第 3 章 光技術トピックス
3.1. 情報通信分野
3.2.5. 固体照明
―脚光を浴びるLED照明の展望―
(1) はじめに
発光ダイオードは将来の固体照明光源として最も注目を集めている発光デバイスである。
発光ダイオードは 1960 年代に GE より GaAsP を用いた赤色 LED が初めて市販された。LED の発光効率は その後の僅か 40 年余りで大幅に向上し,発光波長領域も可視光全域をカバーするまでになった。
また,InGaN 系青色 LED と YAG 系蛍光体を組み合わせた白色 LED も 1996 年に 5[lm/W]で商品化されて
以来,その後現在までラボレベルを含めて図 1 に示す様に片対数グラフに於いてリニアに効率の向上を 成し遂げてきた。この流れは今後もスピードダウンを伴いながらも続いていくと考えられる。
固体照明光源の利点としては,小型・長寿命・水銀レス等既存の照明光源では得られない特徴を有し ている。また LED の場合 DC 駆動方式のため,将来の家庭用補助電源である太陽電池や燃料電池とも非常 に相性がよい。しかしながら現時点の効率では,懐中電灯や携帯端末の液晶バックライトに用途が限ら れており,14 兆円市場と言われる一般照明分野をターゲットとする場合更なる効率改善とコスト低減が 必要である。本稿では主に白色 LED による固体照明について話を進める。
0.1 1 10 100 1000
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 年
発光効率 (lm/W)
GaAs
GaP GaAlAs
AlGaInP 緑LED(525nm) 理論限界値
赤LED(625nm) 理論限界値
青LED(470nm) 理論限界値 電球
蛍光灯
■ InGaN緑色LED
● InGaN青色LED
○ 白色LED 白色LED 理論限界値
2010年白色LED 効率予測値
2015年白色LED 効率予測値
図 1 各色 LED の効率向上経緯(Φ5mm 砲弾型 LED)
(2) 既存一般照明と白色 LED の対比
一般家庭用照明分野をターゲットとしたときに,60W 電球クラス(約 800lm)の光源が用途的に多い と考えられる。よって,この 60W 電球クラスの明るさをターゲットとした場合に求められる LED のスペ ックを考えてみる。
日本国内では AC100V 電源が使用されているため,最も安価な点灯回路構成としては,全波整流用ブ リッジ・平滑用コンデンサー・保護抵抗・LED(25 個直列)である。 よって LED 1 個に求められる光束 値は 32[lm/pcs]であり,この値は現在市販され始めている高出力型白色 LED に相当する。
これを既存の光源と比較すると表 1 の様になり,LED 光源の消費電力は電球の約半分,コンパクト蛍光 管の約 3 倍になる。また,値段(LED のみ)については電球の約 70 倍,コンパクト蛍光管の約7倍であ る。
これらの条件を考えると現時点で白色 LED の応用範囲は特殊用途照明などに限定せざるをえない。
(3) 白色 LED の可能性
白色 LED の発光スペクトル自体の視感効率は 300[lm/W]を超える。よって将来的には現行ラボレベル の 2 倍に相当する 120[lm/W]の発光効率も実現可能と考える。この効率は白色光に於いて最も効率の良 い光源になり省エネルギー化が可能になる。
実際に LED の効率が 120[lm/W]となったとき 60W 電球クラスの照明を考えると 6.7[W]の消費電力ですみ,
この値は電球の 1/9,コンパクト蛍光管の約 3/5 となる。また,価格も 1 個の LED に掛かる電力が 1/5 に低減できるためチップを小型化でき,パッケージにも許容損失の小さな汎用パッケージが使用できる ようになる。よってコストも図 2 に示すように大幅に低減し,現行のコンパクト蛍光管と同程度に抑え ることが可能になると考える。
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
0 20 40 60 80 100 120 140
発光効率[lm/W]
60 W 白熱球想定時の単価[ ¥]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
ルー メ ン 単価[ \ /l m ]
現状
2010年
図 2 白色LEDの発光効率と価格の関係予測
表 1 各種光源の比較 全光束
(lm)
投入電力 (W)
値段 (円)
寿命 (時間)
発光効率 (lm/W)
ルーメン単価 (円/lm) 60W 電球 790 60 180 1,000 13.2 0.23 12W コンパクト蛍光管 810 12 1,800 60,000 67.5 2.2
現状 800 35 12,500 10,000< 22.9 15.6 高出力型
白色 LED 2010 年 800 6.7 1,250 50,000< 120.0 1.56
(4) 2010 年代の固体照明の展望
LED に代表される固体照明光源は,高効率化への潜在的ポテンシャルや,水銀等の環境負荷物質削減 などの社会的要求から考えて,今後間違いなく既存照明光源に置き換わっていく物である。また,現在 までの効率化の歴史から観て 120[lm/W]も 2010 年代には実現可能であると考えられる。
家庭用照明では,既存の照明器具と同じ様な使用方法はもちろんのこと,LED の小型・軽量の特性を 生かした小型のポイント照明もより多く現れてくるであろう。また,三色 LED を用いて任意の色照明も 可能となり,昼白色と電球色をボタン一つで切り換えることも可能となる。また,今後普及するであろ う太陽光発電や燃料電池のような小電圧 DC 電源ラインが直接家庭内配線に採用されれば,電源回路もよ り小型化でき LED の様な半導体製品を利用した機器の小型・低コスト化も可能になろう。
自動車用ヘッドランプにおいては水銀レスの要望に応えられることはもちろん,小型の光源を複数個 使用する事により,デザインの自由度向上や,対向車に対する眩しさを低減させることも可能であろう。
街灯についても LED 化されればメンテナンスが非常に楽になり,水銀灯のように点灯に時間が掛から ないため,センサと組み合わせた ON/OFF も可能になり省エネも可能となる。
以上のような LED 照明を実現するための白色 LED 効率改善策としては,LED チップからの光の取り出 し効率の改善や,電流に対する光出力のリニアリティー改善が必要となる。また,併せて光出力が向上 したときに素子寿命のアキレス腱となる樹脂の光劣化対策も急務と言える。
(山田 元量)