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第 2 章  光製品と市場の展望

2.3    光製品と技術の将来像  2.3.1  情報通信

2.3.7  環境・センシング

(1) 分野の定義 

環境・センシングの分野では,人間の活動する様々な環境をセンシングし,よりよい環境に改善させ るために使用される一連の光製品を対象とする。具体的には,環境改善製品としては光触媒を使用した 製品が挙げられる。また,センシングするための機器としては,地球環境をマクロにセンシングするた めの各種ライダや分光計から,都市環境や生活環境をセンシングするための ITS(Intelligent Transport  Systems)や防犯・セキュリティ関連機器,産業界で使用されている表面検査装置や光スペクトラムアナ ライザ,障害位置検出装置など,様々な機器が挙げられる。 

以上に挙げた機器・製品を光産業動向調査委員会の分類に基づいて分類したものが,表 2.3.7.1 である。

本節ではこれら製品に関連して,将来求められる機能と市場予測を行う。なお,センシングに用いられ る機器には用途こそ違え同種のものが使用されるケースが多いため,後段では【光センシング機器】と

【光計測器】を,【光センシング機器及び光計測器】と統合させた形で記述した。 

 

表 2.3.7.1  製品分類 

分類 対象製品

内装材・外装材向け光触媒製品  交通インフラ向け光触媒製品  環境浄化装置向け光触媒製品  環境改善製品

その他 

各種ライダ/分光計 

防犯・セキュリティ関連機器(カメラ,バイオメトリクス機器等) 

環境

ITS(Intelligent Transport Systems)関連機器  表面検査装置 

人体センサ  光センシング機器

その他 

光スペクトラムアナライザ  障害位置検出装置 

パワーメータ  センシング

光測定器

その他 

(2) 求められる機能と代表的な製品及び技術 

【環境改善機器・製品】 

近年,黴や雑菌などによる住居環境の汚染と共に,環境ホルモンをはじめとする化学物質による大気 や河川の汚染など,地球規模での環境汚染が進行している。環境問題は,今や人類の生存を脅かす最重 要課題であり,環境の変化,特に悪化を察知し,改善・無害化するための機器やシステム,環境調和型 社会に対応したシステムが求められている。また,2003 年夏から騒がれ始めた SARS に関連して,抗菌・

抗ウイルス性を持つ内装材(内装塗料等を含む)に対する需要も高まりつつある。 

環境の改善・無害化に関しては,光触媒を用いた製品が現在の環境分野で最も注目されている。これ は,紫外光下における酸化分解機能による有害物質の無害化や,親水機能を併せて利用した防汚効果な どの機能を有しているだけでなく,光触媒関連製品は,ほぼフリーメンテナンスで,かつ省エネルギー に貢献する機器・システムだからである。 

 

2002 年時点では,エアコンや空気清浄機(産業用含む)等の環境浄化装置,及びビルの外壁などの建 材などが市場の 8 割以上を占める主要な用途である。光触媒の機能には,大別すると「酸化分解機能」

及び「親水機能」の 2 種類が存在する。「酸化分解機能」は,付着する有機物を酸化還元する機能であり,

主に窒素酸化物などの有害物質の無害化に用いられる。「親水機能」は,触媒表面に水が薄く均一に広が る機能であり,曇り止めなどに用いられる。こうした状況の下,現在では,酸化分解機能を殺菌・洗浄 機能に活用したものとして,空気清浄機,エアコン,水処理施設などの環境浄化装置・施設や,タオル などの医療用品がある。また,親水機能を防曇に活用したものとして,自動車用や道路用ミラーがある。

その他,双方の機能を利用したものとしては,野外設置用のテントや建材,高速道路の防音壁,街灯な

どがあり,降雨時などには親水性による付着物質の洗浄,日中は酸化分解効果による付着物の分解と空 気洗浄機能を持たせている。その他,様々な用途が試験的に開発されている。 

 

2010 年以降になると,光触媒に求められる役割は一層拡大するものと予想される。主なニーズとして は,可視光下での酸化分解機能の実用化と,酸化分解可能物質の増加,酸化分解機能と親水機能双方の 高レベルでの発揮が挙げられる。 

 

現在製品化されている光触媒製品の大半は,紫外光下でなければ酸化分解機能を十分に発揮できない。

だが,可視光下での反応性能は徐々に向上してきており,今後は可視応答型の光触媒を用いた様々な製 品が実用化されるものと予想される。例えば,日光が照射される機会の少ない屋内向けの壁紙や照明な どが挙げられよう。その他,紫外光ランプを併用している空気清浄機やエアコンなどでも,紫外光ラン プの設置スペース及びコストを削減するものとして期待されている。その他,衣服やタオルなど,生活 に身近な用途でも酸化分解機能による殺菌効果が期待されている。 

 

以下では主な用途分類毎に,光触媒製品の将来動向を記述する。 

●外装材・内装材向け光触媒製品 

ビルの外壁や窓で用いられている光触媒は,日中は酸化分解機能によって表面に付いた物質を分解し,

降雨時には親水機能によって付着物質を洗浄する。このように,酸化分解機能と親水機能の双方を利用 した用途では,両機能の高水準での発揮が望まれている。酸化分解機能は,表面積が広いほど機能が発 揮される一方,親水機能は,表面が平面であるほど機能が高まる。この相反する機能特性を用途に応じ て高水準で実現させることが,光触媒の用途拡大の鍵となっている。ビルの他,一般住宅やテント,ガ ードレールやミラーといった交通インフラ施設など,屋外に設置される施設の建材では,こうしたニー ズが強い。 

 

建材では,外気に触れる面においてコーティングがなされるが,屋外用では主に親水性と酸化分解効 果双方の機能を持たせたコーティングがなされる。主な目的は壁面の防汚であり,降雨時には親水性に よる洗浄が,日光照射時には付着物の酸化分解が行われる。一方,内装材では水回り製品には外装材と 同様の光触媒製品が使用される他,壁紙等では酸化分解効果のみを持たせた光触媒製品が使用される。 

当面の技術課題としては,材料開発による可視光応答性の向上が挙げられる。特に内装材では酸化分 解効果が重視される一方で,現在の製品では日光照射時でなければ十分な効果が得られないのが現状で ある。その他には,加工の容易性やコスト面の課題が挙げられる。光触媒のコーティングは,現在は工 場にて加熱処理などを経て行われているが,無熱処理が可能になると,既存建築物に直接コーティング を施すことが可能になる。また,光触媒がコーティング対象の建材自体を分解しないようにバインダー 材料が使用されているが,これは加工プロセスの増加やコスト増につながっている。これらを使用する ことなくコーティングを行える材料や技術の構築が望まれている。これらの課題を解決することによっ て,将来的には建材や既存建築物,壁紙やカーテンなどの内装用資材,各種照明機器,野外テントなど への適用可能範囲が拡大する。

●交通インフラ向け光触媒製品 

酸化分解機能の向上による,自動車の排気ガス浄化装置など,既存環境浄化装置の代替可能領域の拡 大が期待されている。現在の光触媒では分解できる物質に限度があり,自動車の排気ガスなどに含まれ る粒子状物質程度の大きさを持つ物質になると,分解が困難である。また,道路やガードレールなど,

自動車の排気ガス関連物質が付着しやすい施設でも,光触媒の採用が検討されており,機能向上が求め られている。その他,産業廃棄物処理施設においても,光触媒の分解機能向上による処理能力向上が望 まれている。 

また,道路や遮音壁,街灯などの交通インフラにおいても親水性と酸化分解効果の機能を持たせた光 触媒が使用される。現在でもこうした機能を持たせた光触媒製品は商品化されているが,親水性と酸化 分解効果の双方の特性を高いレベルで発揮させることができていないのが現状である。表面積が大きい ほど酸化分解効果が高まるため,一般的には多孔質性の材料が用いられるが,凹凸が多くなる分,親水 性による洗浄機能が低下する。今後はこれらを解決する多孔質性を持った光触媒材料の開発が望まれる。

また,浄化対象汚染物質の拡大も技術課題としてあげられる。今後,NOxやSOx物質の浄化はほぼ実用化 レベルに達すると見られているが,自動車の排ガスなどに含まれる粒子状物質は直接分解することがで きない。これらについては,その由来物質を分解するための材料開発が課題として挙げられる。こうし た課題は,今後の技術開発によって徐々に解決され,それに応じて交通インフラの各所に適用されると 予想される。 

●環境浄化装置向け光触媒製品 

現在でも光触媒が空気清浄機で使用されているが,2010 年以降になると,水質浄化装置に酸化分解機 能の高い光触媒が用いられていると予想される。また,建材・内装材の分野では,ビルや一般住宅の外 壁,窓のほか,壁紙や照明などの内装材において光触媒が適用され,外壁や窓では酸化分解機能と親水 機能,内装材では酸化分解機能を持った製品が普及しているものと予想される。交通インフラでは,道 路,街灯,遮音壁,ガードレール,ミラーの他,自動車の車体やミラーにおいても光触媒が用いられる 等,外気に触れるあらゆる物に光触媒が適用されるようになると予想される。 

環境浄化装置への適用例として市場規模の大半を占めているのは,空気清浄機やエアコンである。保 有する機能は酸化分解効果であり,現在では紫外光ランプを併用することで性能を高めている。今後は 光触媒の可視光応答化による分解活性向上が主な技術課題であり,主に光触媒材料の開発に依存する部 分が大きい。光触媒の材料開発によって解決が望まれている技術課題としては,抗菌・抗ウイルス機能 の付与や,粒子状物質などの難分解性物質の分解,分解反応による中間体の生成抑止などが挙げられる。

その他,光触媒自体とは別に,装置としての反応器設計技術の向上が挙げられる。浄化効率を上げるた めに光の利用効率を上げるための設計や,設置及び運転コストを削減する設計など,システム面におけ る課題が多数存在している。これらへの取り組みによって機能・性能面での改善とコストダウンが実現 されれば,民生・産業を問わずあらゆる空調施設に光触媒が導入され,また,同様に水処理施設や家庭 用浄水器にも導入される可能性が高い。 

【光センシング機器及び光測定器】 

光センシング機器では,光関連機器を用いて大気や水質の汚染状態を計測する。光関連機器が用いら