• 検索結果がありません。

第 3 章  光技術トピックス

3.1.  情報通信分野

3.1.5.  超高速光デバイス

―次世代超高速ネットワークへの応用― 

(1) 伝送システムの将来 

現在光伝送システムは 2.5-10Gb/s 程度の信号を波長多重化することで大容量化が進められている。将来 は 1000 波多重で 10Tb 程度のシステムも想定され,伝送される情報もパケットを含む多様な信号が予想され る。このようなシステムを実現しようとすると,光ノードで膨大な信号処理が必要であり,光を電気に変換 して処理する現在の方式では消費電力やスペースの点で限界が来ると考えられる。光のままで超高速の全光 処理が行えれば低消費エネルギーで小型のノードを形成できる可能性がある。伝送に際しても,低いビット レートの信号を多重化するよりも,数 100Gb/s の高速の信号をより少ない波長数で多重化して伝送したほう が,より効率的である。このようなノード内での超高速の信号処理や,より高速の信号の伝送には数 100Gb/s-1Tb/s の光信号を処理できる超高速の光源,全光スイッチが必要である。また,電気の DRAM に相当 する光バッファメモリもシステムの構成には必要になる。 

(2) 超高速全光デバイスの開発状況 

1995-2004 年の計画で超高速光デバイスの開発を目指したフェムト秒プロジェクトが NEDO の委託を受けて おこなわれている。表1にこのプロジェクトで開発している素子の一覧を示す。光源,分散制御素子,時間・

空間・波長の各領域の全光スイッチが開発されている。高速の動作を実現するために表に示すように新しい 材料や動作原理を導入している。一部のデバイスでは既に数百 Gb/s から 1Tbs 領域での高速動作が実証され ており,システム実験に適用されているが,現実的なシステム応用には,一層の高性能化や種々の改良が必 要である。特に光スイッチのスッチングエネルギーの低減,挿入損失の低減が要求される。表1のデバイス で,光ノードで必要な,2R,3R や MUX,DEMUX,Gating,ヘッダー認識,ファイバの分散補償などの基本機能 が実現できるものと考えている。単一チャンネルの伝送速度が 160Gb/s のシステムが 2010 年頃と考えられて いる。これに向けて各デバイスの一層の性能向上を進めて行くことが必要と考える。また,表1で示すデバ イス以外に,新たなデバイスの可能性も検討して行く必要がある。 

表 1  フェムト秒プロジェクトで開発されているデバイス。(160G-1Tb/s での動作を目指している。) 

(3) フォトニック結晶を用いた非線形スイッチングデバイス 

現在フォトニック結晶の研究が盛んである。フォトニック結晶の光閉じ込め効果や,低群速度の効果と光 非線形性を組み合わせればより低エネルギーで動作する光スイッチ実現の可能性がある。フォトニック結晶 を用いた種々の光スイッチが提案検討されているが,筆者が有望と考えている光スイッチを紹介する。図1 にその写真を示す。

図1  単純な構造のフォトニック結晶を用いた全光スイッチ。小型で低エネルギー動作 の可能性がある。光バッファメモリとしても有望。穴の直径 200nm,間隔 400nm,

欠陥幅 600nm, 導波路幅 600nm。 

エアーブリッジ型の GaAs の導波路に穴があけられている。中央の穴の間隔が大きなところがいわゆる欠 陥である。光はこの欠陥部分に集中する。集中した強い光パワーによる 2 光子吸収過程で欠陥部分の屈折率 が変化し,光の透過波長が変化する。このことを用いれば波長選択による光スイッチが実現できる。これま

でに実励起による 2 光吸収でこの効果が実証されている。GaAs を GaAlAs に替えて,実励起を仮想的な 2 光 子吸収に変えれば,発熱の効果を最小にした,極めて単純な構造の全光スイッチが実現できる。仮想的な 2 光子吸収には強い光密度が必要であるが,極めて狭い領域に光を閉じ込めるため,トータルのスイッチング パワを低く抑えられる。もちろん応答スピードは欠陥の Q 値に依存し,スイッチングエネルギーとトレード オフの関係にある。 

これ以外にもフォトニック結晶を使った多くの新たな全光スイッチの可能性がある。2010 年代半ばまでに は表1のスイッチの次世代スイッチとして,フォトニック結晶と光非線形性を用いた実用レベルのスイッチ の実現を期待する。 

(4) 光バッファメモリ 

光パケット処理を全光で実現しようとすると光バッファメモリが必要になる。これはパケットのヘッダー を認識し,行き先を確定するまでの間信号を待たせておく必要があるからである。Gbitクラスの容量の電気 のDRAMに相当するメモリの実現には妙案がなく,光の遅延線に頼らざるを得ないと考えられる。しかし,容 量を限定すれば,それなりのメモリ実現の可能性があり,これと光遅延線を併用することで光ノードの構成 の自由度が大幅に増大するかも知れない。一案は(3)で述べたスイッチに期待されるヒステリシス効果を利 用することで,単一の欠陥で光ヒステリシスに基づく光フリップ・フロップ動作の実現が可能と見ている。

光閉じ込めのフォトニック結晶部分も含めて 5μm2程度でフリップ・フロップ動作を実現できれば,単純計 算で 20Mbit/cm2の密度の光バッファメモリの可能性がある。もちろん,光の出入りや内部の光配線面積を別 途考えておく必要がある。 

この案以外に他の手段によるメモリ実現の方法も当然考えられる。いずれにしろ,光バッファはシステム 構成のために必須と考えられている機能である。幾つかの基本的アイディアに対しては,夫々の小グループ で可能性を見極めることが可能であろう。実装可能なバッファメモリモジュール実現についてはは,組織化 されたプロジェクト研究とそのための資金の確保が必要である。2015 年ころを期限とすれば,今からその準 備を開始する必要がある。 

(5) まとめ 

以上のように,2010 年以降の超大容量伝送や,光のノードに対して,フェムト秒プロジェクトで 160Gb/s を超える超高速の光信号に対するスイッチングデバイスのプロトタイプが実現されつつある。これらデバイ スをより実用的なものに仕上げていくことと,新たなアイディアに基づく新規素子開発が追加継続されてい くことが必要である。また,容量が限定的であっても光バッファメモリが実現されれば,光ノードの構成に 大きなインパクトを与えるものと思われる。全光素子のラインナップがそろい,160Gb/s-1Tb/s の全光ノー ドが実現できれば,光‐電気‐光のノードに比べて,大幅な低エネルギー化と小型化が実現でき,省エネル ギーが要求される社会のニーズに応えることができるものと思う。時期は 2015 年頃と考えたい。 

(石川  浩)