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パーソナル 3Dディスプレイ

第 3 章  光技術トピックス

3.1.  情報通信分野

3.2.3.  パーソナル 3Dディスプレイ

― いつでもどこでも立体映像空間を ― 

(1)  概略 

  ここ数年,立体映像は 2 次元ディスプレイの補助機能としてパーソナル機器に付加されるであろう。しか し,2010 年には,単に目新しいというだけでなく,新しいパーソナル空間を与えることで人間の生活にとっ て欠かせないものとして使用されるようになると考えられる。この頃には立体視要因を複数備え,疲労の少 ない 3Dディスプレイが必須である。さらに 2015 年以降は現実空間と実質同等の光線情報を発する 3Dディ スプレイの出現を期待したい。2020 年にはディスプレイ装置本体を意識させないリアルな 3D空間像も身近 なものとなろう。また,超高速大容量の通信インフラが整いつつあり,将来はネットワーク接続された 3D ディスプレイを中心とした立体映像ネットワーク文化の時代が来るものと期待される。いつでもどこでも誰 とでも互いの空間を共有できる究極のユビキタス情報社会の到来である。 

 

(2)  将来展望 

将来の 3Dディスプレイでは,これまで想像も出来なかったような新しい立体映像空間を生み出すことに より以下のような恩恵を得ることが出来ると期待される(図 1)。 

1. 感動を与えるエンターテイメントツール:高い臨場感,没入感を体験できるエンターテイメントツール を提供することにより人々に感動や楽しみを与える。まさにそこにいるかのような感覚を味わうことが可 能となる。 

2. リアルなコミュニケーションツール:会いたい人にいつでも会えるコミュニケーションツールを提供す ることにより,人々に安心感や心のやすらぎを与える。あたかも目の前にいるかのようなリアルなコミュ ニケーションや共同作業をいながらにして可能にする。 

3. 知的活性化,生産性向上ツール:人間の能力を最大限に引き出すツールを提供することにより,知的で 豊かな生活を与える。例えば情報量の多い 3Dディスプレイを用いて立体映像を提示することで脳を触発 し新しい思考や発想を得,新たな価値の創造を可能とする(図 2)。 

 

これらの恩恵を享受するには視覚疲労の少ない人間に優しい 3Dディスプレイが必要である。2010 年に,

このような 3Dディスプレイの使用がライフスタイルとして定着し,2015 年以降は実質的に現実空間とかわ らない超リアルな 3Dディスプレイが,そして 2020 年にはディスプレイ装置本体を意識させないリアルな 3 D空間像が利用可能となることを期待する(図 4)。コンテンツはネットワークを通じていつでもどこでもリ アルタイムに配信されるであろう。 

思考の活性化 人間の能力を 引き出すツール リアリティ

コミュニケーションツール 高臨場感 エンターテイメントツール

思考の活性化 人間の能力を 引き出すツール リアリティ

コミュニケーションツール 高臨場感 エンターテイメントツール

       

VGA QUXGA 3D-VGA 精細度(一度に視認できる情報量)

生産

第一のター ニングポイン

●高い忠実性

●スクロール不要

第二のター ニングポイン

●超リアル

●奥行き知覚可能

●回り込んで見られ

XGA 2〜10倍

の生産性

3D-3Dによる新し い思考、価値 の創造

VGA QUXGA 3D-VGA 精細度(一度に視認できる情報量)

生産

第一のター ニングポイン

●高い忠実性

●スクロール不要

第二のター ニングポイン

●超リアル

●奥行き知覚可能

●回り込んで見られ

XGA 2〜10倍

の生産性

3Dによる新し い思考、価値 の創造

3D-  3D-  3D-  3D-  3D-  3D-          図 1  3Dの恩恵      図 2  3Dの知的ツール応用 

(3)  将来ビジョン実現に向けて  (a)  インパクト 

電子の仮想空間により IT ビジネスが育ちつつあるように,ネットワーク接続された 3Dディスプレイパー ソナル機器でいつでもどこでも光の仮想空間を提供することで新しいビジネス領域を作りだせる可能性があ る。また,新しい文化の創造につながることも予想される(図 3)。 

現実

世界 電子の仮想空間

光の仮想空間

従来型ビジネス ITビジネス 新しい文化を創造

新事業領域

(サイバー社会)

現実

世界 電子の仮想空間

光の仮想空間

従来型ビジネス ITビジネス 新しい文化を創造

新事業領域

(サイバー社会)

      図 3  新しい文化,事業領域の創生  (b)  方策と提言 

上記の 3Dディスプレイを現実のものとするには例えば基本原理としてインテグラルイメージング方式を 用い光線数を非常に多くすることが考えられる。これは光線数が多いほど現実世界の光線を忠実に模倣でき るからである。そのためには 3D用に超高精細かつ総画素数の多い直視型ディスプレイパネルのトレンドを 新たに作り出す必要がある。現状ではパネルの大型化は進んでいるものの,2 次元ディスプレイへの応用が 目的であるため総画素数は数百万で飽和しつつある。図 4 に示すように一桁以上総画素数の多い 3D専用の パネル開発が必要である。また,光学系,駆動系やストレージ,伝送系の技術開発も合わせて必要となる。

これらの技術開発により人間に優しく,いつでもどこでも生活シーンの中で実際に役に立つ 3Dディスプレ イが実現されることを切望する。 

         

100000 1000000 10000000 100000000 1000000000

2000 2005 2010 2015 2020 2025 年

総画素数

2Dの補助

生活に定着 現実空間と実質同等

超リアルな3D空間像

      図 4  期待するパネル総画素数のトレンドと 3D機器への応用 

(平山  雄三) 

   

3.2.4. 有機EL技術

   

―シートディスプレイ, ・シートライトへの応用― 

(1) 有機EL素子の特徴とシートデバイス 

有機 EL 素子は,特定の有機材料をサブミクロン程度の厚さに真空蒸着,若しくはコーティングした薄膜を,

二つの電極で挟持した構造を持ち,電界を印加することで発光する素子である(図 1)。他の光源に比較し,

薄型の面発光体であり(ほぼ基板の厚さ),比較的広い面積に形成可能(現状で 400×400mm〜650×550mm),直 流低電圧駆で高輝度発光(10V 未満で 10,000cd/m2 以上,最大で 100,000cd/m2 以上),比較的高効率(実用レ ベルで 10〜15lm/W,研究レベルで 30lm/W 程度),多色化が可能(赤,青,緑,黄,白色)などの特徴を持つ。

近年の材料技術の革新,デバイス技術の進歩に伴い,当初懸案であった駆動寿命もディスプレイ応用に対し ては問題点が解決しつつある。またその効率についても技術課題が確認され,数年後には 50lm/W を越え,更 には蛍光灯並みに達すると期待されている。 

               

      図1 有機ELパネル   

応用として自発光によれ鮮明な画像がえられかつバックライトのいらない薄型ディスプレイが実現でき るため,モバイル用途を主として液晶代替のFPD(Flat Panel Display)として期待されており,将来的には大 型テレビをも視野に置く開発が進められている。更にその素子化が室温成膜によるため,プラスチックシー ト上への形成,あるいはフレキシブルフィルム化など,これまでになかった新しいディスプレイの形態を提 供すると期待されている。厚さ0.2mm程度のプラスチックシート上に形成されたディスプレイがどのような応 用展開をもたらし,一般生活の場に於いて,或いは産業に於いて如何なる波及効果を及ぼすか,興味は尽き ないであろう。 

 

(2) シートディスプレイへの応用(図2) 

ディスプレイトレンドの展開の方向性として「映像効果の追及」「視認性の追及」「利便性の追求」の3基 軸が挙げられるが(谷千束 : 「ディスプレイ先端技術」共立出版,1998),有機EL技術はこの3基軸の何れの 軸も満足するものと期待できる。 

シートディスプレイでは,先ず第1にその携帯性に期待がかかることであろう。例えばクレジットカード 程度のディスプレイを想像してみよう。従来のPDAであればYシャツの胸ポケットにしまうには,厚さも大き さもかなり苦しい。クレジットカードであれば数枚はしまえ込めるが,これが更にテレホンカード程度にな ると如何であろう。最早身に着けていることを意識する必要が無くなる。このカードサイズの中にはディス プレイ以外の機能を詰め込む必要は無く,例えばBluetoothの様なローカルなワイヤレス通信機能のみ搭載さ

れていれば良い。プロセッサやメモリ,或いは受像機の類は,例えば携帯電話などに持たせ,表示のみをこ のカードと通信でやり取りすればよい。地上波デジタル放送などを受信するポータブルTVとして,2インチ程 度の携帯電話の画面では小さすぎる用途にはこのようなサブディスプレイを用い,携帯電話と連携すること でポータビリティと機能とを共存できるであろう。 

   

           

       

       図2 シートディスプレイの試作   

また,現在のパソコンの位置付けは,インターネットへのアクセスであることから,モバイルコンピュー ティングシーンに於いても,重たい本体をわざわざカバンから取り出すまでもなく,ディスプレイとポイン ティングだけあれば事足りる。この面では,B5〜A4程度画面サイズが望ましいが,これはフレキシブルフィ ルム化技術を用いたロールペーパー型のディスプレイを利用すればよい。普段は,例えばペンシル型のケー スに丸めてしまい込まれており,必要な時に取り出して引き伸ばすことでとして,パソコン画面として十分 な画素数及び大きさのポータブルディスプレイが実現できる(図3)。ペンシル部分に,ジョグのようなポイ ンティングデバイスを仕込むこともでき,インターネットアクセスにも支障がない。ここでもパソコン本体 はカバンの中に入れたままで良い。シートディスプレイの登場により,このようなセパレートした形態が主 流となると予想されるが,こうなると最早携帯電話とパソコンの境はなくなるであろう。或いはCPU本体の場 所も限定されなくなり,例えば自宅のパソコンに高速通信網を利用して携帯電話からアクセスし,表示をシ ートディスプレイに,インプットを“親指”で行う時代が来るかもしれない。 

 

ロールペーパーディスプレイ

ロールペーパーディスプレイ     スクリーンシートディスプレイスクリーンシートディスプレイ

        図 3      図 4  

           

   

また,シートディスプレイは,ディスプレイトレンドのもうひとつの軸である「映像効果の追及」に関し ても,大画面化による高臨場感の実現に一役買うことであろう。60〜70インチの大画面はプラズマTV,更に 大きなものはプロジェクタなどが現在の主流であるが,有機EL技術の行き着く先は,そのプロジェクタ用の