第 3 章 お金の移動と取引のタイミングずれを処理する発生主義会計 40
3.2 商品の価格は変動する (棚卸)
今まで、仕入れた商品の価値は無視して説明をしてきた。本来、商品、製品、半製品など取引の 対象、あるいは将来の取引の対象となる棚卸資産(inventory assets)には価値があるはずである。
現金主義で考えると、仕入れた時点で費用を払い、現金がその分減少するだけで終わりである。し かし、これを売上げるまで、資産価値を持たせるというのは、現金で先払をして、売上時点で取引 が発生したと扱う仮払費用と同じ概念である。
さらに、棚卸資産の価値は変動するし、また紛失などもあり得る。つまり、売上という取引発生 に備えて、なるべく売上時点での価格に近い値になるよう、普段から小まめに!収益や!損失で受 けて、棚卸資産価値を修正するのである。この修正も、修正時点と売上時点の二箇所で仕訳するの で、発生主義の概念であることが理解できる。
まず前章の仕訳帳に示した例で、商品の出入りにかかわる部分だけを抜き出すと、表3.9のよう になる。ここでは、棚卸計算に必要な単価と個数も示す。さらに、期末の棚卸時に、この商品の個 数を調べたら、1個紛失しており、期末在庫は1個であったとしている。
日付 摘要 個数@単価 仕訳帳(抜粋) 在庫数
1/9 現金仕入 60@10 !仕入 600 現金 600 60
1/11 現金売上 -60@12 現金 720 !売上 720 0
1/12 現金仕入 60@10 !仕入 600 現金 600 60
1/13 掛買仕入 140@9 !仕入 1260 買掛金 1260 200
1/19 掛売売上 -196@12 売掛金 2352 !売上 2352 4
1/31 商品紛失 -2@9 2
図3.9: 商品にかかわる仕訳帳の抜粋
商品価値の決定の際、面倒なのは、商品の単価が変動していくことである。したがって、いつの 時点の単価で商品価値を評価するのかで、その値は大きく変わりうる。つまり、ある程度の主観が 入りうるのである。このため、比較的永い間使われてきたいくつかの手法をその場限りでなく継続 的に使用することで、客観的な評価を確立することが可能である。
棚卸資産価値=棚卸単価 × 在庫数
単価の決定法にはいくつかの手法があるが、各商品を購入した時点の単価がそれぞれの商品の価 値であると考えるのが論理的には一番わかりやすい。この手法は個別法と呼ばれるものであるが、
同じ商品でも購入時期に応じて単価が変わっていくので、各個別商品ごとに購入単価を明示してお かなければならない。それは大変な労力であろう。また客がこの価格を見ると、販売価格は同じな のに、商品ごとに仕入価格が異なる事態も発生し、極めて妙な具合となる。できれば同じ商品は同 じ商品価値を持たせたいというのが、常識的な判断であろう。このため、色々な単価決定法が考え られてきた。
まず、もっともよく用いられている最終仕入原価法(final buying price method)を用いて棚卸資 産の考え方を紹介しよう。これは売上時とか紛失時といった場合に、一番近い最後の仕入額を商品 価値の単価とするもので、特に事前申告しない場合には、この方法で計算することになっている。
最終仕入原価法では、商品の資産価値は、その時の在庫数に、その直前の仕入時の単価を掛け て得られるが、念のために、各時点での商品の数量(number)と単価(unit price)を表3.10に示し ておこう。こうした商品の出入りの状況や購入数量、単価などを示した表を商品在高帳(inventory
table)と言う。なお、売上時の単価は売上単価と合わないが、その差は利益となる。
商品在高帳
日付 摘要 受入 払出 残高
数量 単価 金額 数量 単価 金額 数量 単価 金額
1/9 現金仕入 60 10 600 60 10 600
1/11 現金売上 60 10 600 0 10 0
1/12 現金仕入 60 10 600 60 10 600
1/13 掛買仕入 60 9 540 60 10 600 在庫再評価
140 9 1260 200 9 1800
1/19 掛売売上 196 9 1764 4 9 36
1/31 商品紛失 2 9 18 2 9 18
1/31 期末平衡残高 2 9 18 0 9 0
図3.10: 最終仕入原価法による棚卸総額
13日の仕入の際、従来と単価が変ったため、表の上では若干ややこしいことをしている。つまり、
それまでの在庫をいったんキャンセルし、13日の購入単価で再評価している。続いて13日の仕入 商品を追加している。つまり、この時点で、過去の商品も新規商品も合せて、新規商品の最終仕入 の単価で計算し直しているのである。なお、この表によると13日の商品資産の増額は1800−600 となり、明らかに、13日の仕入価格である9×140 = 1260とは一致しない。つまり、個別法とは 異なり、何らかの割切りをして単価を決めていることが歴然である。
これをどのように仕訳するのかを考えよう。まず、一番考えやすいのは、棚卸資産を純粋に通常 の資産と同等に扱う方法である。例えば、現金仕入の際には、現金の減少に対し左借方を!仕入と しないで、実在勘定の棚卸資産の増加があったとするという考え方である。この取り扱いでは、単 価が変化したときには、!評価益(損)が発生したとする。さらに、売上の際には、その際の棚卸資 産価値を基準にして、!売上益が発生したとする。
しかし、この方式には営業の重要な指標である仕入高と売上高が明示されないという欠点があ る。もちろん、!売上益とは、ほぼ!売上−!仕入 になっているが、!売上と!仕入を損益計算書上で明 示的に記載したいという要求は無視できない。そこで、従来通り現金仕入時には現金の減少と同額
の !仕入が対応させる。それに加えて、同額の棚卸資産の増加が発生するようにする。しかし、そ
れだけでは平衡がとれないので、反対側に同額の !棚卸資産増なる名目勘定科目を置く。単価の改 訂の際もこの名目勘定で処理する。
こうして作成した仕訳表を表3.11に示す。
1/9 現金仕入 !仕入 600 現金 600
商品 600 !棚卸資産増 600
1/11 現金売上 現金 720 !売上 720
!棚卸資産増 600 商品 600
1/12 現金仕入 !仕入 600 現金 600
商品 600 !棚卸資産増 600
1/13 掛買仕入 !棚卸資産増 600 商品 600 在庫再評価
商品 540 !棚卸資産増 540 在庫再評価
!仕入 1260 買掛金 1260
商品 1260 !棚卸資産増 1260
1/19 掛売売上 売掛金 2352 !売上 2352
!棚卸資産増 1764 商品 1764
1/31 商品紛失 !棚卸資産増 18 商品 18
図 3.11: 棚卸資産に関する仕訳
さてここで、商品と!棚卸資産増がいつも連動して記載されていることに気付いて欲しい。そこ で、これらの行だけを当期についてまとめると、表3.12のようになる。なお、決算時に、!棚卸資 産増 が左借方に表われたときには、これを!棚卸資産増(減)と記載することにする。
1/31 棚卸 商品 18 !棚卸資産増 18
図3.12: 棚卸資産と!棚卸資産増 のまとめ
この値は、先に示した表3.9の最後の行の棚卸資産の残高18となる。商品の方は毎回の商品の 出入りを、そのときの価値に基づいて計算しているので、結局、当期における商品のフローの合計 は決算時における単価で在庫を計算した結果になる。また商品と!棚卸資産増が連動していること から、商品と !棚卸資産増も平衡する。
このことから、この計算は決算時にまとめて行えることが推定できる。さらに、商品の在庫を日々 確認するのは大変であるので、そのことも含め、期中に細く計算することはせず、月末や四半期末 や期末にだけ行うのが通常である。この在庫の確認と棚卸資産の評価の作業を棚卸(stocktaking)と 呼ぶ。上記の棚卸資産に関する仕訳表を月末に棚卸ししたとすると仕訳帳は表3.13のようになる。
1/9 現金仕入 !仕入 600 現金 600
1/11 現金売上 現金 720 !売上 720
1/12 現金仕入 !仕入 600 現金 600
1/13 掛買仕入 !仕入 1260 買掛金 1260
1/19 掛売売上 売掛金 2352 !売上 2352
1/31 棚卸 商品 18 !棚卸資産増 18
図 3.13: 棚卸はまとめて行える。表3.11をまとめたものと同じ
これが実務で行われる棚卸資産に関する仕訳の実態である。つまり、通常の仕訳に加え、最後に 棚卸仕訳を一行加えただけである。先に述べたように、棚卸は月末や四半期末に行うことが多い が、その場合には、そのときだけこのような行を入れることになる。
現実の会計では、!仕入と!棚卸資産増を、すべて!売上原価と記載することが多い。一般に仕入 れた棚卸資産は、売上と当期の !棚卸資産増に充てられる。したがって、当期の営業業績を!売上
原価と!売上との比較で行うことは十分意味がある。本章では、!仕入と!棚卸資産増を分離して記
載することとする。
!売上原価=!仕入- !棚卸資産増
棚卸総額を決定する単価の決め方は、ここに述べた最終仕入原価法も含め、以下のように沢山あ る。ただし、最終仕入原価法以外を使う場合には、あらかじめ届出が必要である。
最終仕入原価法(final buying price method): 最後に仕入れた単価を採用する。計算が簡単であ る。
棚卸単価=最後の仕入単価= 9 棚卸総額=棚卸単価×在庫数= 18
個別法(individual price method): 商品一品ごとに、仕入れた際の価格で評価する。正確である
が、商品ごとに個別に、単価あるいはIDを付ける必要があり、大変である。POS(point of
sales system)管理をしているところでは可能。
棚卸総額=∑
各仕入単価=∑
10 (or 9) = 18〜20
先入先出法(FIFO method): 個別法と同様に仕入れた際の価格で評価する。ただし、どの商品が いくらという個別法ほど厳格な取り扱いはせず、先に仕入れた商品を先に売上げたとして、
残存商品の総額を決め、それを数で除して単価を決定する。この方法で、個別法に比らべ、
扱いはかなり簡単になる。この場合の各時点での棚卸資産は表3.14のようになる。
商品在高帳
日付 摘要 受入 払出 残高
数量 単価 金額 数量 単価 金額 数量 単価 金額
1/9 現金仕入 60 10 600 60 10 600
1/11 現金売上 60 10 600 0 10 0
1/12 現金仕入 60 10 600 60 10 600
1/13 掛買仕入 140 9 1260 60 10 600
140 9 1260
1/19 掛売売上 60 10 600
136 9 1224 4 9 36
1/31 商品紛失 2 9 18 2 9 18
1/31 期末平衡残高 2 9 18 0 9 0
図3.14: 先入先出法による棚卸総額
12日までの単価10に対し、13日に新しく仕入れた商品の単価は9のままとしている。19日 の売上の際は、まず先に仕入れた単価10の商品を売り、次に単価9のものを売ったことに