第 5 章 キャッシュフロー計算書で経営 79
5.3 資金繰り表と直接法によるキャッシュフロー計算書
5.3.3 直接法によるキャッシュフロー計算書
資金繰り表と同じ作業を、会計期間全体に対して行えば、キャッシュフロー計算書になる。つま り、仕訳帳から、キャッシュ(cash)である現金と現金同等物と絡む仕訳のみを取り出し、それらを まとめて一つの表とする。このように、仕訳帳からキャッシュ分を分離することにより、キャッシュ フロー計算書を求める方法を、直接法(direct method)と呼ぶ。
資金繰り表と同様に、キャッシュと非キャッシュの分類作業だけを行えばよい。まず、元のフロー試 算表で、キャッシュと非キャッシュの実在勘定からなる仕訳を取り出し、これらを二行に分け、キャッ シュと非キャッシュの仕訳に分離する。仕訳帳全体からキャッシュの絡む行を取り出すとキャッシュ フロー計算書の素材が集まり、残りは非キャッシュフロー計算書(non-cashflow statement, NCFS) となる。
キャッシュ性の仕訳行に含まれる科目には「c」の符号を付け、非キャッシュ性の仕訳行に含ま れる科目には「n」の符号をつけ、「c」のついたものを集計してキャッシュフロー試算表を作成し、
「n」のついたものを集計して非キャッシュフロー試算表とする。名目勘定については、例えば「!売 上」に見られるように、明かに同じ科目について「c」「n」が混在するため、この区別を残してお くと便利である。なお、実在勘定については現金または現金同等物のみに「c」がつき、その他は すべて「n」となるので、この符号は省略しても問題はない。
原理はこれだけあるが、損益計算書や貸借対照表でも、分類表記が行われたように、要因となる 名目勘定を分類して表示する。通常、キャッシュフロー計算書では、次の順番で三つに分類される。
第一のグループ営業活動によるC/F(C/F provided by operations, CFO)には、まず営業収支、
続いて、いったん仕切った後に営業外収支を記載する。
第二のグループ投資活動によるC/F(C/F used in investment activities, CFI)には、固定資産 関連の収支を記載する。
第三のグループ財務活動によるC/F(C/F used in financing, CFF)には、負債や純資産に関す る収支を記載する。
資金繰り表からさらに順番が入れ替わっており、営業活動による収支が第一のグループであり、
資金調達と資本的支出をまとめて、固定資産関連を第二へ、負債と純資産関連を第三へ分類してい る。何が営業活動による収支であるかは、やや判然としないが、第二、第三に分類されない収支は すべて第一へ分類するというのが基本である。
ただし、細い解釈の差がある。まず法人税等は営業収支に含めることが多いが、ここでは小計以 後の営業外収支に入れる。有価証券や貸付金に関する収支は、投資であるという立場で、投資活動 とする。ただし、評価額の変化しないかつ換金が自由な金券のような有価証券はキャッシュとして 扱う。自己株式や自己社債に関する収支は、財務活動とする。
利息や配当金についてはやや面倒である。それは、分類法が二種類あり、いずれも法的に認めら れているからである。本書で採用する分類法は、自社の支払配当金だけを資本調達コストと考えて 財務活動とし、残りはすべて営業外活動として小計後に入れるものである。
もう一つの分類は、利息も配当金もすべて資金調達および資本的支出であると考え、受け取った ものは投資活動、支払ったものはすべて財務活動としようというものである。なお、この場合でも 子会社の受取配当金に関しては小計後に入れる。
この分類の結果、表5.7のようなキャッシュフロー計算書が完成する。( ) は本書で採用した分 類、[ ]はもう一つの分類法である。支出過剰となって値が負数になったときに、そのままの位置 に置く方法と、左右反対の位置に置く方法がある。なお、為替差益については、為替調整の章で説 明する。
キャッシュフロー計算書(直接法)
c!営業支出 c!営業収入
c!売上原価 c!売上
c!人件費
c!手形割引
平衡 c!*小計 平衡
c!小計
(c!支払利息) (c!受取利息)
c!特別損失 (c!他受取配当金)
c!法人税等 c!特別利益
平衡 c!*営業活動C/F (CFO) c!子会社株配当金 平衡
c!資産増への支出 c!資産減からの収入
c!固定的有価証券購入 c!固定的有価証券売却
c!固定資産増 c!固定資産減
c!投資有価証券 c!投資有価証券
c!子会社株式 c!子会社株式
c!貸付金設定 c!貸付金回収
[c!他受取配当金]
平衡 c!*投資活動C/F (CFI) [c!受取利息] 平衡
c!負債・純資産減への支出 c!負債・純資産増からの収入
c!借入金返済 c!借入金設定
c!社債償還 c!社債発行
c!減資 c!増資
c!支払配当金
[c!支払利息]
平衡 c!*財務活動C/F (CFF) 平衡
c!営業活動C/F (CFO) c!投資活動C/F (CFI) c!財務活動C/F (CFF)
平衡 現金・現金同等物の増加 c!為替差益 平衡 現金・現金同等物の増加
平衡 !次期繰越 !前期繰越 平衡
非キャッシュフロー計算書 (直接法)
図5.7: キャッシュフロー計算書(直接法)での分類
本章の例に示した仕訳帳をまとめ、この分類を実際に実施した結果、表5.8のようなキャッシュ フロー計算書が完成する。先にも述べたように、「c」はキャッシュ名目勘定、「n」は非キャッシュ名 目勘定を示す。また、実在勘定は現金、預金のみがキャッシュ、残りはすべて非キャッシュである。
なお、非キャッシュフロー計算書では、関連する名目勘定と実在勘定を組み合わせて並べること
とする。
キャッシュフロー計算書(直接法)
c!売上原価 1570 c!売上 3185
c!給料 420
c!雑費 50
3185 c!*小計 1145 3185
c!支払利息 20 c!小計 1145
c!法人税等 130 c!受取利息 30
1175 c!*営業活動C/F (CFO) 1025 1175
c!有価証券購入 25
125 c!備品購入 100 -c!*投資活動C/F (CFI) 125 125
c!借入金返済 50
150 c!支払配当金 100 -c!*財務活動C/F (CFF) 150 150
-c!投資活動C/F (CFI) 125 c!営業活動C/F (CFO) 1025 -c!財務活動C/F (CFF) 150
現金 270
1025 預金 480 1025
非キャッシュフロー計算書 (直接法)
n!売上原価 20
125 商品 125 買掛金 105 125
n!売上 85
0 売掛金 -85 0
n!雑費 50
n!減価償却費 40 n!備品購入 100
200 備品 160 未払金 50 200
306 n!法人税等 306 未払法人税等 306 306
25 有価証券 25 n!有価証券購入 25 25
n!借入金返済 50
0 借入金 -50 0
0 n!支払配当金 0 未払配当金 0 0
10 n!役員賞与引当金繰入 10 役員賞与引当金 10 10
n!*利益準備金積立 115 n!*利益準備金取崩 30
115 *利益準備金 85 115
n!*利益剰余金積立 739 n!*利益剰余金取崩 270
739 *利益剰余金 469 739
図 5.8: 直接法によるキャッシュ/非キャッシュフロー計算書