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第 2 章  光製品と市場の展望

2.3    光製品と技術の将来像  2.3.1  情報通信

2.3.8  医療福祉

(1) 分野の定義 

医療福祉の分野では,医療用レーザ装置や内視鏡などの機器を取扱う。表 2.3.8.1 に光産業動向調査委 員会の分類に基づいた対象製品を示す。本節ではこれら製品に関連して,将来求められる機能と市場予測 を行う。 

         

表 2.3.8.1  医療福祉分野での製品分類 

  製品属性  製品 

医療用レーザ装置  レーザ装置(眼科,外科,歯科,疼痛緩和用,美容など) 

内視鏡  電子スコープ等 

バイオセンサ  DNA シーケンサ,DNA チップ等  既存の延長上にある製品 

医療用計測機器  光 CT 等 

内視鏡  カプセル内視鏡,バーチャルエンドスコープ等 

医療用計測機器  血液センサ,生体酸素動的モニタ等  新規製品 

福祉機器  人工視覚等 

      注:光光産業動向調査委員会の分類(光機器・装置の製品別生産額)を参考にして作成   

(2) 求められる機能と代表的な製品及び技術 

2002 年時点では,診療機器である内視鏡や血流センサ,及び研究開発向けの DNA チップが光関連医療福 祉機器市場の 7 割以上を占める。内視鏡は先端に CCD を内蔵した電子スコープが主流で,高精度な画像に て患部を映し出すことができるため,単に患部を観察するだけではなく,手術にも用いられている。血流 センサは LD で皮膚表面にレーザを照射し,その散乱光を PD で計測することで,血流量を計測するもので ある。DNA チップは DNA 鑑定や創薬など主に研究開発で用いられる。ここでは,DNA に塗布された蛍光体を 発光させるための光源として LD などの光関連製品が用いられている。 

 

2010 年になると,先進諸国では少子高齢化に伴う高齢者や子供の健康管理のニーズが従来以上に高まる と予想され,どの場所にいても連続的に健康管理を行うことができるよう,気軽に使えて安価な健康管理 システムが必要となる。つまり,どこへでも持ち運びが可能な大きさで,かつ低侵襲の検査機器が求めら れる。また,こうしたセンサに RF 機能やストレージを付加することで,連続的に健康情報を管理すること も求められる。 

 

また,高齢者の安全確保手段の一つとして人工的な視力確保が必要になると考えられる。高齢になると 視力は低下するが,その中でも動体視力の低下は 50 歳を超えると著しく低下する(図 2.3.8.1)。 

                 

図 2.3.8.1  高齢者の視力の低下  出所) 日本損害保険協会 出所) 日本損害保険協会

今後高齢者増加に伴い,高齢者がより活発に安全に行動するためには,安全性を確保できる 0.7 以上の 動体視力を確保する手段が必要となる。こうした視力向上のためには,外部情報を直接電気信号で視神経 や脳に伝達する人工視覚が有効になると期待される。 

 

こうした視覚再生は,ヒューマンインタフェースの出力機器へも応用されることが期待される。出力情 報を大脳に直接伝達することで,ユーザーに対してより効率的且つ正確な情報を提供することが可能とな る。 

このように人工視覚を用いたアプリケーションは,先進国を中心に他の国々へも普及し,身体障害者だ けではなく,健常者の視力が弱い人の視力向上の手段として普及することが期待される。 

 

内視鏡を用いた診療分野でも,2010 年になると大きな動きが生じる。従来の内視鏡の使用の際は少なか らず痛みを伴うものであったが,2010 年には殆ど痛みがない計測が実現でき,低侵襲の計測が可能となる ことで市場拡大をもたらすと考えられる。また,IVR(Interventional Radiology)という CT 等の画像を 用いて体内に挿入した低侵襲の小型特殊器具による手術を行う,いわば「血管内手術」や「画像支援治療」,

「カテーテル手術」が普及することも期待される。低侵襲の計測機器は,手術以外にも人間ドックなど定 期検診の場面で使用されることで,検査市場の裾野を大きく広げることができ,健康に関心を持つ高齢者 を初めとする人々に広く普及すると期待されている。 

 

DNA チップを用いたゲノム解析では,2010 年にはテーラメード医療に向けて,より効能の高く副作用の 少ない薬を実現するために,機能解析や蛋白解析等が盛んに行われると推定される。こうした市場にて DNA チップなどの機器の需要は 2010 年においても増加すると考えられる。新規に創薬実現に向けた様々な機能 解析の実現や精度向上及び,開発時間の短縮のためのスループット向上などの機能が求められる。 

 

また,現状一部で用いられているオープン MRI を用いた手術ナビゲーション(患部の変形に合わせてメ スを入れる場所をナビゲートする)技術を光関連機器で代替することが将来考えられる。検査時間が長く,

共鳴音による患者への心理的負担が大きい MRI に代わり光 CT を用いることが考えられる。更に,PDT(光 線力学的療法)というがん親和性光感受性薬品 PS(フォトゼンシタイザ)とレーザ光によって引き起こさ れる光化学反応を利用した治療法が将来期待されている。これは,薬品ががん細胞に多く集積し正常組織 への障害を最小限に抑えてがん病巣のみを選択的に治療することが可能となる手術法である。2010 年以降 は,こうした医師にとってもやさしい(手術ミスの削減が可能な)機器の登場も期待できる。 

 

機能を実現する代表的な製品 

2010 年以降では,医療分野における低侵襲計測を実現する製品として,小型の内視鏡(特にカプセル内 視鏡)や CT や NMR で撮影した情報を CG 表示するバーチャルエンドスコープが進展する。また,低侵襲動 的モニタとしては,レーザを用いた非接触血流センサ(血流センサ・生体酸素動的モニタ),特に連続的な 計測により健康管理を実現する手段として使われる血糖値センサなどが進展する。 

創薬や遺伝子解析向けの計測では,バイオセンサとして従来から用いられている DNA チップ解析機器(シ ーケンサなど)や分子分光機器が今後も性能向上(高精度,高スループット)をしながら用いられる。 

治療ではレーザ治療機器を用いた機器としてレーザメスを用いた IPL(インパルスライト)や皮膚治療 機器が今後も更なる低侵襲性や治療対象部位の拡大など性能向上しながら用いられる。 

 

福祉分野では,視力を回復する製品として,網膜や視神経に刺激を与えることで視覚を再現する人工視 覚が実現し,新規の市場が形成されると考えられる。 

 

以上より,医療福祉分野での主要製品を表 2.3.8.2 に示す。 

 

表 2.3.8.2  医療福祉分野の主要製品  各分野のセット 

対象分野 

既存技術の延長/既存マーケット  新規技術を用いた製品/新規マーケット  医療福祉  内視鏡(内視鏡) 

LOC(Lab-on-a-Chip),DNA チップ(バイオセンサ)

光 CT 

カプセル内視鏡,バーチャルエンドス コープ(内視鏡) 

人工視覚 

低侵襲動的モニタ(血液センサ等) 

 

  以下に,上記の主要製品に求められる機能と解決が期待されている技術課題について記載する。 

 

●カプセル内視鏡(2010 年〜) 

カプセル内視鏡は低侵襲の内視鏡として,従来の内視鏡の代替及び新しい体内計測手段として普及が 期待されている。全長が 20mm,直径 10mm 程度のカプセル形状の内視鏡で,体外からの電磁誘導によって 操作を行う。構造としては,カプセル内部にイメージセンサ,レンズ,光源,姿勢制御やピント調整用 コイル及び電力受磁コイルで構成されている。 

このカプセル内視鏡の実現のためには,光関連技術としてコンポーネントの小型化とイメージング機 能の高性能化の両立が求められている。コンポーネントでは光源である白色 LED,イメージセンサ及びプ ロセッサの 1 チップ化による小型化実現が考えられる。また,イメージング技術の高性能化では,画像 ピント調整機能,体内の色彩を正確に表現するために広ダイナミックレンジ,高感度の実現が期待され る。将来的には更なる小型化,そして,マイクロロボットして小型アクチュエータ搭載による手術の実 現が技術開発の方向性として推定される。 

 

●DNA チップ・バイオセンサ 

DNA チップは基板上に DNA を数千個並べたチップであり,遺伝子の発現解析や多型解析を行うシステム である。基板上の DNA と検体中の DNA をバイブリダイゼーションさせ,検体 DNA に標識として付加した 蛍光色素をレーザ光で検出するものである。光関連技術は光源である LD,受光素子である PD 及び分光器 で構成されている。DNA シーケンサ(DNA の塩基配列の解析装置)や,電気泳動を用いて DNA,RNA やた んぱく質の解析を行う LOC システムも DNA チップ解析装置と同様に LD と PD にて構成されている。 

これらの機器では装置の小型化,計測感度の向上,及び対象物範囲の拡大が求められており,そのた めに,以下の技術の実現が求められている。