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ロボット技術と光技術の融合

第 3 章  光技術トピックス

3.1.  情報通信分野

3.1.7.  ロボット技術と光技術の融合

―光で動くロボットへ向けて― 

   

ご存知の方も多いと思うが,2003 年 4 月 7 日は鉄腕アトムの誕生日とされていたことから,ロボットに関 する話題が多くマスコミに取り上げられた。現在,工場で働くロボット以外の,マスコミ等で取り上げられ るロボットの多くは,少なくとも,動く広告媒体としての価値や,所有することの満足感を満たすには十分 であったと言える。さらに今後,人間生活環境内で活躍するロボット普及を見越し,ロボット産業全体の市 場規模としては,2010 年には 3 兆円,2025 年には 8 兆円規模が期待されている(社団法人日本ロボット工業 会による)。しかしながら,現在手に入れられるロボットの要素技術だけでは,人間環境で十分な安全性や能 力を発揮するロボットの実現は難しいと考えられている。 

そこで,ロボット開発を飛躍的に向上させるための要素技術として,大きく分けてセンサ,アクチュエー タと,それらを繋ぐ通信技術になると思われるが,ここではそれらについて,光学に期待することを論述し たい(図 1)。 

             センサ技術

光技術 通信

技術 アクチュエータ

技術

  図 1  ロボットの要素技術を支える光技術

 

センサ技術 

現在,外界を対象としたセンサとしてロボットに広く用いられているものとしては,画像センサがある。

得られた映像情報から,ロボットが必要とする情報(三次元情報など)を獲得するためには,例えばステレ オビジョンでは,二台以上のカメラから撮像された複数枚の画像特徴点の一致する箇所を検出し,三角測量 の原理を用いて三次元位置を検出するという処理を必要とする。しかしながら画像情報を用いた位置検出は,

センサ技術としては不確定な情報から位置を特定することから,画像情報の質によっては,計測精度に大き な誤差を含むことが良く知られている。一方,光学分野でよく用いられる距離計測器は,短パルスレーザ光 の飛行時間を計測することで距離を出す TOF(Time of Flight)の原理,もしくは光を振幅変調・周波数変調 し,出した光と返ってきた光の干渉などを使い計測する手法が良く用いられる。センサにこのような光学的 な技術を用いることの大きなメリットとしては,それ自体が距離計測のためのセンサであることによる高精 度と,現在多くのロボットがアクチュエータとして用いているモータの電磁ノイズに影響を受けにくいこと に起因する。近年,この光学的な計測原理を用いた三次元光計測技術をロボットの外界センサなどに応用し ようとする動きがある。今後この分野を大きく発達させ実用とするためには,ロボットと光学,さらにはデ バイスの知識が必要となる。将来的には,現在の撮像デバイスを用いなくても,ロボットが必要とする三次 元情報を直接獲得するデバイスは遅くとも 2010 年には実用化されていると思われる。 

さらにはその他のロボットに用いられているセンサの電子デバイスについても,今後 10 年間でその集積 度が格段に増加することにより,光と電子デバイス技術との境目がなくなっていくことが予想される。光技 術を積極的に電子デバイスに取り込むことにより,処理の並列化を向上させ,処理能力を格段に向上させる ことが期待される。現在までも光情報処理技術はいくつか提案されてはきたものの,その汎用性とプログラ マビリティの低さから,実用的なシステムへの応用はほとんどなされてきていない。このような光と電子デ バイスの融合により,現在の FPGA(Field programmable gate array)などのように外部からプログラムを ダウンロードするだけで,光と電子のハードウェアロジックが組めるシステムが可能となれば,非常に有用 である。光学と電子技術の融合分野は,量子コンピュータなどにおいて理論的な研究が先行している。量子 コンピュータの実用化は,専門家の意見でも 20−30 年はかかりそうであることと,現在の需要と技術水準を 考慮に入れると,この光と電子の融合デバイス分野の技術開発の突破口としては,センサ応用から入るのが もっとも最短経路であることからも,光関係の専門家がこの分野に興味を持たれることを切に希望する。 

 

アクチュエータ技術 

現在,ロボットで数多く使われているアクチュエータは電動モータである。電動モータは人間の筋肉と比 較すると,そのトルク特性が大きく異なることから,人間型のロボットなどで人間のサイズで人間と同等な 動きを実現するためには,大きな問題があるとされている。また,アクチュエータ自体の自重,さらにはそ れに付随する駆動装置,バッテリーも大きな開発要素である。 

  この分野において光技術を用いた開発としては,光で駆動する光アクチュエータの開発も行われているが,

上記のようなロボット側の必要とするスペックを十分満たすものは現在では実現されてはいない。将来的に は 20−30 年後には一部実用化されるものと期待する。 

 

通信技術 

さらに光技術のロボットへの応用例として現時点でも実用範囲にあるものとしては,光通信技術がある。

光通信技術自体は既に実用化された技術であるが,ロボットは基本的にはモータ等の電磁アクチュエータに よる駆動を行っており,環境としては電磁波が多く雑音を拾いやすいことから,光情報通信を用いた信号と パワー伝達が求められる。 

  現在でも,ロボット体内通信に光通信技術を用いたロボットも出始めているようであるが,先に述べたよ うに,アクチュエータや情報処理システムが電気ベースで動いていることから,光電変換デバイスを随所に 入れなければいけないなどの問題はある。この領域は,前述の光アクチュエータや光デバイス開発の動向と ともに大きくブレークする領域である。 

 

将来的には,ここで述べたそれぞれの要素技術全てが光技術で実現することにより,10 年後には光技術を 応用し現在の距離計測精度を 1 桁以上上回るセンサデバイスを搭載し,人間と共存するロボットが街中,家 庭に出始めることが期待できる。さらに 50 年後には,全てが光技術で動くロボットの出現により,認識能力・

処理能力とも現在の 2 桁以上向上し,軽量であるがパワーを備え,なおかつエネルギーも人の一生に相当す る 100 年程度は補給しなくとも動き続け,人間生活になくてはならないパートナーとなっていることを期待 したい。 

(大場  光太郎) 

3.2. ディスプレイ・照明・光メモリ分野  3.2.1. デジタル TV 放送と光技術 

―光が拓く新たな放送文化― 

(1) まえがき 

放送は,デジタル化によって高画質,高音質,多機能,双方向のメディアに生まれ変わる。  地上デジタ ル放送は 2006 年末までに全国主要都市で放送を開始し,2011 年までには現在のアナログ放送がすべてデジ タル放送に置き換わる予定である。  従って,2010 年代後半は,デジタル放送の本格的な成熟期に入る時期 と予想される。  本稿では,とくに光技術の高度化とその活用により,この時期に大きな進展が期待される 放送技術やサービスについて展望する。 

 

(2)デジタル放送のあまねく普及と放送・通信の連携  (a)  電波の補完 

地上デジタル放送は,マイクロ波配信技術や放送波中継技術を用いて全国に分配伝送される。この無線ネ ットワークの冗長系として光ファイバの利用が考えられる。  すでに,STL(Studio to Transmitter Link) 回線や TTL(Transmitter to Transmitter Link)回線に光ファイバを用いる例がいくつかある。  また,電波 が届きにくい地域では,電波を補完する手段として光ファイバ伝送が適用できると考えられる。  すなわち,

既存の通信用ファイバを用いて,波長多重技術により放送波を再送信することで,地上デジタル放送が早期 に普及することを期待している。 

(b)  サーバー型放送 

  放送コンテンツを受信側で,蓄積したり,ブロードバンドと連携して利用したりするサーバー型放送サー ビスが検討されている。  このサービスにより,テレビは単なる放送受信機の枠を超え,放送と通信が融合 した家庭における総合情報端末となることが期待される。  サーバー型放送では,主番組に加え,データ放 送コンテンツとメタデータ(番組関連情報)技術を利用して,主番組に関連した映像や文字情報などを提供で きる。  またメタデータにより,放送中のコンテンツと,家庭内に蓄積されたコンテンツやブロードバンド 上のサーバーにあるコンテンツをシームレスに活用した放送・通信の連携型サービスを楽しむことができる。 

これらのサービスは,電子自治体からの情報の受信の可能性や,学校教育あるは生涯教育における効果の改 善などに発展させることも考えられる。  このサーバー型放送では,コンテンツの著作権を安全に保護する 仕組みを確立することと,高画質デジタル放送と超高速インターネットを共存させて伝送する仕組みが求め られる。 

 

(3)放送サービスの充実と高効率化  〜放送用デバイス〜 

(a)ディスプレイ 

デジタル放送の最大の魅力は高画質・高音質のハイビジョンである。ハイビジョンの迫力ある映像を楽し むには大画面ディスプレイが望ましい。  現在,PDP や LCD で大画面化が進められているが,高画質化,低 廉化,低消費電力化などの課題がある。  今後,大画面テレビは家庭の総合情報端末としての役割を担うの で,とくに低消費電力化は大きな課題である。  2010 年代後半には,超高効率・高輝度な PDP や冷陰極ディ スプレイ,あるいはさらに新しいディスプレイが開発され,60〜80 インチクラスのハイビジョン用で消費電 力が 100W 程度(発光効率〜10lm/w)に抑えられる可能性がある。