第 9 章 連結決算 139
11.3 不動産事業主の例
11.3.1 仕訳帳
事業として、不動産(real estate)の貸与をしている場合を考えよう。この場合、発生主義の一つ である不動産資産の減価償却という概念を取り入れる必要がある。また、ローンの支払のために、
費用が収益を上回り、損失になっている場合を考える。
建物は年々資産価値が下っていくが、これを減価償却(depreciation)という。通常は「何年かで原 価の10%まで価値が下る」という、「定額法」による減価償却を仮定する。建物の場合、耐用年数 は60年と定められている。取得価格9000万円の場合の年間の減価償却費(depreciation expenses) は次のようになる。
9000×0.9/60 = 135 (11.1)
このことも考慮し、仕訳帳は次表のようになっているとする。
摘要 仕訳帳
家賃(70x12) 現金 840 !賃貸料 840
敷金収入 現金 140 敷金 140
権利金収入 現金 70 !礼金権利金 70 土地借入金 現金 12000 借入金 12000 土地借入金返済 借入金 800 現金 800 土地借入金利息 !費用 240 現金 240 建物購入 建物 9000 現金 9000
建物償却 !減価償却費 135 減価償却累計 135
固定資産税他 !費用 27 現金 27
火災保険料 !費用 5 現金 5
管理費支出 !費用 72 現金 72
雑費 !費用 26 現金 26
建物借入金利息 !費用 720 現金 720
図 11.1: 不動産事業主の仕訳帳
11.3.2 財務諸表
総勘定元帳は省略し、いきなり仮決算による残高試算表を作成しよう。
残高試算表
現金 2232 借入金 11200 建物 9000 敷金 140 減価償却累計 -135
!減価償却費 135 !収益 982
12322 !費用 1090 12322
図11.2: 不動産事業主の残高試算表
これから次の貸借対照表と損益計算書を作る。
貸借対照表
(資産) (負債)
現金 2232 借入金 11200
建物 9000 敷金 140 減価償却累計 -135 (純資産)
11097 *当期利益 -243 11097
!損益計算書
!費用 1090 !収益 982
!減価償却費 135
982 !*当期利益 -243 982
図 11.3: 不動産事業主の 貸借対照表と損益計算書
11.3.3 事業税
当期利益に対し、事業所得(business income)が計算され、それに対して、所得税(income tax) がかけられる。この例の場合、所得は負であるが、負の所得に対しては、これに借入金利息を加え たものを、事業所得として記載しなければならないことになっている。
事業所得=当期利益(負) +借入金利息(土地) =−243 + 240 =−3 (11.2) 別途給与所得のある場合には、確定申告時にこれらを合算して、課税対象額を計算する。
総所得額=控除後給与所得+事業所得= 5655−3 = 5652 (11.3)
課税対象額=総所得額−各種控除= 5652−2082 = 3570 (11.4)
第 12 章 独立行政法人・国立大学法人会計
著者は国立大学に所属しているので、国立大学法人およびそれに先行する独立行政法人の財務諸 表に関心が高い。もともと、複式簿記に興味を持った動機の一つでもあるので、本章を記すことと した。しかし、大部分の読者にとっては関心のないことであろうから、読み飛ばしてもらって差し 支えない。
独立行政法人の財務諸表を見掛けるようになった。また国立大学法人の会計方針も固まった。し かし、それらは企業会計法を取り入れたことになっているが、大変読みづらい。最大の理由は、国 の会計基準との整合性をとったからである。何となく、何の法人化かと疑いたくなるような国ある いは財務省の方針を感じる。
12.1 国の会計基準との整合性
独立行政法人会計と国立大学法人会計には共通点が多いので、特に区別を要しない多くの場合に は、まとめて法人会計と呼ぶこととする。
国の歳入歳出については、いくつかの規則がある。そのうちで法人会計と関連するものを挙げて おこう。
1. 国の目的に叶った支出額しか支出できない。
2. 年度をまたがる経理は許されない。
3. 減価償却の概念がない。
4. 引当金の概念、特に退職金引当金の概念がない。
一方で、法人側は、企業的な利益的概念を取り入れようとしているので、次のように取り扱い たい。
1. 国からの補助金は、年度当初に運営費交付金の形で、一括に収益として受領し、法人の目的 に叶う限り、自由に支出できる。
2. 年度をまたがる経理を行なう。
3. 減価償却の概念を入れ、利益の平準化を企る。
4. 引当金の概念、特に退職金引当金の概念を入れる。
これらの矛盾を整合するために、次のような方針を採用したようである。しかし、筆者の不勉強 のため、以下の方針の論理的根拠は不明である。
1. 運営費交付金は、業務の達成が保証されない限り、無条件には交付しないもとする。そこで、
何らかの条件が達成されないうちは、負債とし、条件が充足されて初めて収益化できること
とする。そこで運営費交付金の最大額は、年度初めに負債の形で担保され、年度末に条件が 達成された分だけを、法人の正式の収益とする。
2. 運営費交付金の収益化は、本来ならば成果進行基準、つまり法人の業務達成状況に応じて行 なうようにすべきであるが、成果の評価に時間がかかることなどから、独立行政法人では、
費用進行基準、つまり使った費用相当額までを収益化できる。棚卸のように、年度末での一 括収益化も可能である。収益化については最終的には、成果との関連が要求される。年度末 に残がある場合は、積立金とする。
3. 国立大学法人の運営費交付金の収益化も、独立行政法人とほぼ同様に負債からスタートする が、期間進行基準、つまり、年度末になると、すべてを収益化できる。その他、施設費、授 業料収入、(使途特定)寄付金も同様に扱う。なお、委託研究収入は費用進行基準とする。附 属病院収入については、入金時から収益化できる。
4. 中間目標達成の年度に、これらから派生した積立金のうち、所轄大臣の認可した部分は次期 中期目標期間に繰越積立金とできるが、認可されなかった部分は国庫納付金として返済する こととなる。
5. 国から移管を受けたり、運営費交付金で購入した資産のうち、減価償却の可能性のあるもの は、国からの流動負債とする。運営費交付金のように、減価償却があると、通常の仕訳以外 に、この流動負債を減ずる。
6. 運営費交付金で人件費を支払う場合には、退職金の原資は運営費交付金に含まれているので、
引当金という概念はない。ただし、運営費交付金以外の収益による人件費、あるいはあらか じめ中期目標において、引当金を法人側が支払うとした人件費については退職金引当金を費 用として計上する。その他の引当金については、通常の企業会計と同じである。
独立行政法人の財務諸表とは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書(多くは直接 法)に加え、行政サービス実施コスト計算書からなる。キャッシュフロー計算書については、今まで 述べたことと大きな違いはないので、説明を省略する。また、退職金引当金については、これを設 定するかしないかの基準があるだけなので、必要なところで言及するに止め、特に節は設けない。
また、官庁向けに、従来通りの収支決算報告書が要求される。これは、複式簿記の読めない官僚 のためであろうが、単なる経理作業の増大となるので、早急に整理して欲しいものである。