血液悪性疾患患者中 1,302 名が挿管人工呼吸,274 名 がNPPV治療を受けた.NPPV成功患者のICU滞在日 数の短縮,高い生存率がみられたが,46%の患者が挿管 され,その致死率は 65%に達しており,挿管人工呼吸群 58%より有意差(p=0.12)はないものの高くなっている.

ここでもNPPV後挿管群ではALI/ARDSが多かったと されている,③Wermkeらは,ⅰ)呼吸数 25 回/分以上,

ⅱ)P/F比<300,ⅲ)空気呼吸下で継続してSpO2<92%

の 3 つのうち 2 つ以上を満たせば呼吸不全として,同種 幹細胞移植 526 名中 86 名の患者に酸素と酸素+NPPVの RCTを行った.患者は当初一般血液病棟で管理されたが,

ICU入室,挿管率,生存率に差がなかった9)

これらの知見より,通常NPPVを施行されている免疫 不全患者の約 50%はその後(特に開始時重症例が)挿管さ れ予後が悪く,特に施行時にALI/ARDS患者の挿管率,

予後が悪い傾向にある.また,呼吸管理の方法ではなく,

基礎疾患の重症度が予後に影響したとの報告もみられる10). いまだ免疫不全患者においてNPPVと人工呼吸管理との RCTの研究がない.したがって,適用患者の基準を設け,

重症例のNPPV管理は困難であることを認識し,開始後 は挿管にならない医療側の管理が重要であるが,回復傾 向がなければ,早期に挿管下での人工呼吸管理を行う決 断も必要である.

9 小児例

Panceraら11)は血液,固形腫瘍小児コホート研究で当 初の人工呼吸管理として 24 時間以上NPPVを使用した 小児 120 名と挿管人工呼吸管理を行った 119 名の比較を 行っている.P/F比に両群に差はないが,挿管人工呼吸 群に重症例が多く,両群の比較は困難であるが,NPPV 群では挿管せずに呼吸管理が行えた症例が 74.2%であっ た.それゆえ,NPPVは小児免疫不全患者の呼吸管理に 使用可能でないかとしている.10.2±4.7(平均年齢±標準 偏差)歳の小児 23 例のP/F比 127.7±51.9 のARDS23 名 にNPPVが使用され 13 名が挿管回避されている12).日 本からも生体肝移植後 15 例の小児症例報告13)に次いで,

NPPV使用 47 名とNPPV非使用の 47 名の平均年齢 10 ヵ月の両群において,再挿管率の低下とICU退出日数 の短縮を認めている14)

日本からの報告

文献 12,13 以外に,周術期の報告a),熱中症後の生体肝 移植に対するNPPVの症例報告参考文献 1),NPPVを重症肝 肺症候群の周術期に使用したケース・シリーズが報告され ている参考文献 2)

文献

1)Nava S, Hill N: Non-invasive ventilation in acute respi-ratory failure. Lancet2009; 374: 250-259.

2)Bello G, De Pascale G, Antonelli M: Noninvasive venti-lation for the immunocompromised patient: always appropriate? Curr Opin Crit Care2012; 18: 54-60.

3)Antonelli M, Conti G, Bufi M, et al: Noninvasive ventila-tion for treatment of acute respiratory failure in patients undergoing solid organ transplantation: a randomized trial. JAMA2000; 283: 235-241.

4)Hilbert G, Gruson D, Vargas F, et al: Noninvasive venti-lation in immunosuppressed patients with pulmonary infiltrates, fever, and acute respiratory failure. N Engl J Med2001; 344: 481-487.

5)Rocco M, Conti G, Antonelli M, et al: Non-invasive pres-sure support ventilation in patients with acute respirato-ry failure after bilateral lung transplantation. Intensive Care Med2001; 27: 1622-1626.

6)Confalonieri M, Calderini E, Terraciano S, et al: Nonin-vasive ventilation for treating acute respiratory failure in AIDS patients with Pneumocystis carinii pneumonia.

Intensive Care Med2002; 28: 1233-1238.

7)Adda M, Coquet I, Darmon M, et al: Predictors of nonin-vasive ventilation failure in patients with hematologic malignancy and acute respiratory failure. Crit Care Med 2008; 36: 2766-2772.

8)Gristina GR, Antonelli M, Conti G, et al; GiViTI (Italian Group for the Evaluation of Interventions in Intensive Care Medicine): Noninvasive versus invasive ventilation for acute respiratory failure in patients with hematologic malignancies: a5-year multicenter observational survey.

Crit Care Med2011; 39: 2232-2239.

9)Wermke M, Schiemanck S, Höffken G, et al: Respiratory failure in patients undergoing allogeneic hematopoietic SCT: a randomized trial on early non-invasive ventila-tion based on standard care hematology wards. Bone Marrow Transplant2012; 47: 574-580.

10)Depuydt PO, Benoit DD, Roosens CD, et al: The impact of the initial ventilatory strategy on survival in hemato-logical patients with acute hypoxemic respiratory fail-ure. J Crit Care2010; 25: 30-36.

11)Pancera CF, Hayashi M, Fregnani JH, et al: Noninvasive ventilation in immunocompromised pediatric patients:

eight years of experience in a pediatric oncology inten-sive care unit. J Pediatr Hematolo Oncol2008; 30: 533-レベル Ⅳ

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