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フォトニックネットワーク

第 3 章  光技術トピックス

3.1.  情報通信分野

3.1.2.  フォトニックネットワーク

―超高速光ラベル処理と光パケットスイッチング技術を中心に― 

(1) はじめに 

近年のインターネットトラヒックの増加は著しく,日本におけるメジャーな IX(Internet exchange)

におけるトラヒックは,年率 2 倍以上の早さで増加している(図1参照)。昨今の経済状態を考えれば,

この数値は驚異的である。そのため,現在は過剰投資の影響で有り余る通信回線も,やがて足りなくなる であろうことが懸念され始めている。一方で,図1を注意深く見れば,トラヒックの平均値が年々増加す るにつれ,トラヒックの変動幅(最大と最小トラヒックの差)も年々増加していることが分かる。このこ とから,将来の情報通信ネットワークにおいては,超大容量のスループットのみならず,大きなトラヒッ クの変動に対し柔軟に対応可能なスケーラビリティ(scalability)や,データ粒度(granularity)の細 かい通信サービスなどが求められると予想される。 

(2) ネットワークの進化 

図 2 は,フォトニックネットワーク発展のシナリオを示している。横軸は目標とする実用化の時期であり,

縦軸は WDM 技術を前提とした場合の波長の制御性を表している。フォトニックネットワークの原点は,

point-to-point の 大 容 量 WDM 伝 送 技 術 の 発 達 に あ る 。 波 長 分 割 多 重 ( WDM:  wavelength  division  multiplexing)技術の発達は,超大容量のデータ伝送を可能にした。その後,WDM リングネットワーク,光 クロスコネクトを用いた WDM メッシュネットワークへと発達を遂げた。しかしながら,WDM 技術を用いた波 長回線交換(パススイッチング)ネットワークにおける,データ粒度は非常に大きくなってしまう。その ため現在は,波長パスの動的割り当てを可能にする技術を盛り込んだ,光ストリームや光バーストによるフ ォトニックルータとそれを用いたネットワーキング技術の研究が,実用化を目指し盛んに行われている。例 えば,GMPLS(generalized multi-protocol label switching)と呼ばれる制御方式を WDM ネットワークに 適用し,IP(internet protocol)パケットをスイッチングする IP/GMPLS/WDM の方式では,WDM 技術を用い ながら細かなデータ粒度が実現可能となる。しかしながらこの方法においては,全ての制御を電子処理やソ フトウェア処理に頼っているため,ネットワークノード内で行われる,IP ルータによるアドレス検索などの 際に低速なメモリアクセスを必要とし,将来的にネットワークのボトルネックを生じる可能性が高い。パケ ットスイッチングネットワークにおいて,大量のトラヒックを転送する基幹ネットワークを構築するには,

リンク容量の増加のみならず,ノードのスループットを増加する必要がある。リンク容量は光ファイバを束 ねることや,先に述べた WDM 技術を導入することで簡単に増やせるのに比べ,既存のノードシステムを支え る電子回路の集積化や並列処理によるノードスループットの増加は単純ではない。データ量の増加や大規模 サービス事業者の増加に伴って,インタフェース速度(ポート速度)やポート数を増加する必要が出てくる に従い,電子処理技術の限界に達する可能性が高い。並列処理の導入により,電子回路でも高速処理を有る 程度実現可能であるが,この場合,将来的には膨大な消費電力が大きな問題となるであろう。 

光パケットスイッチング技術は,波長軸上の多重効果に加え,粒度の細かい時間軸上の交換を可能にする 高機能性と,光処理による超高速転送,大きなスループットという大容量性を両立する,フォトニックネッ トワーク発達の上で究極の技術と位置づけられている。また,パッシブ光回路による超高速処理の導入では,

将来的な消費電力の削減も期待される。しかしその一方で,超高速の宛先検索技術や光バッファリング技術

などブレークスルーが必要な技術課題が多く残されている。その実用化は 2010 年以降と予測される。 

このように,光パケットスイッチングネットワーク実現の為の要素技術はまだまだ未熟ではあるにもかかわ らず,学会等での研究発表はこの 1,2 年で急激に増えている。さらに昨年,米国の DARPA が,最先端の光技 術を積極的に導入し,ネットワーク内で光・電気変換をせず光信号のままデータを転送する,新しいネット ワークの研究開発に着手することを発表している。この DARPA のターゲット項目の中には光パケットスイッ チング技術も含まれており,本技術の今後の展開に対する期待をうかがい知ることができる。 

 

(3) 光ラベル処理とパケットスイッチング技術 

光パケットスイッチネットワークを構築する上で最も重要なのは,光パケットスイッチングノードである。

図 3 に光パケットスイッチングノードに要求される 5 つの機能とそれぞれの関係を示す。光パケットスイッ チの機能は,ルーティング,アドレス処理,スイッチング,スケジューリング,そしてバッファリングの 5 つに,大きく分けられる。  

これらの機能のなかで,スイッチングとバッファリング機能に関しては,古くから光化の試みがなされ,実 証実験レベルの報告がある。ただしここで光バッファは,ファイバ遅延線などを用いた光バッファであり,

光メモリではない。一方,ラベル処理機能に関しては,最近になって多くの試みが成されるようになってき ている。既存パケットスイッチングノードの中で,ラベル処理は最も多くの時間と電力を消費する機能であ り,光パケットネットワーク最大のボトルネックになっている。従って,アドレス処理機能の光化は非常に 大きなインパクトと意義をもつ。スケジューリング機能は複雑な演算を要するため,その光化は容易ではな いが,簡便で低消費電力の方法が開発されれば,電子処理に対する優位性が示される可能性がある。ルーテ ィング機能に関しては,現状光化による超高速処理が必要という認識はあまりされていない。 

昨年開発された光パケットスイッチプロトタイプ(図 4)では,これら 5 機能のうちルーティングを除いた 4 機能を実装している。用いられる光パケットはヘッダーとペイロードデータから成る。ヘッダーは行き先ノ ードに対応する光符号ラベルを持つ。光パケットスイッチにおいて,入力された光パケットは単純に2分岐 され,1つはヘッダーアームへ,もう一方はペイロードデータアームへ送られる。ヘッダーアームに送られ た光パケットヘッダーはラベル処理部へ入力される。一方,ペイロードデータは光スイッチ部を通って,光 バッファ部へと送られる。ラベル処理部では,光ラベル処理装置がパケットヘッダーを光学的にリアルタイ ム処理し,パケット転送用の光スイッチを制御するとともに,スケジューラを介して光バッファを制御する。

現在プロトタイプは,スイッチ規模は 2 入力 x 2 出力,回線のレートは 40Gbit/s,光バッファは最大 2 パケ ット保持できるものである。2010 年以降の実用段階では,スイッチ規模は 16x16 以上,回線のレートは 160Gbit/s 以上,光バッファは数十パケット分の保持が可能になる必要が有ると考えられる。 

このように光パケットスイッチング技術は,ようやくプロトタイプが作れる段階まできた。光パケットスイ ッチングネットワーク実現の為の要素技術はまだまだ未熟ではあるにもかかわらず,学会等での研究発表は この 1,2 年で急激に増えている。さらに昨年,米国の DARPA が,最先端の光技術を積極的に導入し,ネット ワーク内で光・電気変換をせず光信号のままデータを転送する,新しいネットワークの研究開発に着手する ことを発表している。この DARPA のターゲット項目の中には光パケットスイッチング技術も含まれており,

本技術の今後の展開に対する期待をうかがい知ることができる。 

         

Increase of average traffic

Increase of traffic range

Scalabilitywill be very important in the future photonic networks 黄:JPIX >前年比2倍強

紫:Dix-ie(旧NSPIXP2)>前年比2倍強 青:JPNAP>前年比5

ベースになっている図:総務省 平成15年度通信白書から引用 (WHITE PAPER Information and Communications in Japan,

The Ministry of Public Management, Home Affairs, Posts and Telecommunications (MPHPT) http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/pdf/F1010000.pdf)

Increase of average traffic

Increase of traffic range

Scalabilitywill be very important in the future photonic networks 黄:JPIX >前年比2倍強

紫:Dix-ie(旧NSPIXP2)>前年比2倍強 青:JPNAP>前年比5

ベースになっている図:総務省 平成15年度通信白書から引用 (WHITE PAPER Information and Communications in Japan,

The Ministry of Public Management, Home Affairs, Posts and Telecommunications (MPHPT) http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/pdf/F1010000.pdf)

図 1  インターネットトラヒックの変動 

       

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

2001

波長制御性

OXC

(Add/Drop) WDM

2005

※光ストリーム、光バーストによる    フォトニックルータ

p-to-p WDM伝送

WDMリングNW OXCに基づく

ネットワーク

OADM : Optical Add/Drop Multiplexer OXC   : Optical Cross-connect 

波長の固定的運波長のダミックな運用 フォトニックラベルスイッチングルータ

によるネットワーク

※光IP パケット転送を実現する   フォトニックルータ フォトニックパケットルータ

によるネットワーク

OXC フォトニックルータ

2010年〜

OA D M

WDM WDM

超高速フオトニックネットワーク開発推進協議会 発行『フォトニックネットワ ーク革命』

(p33 図2.2-8 フォトニックネットワーク技術の研究開発の展開)より

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

λ1 λ2 λ1λ3 λ2 λ3

2001

波長制御性

OXC

(Add/Drop) WDM

2005

※光ストリーム、光バーストによる    フォトニックルータ

p-to-p WDM伝送

WDMリングNW OXCに基づく

ネットワーク

OADM : Optical Add/Drop Multiplexer OXC   : Optical Cross-connect 

波長の固定的運波長のダミックな運用 フォトニックラベルスイッチングルータ

によるネットワーク

※光IP パケット転送を実現する   フォトニックルータ フォトニックパケットルータ

によるネットワーク

OXC フォトニックルータ

2010年〜

OA D M

WDM WDM

超高速フオトニックネットワーク開発推進協議会 発行『フォトニックネットワ ーク革命』

(p33 図2.2-8 フォトニックネットワーク技術の研究開発の展開)より p-to-p WDM伝送

WDMリングNW OXCに基づく

ネットワーク

OADM : Optical Add/Drop Multiplexer OXC   : Optical Cross-connect 

波長の固定的運波長のダミックな運用 フォトニックラベルスイッチングルータ

によるネットワーク

※光IP パケット転送を実現する   フォトニックルータ フォトニックパケットルータ

によるネットワーク

OXC フォトニックルータ

2010年〜

OA D M

WDM WDM

超高速フオトニックネットワーク開発推進協議会 発行『フォトニックネットワ ーク革命』

(p33 図2.2-8 フォトニックネットワーク技術の研究開発の展開)より

図 2  フォトニックネットワークの進化 

   

Routing Make a routing table

Routing Make a routing table

Scheduling Avoid collision

of packets Scheduling Avoid collision

of packets Address Processing

Determine output port from the routing table Address Processing Determine output port from the routing table

Switching Switch the packet to the appropriate port

Switching Switch the packet to the appropriate port

Buffering Store the packets for appropriate time

Buffering Store the packets for appropriate time Payload

Payload HeaderHeader

Optical Electrical

Routing Make a routing table

Routing Make a routing table

Scheduling Avoid collision

of packets Scheduling Avoid collision

of packets Address Processing

Determine output port from the routing table Address Processing Determine output port from the routing table

Switching Switch the packet to the appropriate port

Switching Switch the packet to the appropriate port

Buffering Store the packets for appropriate time

Buffering Store the packets for appropriate time Payload

Payload HeaderHeader

Optical Electrical

図 3  光パケットスイッチングノードの構成