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第 5 章 キャッシュフロー計算書で経営 79

5.5 資金運用表と間接法によるキャッシュフロー計算書

5.5.1 資金運用表

実在勘定フローは、貸借対照表の差分からも計算可能であるが、我々の場合にはフロー試算表を 作成しているのでそれを利用しよう。フロー試算表の実在勘定部分の最後には利益準備金や利益剰 余金という形で、税金や配当金が控除された最終の当期利益が現われている。しかし、資金運用表 では、これを企業経営者の努力結果が直接見える税引前利益に差し替えることになっている。こ れを行うには、フロー試算表の名目勘定部分から税引以後の項(決算コスト(settlement cost)とい う)を持ってきて組み合わせればよい。この意味で実在勘定フローと名目勘定フローを分離したフ ロー試算表の名目勘定部分を税引のところで切離し、再アレンジしたものを表5.14に示す。

実在フロー試算表(税引以後を補正)

!法人税等 436 !税引前利益 1090

!支払配当金 100

!*利益準備金積立 115 !*利益準備金取崩  30

1390 !*利益剰余金積立 739 !*利益剰余金取崩 270 1390

現金 270 買掛金 105

預金 480 未払金 50

売掛金 -85 未払法人税等 306

商品 125 未払配当金 0

有価証券 25 役員賞与引当金 10

備品 160 借入金 -50

*利益準備金 85

975 *利益剰余金 469 975

名目フロー試算表(税引前)

!売上原価 1550 !売上 3100

!給料 420

!役員賞与引当金繰入 10

!支払利息 20 !受取利息 30

!減価償却費 40

3130 !*税引前利益 1090 3130

図 5.14: 税引後調整をした実在/名目フロー試算表

まず非資金損益(non-cashe P/L)の調整を行う。この表の前半で、資産運用表に必要な材料は 揃ったのであるが、これをまとめる際、!税引前利益の中には!減価償却、!引当金(この例の場合に はないが)、!利益準備金積立(取崩)、!利益剰余金積立(取崩)といった、いかなる場合もキャッシュ フローと関わらない非キャッシュ損益の影響が入っている。!減価償却などの費用科目は、引き過ぎ なので、右貸方に置いて加算的に調整しなければならないし、!引当金などの収益科目は入り過ぎ なので、左借方の置いて減算的に調整しなければならない。本来の場所と反対に置くので、元項の 平衡項を置くことになる。このため、まず前半の表に元項と平衡項の対を置き、平衡項だけを利用 する。残った元項は、関連する実在勘定と組にして、非資金損益表(仮称)に移動する。準備金や 剰余金関係は、まとめてそのまま移動する。

続いて、非キャッシュ実在勘定の調整を行う。一口で言えば、非キャッシュ実在勘定の仕訳があ ると、キャッシュフローと利益にずれが出てくるので、利益からキャッシュフローを求める際には、

その分の修正が必要になるということである。同じ名称の名目勘定にキャッシュの仕訳と非キャッ シュの仕訳が混ざるケースを考えよう。例えば、!売上という名目勘定には現金売上と掛売が混ざっ ている。この場合、キャッシュフローを求めるには、!利益から!売上の掛売分を削除し、利益から売 掛金増を除く必要がある。また、売掛金を決済する場合は、キャッシュが減少するのに利益は変化 しないので、売掛金減に対応して、利益を増加する必要がある。いずれにせよ、キャッシュフロー を得るには、売掛金フローを利益から控除しなればならない。

参考: 運転資本

経営者にとって、特に危険なのは、非キャッシュの流動資産である。前述のように、

キャッシュはなくても、見掛け、利益があることになるので、利益のみを監視している と危険になるのに加え、流動であるので、忘れやすいことから、特に要注意である。逆 に買掛金のような発生勘定負債があると、利益はなくてもキャッシュはあるので、黒字 倒産は免れ得る。そこでここに述べた流動系の発生勘定資産-発生勘定負債を、特に運

転資本(working capital)と呼び、これに対応するキャッシュを確保するように経営を

行う必要がある。運転資本と呼ぶのは運転時に発生する資産-負債であるからであるが、

取引と決済の時間差をつなぐ繋ぎに必要な資本という意味である。

これらの結果を資金運用表にまとめるのであるが、これも資金循環の概念に沿って行う。先に資 金循環をキャッシュフローに着目して説明したが、これを利益の立場で説明しよう。

1. 純資産・負債増や、固定資産売却により資金調達(fund-raise)をする。

2. まず、事業を行うための投資や負債等の返済を行う。つまり純資産・負債減、固定資産購入 により、資本的支出(capital-payment)を行う。これらは前項と合せることにより、正味の純 資産・負債、固定資産のフローが計算できる。また固定資産フローについては、減価償却分 の増加、もしくは備品を除外するなどの補正が必要である。

3. これに営業活動によるキャッシュフローを加える。これは、税引前利益から決算コスト

(set-tlement cost)を引き、さらに減価償却相当の固定資産フローと運転資本フローを控除する。

この結果は、利益として純資産増になるので、通常、運転資本フロー以外は資金調達と一体 にする。

4. 残金が当期のキャッシュフローの総額であり、これを前期のキャッシュ繰越に加えると次期の キャッシュ繰越が得られる。

この立場から、まず資金調達とその平衡残高を、次に固定資産とその平衡残高をまとめる。第三 に、流動性かつ発生主義に基づく資産と負債の差である運転資本などのリストと平衡残高を求め る。最後に、資金調達の平衡残高から資本的支出と運転資本フローを引くとキャッシュフローにな るはずである。剰余金関連は最後にまとめる。こうして得た資金運用表を表5.15に示す。

資金運用表

!支払配当金 100 !税引前利益 1090

!法人税等 436 !*減価償却 40

1080 *資金調達 544 借入金(長期) -50 1080

有価証券 25

225 備品 200 *資本的支出 225 225

売掛金 -85 買掛金 105

商品 125 未払金 50

未払法人税等 306

未払配当金 0

役員賞与引当金 10

40 *運転資本 -431 40

資本的支出 225 資金調達 544 運転資本 -431

現金 270

544 預金 480 544

非資金損益表 備品   -40

0 !減価償却 40 0

!*利益準備金取崩 30

115 !*利益準備金積立 115 *利益準備金 85 115

!*利益剰余金取崩 270

739 !*利益剰余金積立 739 *利益剰余金 469 739

名目フロー試算表(税引前)

!売上原価 1550 !売上 3100

!給料 420

!役員賞与引当金繰入 10

!減価償却費 40

!支払利息 20 !受取利息 30

3130 !*税引前利益 1090 3130

図 5.15: 資金運用表

なお、実務的には、これにキャッシュの繰越計算を加えるが、本表では省略した。また、余った 税引前の名目フロー試算表を最後へまとめた。さらに、利益準備金や利益剰余金の利益繰越作業 は、前述のように、最後にまとめた。