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第 3 章  光技術トピックス

3.3.  環境・エネルギー・生命分野

3.3.3.  太陽光発電の将来展望

―21 世紀のクリーンエネルギー大国をめざして― 

 

(1) 太陽光発電の意義と技術現状―我が国は世界のトップランナー― 

(a) 21 世紀型エネルギーセキュリティー 

  21 世紀に向かって益々進歩する情報通信,交通,産業,そしてITなど,日々の文明生活に必需の電気エネ ルギーを,自然環境を汚さずに発電できる新技術“太陽光発電”が,この 10 年いろいろな分野で実用化が進 み,身近な技術となってきた。現在のところこの技術は電力需要の多い昼間の時間帯に発電できるため,い わゆるピークセービング用電力としての期待も大きく,燃料となる一次エネルギーが太陽であることから,

無尽蔵で,化石エネルギーのように枯渇することもない。また,これまで問題とされてきた発電コストも,

今後量産化による太陽電池セルの大幅な低コスト化によって,2010 年代には水力発電,2020 年には重油火力 発電の発電コストと平準化される見通しも明らかとされ1),技術立国にその将来の命運をかけるわが国の輸 出産業の一翼として加担できそうである。しかし,何と言っても環境負荷ゼロという,地球温暖化防止への 貢献度の最も高いクリーンエネルギーとして,今や全世界から,その導入と普及促進に大きな期待がかけら れている。 

 

(b)太陽電池の変換効率はここまで延びた 

  太陽電池セルならびにモジュールの高効率化技術の達成は,低コスト化に直接結びつくことから,研究開 発プロジェクトの最重要課題とされ,全世界の研究機関で新素材,セルの接合構成ならびに無反射コーティ ングから電極設計に至る広い関連分野で心血を注いできた課題である。その詳細は他の文献に譲るとして 2003 年度現在における各種太陽電池の世界のトップデータのみを紹介すると,1997 年以来のニューサンシャ

イン計画フェーズ 2(NSS2)の成果により,まず研究開発分野では単結晶シリコン小面積で 21.3%の三洋HIT セルをはじめとして 20%近くの量産化セル効率が出され,他方,多結晶シリコンでは,表面が黒く見える京 セラのdʼ(ダーク)ブルーセルが同種のセルと比較して 11%効率改善されて,17.2%のセル効率が発表さ れた2)。また,使用するSiの量が 500 分の 1,活性層の厚さが 0.6 ミクロンですむ省資源・省エネ型として 注目されているアモルファス(a-Si)太陽電池では,同じくモジュール効率にして 9〜11%のものが市販さ れるまでになった2)。 

  さて今一つ,高効率低コスト薄膜太陽電池開発の一環として,1981 年にわが国で誕生したタンデム型太陽 電池がある3)。これは 2 種類あるいは 3 種類の半導体を用いて,その感度スペクトル領域を広く取ることに よって変換効率を高めるものである。このセルの接合構成は,2〜5μm程度のナノクリスタルシリコン(nc-Si)

薄膜を成長させ,nc-Siでp-i-nボトムセルを形成して,これにa-Siのトップセルを組み合わせ,プラズマCVD 一貫システムにより,低コスト超薄膜高効率太陽電池を製造したもので,最適設計理論に基づく計算機シミ ュレーションの結果,実現可能変換効率は 18.4%まで出るとされている。一方,実験分野での世界記録は,

カネカソーラー㈱のR&Dレベルでは 14.7%で報告されている。一方,モジュールについては,カネカソーラ ー㈱およびキャノン㈱では,すでにこのタンデム型太陽電池の連続自動化製造が始まっている。例えば,カ ネカソーラー㈱が初期効率で 13.2%(91×45.5cm2), キャノン㈱が 13.37%(801.6cm2)また三菱重工が 11.2%

(2000 cm2)というデータが 2003 国際会議で発表されいずれも世界一という評価を受けている2)。   

(c)世界生産の半分を製造している日本の太陽電池 

  ここ数年,わが国の経済が低迷する中で,太陽光発電の分野は,太陽電池モジュールの生産量をはじめ,

システム設置件数などあらゆる産業指標は急速な右上がりカーブを示し,順調な普及促進が進みつつある。

図 1 に示すようにわが国の 2002 年度の太陽電池モジュールの出荷実績は 270MWとなり4),この数字は全世界 の生産量 520MWの 50%をやや上回る値である。そして,その 1/2 つまり全世界の 1/4 をシャープが製造して いる。これらを生産額として見直すと,2002 年でモジュール出荷量 1,300 億円の実績に対して,2003 年度に は 1600 億円を超すとみられている。これらの数字は太陽電池モジュールのみに関するもので,これを太陽光 発電システムとしてインバータなどの周辺機器(BOS:Balance of Systemコスト)ならびにその建設費を含 めると,モジュール生産額のほぼ 1.5 倍と考えられ,太陽光発電産業もいよいよ年商 2,400 億円規模の産業 となる兆しが見えてきた。 

       

       

日本:270MW

米国:112.90MW

欧州:112.05MW その他:40.70MW 46.5 55.3 57.9 60.1 69.4 79.6 88.6

125.8153.2 207.3

287.65 390.54

合計:520.15MW

0 100 200 300 400 500 0

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年

60

日本 米国 欧州 その他 合計

日本:270MW

米国:112.90MW

欧州:112.05MW その他:40.70MW 46.5 55.3 57.9 60.1 69.4 79.6 88.6

125.8153.2 207.3

287.65 390.54

合計:520.15MW

0 100 200 300 400 500 0

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年

60

日本 米国 欧州 その他 合計

図 1 全世界の太陽光発電の生産量の年次推移(文献 4 より)

(2) 太陽光発電の将来展望 

(a)太陽電池セル・モジュールの性能指数ならびに生産量のマイルストーン 

  1994 年 12 月,通産省資源エネルギー庁が設置した総合エネルギー調査会の活動調査報告に基づいて, 新 エネルギー導入大綱 が公布され,2010 年までに太陽光発電の累積導入量 482 万 kW とする目標値が掲げら れた。さらにこのマイルストーン達成に向けた具体的な政策として「新エネルギー利用などの促進に関する 特別措置法案」が 1997 年 4 月 10 日の国会を通過した。その結果,電気用品取締法の一部規制緩和とか売電 制度導入の実施など,太陽光発電システムの普及に対するそれまでの障害が取り除かれ,加えて「個人住宅 用モニター制度」や「NEDO フィールドテスト事業」などの助成制度の制定によって,ここ数年飛躍的に需要 が喚起され,図 1 で示した通り 1998 年以降わが国が世界一のモジュール生産国となる素地が築かれたのであ る。こうした実績を踏まえて,太陽光発電技術研究組合(PVTEC)では 2001 年 11 月に「PV 産業ビジョン研 究委員会」を発足させ,戦略企画,技術開発,市場開拓等に関する検討が重ねられてきた。表 1 はその研究 成果の中から太陽電池モジュールならびにシステム技術の性能指数を 2010 年の近未来ならびに 2020 年に分 けてまとめて示したものである1)。 

表 1 に示す通り 2000 年当時の各メーカーでの量産化が年産 20MW 規模であったのが 2003 年現在で 50MW,

これが 2010 年には各メーカーとも 100MW 程度となり,モジュールコストにして 100 円/W さらに 2020 年には 75 円/W 程度となる見込みはまず妥当な成長規模と思う。この中で,バルク系 Si については Si 原材料の確保 に課題が残るがソーラーグレード(SOG)Si の量産プロジェクトが進みつつあること,ならびに Si 使用量が バルクに比べて 1/500とされているアモルファスならびにナノクリスタル系 Siの実用化が本格的な実用期を 迎えることから深刻な問題にはならないと考えられる。また,バルク系変換効率については2003 年の WCPEC‑3 で三洋の HIT セルが R&D フェースながら 21.3%が発表され,モジュール効率も 19%を超していることからス ライス基板で 17%はクリアしやすい数字と思う。一方,薄膜 Si 系についても前述したようにタンデム型で は現在 90cm 角でトップデータとして初期効率 13.2%がすでに発表されている事実から 2010 年で 13%,2020 年で 15%程度は,まず妥当な目標である。 

                     

  一方,システム価格については,今後インバータの量産化ならびにモジュールサイズと付設法の標準化等 によって BOS コストは大幅な低コスト化が期待できる。中でも,3〜5kW の住宅用システムに比べて,20〜

100kW 程度の産業用システムの需要が延びるとともにkW 当たりのシステム価格は格段と低コスト化が進み,

発電単価は現在の電力料金 25 円/kWh と比較しても大幅に安くなり 2010 年で 15.5 円,2020 年 11 円程度と 表 1  モジュールの性能指数・コスト等のマイルストーン(文献 1 より) 

2000年 2010年頃 〜2020年

300円/W 100円/W 75円/W

20MW/年 100MW/年 〜250MW/年

Si基板厚さ 250〜350μm 150〜200μm ≒50μm

①極薄型スライス基板:17%

②スライスレス基板  :15%

薄膜Si系 Si基板厚さ 1μm 4μm(タンデム) 7μm(タンデム)

モジュール効率 10% 13%以上 15%以上

873円/W 300円/W 230円/W

モジュール 590 170 130

インバータ 100 40 30

付帯設備 67 30 20

取付工事 117 60 50

55.8円/kWh 19.2円/kWh 14.7円/kWh

1,033円/W 243円/W 178円/W

モジュール 502 145 110

BOSコスト 392 75 47

その他工事 80 13 11

事務管理費 59 10 10

66.1円/kWh 15.5円/kWh 11.4円/kWh 実用化の時期

モジュールの目標コスト 1 プラントの生産規模

超薄型Si基板:20%

14%

モジュール効率 バルクSi

PVシステム価格

PVシステム価格

発電単価 発電単価

になるとされている。この時機にさしかかると太陽電池産業にも暴発的な需要の延びが期待できそうである。 

 

(b)マーケット拡大への追い風と拡がる応用分野 

  1973 年 10 月の第一次オイルショック以来,石油代替エネルギーの確保の一環としてスタートした地上用 太陽光発電は,1987 年以後地球環境問題への世界的な取り組みを第 2 の追い風として サンシャイン計画の 目玉プロジェクト とされて大きな弾みがつけられた。ところが 2000 年に入って IT 化社会の進歩に伴って 分散型電源としての太陽光発電に第 3 の追い風が吹き出そうとしている。最近の統計によると,社会の高度 情報化が進むにつれて,世界各国の 1 次エネルギーに占める電気エネルギーの割合は急速に伸びつつある。

例えば,2001 年の冬期に,米国カリフォルニアで大規模な停電事故が相次いだ。そして,その原因は IT 化 の浸透による急激な電力需要とこれをどの電力会社から買うかという電力自由化ネットワーク検索の混雑発 生によるとされている。米国電力中央研究所(EPRI)の予測によると,2010 年の米国では,それまでの 10 年に日本の電力設備容量の 1.2 倍にあたる 2.8 億kW の発電設備の増設が必要とされている。現代文明にお ける IT 化の浸透と電力需要の急増は,電力網の未発達な開発途上国では更に深刻なものである。この種の 需要を含めて,分散型電源であることから送配電ロスがなく,しかも直流で発電する太陽光発電の潜在需要 は莫大なものと考えられる。 

  太陽光発電を取り巻くこうした追い風とともに,2010 年の半ばには,薄膜化,ナノメーター加工などの近 未来のテクノロジーの進歩と相まって,今後,ユーザースメリットを考慮したデザイン性の優れたシステム 開発,また,小型としてはウェアラブル太陽電池の出現で健康管理からウェアラブルオーディオ,ビジュア ル機器,一方超大型としては数十万kW 級水力発電/光発電ハイブリッドプラント,100 万kW 級原子力/太 陽光発電ハイブリッド発電所の建設も可能となり,地球全体が環境汚染から開放されるのも夢ではないと考 えられる。 

  以上は現在市場に出ている Si をベースとした太陽電池をめぐる要素技術を中心に述べてきたが,太陽電池 材料としては CIS(Cupper‑Indium‑Selenide)系とか直径 1mm のボール型太陽電池等,新型太陽電池の R&D が進んでいる。これらを含めて,本協会光テクノロジーロードマップ策定委員会 5)で検討された概念図 5)

を基にまとめた今後の展開を図 2 にまとめた。 

                       

図 2  太陽光発電の要素技術ならびに応用分野の発展の将来ビジョンとそのロードマップ 

要素技術 応用分野

モジュール

セル システム

民生

産業 交通 建設

超高効率型 超低コスト型 バッテリー一体型

超軽量型

両面発電型 インバーター一体型 フレキシブル型

大面積軽量型 集光型

採光型 平板型 大面積型 建材一体型

集光型システム 系統連系型システム

独立型システム 人工衛星 照明・標識 独立電源 産業施設 村落電化

公共施設用

2000年 2010年 2020年

オフィスビル 住宅用 結晶Si アモルファスSi

リボンSi CIS 微結晶Si

Ⅲ-Ⅴ族

球状型 色素増感型

有機材料型

新構造型 超多層型

新機能複合型 CIGS型

タンデム型 携帯用電源

ソーラー マンション

ゼロエネルギー工場 移動体用

医療・介護用 情報通信用

家電情報用

農林水産業用

ソーラー ハイブリッドカー

ソーラーチャージ ステーション

海上交通用 ソーラーボート 道路・鉄道

ソーラー 弱冷房電車

ACモジュール システム 地域一体型 連系型システム 集中連系型

システム バッテリー付 連系型システム

モバイル用 電源 システム

宇宙発電システム 超高集光システム

マイクロ発電 システム 砂漠化防止用

宇宙タウン

宇宙発電所

SSPS)

砂漠緑化用

超大規模発電 システム