3 DNI
CQ 15 小児の急性期 NPPV の設定,および治療効果の確認はいかにすべきか?
回答:小児の急性期病態を対象とした NPPV の有効性に関する検討は少なく,患者転帰を評価したラン ダム化比較試験は小規模研究が 3 件あるに過ぎない.数少ない知見からは,ウイルス性肺炎/下気道感 染に対する挿管回避・短期間の症状改善・バイタルサイン安定効果が示唆され,これらの病態に対し ては NPPV の使用を推奨する.急性喘息患者に対しても短期間の症状改善・バイタルサイン安定効果 が示唆され,この目的で NPPV の使用を考慮してもよい.その他の病態については症例集積報告レベ ルにとどまるが,抜管後呼吸不全・心原性肺水腫・免疫不全患者の呼吸不全においては,NPPV によ る挿管回避や死亡率低下が示唆されており,個々の臨床判断による使用は可能と考えられる.
過去のランダム化比較試験の使用状況や治療効果などから判断して,使用モードは bilevel positive airway pressure(bilevel PAP)を基本とし,IPAP 10cmH2O,EPAP 5cmH2O を初期設定の目 安とすることが可能である.NPPV の治療効果は,遅くとも開始 1 時間後に,臨床所見・バイタルサ インおよび血液ガス分析値を用いて総合的に判断するのがよい.
CQ14 推奨:
①小児の急性ウイルス性下気道炎・肺炎に対して,NPPV の使用を推奨する.【エビデンスレベル Ⅱ,
推奨度 B】
②小児の喘息発作に対して,NPPV の使用を考慮してもよい.【エビデンスレベル Ⅱ,推奨度 C1】
③上記以外の小児急性呼吸不全に対しては,有用性は確立されていないが,個々の臨床判断による使用 が可能である.【エビデンスレベル Ⅳ,推奨度 C2】
CQ15 推奨:
①使用モードは bilevel positive airway pressure(bilevel PAP)を基本とし,IPAP 10cmH2O,
EPAP 5cmH2O を初期設定の目安としてよい.【エビデンスレベル Ⅱ,推奨度 C1】
②NPPV の初期効果は,遅くとも 1 時間後に,臨床所見・バイタルサイン・および血液ガス分析値を用 いて総合的に判断する.【エビデンスレベル Ⅱ,推奨度 C2】
2 推奨内容
a.適用病態/疾患
小児の急性ウイルス性下気道炎・肺炎の挿管回避,お よび短期間の症状緩和やバイタルサイン安定を目的とし てNPPVの適用を推奨する .
小児の急性喘息に対して,短期間の喘息症状改善やバ イタルサイン安定を目的としてNPPVの適用を考慮して
もよい .
上記以外の病態における有用性は確立されていないが,
個々の臨床判断による使用が可能である . b.使用モード
使用モードはbilevel positive airway pressure(bilevel PAP)を基本とし,IPAP10cmH2O,EPAP5cmH2Oを初 期設定の目安にしてよい .病態により,より 高い補助圧の適用が考慮可能である.
c.効果判定
NPPVの初期効果は,遅くとも開始 1 時間後に,臨床 所見,バイタルサインおよび血液ガス分析値を用いて総 合的に判定するほうがよい .
3 推奨の説明
a.小児ウイルス性肺炎・下気道炎
2008 年Yanezらは,チリと米国の 2 つの小児集中治療 室(PICU)において,ウイルス性(最頻の病因はRSウイ ルス)肺炎・下気道炎患者 50 名を,標準治療(=酸素療 法)と,NPPVとにランダム化割り付けし,予後を評価す るRCTを行った1).NPPV群において,1 時間後の呼吸 数,6 時間後の心拍数が有意に低下し,挿管率が有意に 低かった(28%vs. 60%).乳児の重症細気管支炎症例に 関しては,NPPVの適用により挿管率,人工呼吸器関連 肺炎発生率,あるいは酸素療法の必要期間がいずれも減 少したとの後方視的検討も存在する2).以上より,病態 の早期改善が見込めるウイルス性の急性呼吸不全では,
NPPVを適用することで重症化を防ぎうる可能性が示唆
される.
b.小児の喘息
2004 年Thillらは,2 ヵ月〜14 歳の下気道閉塞病変(喘 息)患者を対象に,NPPVの短期的効果を評価するクロ スオーバー研究を行った3).NPPV2 時間後に,臨床的喘 息スコア(表 2)や呼吸数の有意な改善を認めた.これを 受けて 2012 年Basnetらは,1〜18 歳の喘息患者を,標 準ケアとNPPV+標準ケア群に分類し,NPPVによる臨 床症状の改善効果を 24 時間まで観察評価した4).NPPV 適用により臨床的喘息スコア(表 3)の有意な改善および 酸素需要量の改善を認めた.β刺激薬やステロイドなど の標準的な喘息治療に加えて,NPPVを適用することが 症状の早期改善に寄与することが示唆された.あわせる と,小児の急性喘息患者において,NPPVの適用は臨床 症状改善やバイタルサイン安定に有用であると示唆され る.
c.その他の病態
過去の小児の急性期NPPVに関する最大の観察研究 は,2006 年のEssouriらによる単施設,5 年間 114 例の 症例集積報告である5).この報告では,小児NPPVの最 大の適応は抜管後呼吸不全であり,肺炎,急性呼吸促拍 症候群,免疫不全患者(の呼吸不全),急性冠症候群(に よる肺水腫)がこれに続く.成人領域でその有用性が確立 されている急性冠症候群(による肺水腫)のサブグループ
(n=9)での気管挿管回避率は 100%であることが示され ている5).
日本で行われた小児NPPVの診療実態調査において,
NPPVの最大の適用病態は抜管後の呼吸不全である6). 抜管後呼吸不全に対するNPPVの適用は,呼吸状態悪化 後の治療的使用と,呼吸不全リスク群に対する予防的適 用による呼吸不全/再挿管回避効果に分類される7). Essouriらの後方視的検討では抜管後呼吸不全における NPPVの治療的適用による挿管回避率は 73%(41/61)で あった5).Muraseらは肝移植後の小児患者における NPPVの治療的適用が再挿管率を下げる可能性を後方視 的検討により報告している8).
レベル Ⅱ
レベル Ⅱ
レベル Ⅳ
レベル Ⅱ
レベル Ⅱ 表 1 小児 NPPV のランダム化比較試験
著者 対象患者 介入 主要評価項目と結果 その他の評価項目と
結果 Thill, 2004
RCT,クロスオーバー 2 ヵ月〜 14 歳, 6
気管支喘息 BiPAP vs. 標準ケア
IPAP/EPAP 10/5 2 時間後の臨床的喘息 スコアの有意な減少 Yanez, 2008
RCT 1 ヵ月〜 13 歳, 0
ウイルス性肺炎,下気道炎 BiPAP vs. 標準ケア
IPAP/EPAP 12〜18/6〜12 挿管率の有意な減少:
28% vs. 60% 1 および 6 時間後の バイタルサイン改善 Basnet, 2012
RCT 1〜18 歳, 0
気管支喘息 BiPAP vs. 標準ケア
IPAP/EPAP 8/5 24 時間までの酸素需 要,臨床的喘息スコア の有意な減少
成人領域で免疫不全患者ではNPPVにより挿管人工呼 吸に関連した肺炎の危険性が減じる可能性が指摘されて いる.小児領域では,2008 年Panceraらが小児免疫不全 患者の急性呼吸不全に関する単施設 8 年間の症例集積報 告を行っている9).機械的人工呼吸を必要とした 239 名 の内約半数の 119 症例においてNPPVが第一選択とさ れ,その 3/4 は,気管挿管が回避でき,NPPVにより管 理できた患者群では死亡率が有意に低かった.日本の肝 臓移植後患者を対象とした後方視的検討や症例集積報告 における良好な転帰も含め8, 10),免疫不全患者に対する治 療効果が支持される.以上より,エビデンスには乏しい ものの,抜管後呼吸不全,心原性肺水腫,免疫不全患者 の呼吸不全などにおいてはNPPVの適用を考慮してもよ いと考えられる.
d.小児例での NPPV 治療モード
小児のNPPVの治療モードとしては持続呼気終末陽圧
(continuous positive airway pressure:CPAP)および二 相式気道内陽圧(bilevel airway pressure:BiPAP)が存在 する.どのモードが優れているかを比較した検討として,
Essouriらによるランダム化クロスオーバー試験がある11). 本研究は 10 名の上気道閉塞患者を対象とした検討で,
CPAPとBiPAPの呼吸補助効果を比較した.呼吸仕事量 の各指標は同等に改善したが,BiPAPでの同調不良が多 かった.一方,NPPVの臨床効果を評価した上記 3 つの RCTにおいては,いずれもBiPAPモードが使用されてい る.BiPAPモードにはCPAPモードで得られる肺胞拡 張・機能的残気量増加による酸素化能改善効果の他に一
回換気量増加,呼吸筋補助による炭酸ガス排泄効果が理 論的には期待できる10, 12〜14).ただし,圧設定の適正値を 評価した報告はない.YanezらはEPAPの初期設定を 4cmH2Oとし,必要に応じて 8〜12cmH2Oまで増加さ せ,サポート圧は 4〜6cmH2Oで使用している1).Taegue は専門家による意見として,PEEPを 4〜10cmH2Oとし,
サポート圧を最低 2〜4cmH2O維持し,最高気道内圧 を<20cmH2Oとするのがよいと述べている15).その他の 文献での使用状況なども含めまとめると,おおむねEPAP 5cmH2O,IPAP10cmH2O(サポート圧 5cmH2O)付近を 初期設定の目安として,患者年齢,呼吸状態やガス交換 能に応じて調節していくことに大きな誤りはないと推論 できる.
e.気管挿管への移行判断
過去のRCT 1, 3, 4)や,観察研究5, 11〜13, 15〜17)では,一般 的にNPPV有効例では装着後 1〜2 時間以内に心拍数,
呼吸数,呼吸様式やガス交換指標(pH,PaCO2あるいは SpO2/FIO2)の改善,酸素需要の減少,呼吸仕事量減少な ど患者呼吸状態の改善・安定が認められている.逆にい えば,開始初期 1〜2 時間は上記指標を十分に観察し,こ の時間単位で改善をみないあるいは悪化する場合には気 管挿管への移行を考慮するほうがよいとも示唆される.
4 おわりに
小児急性期呼吸不全に対するNPPVの治療効果に関す るエビデンスは多くない.また,日本発の研究は極めて 表 3 臨床的喘息スコア(Basnet ら)
指標 点数
0 1 2
呼吸数 正常 1〜5 歳:40rpm
> 5 歳:20rpm
呼吸補助筋の使用 なし 肋間あるいは肋骨下の陥凹 頸部あるいは腹筋の使用
呼吸音 正常 局所的減少 全般的減少
喘鳴 呼気終末のみ 全呼気時 全吸呼気時
吸呼気比 ≦ 1:2 ≧ 1:3(呼気延長) 全呼気時±全吸気時 当てはまる点数を合計する
表 2 臨床的喘息スコア(Thill ら)
指標 点数
0 1 2 3
呼吸補助筋の使用 なし 肋間あるいは肋骨下の陥凹 肋間あるいは肋骨下の陥凹 鼻のひくつき 呼吸困難 なし 活動性や会話は正常,軽度の呼吸
困難 活動性低下,短い会話可能,中等
度の呼吸困難 呼吸するのに精一杯で,会話はご
くわずかのみ,重度の呼吸困難
喘鳴 なし 呼気終末のみ 全呼気時±全吸気時 聴診器なしでも聴取可能
当てはまる点数を合計する