第 4 章 当事者団体による障害者運動 ———「一加一」と「瓷娃娃自立生活項目」を例
2.1 調査の概要
一加一は2006年に設立され、主に障害のある人によって構成されている自助グループ が運営する非営利のDPOである。一加一は障害者専門の独立系メディアとして、中国に おける障害のある人びとの自助グループ運営団体の発展と人権保障の改善に尽力してい る。
インタビュー調査の具体的な調査内容は、中国の障害者運動の発展をめぐり、権利条約 批准後の影響、今まで展開された活動の内容と課題、展開方法および将来の計画について である。また、団体のメンバーの意識を考察するために、この団体のメンバーである障害 当事者に対して、現在の生活の現状、自立に対する意識、福祉的な支援や自立生活を達成 するための条件、および現在の障害者福祉の水準についての考え方などに関して調査を 行うものである。
調査時期は2017年8月15日9時から12時および13時から17時まで、北京の一加一 の事務所において行った。2人の組織管理者と3人の団体のメンバーを対象にインタビュ ーを行った。また、一加一の最新の活動をフォローし、ブログや、ソーシャルメディアか らの言説などの資料も参考とする。聞き取り調査に参加した者の状況を表4.1に示した。
表4.1 対象者のプロフィール
年代 性別 障害種別 学歴 職位 A 30 男 視覚障害 大学 組織管理者 B 30 女 身体障害 大学 組織管理者 C 20 男 身体障害 大学 メンバー(IT部門)
D 30 女 身体障害 専門学校 メンバー(経理)
E 20 男 身体障害 専門学校 メンバー
また、面接に際して、研究参加者にはインタビューを拒否できる権利があることとプラ イバシーの保護についての説明を行い、調査内容は本研究以外に使用しないことを説明 し、同意を得たうえで、研究同意書にサインしてもらった。そして、記録にあたっては、
対象者が話しやすいようにインタビュー中はメモを取らず、許可を得て録音し、インタビ ュー終了後に録音した情報から内容を整理した。質問項目は以下の表4.2に示したが、対 象者の理解や関心の度合いによって十分に聞き取れないものもあった。
表4.2 「一加一」に対する調査項目
① 基本属性に関する質問
性別/年齢/障害種類/学歴/一加一に担当された仕事内容
② 障害者運動の展開方法
国際機関との連携状況/資金援助を提供してくれる所/政府に認められた過程/組織 を立ち上げた経緯
③ 今まで展開された活動の内容と難点
活動の内容/これからの方向性/地方DPOに対する支援状況/政府の支持状況
④ 障害者権利条約の影響
権利条約批准以前の運動/条約批准に影響されたこと/批准後の影響
⑤ 知的障害、精神障害、重度障害の権利や自立についての考え方 彼らの自立生活についての考え方
⑥ 障害者連合会との関わり 共通の内容/関わっている状況
⑦ 政策制定の参加について
政策制定の場面での位置づけ/政策制定についての考え方
⑧ 自立生活意識について 生活状況/自立の意識
2.2 「一加一」からの障害者運動の展開
以下、一加一への聞き取り調査に加えて、一加一による発行物、報告資料、ソーシャル アカウント等からの資料を閲覧し、それを元に一加一の活動の展開と戦略について記述 する。
2.2.1 「一加一」の創設 2.2.1.1 組織名「1+1」の意味
一加一は中国において数少ない一定の規模を有するDPOであり、一加一(1+1)の名称
自体がこの団体が望んでいるものを表している。
「一加一(1+1)は2より大きいか、小さいか、それとも等しいかは、私たち障害者が 望んでいる世界を意味している。「一加一(1+1)は2より小さい」とは、障害者と健常 者を隔てる距離を縮めたいことを意味し、「一加一(1+1)は2である」とは、一人一人
は偽りがなく、ありのままの存在であることを望むものだ。そして、「一加一(1+1)は 2より大きい」とは、団結の力を意味する。最も強調したい点は、「一加一(1+1)は1 である」ということで、それは様々な組み合わせを使って、共に変革に取り組んで、より 大きな1を実現しようとしていることを表している。つまり、一加一(1+1)は、無限の 可能性があることを意味している」。
図4.1 一加一の創設時のロゴ
2.2.1.2 組織背景
一加一の構成員の大部分が障害当事者で、障害のある人自らが管理運営しており、中国 の障害者事業における独立したメディアとして位置付けられている。2011年7月に民間 の事業体として北京市豊台区一加一障害者文化サービスセンターを登記した。
2013年のスタッフは20名であり、そのうち視覚障害のある人が13名、身体障害のあ る人が3名、聴覚障害のある人が2名が在籍し、90%のスタッフが障害者であり、平均年 齢は26歳である。「自己の成長」、「謙虚・尊敬」、「継続的研鑽」、「積極的・自主 的」を組織文化とし、「研究部」、「事業部」、「IT部」、「市場部」、「ボランティア 部」、「総務部」などの部門を持っている(解 2013)。
一加一は発足当時、1人の身体障害のある人と1人の視覚障害のある人によって創設さ れた。そして現在、一加一の管理者は 5 人おり、そのうち 2 人は身体障害のある人であ り、3人は視覚障害のある人となっている。組織担当者の間でパートナーと呼ばれている。
「私たちはパートナーと呼ばれます。なぜなら、私たちは障害当事者として、自分たち だけでなく、より多くの障害者にもっと多くの社会に融合できるチャンスをもたらした いからです」(対象者A)。
この5人の情報については、以下の話から説明することができる。
「当時、私たちはある公益団体のボランティアで知り合いました。1人の身体障害者は もともとITに関連する仕事をやっていましたが、病気にかかったため、自由に歩けなく なってしまいました。その後、彼は公益領域に入って、何か従来と違うことをやりたいと いう気持ちが強くなりました。そこで、彼ともう1人の視覚障害の人と一緒にワンプラス ワンが創設されました。それから、ますます多くの仲間が参加して、例えば、私はラジオ 放送が上手で、もう1人の視覚障害者はライティングと英語が非常に優れており、国際業 務に強みがあります。また、もう1人の女性の身体障害者は上海から来て、それ以前には ビジネスの背景を有していて、伝統的な公益団体と違うことをやりたいということで、こ こに来ました」(対象者A)。
このように、知識や専門分野がそれぞれ異なっている障害当事者たちが、従来の慈善や 公益を理念に展開された活動と違うことをやりたいという気持ちで一加一を創設した。
「私たちの共通の特徴は、現状に満ち足りていない障害者であることだと思っていま す。特に社会の私たちに対する見方と、私たち自身の生活状況を変えたいと考えています。
これに対する同様な考え方を持っているので、ワンプラスワンができました」(対象者A)。
2.2.1.3 資金援助
一加一は創設の最初の頃に、イギリスのBBC World Service Trustからの資金を獲得し た。その後、2008 年から他の海外の基金会から一部の援助を受けたこともある。現在は 国内の基金会からの資金援助、一部の政府側からの援助もある。
過去に国内からの資金援助がなかった理由については、組織担当者 A はつぎのように 言った。
「一つの理由は、社会の意識だと思います。他の人からの助けを必要とする人びとであ るため、なぜこれらの人びとが集まって民間組織を作るのか分かってもらえません。そし て、この団体の社会的価値は何かについても理解されません」。
「また、中国の市民社会はこの10年間で発展していますが、私たちが始まった頃にこ のようなことをしたのは少ないです。自助団体をサポートする基盤はほとんどありませ んでした」。
「さらに、政府はずっと体制内のことを管理していますが、民間組織のような外部と協 力するためのメカニズムがありません。もちろん、ある時民間団体が社会を混乱させると 思うこともあります」。
一方、近年市民社会の活躍に伴い、国内の基金会だけでなく、行政側からの資金援助も 得られるが、それらはやはり少ない。
「近年、国内の基金会や行政側が私たちに資金を提供し始めたので、いくつかのプロジ ェクトを連続的に取得したが、ただそうしたプロジェクトをするための費用だけが給付 され、賃金とかはほとんど与えられません。政府もサービスを購買し始めましたが、それ も人件費とかのコストは含まれていないので、私たちにとっては依然として大きなプレ ッシャーとなっています」(対象者B)。
また、国内の基金会や行政側との協力に問題が出てきた。一加一に資金援助を提供して も、障害のある人びとのためにより良いサービスや訓練を実現することを重視していな い。
「基金会や政府側は、サービス提供の質よりより、多くの人に提供できることを追求し ます。例えば、10,000元の資金を受ければ10人にサービスを提供できますが、相手はた ぶんそれを20人に増やしてサービスの質を低くしても良いと言いました。つまり、数字 からの実績が強調されています」(対象者A)。
2.2.1.4 事業内容
一加一は、障害福祉サービスの提供、障害のある人のためのメディア関連事業やインタ ーネット事業、そして非営利事業などの分野に携わっている。また、中国内陸の障害のあ る人とその自助団体の設立と発展を支援し、障害者権利擁護活動を促進することを目指 している。そして、障害のある人の就業促進のために、「其实」コンサルティング会社と いう社会的企業を創設し、障害のある人の就職紹介、職業訓練、企業側が障害者雇用に関 連する合理的配慮の整備などに関する監督や指導を行っている。そのほか、社会や障害の ない人びとの障害意識の転換を目指し、一般市民に対する障害意識の向上に関する提言